ポートフォリオのキホンの「キ」
3DCG業界の人材採用では、最初の書類選考の段階からポートフォリオやデモリールの提出を求める企業が多い。どのような心がまえや準備が必要なのか、新卒採用の場合に焦点を絞って解説しよう。
●ここから始める、キホンSTEP
ポートフォリオやデモリールをつくるに当たり、最初に取り組んでほしいことを8つのSTEPに分けて紹介しよう。
Step 01 自分自身を知る
自分が経験してきたこと、自分が学んできたこと、自分が入社後にやりたいことは何だろうか? 漠然と思い浮かべるだけでなく、紙に書いてみよう。思いを文章化することで、他人に伝わりやすい表現へと整理できるし、周囲の人からの客観的なアドバイスをもらいやすくなる。
Step 02 業界・企業・職種を知る
企業のWeb サイト、業界向けニュースサイト、SNS、書籍、雑誌、カンファレンスなどから多角的に情報を収集しよう。例えばCGWORLD.jpのJOBSコーナーには数多くの求人情報が掲載されているので、ぜひ参考にしてほしい。学校の先生、就職支援スタッフ、OB・OGなどから情報を得られることも多い。
http://cgworld.jp/jobs
Step 03 企業や職種を絞り込む
ひと口に3DCG業界といっても、企業や職種がちがえば、求められる人材像もちがってくる。手当たり次第にエントリーするのではなく、自分と相性の良い企業、自分の強みを活かせる職種を絞り込むことが重要だ。入社後にどんな仕事をしたいか、自信をもって具体的に語れる会社を探そう。
Step 04 コンセプトを決める
ポートフォリオやデモリールの実制作を始める前に、下記のようなコンセプトを決めよう。
Step 05 作品を選ぶ
先に決めたコンセプトに沿った作品を中心に選別しよう。自信のない作品、完成度の低い作品は思いきって除外した方が良い。「コンセプトに沿った自信作が少ない!」という場合は、ポートフォリオやデモリールをつくる前に、腰を据えて作品制作に取り組んでほしい。あるいは、コンセプトを考え直そう。妥協した作品で取り繕い続けても、自分の成長を阻害するうえ、採用担当者の心にも響かない。
Step 06 関連情報も集める
掲載する作品が決まったら、その関連情報も集めよう。制作にかかった時間や使用ソフトに加え、制作のきっかけ、工夫した点などのエピソードも書きとめておこう。これらの情報をもとに、後日、ポートフォリオやデモリールのキャプション(説明文)をつくっていく。「気に入っている作品です」といった個性の乏しい"感想"ではなく、採用担当者の判断材料になり得る情報を掲載できるよう、情報収集の段階から気を配ってほしい。
Step 07 作品以外の素材も集める
作品の企画書、参考資料、デザイン画、ラフスケッチ、線画、制作途中のスクリーンショット、テクスチャ素材など、制作工程が想像できる情報も採用担当者の判断材料になる得る。さらにクロッキー(ライフ・ドローイング)やデッサンなどの習作、GameJamや学園祭といったイベントでの活動の様子が伝わる資料なども、自分の強みを伝える情報として使える場合がある。柔軟な発想で、何を掲載するのが効果的か熟考してほしい。
Step 08 構成・装丁を決める
掲載する作品や情報が集まったら、構成(作品の掲載順番)と、装丁(外装の素材や見た目)を考える。このときに意識してほしいのが「第一印象」だ。多くの場合、採用には制作現場のスタッフも関わっている。本来の業務の合間を縫って参加するので、1点の審査にかけられる時間は短い。必ず全ページに目を通してもらえると思わない方が賢明だ。装丁や冒頭の作品を見ただけでコンセプトが伝わるよう、自信作は前半に配置してほしい。
無計画に漫然と作品を並べても
志望動機や強みは伝わらない
就職用のポートフォリオやデモリールは、自分自身を企業の採用担当者に売り込むための道具だ。だからこそ、常に受取手である採用担当者の気持ちや立場に配慮してほしい。彼らは、末永く一緒に働ける相性の良い人を真剣に探している。
採用した人があっという間に辞めてしまったのでは、せっかくの投資が無駄になってしまう。採用活動にも、採用後の教育にも元手がかかっている。とりわけ新卒スタッフの場合、いきなり第一線で活躍し、企業の収益増進に貢献することは難しい。仕事を覚えてもらうまでには一定の時間がかかり、その間は企業側の持ち出しの方が多くなる。
採用担当者が知りたいのは「当社の仕事に心底から興味がある人か?」、「ねばり強く技術を習得し、着実に成長し、やがては当社の成長に貢献してくれる人か?」といったことだ。彼らは入社から数年先の未来を予測しながら、ポートフォリオやデモリールを評価している。
「どんな企業でも良いから、とにかく内定がほしい」というように、数ヶ月先の未来しか見ていないような人は、まったく見向きもされないと思ってほしい。また、彼らは短時間で数多くのポートフォリオやデモリールを評価する立場にあるので、余計な手間や時間をかけさせないように心配りをすることも非常に重要だ。他の応募者と自分との差別化も意識する必要がある。
採用担当者に最優先で伝えるべきは、自分が経験してきたこと、自分が学んできたこと、自分が入社後にやりたいことだ。作品自体の売り込みが目的だと勘違いしてはいけない。多くの場合、採用担当者が知りたいのは貴方自身の能力や将来性であって、貴方がつくった映像のストーリーやキャラクターの設定ではないのだ。
そして、無計画に漫然と作品を並べただけのポートフォリオやデモリールでは、自分自身を伝えきることは難しい。自分の志望動機や強みが一目瞭然で伝わる自分ならではの見せ方を考えつくまで、試行錯誤を重ねてほしい。