>   >  少数精鋭でハリウッドVFXに匹敵するクオリティを生み出す秘訣 "Our Greatest Adventure -ARES Live-"(映画『オデッセイ』バイラル動画)
少数精鋭でハリウッドVFXに匹敵するクオリティを生み出す秘訣 "Our Greatest Adventure -ARES Live-"(映画『オデッセイ』バイラル動画)

少数精鋭でハリウッドVFXに匹敵するクオリティを生み出す秘訣 "Our Greatest Adventure -ARES Live-"(映画『オデッセイ』バイラル動画)

<2>映画本編向けアセットの最適化

見た目を損なうことなくデータサイズを1/10にまで抑える

有人火星探査船「エルメス」は、映画本編のヒーローアセットとも言える存在だ。それゆえ非常に細かくモデリングされたFBXファイルのセットが各ブロックを形成し、それが複数組み合わさって出来上がっており、Framestoreから納品された時点で、1,0000枚以上の4Kテクスチャを含むデータサイズ700GBという、まさに桁外れの巨大アセットであった。
それを迎え撃つJuice.ワルシャワ オフィスの制作環境は、標準的なグレードのCore i7 CPU、32GB RAM、GeForce GTX 760相当のGPUで構成された作業用PC12台だったため、ショットワークのためにはかなり過激に最適化を施す必要があった。
なおJuice.の本拠地はヴロツワフだが、ポストプロダクションはワルシャワが主要拠点のため一連のCG・VFX作業はワルシャワのチームがリードしたそうだ。

まずは、データ内を探って同様な頻発する形状を把握し、Arnoldのキャッシングのしくみを使ってインスタンス化。次にテクスチャを見直し、大きすぎるものは適したサイズまで縮小した。最後に、エルメスを構成するブロックごとに個別にシェーディングし、同一環境でライティングした状態でASSファイル(Arnoldのレンダリング用中間ファイル)に出力。Softimage(以下、SI)内で簡便なリグによりアニメーション作業を行い、プロシージャル制御によってレンダリング時にASSが読み込まれるようなしくみを構築し、32GBのRAMでも作業が可能になったという。ちなみに最適化後のデータは約70GB(内、テクスチャは30GB程度)とのこと。

レンダリングは上述の通りArnoldで行われ、シェーディングにはアンドレ・ラングランズ/Anders Langlands氏が開発・公開するオープンソースのシェーダ「alShaders」が用いられた。
特筆すべきはモーションブラーで、ポスト処理ではなく全て3D的にレンダリングされたものなのだとか。「Arnoldは非常に優秀で、3Dモーションブラーは高精度かつ高速でした。また、精緻な形状に対してモーションベクターによるポスト処理では十分なクオリティを得ることはできないとの判断もありました」(ヤクブVFX兼CGスープ)。

2−1.有人火星探査船「エルメス」

『ARES』向けに調整された「エルメス」モデル。カメラからの距離を下に、細かなネジなどの視認できないパーツを取り除くといった調整を施し、約700GBという大容量の元データを約70GBまでダウンサイズさせることに成功した

エルメスの主なレンダーエレメント。上から順に、<1>ワイヤーフレーム/<2>オクルージョン/<3>ベロシティ/<4>ノーマル/<5>AO(Ambient Occulusion)のマスク素材





俯瞰ショットのブレイクダウン。上段から順に、<1>(左)テストレンダリング(その1)、(右)同(その2)/<2>(左)レンダリングイメージ最終形、(右)レタッチ処理を施した状態/<3>(左)大元の背景素材、(右)背景素材の最終形/<4>(左)ショットとしてのテストレンダリング、(右)全要素を素組みした状態/<5>(左)コンポジットとしての最終形、(右)グレーディング処理を施した完成ショット

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<3>星雲や火星などの表現

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