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クラフト感を

クラフト感を"デジタル"で高める、デンソー 紹介映像『会社編』

Topic 2 ショットワーク

実際のコマ撮り撮影手法を3DCG上で再現する

実際のコマ撮りアニメーションらしさの追求は、背景制作やショットワークにおいても様々な取り組みがなされている。背景アセットは、全て1/24サイズを基準に統一化し、リアルな汚しを追求せずミニチュア模型的な手触り感を重視して制作が進められた。それに先立ち、スタッフたちは自社の調布スタジオを訪問、『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズなどに用いられたミニチュア造形と、その撮影手法を見学。ミニチュア特有のディテールの入れ方やスケール感、ライティングの手法などを調布スタジオのスタッフたちから細かくレクチャーを受けたという。「ミニチュアの実物を観察することで、屋根板などのパーツごとの隙間の感じや、ステージに対する建物のスケール感などがすごく参考になりました。質感はあまりディテールを詰めてしまうと作業コストが見合わなくなってしまうため、リアル路線ではあるもののスケール感を調整して勝負しています」(吉田氏)。「単純にミニチュア風にアセットを作成して並べても、ディテールが表現されていないとクラフト感が伝わりませんでした。そこで、変形をオーバー目に加える、スケールの差を強調するといったブラッシュアップを施すことでCGアニメーションとしてのミニチュアらしさを追求しました。地面の縁石なども大きさや隙間などを手作業でわざとずらして、影を回り込ませることで、画面にディテールを与えています」とは、背景制作をリードした奥山光太郎氏。

ストップモーション的な表現はショットワークでも実践された。本作では、コマ撮り感を出すためにカメラのモーションはフルフレームでアニメーションされているが、キャラクターのモーションは3コマ打ちで作成。リードアニメーターを務めた吉村 亮氏が動きのリファレンスを作成し、アニメーター間でノウハウの共有が図られた。ライティングでは当初、順光でライティングしたそうだが、意図したミニチュア感が出せなかったため、細かくレフ板を置くなど、実際のミニチュア撮影での照明配置をCGシーンで再現してライティングが行われた。また、カメラもパンフォーカス気味に設定していたレンズ設定も被写界深度を浅くして、ミニチュア的な自然なボケ足を表現できるように変更された。このように本作では、白組が長きにわたり培ってきたミニチュア造形やストップモーション撮影のノウハウが、デジタルコンテンツ制作にも反映された好例となった。本作で得られた知見が創り出す、新たなCGアニメーション表現にも期待したい。

手作業でランダム感を施す~背景セット~

背景制作の指針となった、英国のボートン=オン=ザ=ウォーター



  • 初期の状態



  • 形状乱し作業を施した最終形。縁石や柵、屋根や看板の形状の乱しを行い、橋の縁のブロックも隙間を空けて配置することにより、感じられやすいオクルージョンが入るように加工。また、瓦屋根を部分的に別オブジェクトで作成し、積むことで意図的なパーツの合いの甘さや手づくり感が高められた。「石畳についても情報量は担保しつつ、スケールそのものを大きくしてミニチュア感を出しました。芝生は緑から少し黄色にすることで、ジオラマの芝生素材の印象に寄せています」(奥山氏)

東京シーンの背景セット



  • 初期の状態



  • 形状乱し作業を施した最終形。ボートンと同様に縁石の隙間感をつくり、ビルの柱も各パーツを若干ずらして配置することで手作業でひとつひとつ重ねて作った感じを強調。ビルは、箇々の窓をバラバラにするとボロさやノイズ感が強くなってしまうため、ワンフロアごとに作成したパーツを積んで作った雰囲気が出るように、階層ごとの大きな単位でズレを入れている

プロップ「ベンチ」の形状乱し加工例



  • 初期の状態



  • 最終形。水性塗料で塗ったような質感や、光沢を強くすることでクリアを吹いたような作り物っぽさを演出。さらに引きで見て歪みが感じられる程度に形状の歪みが加えられた。「ミニチュアでは再現不可能と思われる細かいディテールは排除。ガチャガチャで出てくる玩具くらいの形状に留めています」(奥山氏)。余談だが、街灯はリアルサイズの麦球を仕込むことで、スケールのちがいを感じさせているとのこと

キャラクターアニメーション

キャラクターアニメーション作業の例。指針となった中盤に登場する食料品店で買い物をする親子のカット



  • 動きの方向性を模索してきた初期のもの。キャラクターについては基本3コマ打ちで動きが付けられている



  • キーフレームが調整された最終形。「各キャラの部位ごとにキーの間隔を変えてたりもしています。カメラやクルマなどの乗り物はフルコマで動くため、その中でキャラの動きが飛んだように見えないようカットごとに見てほしい箇所に視線がいくように意識しながら調整を行いました」(吉村氏)

ライティング

ライティング作業の例

白組 調布スタジオにおけるミニチュア撮影時の環境を収めた参考写真の例

実際のミニチュア撮影環境を3ds Max上で再現したもの。「四方にカポックとして白い平面を置き、天井から影の濃さを調整するためのライトを配置しました」(石田氏)

コンポジットワーク

コンポジット工程における、背景セットに対する汚し処理の例



  • 元素材



  • NUKEで背景のディフューズパスに汚しを加えた状態

BGに汚しを加えるためのマスク素材のサムネール一覧

クリプトマットを用いた汚し処理の追加加工の例



  • BGに汚しを加えるためのマスク素材をNUKE上でさらに加工した状態



  • 【左画像】を部分的に用いるためのクリプトマット

BGに汚し処理を施すためのノードグラフ全体



  • 素組みした状態



  • 各素材のエレメント調整やノイズ除去など一連のコンポジットワークを施した状態

ポストエフェクトならびにグレーディング処理の例



  • 処理前



  • 処理後(完成形)



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