Lenovo Legion アンバサダーに就任した、PERIMETRON 神戸雄平(mesoism)に伺ったアートスタイル探求の変遷とレンダラーの選択意図
ゲーミングPCからThinkPadまで幅広い層に支持されるPCメーカーLenovo。このほど、気鋭のクリエイティブレーベルPERIMETRONの神戸雄平氏が、同社ゲーミングノートPC「Legion」ブランドのアンバサダーに就任した。ここでは、神戸氏の制作スタイルから3DCGツールの活用方法、クリエイティブワークにおける「Legion Pro 7i」のパフォーマンスまで、幅広く話を伺った。
Legionアンバサダーとしてデジタルアーティストが選ばれたワケ。
CGWORLD編集部(以下、CGW):本日はよろしくお願いします。Lenovo Legion アンバサダーに就任されたとのことで、まずはその経緯を教えてください。
神戸雄平(以下、神戸):2018年頃からフリーランスになって、そこから3DCGを触る様になって、ありがたいことに少しずつ3DCGの仕事が増えてきました。ただ同時に、受託のお仕事だけではなく、いちクリエイターとして、何かオリジナルなものを生み出していきたいと考える機会も増えました。
そんな中、創作活動の支援をしてくれるサポーターを探していたところ、Lenovoさんとご縁があり、アンバサダーをやらせていただくことになったんです
PERIMETRON 神戸雄平(mesoism)
CGW:LegionはゲーミングPCのブランドですが、デジタルアーティストがアンバサダーになったのはインパクトがありますね。
神戸:そうなんです。Legionのアンバサダーはeスポーツのプロゲーマーが中心ですから、今回僕のようなデジタルクリエイターを選んでいただいて感謝しています。ゲーミングPCをクリエイティブ分野にも広げたいというLegionブランドの思いと、僕の制作姿勢が一致した結果だなと思っています。
CGW:ご自身でも『Legion Pro 7i』を最近使って作品制作しているみたいですね。
神戸:メインのPCはデスクトップですが、出張中用のノートPCとして使っています。
2月にSpotify O-EASTで開催されたTempalayの『目撃者X』のライブ演出映像はUnreal Engineでつくったんですが、『Legion Pro 7i』を出張先の札幌のホテルに持ち込んで、1週間缶詰になって作業してましたよ。
ゲーミングPCは、クリエイティブでも当然活躍できる
CGW:快適に作業できましたか?
神戸:スペック的な不満は全くなかったですね。 CPUに、Intel Core™ i9-13900HX プロセッサー、GPUにはNVIDIA® GeForce® RTX™ 4080 Laptop GPUを積んでるのでUnreal Engineもサクサク動きました。もちろんデスクトップにはデスクトップの良さがありますが、『Legion Pro 7i』は持ち運びできるので、場所を選ばずクリエイティブに没頭できる点で有利です。 関係者現場で途中経過を見せたり、ブラッシュアップすることもできますしね。
CGW:LegionはそもそもゲーミングPCですが、クリエイティブ用途に用いることには抵抗はありますか?
神戸:僕はデスクトップを自作やBTOで組んでいるので、そもそもゲーミングPCがクリエイティブ用途とほとんど同じだということは知っていました。ゲーミングPCって、eスポーツで1フレーム以下の戦いに使われているハードウェアですから、言ってみれば“F1マシン”ですよ。クリエイティブでも当然ガンガン活躍できます。
CGW:筐体のデザインやインターフェイス周りはどうですか?
神戸:デザインはスタイリッシュで好きですね。テンキーがあるところもポイント高いです。あと、細かいことですが、USBポートが左右だけでなく背面にもあるので、左右は空けて、背面のUSBを使うようにすればケーブルが邪魔にならないのが良いですね。eスポーツでケーブルがらみのアクシデントを防止するためにこうなってるのかもしれないですが、クリエイティブ制作でもありがたいです。
神戸雄平のクリエイティブ遍歴
個人制作とチーム制作との向き合い方の違い
CGW:ここからは少し神戸さんのクリエイティブについて掘り下げたいと思います。神戸さんはここ数年、話題になるフルCG作品のディレクションが増えてきたと思いますが、作品への向き合い方は変わりましたか?
