若手に挑戦の機会を与えるだけでは、人は育たない。各社の教育・研修の取り組みに迫る連載企画、第9回はプラチナゲームズを取り上げる。後編では、問いかけを通じて自ら考える力を育てるアプローチや、品質と予算を見据えてゲームをつくりきるための考え方について話を聞いた。
※記事内の所属や役職はインタビュー当時のものです。

記事の目次

    本記事は月刊 CGWORLD + digital videovol.33520267月号)掲載の「クリエイターの学びの現場 9 プラチナゲームズ」を再編集したものです。


    プラチナゲームズ株式会社

    大阪に本社を構え、東京・福岡にも拠点を置く。約200名規模の開発部門を擁し、自社開発と受託開発の両軸で事業を展開。『ベヨネッタ』シリーズや『NieR:Automata』など、世界市場に向けた3Dアクションゲーム開発を手がけている。

    Webサイト:www.platinumgames.co.jp

    失敗を許容しながら、段階的に裁量を広げる

    CGWORLD(以下、CGW):自然と自分で考える範囲が増えていったわけですね。

    百瀬一真氏(以下、百瀬):実際のところは「気づいたら増えていた」感じです(笑)。でも自分がやりたくてやってきたことなので、「負荷を増やされている」という感覚はありませんでした。

    アーティスト・百瀬一真氏

    阿部雄大氏(以下、阿部):最初から大きな仕事を渡すわけではなく、「この人と相談しながら決めてみて」、「ここだけやってみて」というように、小さい単位から始めてもらうんです。そこから、ひとつのエリア、1ステージ、複数ステージへと徐々に範囲を広げていきます。百瀬に対しても、そういうかたちで段階的に範囲を広げていきました。


    アーティスト・阿部雄大氏

    CGW:かなり計画的に育成しているんですね。そんな中で、任せた相手が失敗したり、壁にぶつかったりした場合は、どのように対応しますか?

    阿部:失敗は当然起こり得るという前提で計画していますが、答えを直接教えることはないですね。「ここ、どう思う?」と問いかけることが多いです。

    CGW:先程伺った、中尾さんの若手に対するアプローチと同じですね(笑)

    阿部:一子相伝ですから(笑)。「こうした方がいい」と先回りして私が答えを言うよりも、自分で気づいた方が最終的には身につくし、本人の中に「自分で改善した」という達成感も残ります。それが次の成長の原動力にもなるんです。

    百瀬:それはすごく感じます。もちろん阿部には助けてもらっているんですが、「巻き取られている感覚」があまりないんです。改善の余地がある場合には「もっと良くできそうだけど、どうする?」というかたちで返ってくる。だから、自分で考えて、自分でクオリティを上げた実感が残るんです。

    CGW:失敗も含めて経験させる。

    阿部:むしろ、少し背伸びが必要なタスクを渡さないと成長しないと思っています。もちろん、全部を一人で抱えさせるわけではなくて、周囲がフォローする前提ですけれどね。

    CGW:阿部さん自身が、中尾さんの下でそうやって育ってきたんですね。

    中尾裕治氏(以下、中尾):阿部の場合は本人の自主性が非常に高かったので、私は課題だけ提示して、のんびり静観していました(笑)。たとえ自分の中で課題の解決策が見えていたとしても、最初から全部は言わないです。本人から、私の想定を超える答えが出てくることもあるので。

    開発グループ マネージャー/プロデューサー・中尾裕治氏

    セクション間の「越境」と専門性は対立するものではない

    村上 学氏(以下、村上)『NINJA GAIDEN 4』では、私はプロジェクトマネージャー(以下、PM)のリードを担当していましたが、その立場から見ても「本人に直接やらせる」ことはPM全員がかなり意識していましたね。他セクションとの調整が必要な場合も「自分で聞いてみて」、「その人に直接相談してみて」と促すことが多かったです。こちらが全部巻き取ってしまうと、その人の経験にならないし、越境の機会を奪うことにもなるので。

