2016年春卒業予定の大学生の就職活動が3月1日に解禁された。対象となる学部3年生、修士1年生などはもちろん、他の学年、他の教育機関(専門学校、スクールなど)に所属する学生にとっても、春は気分を一新する絶好の季節だ。
そんな学生のなかでも、とくにCG・アニメ・ゲーム業界のアーティスト・デザイナー職を目指す人たちに向けた「ポートフォリオ"特効"ゼミ」が、4/12に東京都内で開催される(主催:総合学園ヒューマンアカデミー)。本記事では、このゼミの詳細と、出席者のための予習情報を紹介する。「ポートフォリオって何?」、「どこから手をつければ良いの?」、「作ってはみたものの、これで良いのか不安だ」と悩んでいる学生は、ぜひ参加してほしい。
イベント情報
■日時:2015年4月12日(日)13:00 ~ 16:00(終了時間は予定)
■会場:ヒューマンアカデミー東京校
■主催:総合学園ヒューマンアカデミー
■申込み:こちらから
■プログラム(予定):
第一部:基礎編(13:00 ~ 13:30)
ポートフォリオと採用の話(講師:尾形美幸)
第二部:実例編
採用担当者による、内定者のポートフォリオ解説&座談会
登壇企業:
株式会社サムライピクチャーズ
株式会社フロム・ソフトウェア
株式会社マトリックス
第三部:個別相談(60分)
第一部&第二部の登壇者による個別相談
登壇者・登壇企業紹介
尾形美幸
CG教育分野を中心に活動するフリーランスのライター&編集者。東京芸術大学大学院修了、博士(美術)。IGDA日本(NPO法人国際ゲーム開発者協会日本)理事/Student-TF世話人。CG-ARTS協会(公益財団法人画像情報教育振興協会)にて教材の企画制作などに従事した後に独立。著書に『CG&ゲームを仕事にする。』(2013)、『ポートフォリオ見本帳』(2011/ともにエムディエヌコーポレーション)。共著書に『改訂新版 ディジタル映像表現』(2015/CG-ARTS協会)などがある。
【作品左】TVアニメ『アイカツ!』©S/B,D,TX
【作品右】劇場版『アイカツ!』©2014 S/B, AM
株式会社サムライピクチャーズ
「シビれる映像作ります!」をモットーにアニメ、ゲーム、遊技機、企業PV向けなどの様々なジャンルのCGムービーを手がけるCGプロダクション。近年の代表作であるTVアニメ「アイカツ!」のCGパートは第3シーズンを迎え、昨年末公開の「劇場版アイカツ!」でもCGパートを担当した。また、「楽園追放 -Expelled from Paradise-」の制作にも参加したりと、常に新しいものに挑戦している。2016年も新卒採用を予定しているため、来場者はどしどし作品を見せてほしいとのことだ。
http://samurai-pictures.com/
©2015 BANDAI NAMCO Entertainment Inc. / ©2011-2015 FromSoftware, Inc.
株式会社フロム・ソフトウェア
「DARK SOULS」シリーズや「アーマード・コア」シリーズなど、独特かつリアリ
ティのある世界観を持つゲーム開発を得意とするゲームメーカー。PS4といった新世代機でも積極的にゲーム開発を行なっている。
新卒・中途を問わず積極的な採用を行なっているため、「ゲームの面白さの本質」を技術で表現し、ユーザーを楽しませたい方、国内外のゲームユーザーへ向けたモノ作りをしたいという方にはぜひチャレンジしてほしい。
http://www.fromsoftware.jp/pc/
株式会社マトリックス
家庭用ゲームソフト、スマートフォン・ソーシャルゲームアプリ、遊技機の液晶部分の開発を行うディベロッパー。ジャンルやプラットフォームにこだわらない幅広いゲーム制作と企画から携わる遊技機映像制作の2つを強みとし、大手メーカーからの受託開発をメインに数々の有名タイトルの開発実績を持つ。
ゲーム・遊技機共にデザイナーの業務範囲は幅広く、様々なスキルを持ったデザイナーが活躍しており、新卒採用も毎年積極的に行っている。
http://www.matrixsoft.co.jp/
専門的な質問から初歩的な相談まで、幅広く対応
ポートフォリオとは、自分が何を学び経験してきたか、入社後に何をやりたいかを、採用担当者に伝えるための道具で、3DCG、2Dイラスト、デッサンなどの作品や習作を掲載することが多い。静止画ではなく動画で伝えたい場合は、映像メディアや映像データが使われ、これらはデモリールとよばれる。
クリエイティブ業界の採用では、多くの場合、最初の選考でポートフォリオやデモリールの提出が求められる。これらポートフォリオとデモリールをつくるうえで有用な知識を、系統立てて伝えることが本ゼミの目的だ。
第一部:基礎編では、クリエイティブ業界における採用担当者の実情と、ポートフォリオやデモリールをつくる際に意識してほしいことを解説する。第二部:実例編では、CG・ゲーム・アニメ業界の採用担当者が、内定者のポートフォリオやデモリールを示しつつ、新卒採用者に期待することを紹介する。第三部:個別相談では、第一部&第二部の登壇者が、参加者の質問や相談に直接応じる。