神戸:2020年のmillennium paradeの『Fly with me』が、初めてチームで制作した作品だったのですが、それ以降、他のアーティストの方たちとチームでつくる機会も増えました。勿論、たくさんのスキルやアイデアが組み合わされ、より高品質な作品が作れる反面、難しいなと思うところも多々ありました。
CGW:苦労されましたか。
神戸:かなり初歩的な部分だと思うのですが、データの受け渡しとかコミュニケーションとか、データのやり取りはかなり苦戦しました。僕なんかそれまで“野良”でやってきましたから、CG制作におけるチーム制作の“暗黙の了解”みたいなルールを吸収するのに時間がかかりました。今までDCCツールを行き来したことは無かったし、テクスチャの解像度やポリゴン頂点数なんかを、僕は今までかなりのフィーリングでやっていたんだな、と。
CGW:個人とチーム制作ではデータのつくり方が変わりますよね。
神戸:そうですね。ひとりでつくるなら後からいくらでも直せますけど、チームでつくるときはそうはいきませんから。例えば、キャラデータを渡したら後から修正するのは手戻り。次の工程の人に迷惑をかけちゃいますからね。だから工程ごとに綺麗に決めないと。
CGW:確かに。ひとりでやるのとどちらが好きですか?
神戸:どっちにもメリットデメリットがあるんですよ。ひとりで制作する際は、かなり高い純度で没頭できますが、自分の表現の幅に出来上がりが左右されます。チームでやる場合は自分の想像力とか能力を遥かに超えてくる瞬間があるんで、それに直面したときのテンションの上がり方は……捨てがたい(笑)。
アートスタイルの探求と自身の個性について
CGW:それは良い刺激ですね!神戸さんのクリエイティブの変遷を辿るべくInstagramを遡って見ていたんですが、面白いですね。
2017年にはドムドムバーガーのロゴバリエーションが大量にあったり(笑)。
神戸:僕、地元は岐阜なんですが、高3の頃ドムドムバーガーと出会って、好きになっちゃって。
あれはメンタルが削られてたときに、Photoshopの練習で遊びで上げてたものです(笑)。
CGW:そこから一気にアートスタイルの探求が加速していることが伺えます。
データモッシュを用いたグリッチなポートレートシリーズや、80年代のアメリカの商業広告を思わせるレトロでざらついたグラフィック表現、ストリート感覚をミックスしたサイバーパンク風のアートワークなど、本当に様々なグラフィックがInstagramに上がっています。
神戸:Instagramに作品を上げ始めた当時は、と言っても作品と呼べるレベルの物ではないのですが、TV番組の制作会社に就職して、バラエティ番組のテロップをつくってたんですが、当時、色々もがいていたんですよね。自分のやりたい表現ってどんなのだろう、そもそも自分のやりたい表現なんか俺にはあるのだろうか、と。
その頃、PERIMETRONの映像作家OSRINと仕事で出会ったんです。バラエティ番組じゃなくて単発で入ってきた毛色のちがう仕事のディレクターでした。
CGW:OSRINさんとの出会いが現在につながるんですね。
神戸:そうです。たまたま同い年で仲良くなって、ちょいちょい相談が来るようになって……。
それで当時のPERIMETRONの事務所に遊びに行くようになって、一緒にMVを観たり。
CGW:どんなMVですか?
神戸:良く覚えてるのはLISACHRISの『ru a samurai?』。
お洒落なコラージュのアニメーションで、どこにも隙がなくてツッコミどころがないです。音ハメも抜群に上手くて。
神戸:あとはケミカル・ブラザーズの『Wide Open』。3DCGでつくったスーツのデザインが凄い。心臓がチープなのも洒落てます。2016年当時、慣性式モーションキャプチャMVNをはじめ最先端の技術を使ってると思いますけど、それをドヤ顔せずにさらっと使ってるところが良い。CGって足し算ばかりになっちゃうことが多いですが、これはそうしていない。学ぶところがありますよね。
CGW:どちらも個性的な作品でしたが、神戸さんご自身、個性についてどう考えていますか?
神戸:僕はフォトリアルの方向性には行けなかったんですよね。はじめは勿論、色々と試していたんですけど、俺はこの勝負には勝てないんじゃ、と早々に思ってしまって。どっちかと言えば、Cinema 4D(以下、C4D)使いにはお馴染みのBEEPLE(mike winkelmann)のような方向性なんじゃないか、と。
CGW:クリエイターとして強い影響を受けたのはどんなものですか?