    開発グループ マネージャー・村上 学氏

    CGW:ただ、若手からすると「誰にどう相談すればいいのか」の判断自体が難しそうです。

    村上:そこは意識してフォローするようにしています。相手との相性や、会話の難度も含めて考えていますね。いきなり古株のプログラマーのところに相談にいった結果、難しい話を展開されて、こてんぱんになって終わる可能性もあるんですよ(笑)。もちろん、それも良い経験ではあるんですが、早々に心が折れてしまったら元も子もないので。

    CGW:テクニカルアーティストのマネジメントも担っている村上さんが仰ると、説得力があります(笑)

    村上:だから「まずはこの人に相談してみようか」、「この人なら話を聞いてくれると思うよ」というように、最初の接点はこちらである程度設計しています。

    CGW:単に放任するわけではない。

    村上:基本的には本人に任せるんですが、完全に突き放すわけではないんです。ちゃんと届く場所へボールを投げられるよう、周囲で調整しています。その中で、「この人にはこういう聞き方をした方がいい」、「こういう順番で話を通すんだな」といったコミュニケーションのやり方自体も学んでもらうようにしています。

    中尾:ゲーム開発って、自分の専門領域だけでは完結しないんです。だからこそ、若いうちから「自分で考えながら、必要に応じて他領域へ踏み込んでいける力」を身につけてほしいと思っています。

    CGW:「越境」という言葉だけが一人歩きすると、何でも広く浅くできる人材を目指すようにも聞こえます。ただ、実際には専門性を軽視しているわけではないですよね。

    阿部:まったくそうではないです。越境することと、専門性を深めることは対立しないと思っています。ゲームを面白くするための貢献方法が、いくつもあるだけなんです。私自身はいろいろなセクションの間に立ちながら、全体をつなぐ役割を得意としていますが、特定分野を深く掘っている人にしか見えない面白さもあります。ただ、その知識を自分の中だけで完結させるのではなく、「この技術がどうゲームを面白くするのか」を他職種の人にも伝えられると、より強いと思います。

    CGW:阿部さんと百瀬さんも、同じエンバイロンメント領域にいながら、強みは少し異なりますよね。

    阿部:百瀬は、私より技術的な知識量が多いです。特に3Dやエンバイロンメント周りでは、専門職の人と深い話ができます。私はそこまで専門的な話はできないので、百瀬に助けてもらうこともあります。

    百瀬:逆に阿部は、画づくりの引き出しが多いんです。2Dの経験もありますし、映画やアートなど、ゲーム以外の作品から受けている影響も大きい。だから、「こういう世界観にしたい」、「こう見せたい」という方向性を具体的に打ち出せるんです。加えて、幅広いセクションの人と会話しながら全体をまとめていく力があるので、人の上に立つことにも向いていると思います。

    CGW:同じエンバイロンメントでも、専門性の伸ばし方はひとつではないんですね。

    品質と予算の両方を見据え、ゲームをつくりきる力を養う

    CGW:ここまで「越境」や「育成」の話を伺ってきましたが、一方でゲーム開発は、限られた期間や予算の中で完成までもっていかなければならない仕事でもあります。そういう意味での“現実感覚”は、どのタイミングで身についていくのでしょうか。

    吉田星也氏(以下、吉田):私は人事グループのマネージャーとして採用や労務、人事制度設計に関わっていますが、皆さん本当にものづくりへの情熱が高いなと感じています。ただ、その情熱を持続可能なものにするには、「つくりきる」計画性も必要なんですよね。ゲーム開発は大規模化しており、ひとつの判断が将来の選択肢に影響することも多々あります。だからこそ「限られたリソースの中で、どう面白いものを成立させるか」を考えられる人材が重要になると感じています。

