BIMツールの現状
現在日本では「BIMツール」と呼ばれる設計ツールは、GRAPHISOFTのARCHICADやAutodeskのRevitが多くのゼネコンや設計事務所で採用されています。ほかにもベントレーのMicroStation、福井コンピュータのGLOOBEなど、数多くのBIMツールが日本国内で販売されています。日本国内のゼネコンや大手設計事務所、住宅メーカーなどではすでに多くの企業にBIM導入はなされていて、その運用が実務レベルでようやく開始されてきたというのが現状でしょう。これから中小の設計事務所や工務店などに急速に普及していくと思われます。特にAutodeskでは、同社のBIMツールであるRevitと3DCGアニメーションソフトウェアである3ds Maxとのデータ連携には長い年月をかけて開発を続けているので、3DCGとBIMとの連携機能は強力な親和性をもっています。これはほかの3DCGソフトにはない強みです。
Revit作業UI
【上画像】のデータを3ds Maxへ読み込んだ例
BIMデータ活用の最新事情
Unity TechnologiesではRevitとUnityとのデータ連係を構築させる「Unity Reflect」と呼ばれるワークフローを先日発表しました。
このワークフローではローカルマシンまたはネットワークサーバでホストされるデータに対してフェデレーションプロセス(※1)を通じて様々なサービスを提供するものです。1つの設計プロジェクトで異なる要素に関わっている複数の設計者やエンジニアからのBIMまたはCADデータをとりまとめることが可能になり、さらには各要素が包括するメタデータを保持するなどして、リアルタイム3Dコンテンツ用にデータを自動的に最適化できるそうです。まさに今現在BIMデータをVRやARに展開しようとしている各開発会社が頭を悩ませている問題を解決できるかもしれません。
※1:フェデレーションとはユーザー認証のことを指します
画像提供: Unity Technologies Japan
画像提供: Unity Technologies Japan
さらには、Unity Reflectは広告品質レベルのレンダリングもサポートしているようですので 図・下のような、ビジュアルにも展開できるそうです。対応製品もRevit以外にも順次対応していくとのことなので、かなり期待できるソリューションではないかと思います。
画像提供: Unity Technologies Japan
Epic Gamesは、2019年にTwinmotionを傘下に収め、Unreal Engineも含めて主要BIMソフトウェアはもちろんのこと、各種3DCGソフトウェアとの連携にも力を注いでいます。特にTwinmotionはARCHICAD、Revit、SketchUp、RIKCADなどから直接データを取り込むことができるため、今まで膨大な工数がかかっていたリアルタイ ムコンテンツ制作を劇的に簡素化させています。
BIMデータの修正と設計データの問題
完成したBIMデータというのは、建築物の外観だけではなく内部配線や配管、構造体などとてつもない物量のデータをもつことになります。一戸建ての住宅を設計すれば、施工時に使用する全ての部材がデータに格納されているわけです。つまり、設計が済んだデータをそのままCGツールに持ち込むのではなく、事前にBIMツール側でビジュアライズに必要な部材だけを選別/抽出する必要があります。3DCGソフト側でもデータの選別はできますが現実的な作業ではないですし、そもそもデータが重すぎて開けない可能性があります。
CGソフトウェア側でデータの間引き作業などを行うのではなく設計ツールでの作業が求められるので、ある程度のBIM操作スキルは今後必要になるかもしれません。クライアントに「データの整理をお願いします」とはなかなか要求しにくいですしね。BIMツール内であれば 各要素がもつメタデータを元に選別/非表示する作業は数回のクリックで終わってしまいます。
Revit内の「表示/グラフィックス機能」
また、設計者の目的は建築物を実現させるための設計図書を作成することです。ビジュアライズ用のデータの作成はしません。語弊を承知で「ビジュアライズ用にデータ作ってないから......」という方がほとんどでしょう。ビ ジュアル制作部門や制作会社さんなどではBIMデータを預かっても、結局モデリングをイチからやり直すケースもよく耳にします。
例えば、下図はRevitで作成した何の変哲もない壁のデータですが、これらを3ds Maxに読み込むと、壁の構造がおかしいことに気づきます。
Revitを使った単純な壁のモデル
Revitではドローイング感覚で壁面を作図しますが、結果はこの通りになります。これではUVの食い違いやレンダリング時に予期しないエッジが現れたりします
ですが、こうした問題もRevitで簡単に修正することができます。3DCGソフトでこの構造を綺麗に修正するには作り直した方が早いですね。Revit内で壁面の接合部分を選択して、接合方法を[留め継ぎ]に変更するだけです
この状態で3ds Maxへ取り込むと結果は図のような状態です。この状態であれば問題はありませんね
このようにちょっとした知識があるだけで、不具合の修正がより短時間に処理可能です。こういった問題は3ds Maxだけではなく、UnityやUnreal Engineといったゲームエンジンを使ったコンテンツ制作でも共通して起こる問題です
もうひとつ大きな問題もあります。「ノード名」です。BIMやCADツールの場合は普通に各要素の名前(ノード名)に日本語やプログラミングで不都合な特殊記号が使われます。例えば先ほどのシンプルな壁のデータですが、3ds Maxへ持ち込むと壁のノード名は下図のようになっています。
Basic Wall 標準-150mm[275463] といった具合です。このノード名の例は まだ良い方ですが「¥」といった特赦記号が使われている場合もよくあります
メタデータとしてリンクされているテクスチャの命名も「Woods & Plastics.Finish Carpentry.Wood.Teak.png」というようなCG作業では絶対に使わない記述がされているケースも多く見受けられます
設計業界では支障のないノード名もCGツールや特にゲームエンジンを使う場合には致命傷になります。1~2点であれば手作業で直してもいいのですが、数千から数万といったノード数になると、とても手作業では修正できません。こういったケースを修正するためのツールもサードパーティで存在しています。私どもで開発した「Spreadsheet Editor」という3ds Max用プラグインツールです。大量のノードプロパティを一括修正することはもちろんのことデータの不具合を事前に見つけ出す機能も豊富にそろえています。様々な処理ツールが実装されているので、BIM/CADから取り込んだ膨大なデータの処理に威力を発揮します。ご興味あればボーンデジタルさんにお問い合わせください。
3ds Maxプラグイン「Spreadsheet Editor」
問:ボーンデジタル ソフトウェア事業部
www.borndigital.co.jp/contact
いかがでしたか? 建築ビジュアル制作の実例などをいろいろと紹介しました。業界特有の画面構成や画調の仕上げ方も多くあり今回の誌面では全てを紹介できませんでしたが、機会があればまた紹介できればと思います。B2C用コンテンツ制作はもちろん、B2B用コンテンツのニーズも高くなってきています。Unreal EngineやUnityを使ったビジュアル制作やVR/ARのニーズも高く、今大きな変革が起きています。全世界的に様々なソフトウェアベンダーやハードウェアデバイスメーカーも積極的にこの分野へ投資していますので、今後がますます楽しみですね。