MIFA2025(仏・アヌシー)に東京都のスタジオ、個人クリエイターが出展!~10周年を迎えた東京都MIFA出展の成果をレポ―ト~

2025年6月10日から6月13日にかけてフランス・アヌシーで開催された世界最大規模のアニメーション国際見本市、MIFA 2025。このイベントには、東京都が実施する「海外進出ステップアッププログラム」に参加した都内のアニメ制作スタジオ等8社が出展し、進化し続ける海外アニメーション市場という舞台で新たな挑戦を繰り広げた。アニメ業界のトレンドへの対応、そして変化する世界市場での日本アニメの立ち位置。本記事では、MIFA 2025での彼らの挑戦と発見に迫る。
アニメーション業界の聖地で行われる世界最大級の見本市・MIFA
フランス・アヌシーで毎年開催されるアニメーション国際見本市MIFA(Marché International du Film d'Animation)は、アニメーション業界にとって最も重要な商談の場の一つだ。同時期に開催されるアヌシー国際アニメーション映画祭と相まって、この期間のアヌシーは文字通り世界のアニメーション業界の中心地となる。
アルプス山脈の麓に位置するアヌシーは、透明度の高い湖と中世の街並みが調和した美しい都市として知られている。普段は静寂に包まれたこの街が、MIFA開催期間中には世界各国から集まったクリエイター、プロデューサー、配給会社の熱気に包まれる。
MIFAの特徴は、その圧倒的なスケールと多様性にある。各国のパビリオンから個人のクリエイターまで、規模も背景も異なる参加者が一堂に会し、それぞれの創作への情熱を共有する。Netflix、Disney+、Amazon Primeといったストリーミングプラットフォームの台頭により、近年はデジタル配信を見据えた新たなコンテンツ開発の議論も活発だ。

商談エリアでは朝から晩まで真剣なビジネス交渉が続く一方で、MIFAの本当の価値は意外な場所にも潜んでいる。夕刻になると参加者たちは街中のカフェやレストランに繰り出し、よりリラックスした雰囲気の中で創作論を交わす。このような非公式な交流から生まれるアイデアや人脈が、後に大きなプロジェクトへと発展することも珍しくない。
長年の歴史を持つMIFAだが、時代と共にその役割も進化している。かつては欧米中心だった参加者も、今では南米、アジア、アフリカと世界各地に広がり、多様な文化的背景を持つ作品が競い合う場となっている。また、VRやAR技術、そして最近ではAI技術の活用など、新たな表現手法についての情報交換も盛んに行われ、アニメーション業界の未来を占う場としての機能も果たしている。

MIFA2025に出展した8社は、東京都によるアニメーション業界の海外進出支援プログラムに参加している
東京都は都内のアニメーション制作・製作会社等を対象に、海外市場のニーズや商習慣に関するセミナー・ワークショップを実施し、ピッチコンテスト「東京アニメピッチグランプリ」を開催している。入賞者のうち最優秀賞・優秀賞の計5組程度には、海外見本市への出展支援やビジネスマッチング等を提供し、都内アニメーション産業の海外展開を促進する。今回MIFAに出展した8社は過年度と今年度の入賞者である。
本プログラムは2016年から10年間にわたって継続的に実施しており、その間に蓄積されたノウハウと経験が出展者への支援に活かされている。
尚、今年度の詳細は、後日下記URLにて公開される。
(https://anime-tokyo.com/program/)
MIFA出展企業が体感した進化する世界市場
MIFA 2025には、令和6年度東京アニメピッチグランプリの受賞者5社と過年度の受賞者3社の合計8社が出展した。期間中、令和6年度受賞者である5社(関厚人氏、合同会社S.o.K、紺吉有限会社、合同会社ズーパーズース、株式会社テトラ)は、海外スタジオや配給会社、映画祭関係者等々との商談およびピッチ発表を行った。過年度受賞者である3社(Studio Selfish 合同会社、Moon Face Animation、アーチ株式会社)は、自身でアレンジした相手先と商談を行った。
<MIFA2025出展企業紹介>
関厚人氏

出展作品:『クリプティッド カオス』
https://atsuhito-works.format.com/
合同会社S.o.K

出展作品:『にゃんコあたま』
https://sok-llc.com/
紺吉有限会社

出展作品:『烈火』
https://www.kon-yoshi.co.jp/
合同会社ズーパーズース

出展作品:『テイスト オブ ウォーター 水の味』
https://supersub.mocap.co.jp/
株式会社テトラ

出展作品:『大きな森のタオ』
https://tetra-inc.com/
Studio Selfish 合同会社

出展作品:『Sunny Side Ups』
http://studio-selfish.jp/WP/
Moon Face Animation

出展作品:『Yatchi(>.<)Mattaaa!』
https://www.moonfaceanimation.com/
アーチ株式会社

出展作品:『目醒めのアウロラ~虹の森に咲くきみと~』
https://archinc.jp/ja/
Q. 商談を行った海外バイヤー、スタジオの印象は?
MIFAでは、ヨーロッパを中心とした多様な国々からバイヤーやスタジオが商談に参加する。各社が感じたのは商談スタイルの文化的違いだった。
『日本人が思い描く商談っぽい感じでなく、とてもラフな感じで話が出来る。作品が商談相手にはまらなくても、今後の制作予定作品などを聞いてくれて、人として向き合ってくれる』(Studio Selfish LLC)また、商談相手の立場や権限の違いも印象的だった。『CEOや決裁権を持った方が商談相手として来ているので、進行が速い。MIFAの雰囲気がそうさせるのかもしれない』(ARCH)という声からは、MIFAという場の特殊性が伺える。
一方で、現実的な課題も浮き彫りになった。『商談してる中で、予算感がとてつもなく大きい会社もある。商談相手と規模感をきちんとすり合わせることが大事』(紺吉)との声もあり、事前の情報収集と相手との規模感の調整の重要性が明らかになった。

Q. MIFAで印象に残った出会いやエピソードは?
MIFAの魅力は、計画された商談だけでなく、予期しない出会いや偶発的な交流にある。今回も数多くの印象的なエピソードが生まれた。
『飛び込みの投資会社が当初はアクションやホラー作品を求めてきたが、話をしてみるとこちらに興味を持ってくれた』(ズーパーズース)このような偶然の出会いから新たなビジネスチャンスが生まれることもMIFAの醍醐味の一つだ。
継続参加の効果も際立った。『前回の参加で話したスタジオだと、関係性もあるので進行のテンポが速かった』(ARCH)や、『過去に挨拶しただけの企業でも意外と覚えててくれる』(Moon Face Animation)といった声からは、継続参加による関係構築の価値が明確に表れている。
また、各国の国民性や文化の違いを肌で感じる機会も多かった『いろんな国のアニメ業界の方が商談にくるので国民性であったり、違いを感じれるのがおもしろい』(S.o.K)という声は、MIFAが単なるビジネスの場を超えた文化交流の場であることを物語っている。

Q. MIFAで得た経験を今後どのように活かす?
MIFA 2025での経験は、参加企業の今後の戦略や創作活動に大きな影響を与えた。特に長期的な視点でのアプローチの重要性が浮き彫りになった。
『当初、知り合いの会社に、MIFAのような場で実際で話をしても実現するまでに7~10年計画だといわれた。回数を重ねるごとに覚えられて、次第に商談相手からの要望や希望が増えていく』(Moon Face Animation)この指摘は、MIFAでの成果を短期的に求めるのではなく、長期的な関係構築として捉える重要性を示している。
継続参加による変化も明確に現れた。『何回もくることで、MIFAに参加している企業とつながりができるので、継続参加はとてもメリットになる』(Studio Selfish LLC)との声からは、一回の参加では得られない価値が継続によって生まれることが分かる。
また、世界市場への視野の広がりも大きな成果の一つだった。『世界中でオリジナル作品を作りたいという同じ思いを持った方が多いということを実感した』(テトラ)という発見は、今後の創作活動において国際的な視点を取り入れる契機となりそうだ。

Q. MIFAへの出展を通じて得られたビジネスの機会は?
MIFA 2025では、多くの企業が期待を上回る反応を得ることができた。特に東京都による充実したサポート体制が功を奏した結果が顕著に表れている。
『商談やピッチで作品の紹介をした時、自身が思っていたよりもずっと反応が良く、今後につながる可能性の高い相手と数多く出会えた』(テトラ)このような期待を大幅に上回る成果は、東京都のサポートと企業の準備が相乗効果を生んだ結果と言える。
『このMIFA期間中に東京都さんがかなり多くの商談を組んでくれた。自分たちで海外のスタジオ・バイヤーと商談を組むとなるとものすごい労力なので、とても助かる』(紺吉)という声からは、東京都による商談アレンジメントの価値が明確に示されている。
一方で、ビジネス実現への現実的な課題も浮き彫りになった。『インディペンデントのスタジオにとっては日本も世界も変わらず狭き門だった』(ズーパーズース)という率直な意見は、MIFAが「戦いの場」であることを物語っている。それでも、『スタジオとしてのメリットは、出資は叶わずとも、仕事を振ってもらえたりする点にある』(Studio Selfish LLC)といった現実的なメリットも確実に存在している。