    人事グループ マネージャー・吉田星也氏

    中尾:それは開発側としても強く感じます。品質と予算の両方をコントロールできてこそプロのゲームクリエイターだと思っています。例えば、1年かかる想定だったものを半年でつくれれば、残りの半年をブラッシュアップに使える。コスト感覚って、最終的には品質向上にもつながるんです。

    阿部:特にエンバイロンメントは、その感覚を早い段階で刻み込まれるセクションだと思います。扱う制作量が多いので、少し設計を広げただけで工数が一気に膨らむんです。

    村上:背景は人数も制作期間も膨らみやすいですからね。外部発注も含めると、数字のインパクトがかなり大きい。

    阿部:例えば「こういう要素を追加したい」と思っても、それが全ステージに波及すると、想定の3倍くらいまで制作量が膨らむこともあります。だから「どうすればつくりきれるか」を逆算しながら設計しないと怖いんです。

    CGW:若手が挑戦できる文化を維持するには、現実的な設計力が不可欠だと。

    阿部:そうです。私も最初の頃は勢いで無茶をするタイプだったんですが、自分の判断で周囲の仕事量まで増えてしまう怖さを経験してから、かなり変わりました。

    村上:PMの立場からすると「何も決まっていないから、スケジュールが立てられない」と思考停止するのではなく、決まっていないからこそ、仮説を立てることが大事なんです。「仮にこうつくるなら何人必要か、どれくらい時間がかかるか」、「それで間に合わないなら、何を削るのか、どこを変えるのか」といった仮説を基に最適解を決める。ゲーム開発って、それを決め続ける仕事でもあるので。ただ、全員が細かいお金のながれまで理解する必要はないと思っています。そこはマネージャー側が把握して、「この期間と人数で、ここまでつくる」という制限として整理すればいい。その制限の中で最大限力を発揮できる状態をつくるのが、リーダー層の役割です。

    吉田:人事としても、今後はもう少し数字への理解を深められる環境をつくりたいと考えています。私は財務・経理とも連携しながら動いているんですが、まずはマネージャー層へ損益などの数字を展開していく予定です。ただし、単に数字を見せるだけでは意味がありません。管理会計を含めた会計知識も含めてインプットしないと、数字を正しく解釈できないからです。

    CGW:数字の読み方を学べる機会も、提供する計画なのでしょうか。

    吉田:はい。数字が理解できるようになれば、人数割で案分している数字ひとつ取っても、「本当にこの配分で実態を表せているのか」という議論が出てくるかもしれない。そういう対話を通じて、より実態に即した数字が見えるようになっていくはずです。

    CGW:数字を“管理のためのもの”ではなく、“開発を改善する材料”として扱いたい。

    吉田:まさにそうです。その上で「限られたリソースの中で、ユーザーに最も喜ばれるものをどうつくるか」という発想につながっていけばいいなと思っています。

    CGW:お話を伺う中で、プラチナゲームズでは、成長を支えるしくみづくりをかなり意識していることがわかりました。

    吉田:今回すごく印象的だったのは、百瀬にとっての阿部、阿部にとっての中尾のように、「失敗しても戻れる場所」が用意されていることですね。その“セキュアベース”が重要なんだと再認識しました。

    CGW:挑戦の土台になる安心感。

    吉田:そうです。「ここまでは支えてもらえる」という信頼があるから、若手が思い切って踏み込める。心理的安全性にも近いですが、単なる優しさではなく、成長のための土台として機能している印象があります。

    阿部:自分が中尾にやってもらったことを、百瀬にも返している感覚がありますね。

    中尾:冒頭でも言いましたが、当社が最終的に目指しているのは「面白い3Dアクションゲームをつくり続ける」ことです。そのために必要だから、専門領域を越えて考えるし、品質と予算の両方を意識する。全部がそこにつながっているんだと思います。

    INFORMATION

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.335(2026年7月号)

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    定価:1,540円(税込)

    判型:A4ワイド

    総ページ数:128

    発売日:2026610

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    TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota