数年前からBIMが導入されはじめ、建築業界における3DCG用途の多角化が加速している。建築をはじめとする産業界への3DCG導入サポートに精力的に取り組んでいるウィニー・ビレッジ代表・宋 明信氏が最新事情を解説する。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 258(2020年2月号)からの転載となります。

TEXT_宋 明信(ウィニー・ビレッジ)
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada(CGWORLD)
メイン画像:不動産広告用・営業用ビジュアル(画像提供:合同会社 ナカジマ デザイン オフィス

非常に多岐にわたる建築3DCGの用途

建築CGと聞くと「マンションのCGパース画でしょ?」といった認識があると思いますが、建築建設業界では様々なCGコンテンツの使用用途があります。エンターテインメント向けのビジュアルとは異なり実際に施工される建築物を事前に視覚化(ビジュアライズ)するという目的で様々なかたちでCGが活用されており、これは工業製品などの製品視覚化と同じと言えます。

ちょっとおおまかに使用用途を分類してみましょう(あくまでも代表的な使用用途なので、それ以外にも様々な用途が存在します)。

・不動産広告用・営業販促用ビジュアル制作
・競争入札でのコンペ用ビジュアル制作
・設計段階のプロポーザル用ビジュアル制作
・企画・設計段階や保守目的でのVR,ARの活用

不動産広告用・営業販促用またはコンペ用ビジュアルでは、フォトリアルなイメージ制作が求められるケースが多く、また依頼主からの要望に合わせるために、レンダリング出力イメージに対して2Dレタッチ作業がかなり多く含まれます。単純にフォトリアルにすれば良いというわけでなく、メッセージを明確にする必要もあるので 一般的には3DCG作業とレタッチ作業の時間比率は5:5から6:4と言われています。場合によっては4:6の場合もあるようです。

画像全体のトーン調整はもちろんのこと、床への映り込み調整や画面上各構成要素の修正、演出など想像以上の作業が求められます。昨今のイメージ制作ではVRやARといったリアルタイム系コンテンツの需要も大きくなっているので、PBRやPBSの概念を理解し、マテリアルなどの共有化パイプラインも構築していく必要があります。つまり、レタッチ工数が多いとデータの共有化がかなり厳しくなるので、作業比率を変えていく必要もあると思います。

3ds Max + V-Rayによるレンダリングイメージ(RAWデータ)

Photoshopを使ったレタッチ処理後(画像提供:合同会社 ナカジマ デザイン オフィス)

フォトリアルなイメージは広告営業用もしくはコンペ案件のビジュアルで求められますが、設計段階ではカラースキーム検討やVR/ARコンテンツを展開して設計データのチェックが行われます。こういった確認は2D図面だけでは検証が難しいため、一般的に3DCGビジュアルやVRなどのコンテンツが使われています。こういった検討用のコンテンツは設計内部でのプロポーザル用コンテンツと呼ばれています。 プロポーザル用のコンテンツ作成は、設計の初期段階では膨大な数を作成するケースが多いと言われています。1つの案件に対して場合によっては数百といったビジュアルを制作することもあります。3DCG制作を請け負う部署や制作会社では、設計者のスケッチから初期のモデリングを起こすケースもありますし、平面図や立面図、展開図などを基にデータを構築することも多いので、2D図面を理解するスキルや建築学の基本的な知識も求められます。

設計段階のプロポーザル用ビジュアル(画像提供: 合同会社 ナカジマ デザイン オフィス)

BIMの台頭

設計手法も昔とは大きく変化してきます。近年は「BIM(Building Information Modeling)」といった手法が急速に広がりつつあります。エンターテインメント系の読者にとってBIMという言葉はあまり聞き慣れない言葉だと思いますが、2次元図面からではなく設計者がダイナミックに3Dモデリングを行い、その結果を2Dの図面に展開するというフローです。設計初期から3D空間で行えるので、照明検討や室内の空気対流のシミュレーション、構造計算などを加味しながら設計できることも利点のひとつです。また、壁や床や構造体といった基本部材はもちろんのこと、ドアや窓、さらには壁裏にある配線や配管などの各建設部材はライブラリとして全てデータベース化されており、各部材のメーカーや単価などをメタデータとして埋め込んであるために積算作業も容易になります。施工が終わった後も保守メンテナンスに設計データを活用できるなど、様々な運用が可能になります。

BIMを活用したワークフローでは設計作業終了時と共に3次元モデルデータは完成しているので、そのデータを3DCGソフトウェアに転送すれば基本的にモデリング作業は終了しているわけです。このあたりが2D図面で情報共有していた従来の手法と大きく異なる点ですね。

