Topic 02
アニメーション付けとUnityによるオーサリング
シナリオや背景制作のほか、アニメーション付け、Unityによるオーサリング(リアルタイムレンダリング)など、VR化全般の作業はエクシヴィが行なっている。同社の取締役でもある古澤大輔氏はディレクション、およびアニメーション付けを担当。一方、ビジュアルディレクターの室橋雅人氏はアートディレクションやUnityでのオーサリングなどを受けもった。「VR制作の考え方というのは、映画などフレームでレイアウトをきる作品の考え方とはまったく異なるもので、今までのやり方は当てはまりません。全体の制作のながれとしては、まずシナリオから絵コンテ、さらにVR化と進みますが、途中で『何かちがうね』となったらシナリオから書き直すという作業を5回ほどくり返しました」と古澤氏。
VR用の背景はコンセプトアートから作り出された。コンセプトアートから実寸の背景を設計し、室内や日本庭園を簡単なプリミティブで組み、VRでの雰囲気をつかんでいった。そして、モデルを置いてはVRで確認し、調整するという地道なブラッシュアップ作業を2ヶ月かけて続けていった。「日本庭園はプロの職人が作り上げるものですから、単純に樹木や庭石を置いていっても画にはなりません。実際に庭園を見に行き参考にして、現実としての説得力をVRに加えながら世界観を詰めていきました」と語る室橋氏。カメラでフレームが決まる作品であれば、カメラに映らない部分はつくり込まなくてもよい場合が多いが、VR作品は体験者が好きなところを好きなように見るため、どこまでもこだわってつくる必要があった。「アニメーションはもちろん、背景やVRの見え方、感じ方もDMMさんやフライトユニットさんと討論しながら制作していけたので、クオリティはかなり上げられたと思います」と、古澤氏は満足げにふり返る。原作者として3Dモデル監修や企画内容の協力を行なったニトロプラス、VRコンテンツ化を志したDMM、そして現場のアーティストたちの強い思い入れが、多くの体験者の心をつかむ作品を生み出したといえるだろう。
三日月宗近のアニメーション付け
演技のながれの確認のため、エクシヴィでは社内用に絵コンテを作成。この絵コンテをベースに、フライトユニットから受け取った三日月宗近の3DモデルにMotionBuilderで動きを付けていった。なお、動きはシミュレーションを全て焼き付けてから手作業で直している。そして、VRで見たときの印象を基に修正がくり返された。「三日月宗近は優雅な雰囲気のあるキャラクター。歩き方には日本舞踊の雅な動きを意識しつつ、速度と間にも気をつけて三日月宗近らしさを追求しました。また、三日月宗近と体験者との関係性、距離感にも考慮を重ねています」(古澤氏)
めり込みの修正
アニメーションを付けていると着物がめり込むことが多かったため、MotionBuilder上でパラメータを調整してVRで確認する、という作業がくり返された。また、フレームレートについては、アニメーション作業時は30フレームで制作しているのだが、Oculus Rift上では90フレームで動く。その間は自動で補完されるため、どうしても予期せぬ動きやめり込みが出てしまう。そういったところも全て手作業で直していった
めり込みの修正前
修正後
猫の3Dモデル
作中に登場する三毛猫。猫好きの古澤氏がこだわりをもって制作している。「三日月宗近に動きを付けるのと同じで、猫の動きも最初からひとつに決めてしまわずに、首をかいたり身体を振ったりする動作など、数パターンの動きをつくりました」(古澤氏)。テクスチャには毛並みがわかるラインを入れ、フサフサ感は動きで表現した。なお、この猫は体験者の視線の誘導役としての重要な役割も担っている
コンセプトアート
本作の本丸のデザインはあくまでVR用につくられたもので、ゲーム本来の本丸の設定とは関連がない。そのためVR制作を前提としたコンセプトアートを最初に用意した。「室内から見た庭園は、襖を額縁としたときに雅な絵として成り立つように描きました」と室橋氏。単純に木や庭石を並べただけでは美しい日本庭園にはならないため、デザインには手間がかかったという。また、実際のVR作品ではほとんど見えないのだが日本庭園の中には道もつくられ、道に沿って木が植えられている。そのあたりのつくり込みもコンセプトアートでは意識して描かれている
背景モデルの作成
背景用に制作された3Dモデルの一例。世界観を出すために日本庭園の庭石や柱はコピー&ペーストではなく、ひとつひとつ形状の異なるものがレイアウトされている。体験者が座っている和室についても、近くで見ても問題のないように細かいところまでつくり込み、テクスチャも高解像度のものを使用。そうすることで本丸に空気感が生まれ、没入感も高められている
本丸外観。体験者はこの和室の中に座っているという設定だ
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日本庭園に植えられた樹木の一例、つつじ
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同じく、桜(近景用)。このほかにも多数の植物がつくられている。なお、樹木の作成には植物生成ソフトのSpeed Treeを使用
Unityによるオーサリング
リアルタイムレンダリングにはUnityを使用している。「本丸の実在感を出すため、制作中は何度もHMDを装着して確認と調整をくり返しました」(室橋氏)
まとめ
つくり込まれたキャラクターと世界観に思わず心が動かされる作品
実は、筆者(女性)は『刀剣乱舞-ONLINE-』をプレイしたことはないのだが、本作のVR体験はとても楽しかった。青々とした日本庭園が見える純和風の室内は、とても綺麗だがどこか懐かしく、座布団をどけて横になってゴロンとしたくなる開放感がある。そして、おもむろに現れる三日月宗近はすぐ側まで歩いてきてくれるので、距離の近さに思わずドキっとしてしまう。これは平面のモニタではできない、VRならではの体験だ。女性ファンを意識したコンテンツということだが、男性が体験してもきっと気に入ってしまうにちがいない。ここにいながらにして、まほろばを旅できるのだから。
東京ゲームショウ2016のDMM GAMESブースにてVR体験中の本誌スタッフ。ブースには上記の3Dモデルとそっくりな座布団が用意され、イグサの匂いもするなど、没入感を高める工夫がされている。なお、一般来場者がVR体験をするパブリックデイでは背後の障子は閉じられている(写真はビジネスデイのもの)。すだれで仕切られた個室のようなブースが作られているほか、VR体験後、出口の前にパウダールームが設けられるなど、女性ファンに配慮された展示がなされていた