1993年の第1作の発売以来、競馬ファンに愛されてきた「Winning Post」シリーズ。本作はその最新作にしてナンバリング『Winning Post 10(以下、10)』の2026年版となる。「名馬の歴史」をテーマにした今作がいかに走りの世界を描いたのか、開発チームに尋ねた。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 336(2026年8月号)からの転載となります。
“パーソナリティ追求”の集大成としての『2026』
30年以上の歴史をもつ「Winning Post」シリーズは、ナンバリング+年号をタイトルに冠するという形式をとっている。ナンバリングでビジュアルやテーマなどの大きな変革を行い、そこに年号を連ねたタイトルで、そのシステムをベースにした追加要素の拡充や細かなアップデートを積み重ねていくというスタイルだ。
開発・販売:コーエーテクモゲームス/リリース:発売中/価格&Platform:10,780円(PS5/Switch2/PC(Windows))、9,680円(PS4/Switch)/ジャンル:競馬シミュレーションゲーム
www.gamecity.ne.jp/winningpost10/2026
©コーエーテクモゲームス All rights reserved.
『10』シリーズにて初めてPS5に対応。「ゲームエンジンを当社の内製エンジンKatana Engineの最新バージョンに切り替え、次世代のフォトリアル表現とゲームならではのカメラワークによるこれまでにないレースシーンの実現を目指してきました」(ディレクター・野々部宏紀氏)。
そのため、開発チームは5回にもおよぶ綿密な現地取材でカラーチャート撮影やハイスピード撮影を行い、馬の色彩や動きから砂礫や芝にいたるまでを綿密に記録。実際に競馬場にいるような臨場感を徹底的に追求してきた。
以上、コーエーテクモゲームス
そんな技術的飛躍を遂げた『10』シリーズがテーマとして掲げてきたのは「馬の個性の表現」だ。『10 2024』では競馬ブームやアイドル性など内面の個性を、『10 2025』では様々なレース展開への適応など走りの個性を描いた。
そして、集大成となる本作で目指したのはシリーズの原点ともなる「名レースの再現」。自分だけの競馬史を楽しむという競馬ゲームならではの醍醐味に再び向き合うこととなった。
また、これほどまでにゲームがリッチ化し、タイトルごとに1,000頭以上というレベルで新しい馬が増え続けてもなお、ハイエンド機での毎年のリリースを成し遂げているのも特筆すべきポイントだ。こういったこだわりと効率化をハイレベルに両立させてきた開発の舞台裏を詳しく紹介していく。
多彩な馬の個性を表現するモデルとモーションのしくみ
ベースモデルの調整と加算処理による躍動感
毎年新作をリリースし続ける本シリーズは、現実の競馬とその歴史を反映するためにも登場する馬を増やし続けているが、その数は年に1,000頭以上にも及ぶ。この膨大な実装を実現しているのが、ベースモデルとパラメータによる管理だ。
ナンバリングを『9』から『10』に刷新する際、これまでの膨大な映像や写真を基に、馬の可愛さや格好良さを内包した、馬の魅力を最大限に引き出すベースモデルを作成。このモデルに対してパラメータに応じたブレンドシェイプを適用することで、体型や肉付きといった馬の個性を表現している。「全ての馬の基本となるこのベースモデルの制作には、当時3ヶ月もの期間を投じました」(キャラクターモデルパートリーダー・濱﨑大輔氏)。
さらに、馬の毛並みや艶は、本作から物理ベースのハイライトに対して異方性シェーダを組み合わせたシェーダで表現。重量感のあまりメタリックな印象となってしまうといった事態にも気をつけながら、華やかさや柔らかさを両立させている。
また、馬が装着する馬具についても、馬同様に膨大なバリエーションが存在するが、こちらの再現も抜かりない。新たな馬具を見落とさぬようレースやデータのチェックを欠かさないのはもちろんのこと、馬具側にもブレンドシェイプを組み込み、馬体に美しくフィットするよう調整が施されている。
こうして形づくられた馬を息づかせるモーションに関しても、躍動感のある基本モーションを制作した上で、馬による個性を反映するためにモーション加算を行うことで画一的にならないよう工夫されている。『10』シリーズからは以前の作品にはなかったコーナー専用のモーションが新規に制作され、局面による変化をもたらした。
当然、これらのつくり込みはデータの総量を膨大なものとするが、これら馬データと馬具の膨大な物量を管理するため、開発チーム内には馬データ管理の専任スタッフが配されている。30年以上のシリーズの歴史で1万頭をゆうに超える馬たちをデータ化し、緻密に管理しているとのことだ。
近年の作品では騎手の再現にも力を注いでおり、ポーズのバリエーションなどもつくり込んでいる。手綱を握る手に関しては、リグを入れて操作するのではなく、手首から先のポーズをパーツとして用意して状況に応じて切り替えている。主役の馬を際立たせるための演出上の割り切りをしつつも、魅力的な人馬一体の演出を追求している。
馬モデルのバリエーション制作と管理
馬具のフィッティングとパーツ構造
▲馬に合わせて異なる種類の頭絡(とうらく)を装着した様子。馬具の各パーツを細分化し、組み合わせることで膨大なバリエーションを実現している
異方性シェーダによる毛艶表現と質感設計
当初は既存のヘアシェーダも検討されたが、レースシーンでの馬特有の重量感を表現するため、物理ベースのハイライトに対して異方性シェーダを巧みに組み合わせる手法を採用した。なお、たてがみや尻尾にはヘアシェーダが使用されている。
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▲馬のテクスチャ。毛色や模様を定義するアルベドマップのほか、ノーマル、AO、ラフネスなどの各マップを組み合わせ、馬体や装具の質感を表現する -
▲毛色のちがいを表現するベースカラーテクスチャのバリエーション