未完成でも、作品数が少なくても構わないので、ぜひ自分のポートフォリオやデモリールを持参し、登壇者から直接フィードバックをもらってほしい(ただしポートフォリオやデモリールの持参は必須ではないので、「まだ何も見せられるものがない」という人たちも気後れせずに参加してほしい)各業界の採用担当者から専門的・具体的な情報を引き出すもよし、「どの業界に行くべきか、どの職種で応募すべきか迷っている」、「そもそも、業界や職種のちがいがわからない」といった初歩的な相談を基礎編の講師にぶつけるもよし、自身の疑問や迷いを解消するため、新たな気づきを得るため、ぜひこの機会を活用してほしい。
次頁からはCGWORLD Entry VOL.009 に掲載した記事「ポートフォリオのキホンのキ」、「内定者のデータでみるポートフォリオブラッシュアップ法」を転載するので、参加前の予習に活用してほしい。
[[SplitPage]]ポートフォリオのキホンの「キ」
3DCG業界の人材採用では、最初の書類選考の段階からポートフォリオやデモリールの提出を求める企業が多い。どのような心がまえや準備が必要なのか、新卒採用の場合に焦点を絞って解説しよう。
●ここから始める、キホンSTEP
ポートフォリオやデモリールをつくるに当たり、最初に取り組んでほしいことを8つのSTEPに分けて紹介しよう。
Step 01 自分自身を知る
自分が経験してきたこと、自分が学んできたこと、自分が入社後にやりたいことは何だろうか? 漠然と思い浮かべるだけでなく、紙に書いてみよう。思いを文章化することで、他人に伝わりやすい表現へと整理できるし、周囲の人からの客観的なアドバイスをもらいやすくなる。
Step 02 業界・企業・職種を知る
企業のWeb サイト、業界向けニュースサイト、SNS、書籍、雑誌、カンファレンスなどから多角的に情報を収集しよう。例えばCGWORLD.jpのJOBSコーナーには数多くの求人情報が掲載されているので、ぜひ参考にしてほしい。学校の先生、就職支援スタッフ、OB・OGなどから情報を得られることも多い。
http://cgworld.jp/jobs
Step 03 企業や職種を絞り込む
ひと口に3DCG業界といっても、企業や職種がちがえば、求められる人材像もちがってくる。手当たり次第にエントリーするのではなく、自分と相性の良い企業、自分の強みを活かせる職種を絞り込むことが重要だ。入社後にどんな仕事をしたいか、自信をもって具体的に語れる会社を探そう。
Step 04 コンセプトを決める
ポートフォリオやデモリールの実制作を始める前に、下記のようなコンセプトを決めよう。
Step 05 作品を選ぶ
先に決めたコンセプトに沿った作品を中心に選別しよう。自信のない作品、完成度の低い作品は思いきって除外した方が良い。「コンセプトに沿った自信作が少ない!」という場合は、ポートフォリオやデモリールをつくる前に、腰を据えて作品制作に取り組んでほしい。あるいは、コンセプトを考え直そう。妥協した作品で取り繕い続けても、自分の成長を阻害するうえ、採用担当者の心にも響かない。
Step 06 関連情報も集める
掲載する作品が決まったら、その関連情報も集めよう。制作にかかった時間や使用ソフトに加え、制作のきっかけ、工夫した点などのエピソードも書きとめておこう。これらの情報をもとに、後日、ポートフォリオやデモリールのキャプション(説明文)をつくっていく。「気に入っている作品です」といった個性の乏しい"感想"ではなく、採用担当者の判断材料になり得る情報を掲載できるよう、情報収集の段階から気を配ってほしい。
Step 07 作品以外の素材も集める
作品の企画書、参考資料、デザイン画、ラフスケッチ、線画、制作途中のスクリーンショット、テクスチャ素材など、制作工程が想像できる情報も採用担当者の判断材料になる得る。さらにクロッキー(ライフ・ドローイング)やデッサンなどの習作、GameJamや学園祭といったイベントでの活動の様子が伝わる資料なども、自分の強みを伝える情報として使える場合がある。柔軟な発想で、何を掲載するのが効果的か熟考してほしい。
Step 08 構成・装丁を決める
掲載する作品や情報が集まったら、構成(作品の掲載順番)と、装丁(外装の素材や見た目)を考える。このときに意識してほしいのが「第一印象」だ。多くの場合、採用には制作現場のスタッフも関わっている。本来の業務の合間を縫って参加するので、1点の審査にかけられる時間は短い。必ず全ページに目を通してもらえると思わない方が賢明だ。装丁や冒頭の作品を見ただけでコンセプトが伝わるよう、自信作は前半に配置してほしい。
無計画に漫然と作品を並べても
志望動機や強みは伝わらない
就職用のポートフォリオやデモリールは、自分自身を企業の採用担当者に売り込むための道具だ。だからこそ、常に受取手である採用担当者の気持ちや立場に配慮してほしい。彼らは、末永く一緒に働ける相性の良い人を真剣に探している。
採用した人があっという間に辞めてしまったのでは、せっかくの投資が無駄になってしまう。採用活動にも、採用後の教育にも元手がかかっている。とりわけ新卒スタッフの場合、いきなり第一線で活躍し、企業の収益増進に貢献することは難しい。仕事を覚えてもらうまでには一定の時間がかかり、その間は企業側の持ち出しの方が多くなる。
採用担当者が知りたいのは「当社の仕事に心底から興味がある人か?」、「ねばり強く技術を習得し、着実に成長し、やがては当社の成長に貢献してくれる人か?」といったことだ。彼らは入社から数年先の未来を予測しながら、ポートフォリオやデモリールを評価している。
「どんな企業でも良いから、とにかく内定がほしい」というように、数ヶ月先の未来しか見ていないような人は、まったく見向きもされないと思ってほしい。また、彼らは短時間で数多くのポートフォリオやデモリールを評価する立場にあるので、余計な手間や時間をかけさせないように心配りをすることも非常に重要だ。他の応募者と自分との差別化も意識する必要がある。
採用担当者に最優先で伝えるべきは、自分が経験してきたこと、自分が学んできたこと、自分が入社後にやりたいことだ。作品自体の売り込みが目的だと勘違いしてはいけない。多くの場合、採用担当者が知りたいのは貴方自身の能力や将来性であって、貴方がつくった映像のストーリーやキャラクターの設定ではないのだ。
そして、無計画に漫然と作品を並べただけのポートフォリオやデモリールでは、自分自身を伝えきることは難しい。自分の志望動機や強みが一目瞭然で伝わる自分ならではの見せ方を考えつくまで、試行錯誤を重ねてほしい。
内定者のデータでみる
ポートフォリオブラッシュアップ法
2014年8月26日~9月3日にかけ、CGWORLD編集部は2013年度または2014年度中にCG・映像関連職種に内定した人を対象にアンケートを実施。83件の回答を得た。その結果を紹介しよう。
Q1 ポートフォリオやデモリールをつくり始めた時期は?
最も多かった回答は「応募の約半年前」で、回答者の40%に相当する。次点は「応募の約1年前」で28%相当だ。つまり約7割の回答者が、ポートフォリオやデモリールの制作に半年~1年の時間を費やしている。しかし半年前から応募する企業が確定していた人ばかりではないだろう。時間をかけてポートフォリオやデモリールの完成度を高めていく一方で、それを提出する企業を探す。根気強い姿勢で就職活動に挑んだ人が多いことが読み取れる。
Q2-1 応募前に何人に見てもらった?
Q2-2 応募前に誰に見てもらった?(複数回答可)
教育機関の先生や企業の採用スタッフなど、色々な立場の数多くの人たちにポートフォリオやデモリールを見せていることが、集計結果から読み取れる。別途行なった「役に立ったアドバイスは?」という質問に対しては、〈作品の掲載順番〉、〈ページ内のレイアウト〉、〈作品解説用のキャプション〉、〈表紙〉などへの意見を参考にブラッシュアップしたら、同じ作品なのに見違えるほど良くなったという回答が数多く寄せられた。1人で黙々と作り込んでいると、自己満足な内容に留まってしまう危険性がある。多くの人に意見を求め、「採用担当者への配慮ができているかどうか?」を客観的な目で判断してほしい。
Q3-1 学校の課題作品とオリジナル作品の比率は?
71%の人が、全体の5割以上をオリジナル作品が占めていたと回答している。ある回答者は「初期のポートフォリオは大半が課題だったので、『結局何がしたいの?』とよく聞かれていました」とコメントしてくれた。学校から与えられた課題だけで、自分の好きなこと、自分のやりたいことを伝えきるのは不可能だと思ってほしい。採用担当者が最も知りたいのは、「当社に入って何をやりたいですか? 何ができますか?」ということだ。自分の希望と、会社の需要がマッチングしている人ほど、面接に呼ばれる確率が高くなる。相手に何を伝えるべきかを意識しつつ、掲載作品を選んでほしい。
Q3-2 オリジナル作品の内容は?(自由回答)
Q4 採用の決め手になった要素は?(自由回答)
ポートフォリオやデモリールの内容に加え、面接時の印象やインターンシップ中の態度が採用の決め手になったと、多くの回答者がコメントしている。面接やインターンシップでは、自分の希望、得意なこと、志望動機などに加え、遠隔からでは伝えにくい自分の情熱や人柄まで、採用担当者に直接伝えることができる。その一方で、自己アピールの内容に一貫性がなかったり、嘘があったりすると、即座にばれてしまうという側面もある。CGも映像もゲームも、1人だけで黙々と作るものではない。入社後のチームワークまで視野に入れ、他者と対話するスキルを磨いてほしい。
TEXT_尾形美幸(EduCat)