Q. MIFA出展の経験を通じて感じたアニメーション業界のトレンドや未来は?
MIFA 2025では、アニメーション業界の新たなトレンドと変化が顕著に現れた。特に注目すべきは、縦型アニメーションとAI技術の活用だ。
縦型アニメーションの台頭 『世界の潮流として9割以上の子供が携帯でアニメ作品を見ていて、これからは縦型アニメーションが主流になっていくと考えている業界人もいた』(関厚人)この指摘は、視聴環境の変化がコンテンツ制作に与える影響の大きさを示している。『縦型のフォーマットは現時点で探してる出資者が少なかった』との現実もある一方で、先見性のある企業は既に注目し始めている。
AI技術に対する姿勢も、コストカットや作業効率化だけでなく、創造的な表現手段としての活用に注目が集まっている。『コストカットや作業簡略化などではなく、やりたい表現のためにAIを使用しているのだが、欧米ではAIに関してはまだ厳しい』(ズーパーズース)という指摘からは、AI活用における地域差と多様なアプローチが見えてくる。『コロナからトレンドの流れが変わった。それまでは完全に子供向け(プリスクール)のものがバイヤーの希望だったがコロナ禍を経てより高い年齢層の需要がふえた』(Studio Selfish LLC)この変化は、パンデミックがエンターテインメント消費行動に与えた長期的な影響を物語っている。

Q. 東京都のサポートを受けた際に最も役立ったアドバイスや支援は?
東京都による「海外進出ステップアッププログラム」の10年間にわたる歴史とノウハウの蓄積が、参加企業に対して多面的で実効性の高いサポートを提供している。
全ての企業が最も評価したのは商談のアポイントメント調整だった。東京という都市の認知度・ブランドの信頼性と、東京都による商談調整が相乗効果を生んでいる。
『このプログラムの中で10回を超えるセミナー、そして、ピッチをもんでいく練習があった』(紺吉)や、『東京都の皆さんと共に企画をブラッシュアップしました』(テトラ)といった声からは、単なる出展支援を超えた包括的な準備サポートの価値が明らかになっている。
『東京都はこのプログラムで10年の歴史があるので、ノウハウを知り尽くした担当者の方がMIFAのイロハを知り尽くしてるので、そういったアドバイスやサポートがとても助かる』(ARCH)
今回のMIFA 2025では東京都MIFA出展が10周年のメモリアルイヤーを迎え、この長年にわたって蓄積されたノウハウと経験の価値を参加企業が改めて実感する機会となった。『このプログラムの中小企業を応援するというスタンスがとてもありがたかった。発見されていない価値を発見しようとしてくれるところはとてもありがたい』(ズーパーズース)という声からは、プログラムの理念と実際の支援姿勢が参加企業に確実に伝わっていることが分かる。

Q. 来年以降のMIFAへの出展を検討しているスタジオに対してアドバイスは?
『MIFAに参加するとして最初3~4年は顔を売るフェーズ、そこから仲良くなってビジネスの話ができる』(関厚人)この指摘は、MIFAでの成果を長期的視点で捉える重要性を示している。『一年目はあいさつだけで焦っておわっちゃったが、継続して参加することでコネクションが出来てくる』(Moon Face Animation)という実体験も、継続参加の価値を裏付けている。
『参加を検討しているスタジオへのアドバイスとしては、早く参加するべき!ということですかね。日本人は日本のアニメが海外で人気だということを知っているが、実際それを現地に行って実感するのはとてもいい経験』(S.o.K)この声は、理論と実体験の差を埋めることの価値を強調している。
『プレゼンや企画資料を作るのは制作会社にとっては大変だと思う。受賞した後でもピッチの練習などで大変だがその価値がある』(ARCH)という現実的なアドバイスは、参加への覚悟と同時にその価値を示している。
『海外に向けて、無理やりチューニングせずとも世界のどこかには自分・自社の表現を好いてくれる方がいると思います』(ズーパーズース)この言葉は、グローバル市場への挑戦における重要な心構えを表している。