加算モーションによる走りの表現
▲法線表示を用いた、モーション追従型の筋肉ボリューム表現。筋肉量は能力値から動的に決定され、これらは特許出願中の独自システムで処理されている
徹底した取材と最新エンジンで描くレースの臨場感
時代や四季を描く背景制作と没入感を高めるカメラ・VFX
レースの舞台となる競馬場は、現地取材と収集された資料をベースに制作。目に見える芝やダートの質感の再現はもちろん、競馬場の施設が新設された際には、数タイトルのうちにゲーム内に反映している。大井競馬場が本馬場の砂を入れ替えた際には実際に現地へ赴き、新しくなった砂を別途撮影してマテリアルのリファレンスとしたという。
歴史上の名レースを追体験できる「シネマイベント」では、当時の資料を基にかつての馬場のビジュアルを再現している。
「過去のレース映像を見ていると、雰囲気が今とはまったくちがうんです。特に冬場は芝が枯れて白茶けていたり、地面が露出していたりする。今作ではその空気感を徹底的に再現しました」(CGディレクター・三好信生氏)。
また、競馬が屋外スポーツである以上、臨場感を生み出すには季節や天候の描写が欠かせない。元来『10』シリーズでは、草木の色や雲の表情などで四季を表現していたが、『2026』ではそのクオリティをさらに強化。四季の象徴的な景観の変化だけでなく、それに伴う芝の色、荒れや凹凸感のディテールにまでこだわった。これら背景グラフィックの進化を支えるマテリアルも、Katana Engineの最新バージョンへの切り替えに合わせて全面的に刷新されている。
ライティングの思想も独特だ。本作ではフォグの演出をあえて弱めに設定し、テレビ中継の映像ではなく「競馬場で実際に肉眼で見える光景」の再現を目指した。近年、現実のレースでも導入が進むジョッキーカメラの映像も研究し、ボリュメトリックフォグの散乱の異方性(離心率)やライトシャフトのパラメータ調整によって、冬特有の澄んだ空気のなかで差し込む強い西日を表現。
「少し前までは観客と騎手で見えている世界の落差が大きく、騎手のインタビューにピンと来ないことも多かったのですが、最近はJRAさんがジョッキーカメラの映像などを多く公開してくれるため、非常に参考になります。それをゲームならではの表現に昇華していくのが毎年の課題ですね」(リードプログラマー・小田桐 拓人氏)。
これらの実装と演出は全て、Katana Engine上で統合される。中継カメラ・ドラマチックカメラ・ジョッキーカメラという3種のカメラ制御をはじめ、画面に飛び散る砂埃や立体的な芝の跳ね返りといった各種VFXが、レースシーンに圧倒的な没入感をもたらしている。
「今作のテーマである名レースの再現は、『あの伝説の瞬間を、今の技術で見たらどうなるか』という気持ちで演出・制作しました」(カットシーンパートリーダー・池澤穣二氏)。
現地取材に基づく競馬場の再現
競馬場の再現にあたってはスタッフが実際に現地取材に赴き、カラーチャートやHDRIリファレンスを含めて撮影。それらを基にモデル制作を行なっている。
▲東京競馬場の3Dモデル
段階的な芝の荒れ表現
本作では、季節や天候などによって色や荒れ具合が変化する芝の表現を実装。現実の馬場を参照しつつ、開催時期や年代による状態の変化、汎用性を考慮し、段階に応じた地面の露出や凹凸感を表現している。
四季の情景と季節感
『10』シリーズから、屋外スポーツならではの季節感の表現に注力している。
エンジン移行に伴うマテリアルの刷新
Katana Engineの最新バージョンへの切り替えを機に、背景アセットのマテリアルも全面的に刷新された。背景モデルそのものは共通でありながら、現行機に合わせた高度なマテリアル設定とライティングの刷新によって、ビジュアル全体のルックを劇的に引き上げることに成功している。
肉眼の臨場感を追求したライティングとフォグ制御
本作の画づくりは、テレビの競馬中継ではなく、観客が「実際に競馬場で目にする光景」の再現を目指している。そのため、中継の望遠カメラ特有の画にならないよう、一般的なスキャタリングフォグを弱めに設定。一方、近年導入されたジョッキーカメラの映像によって認知された、冬場の強烈な西日の表現には積極的に挑戦。ゲーム内ではボリュメトリックフォグの散乱の異方性(離心率)やライトシャフト、太陽光のレンズフレアを意図的に強調することで、騎手視点ならではの眩い光を再現した。
臨場感のあるカメラ演出
本作では、中継カメラのほかに迫力のレースを展開する「ドラマチックカメラ」や、騎手視点を体験する「ジョッキーカメラ」といった多彩なカメラシステムを搭載。これらのカメラワークにおいては、ポストエフェクトによる樽型収差が新たに導入されている。これは画面にダイナミックな臨場感をもたらすと同時に、馬体や地面に大きく接近した際のCG特有のパースの違和感を軽減する役割も果たしている。
各種VFXとカメラ追従エフェクト
迫真のレースシーンを支える「砂埃」や「芝・土くれの跳ね返り」といったエフェクトは、全て内製のエフェクトエディタで制作されている。今作では、馬の蹄から発生する土煙が走行モーションと完全に連動するようボーンに直接アタッチされているほか、カメラのレンズに付着する水や泥、さらに騎手やダートのマスクに付く土の表現までつくり込まれた。
名レースを再現するシネマイベント
今作『2026』の新要素「シネマイベント」では、日本競馬史に刻まれた数々の名レースを、最新のグラフィック技術と緻密な演出によって追体験できる。
CGWORLD 2026年8月号 vol.336
特集:『Mori Calliope MV』
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2026年7月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_稲庭 淳、インタビュー協力_子安 肇(DEFT)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada