<1>プリプロダクション
映画VFXに匹敵するビジュアルを少数精鋭で実現させる
本作の共同監督のクリス・アイヤーマン氏(3AM ※1)とアッシュ氏はLA在住、一方のJuice.の制作現場はポーランドということで、9時間の時差が懸念材料であった。「Juice.(ポーランド)のチームが一日働いてヘトヘトになった頃、L.A.ではちょうどその日の一杯目のコーヒーを飲み始める頃でした」(Juice.スタッフ)。
共同監督のうち、ビジュアル面をリードしたアッシュ氏と、Juice.のVFX兼CGスーパーバイザーのヤクブ・ナピク/Jakub Knapik氏ならびにミシンスキADは、ハーフHD(720p)サイズのQuickTimeをDropboxを介して受け渡すかたちで週2~3回のペースで進捗確認を行なったそうだ(レビュー作業にはHIEROを利用)。両監督とJuice.のメンバーを中心とした制作スタッフの間には確かな信頼関係が築けていたことから並行して行われたSkypeミーティングは始終フレンドリーな雰囲気だったそうで、コミュニケーション面でのトラブルとは無縁だったとのこと。
プリプロ工程におけるエピソードのひとつとして、エルメスのルックデヴ時に最初のテストレンダリング画像をリドリー・スコット監督に提出した際には、「Framestoreに匹敵するルックだ」という極めて好意的なフィードバックがあったとか。Web向けの短尺バイラル動画ということで、映画本編に比べれば非常に限られたバジェットとスケジュールの中で、共同監督たちが求める高いクオリティを実現するというのはかなりの難題であったことは想像に難くないが、早々にリドリー・スコット監督からお墨付きを得られたことは非常に大きな原動力になったという。
なお、プロジェクトの進行管理にはクラウドサービスAsanaを採用し、後述するエルメス等の大容量ショットのレンダリングにはクラウドレンダーファームRebusを利用したそうだが(50コア規模とのこと)、本プロジェクトのように少数精鋭で制作を進めるケースでは、こうしたクラウドサービスの活用はより一般化していくと思われる。
※1:3AM
2014年秋設立のリドリー・スコット監督自身のプロダクションRSA Filmsと劇場向け広告代理店Wild CardによるJV。新世代のエンタメ系マーケティングの実践を事業活動に掲げており、今回のバイラル企画もその一環である
www.its3am.com
1−1.欧州に3拠点、新たに日本オフィスも開設
Juice.は、2006年にポーランドはヴロツワフで創立した。上図はヴロツワフのオフィス内観、現在70名規模まで成長したという。ワルシャワとハンブルグに数名規模のサテライトオフィスをかまえ、さらに昨年は日本オフィスもオープンさせた。「多くの人たちに『(日本への進出は)商文化が異なり過ぎるのでやめた方がいい』などと反対されました(笑)」とは、創立メンバーでエグゼクティブ・プロデューサーを務めるミハウ・ドヴォヤック/Michal Dwojak-Hara氏。なお同氏のモットーは「絶対に諦めない。今日は大変で、明日はもっと辛くても、明後日にはきっと良くなるから」とのこと。日本での展開も要注目だ
1−2.コンセプトアート
▲「Star Talk」シーン(後述)のコンセプトアート
▲紫外線によるDNAのダメージ表現に関するコンセプトアート
▲太陽シーンのイメージボード
▲ビデオコンテの例(エルメスのカットより)