神戸:僕は『スター・ウォーズ』では育ってなくて、やっぱり漫画とかアニメですね。2Dイラストっぽいもの、トイフィギュアっぽいものとか。そっちならぶっちゃけ、CGの下手さもごまかせるし(笑)。
CGW:それが神戸さんの個性だと。
神戸:いや、真面目な話をすると、CGはさじ加減ひとつでガラッとルックを変えられるので、自分の個性とかシグネイチャーがほしくても、なかなか定めにくいじゃないですか。造形の癖やアニメーションでその幅を持つ事も勿論可能ですが。僕もコレが自分だ!と言える様なシグネイチャーが欲しいし、きっとみんなもそう思ってる。僕自身、いろんなことに目移りしちゃうし普通に色んなものが好きなので、“今は”この感じでやってます、としか言えないなと。正直、自分の個性や作品の特徴なんてまだ分かんねえな、という気持ちです。
CGW:確かに。自身の個性に固執しないということですね。
神戸:そうですね。僕はどこかで、絵が描けたり、立体造形をつくれたりする人たち、つまり手を動かしてつくれるクリエイターが一番格好良いと思ってますし、純粋に憧れてます。僕は色々なアウトプットで「絵描けますよ」感を出そうと必死にやっていたりしますが、まったく描けません(笑)。
CGW:そうでしたか。3DCGがあったからクリエイターとして活動できていると?
神戸:はい。元々PCの技術の飲み込みが早いほうだったので、ある程度3DCGのツールを覚えて、ベースのライティングさえ覚えたら、それなりにリッチな画がつくれました。上達がすぐに感じられたから続けられたんです。もしこれが油絵だったらこうはいかないですからね。
レンダラーの探求
CGW:なるほど。3DCGは神戸さんの性格にも合っていたと。神戸さんの作品はC4Dでつくられているのにルックの幅がとても広いですが、それはレンダラのちがいですか?
神戸:それも大きいですね。現在はRedshiftがベースで、標準レンダラ(※)、OctaneRender、Arnoldを使い分けています。
(※)C4Dはバージョン2024よりRedshiftが標準レンダラとなったが、それ以前のバージョンの標準レンダラを指す。
https://note.com/maxonjapan/n/n15a450e04b33
CGW:こちらのグランジ風のグラフィック表現は、どのレンダラで?
神戸:これは標準レンダラですね。C4Dはシェーダが優秀で、アウトラインのオーバーシュートなんかも設定できます。
色はレンダリング画像の上から自分で塗ってます。Redshiftを使っているのはこうしたトイ風のルックの作品が中心です(下図)。
神戸:あと、最近はUnreal Engine(以下、UE)を使う仕事も多いですね。最初にUEでつくったのはこの、1年半前の展覧会用アニメ作品『PIN-PIN #品品』です。
神戸:そして、くっきりとしたアウトラインを出したい場合はArnold。キングギドラのMV『真実のウイルス』もArnoldですね。
CGW:レンダラは作品をつくりながらどれにするか決めるのですか?
神戸:Arnoldだけは最初から決め打ちですね。この感じのアウトラインやシャドウの乗り感はArnoldでしか出せなくて。
CGW:他によく使うツールはありますか?
神戸:Substance 3D Painterもよく使ってます。millennium paradeのMV『Bon Dance』MVで子鬼が被ってるヘルメットのステッカーとか。スマートマスクで良い感じに剥がす表現をつくれました。
Legion Pro シリーズへの今後の期待について
CGW:本当に様々なレンダラーを駆使しながら、アートスタイルを探求をしているんですね。試行錯誤の量が作品のパフォーマンスと直結しそうです。PCのスペックはどれくらい重視しているんですか?
神戸:3DCGを含めてマシンパワーが必要な仕事では、お金がルックに直結する、これが僕の持論です。少なくとも、CGをやるならある程度PCにお金をかけたほうが良いですね。安価でスペックの低いPCで妥協すると、レンダリング時間が長くてイテレーションを回せませんし、リッチなテクスチャを使いたくても動作が重くて作業が前に進みませんから。
CGW:その通りですね。
神戸:そういう意味でもLegionシリーズはゲーミングPCだからこそ、スペックが高くてクリエイティブにも最適なんです。
CGW:神戸さんがお使いの『Legion Pro 7i』はハイパフォーマンスモデルですが、ミドルクラスの『Legion Pro 5』にも14世代Core i9、GeForce RTX 4070搭載の最新モデルがラインアップされました。最後に、これからのLegionに期待することを教えてください。
神戸:この『Legion Pro 7i』はキッチリ良い仕事をしてくれるパワフルなマシンです。今後の展開として、あえて言うならば、もっと尖った構成のLegionも見てみたい。ウルトラハイエンドゲーミングPCみたいな。ぜひ使ってみたいです。
CGW:今後に期待ですね。ありがとうございました。
TEXT_kagaya(ハリんち)
PHOTO_大沼洋平(インタビューカット)
INTERVIEW_池田大樹(CGWORLD)