一般的なBIMで用いるライブラリにはシェーダ情報やテクスチャ素材などもデータベースに格納されています。FBX形式などでもそれらの属性情報を3DCGソフトウェアへ移行できるのでかなり効率化が図れるしくみになっていますが、実際はそれほど単純ではないのが現実です。この辺の現状や問題点については後述します。

資料提供:オートデスク株式会社

次ページ:
BIMツールの現状

[[SplitPage]]

BIMツールの現状

現在日本では「BIMツール」と呼ばれる設計ツールは、GRAPHISOFTのARCHICADやAutodeskのRevitが多くのゼネコンや設計事務所で採用されています。ほかにもベントレーのMicroStation、福井コンピュータのGLOOBEなど、数多くのBIMツールが日本国内で販売されています。日本国内のゼネコンや大手設計事務所、住宅メーカーなどではすでに多くの企業にBIM導入はなされていて、その運用が実務レベルでようやく開始されてきたというのが現状でしょう。これから中小の設計事務所や工務店などに急速に普及していくと思われます。特にAutodeskでは、同社のBIMツールであるRevitと3DCGアニメーションソフトウェアである3ds Maxとのデータ連携には長い年月をかけて開発を続けているので、3DCGとBIMとの連携機能は強力な親和性をもっています。これはほかの3DCGソフトにはない強みです。

Revit作業UI

【上画像】のデータを3ds Maxへ読み込んだ例

BIMデータ活用の最新事情

Unity TechnologiesではRevitとUnityとのデータ連係を構築させる「Unity Reflect」と呼ばれるワークフローを先日発表しました。

このワークフローではローカルマシンまたはネットワークサーバでホストされるデータに対してフェデレーションプロセス(※1)を通じて様々なサービスを提供するものです。1つの設計プロジェクトで異なる要素に関わっている複数の設計者やエンジニアからのBIMまたはCADデータをとりまとめることが可能になり、さらには各要素が包括するメタデータを保持するなどして、リアルタイム3Dコンテンツ用にデータを自動的に最適化できるそうです。まさに今現在BIMデータをVRやARに展開しようとしている各開発会社が頭を悩ませている問題を解決できるかもしれません。

※1:フェデレーションとはユーザー認証のことを指します

画像提供: Unity Technologies Japan

画像提供: Unity Technologies Japan

さらには、Unity Reflectは広告品質レベルのレンダリングもサポートしているようですので 図・下のような、ビジュアルにも展開できるそうです。対応製品もRevit以外にも順次対応していくとのことなので、かなり期待できるソリューションではないかと思います。

画像提供: Unity Technologies Japan

Epic Gamesは、2019年にTwinmotionを傘下に収め、Unreal Engineも含めて主要BIMソフトウェアはもちろんのこと、各種3DCGソフトウェアとの連携にも力を注いでいます。特にTwinmotionはARCHICAD、Revit、SketchUpRIKCADなどから直接データを取り込むことができるため、今まで膨大な工数がかかっていたリアルタイ ムコンテンツ制作を劇的に簡素化させています。



BIMデータの修正と設計データの問題

完成したBIMデータというのは、建築物の外観だけではなく内部配線や配管、構造体などとてつもない物量のデータをもつことになります。一戸建ての住宅を設計すれば、施工時に使用する全ての部材がデータに格納されているわけです。つまり、設計が済んだデータをそのままCGツールに持ち込むのではなく、事前にBIMツール側でビジュアライズに必要な部材だけを選別/抽出する必要があります。3DCGソフト側でもデータの選別はできますが現実的な作業ではないですし、そもそもデータが重すぎて開けない可能性があります。

CGソフトウェア側でデータの間引き作業などを行うのではなく設計ツールでの作業が求められるので、ある程度のBIM操作スキルは今後必要になるかもしれません。クライアントに「データの整理をお願いします」とはなかなか要求しにくいですしね。BIMツール内であれば 各要素がもつメタデータを元に選別/非表示する作業は数回のクリックで終わってしまいます。

Revit内の「表示/グラフィックス機能」

また、設計者の目的は建築物を実現させるための設計図書を作成することです。ビジュアライズ用のデータの作成はしません。語弊を承知で「ビジュアライズ用にデータ作ってないから......」という方がほとんどでしょう。ビ ジュアル制作部門や制作会社さんなどではBIMデータを預かっても、結局モデリングをイチからやり直すケースもよく耳にします。

例えば、下図はRevitで作成した何の変哲もない壁のデータですが、これらを3ds Maxに読み込むと、壁の構造がおかしいことに気づきます。

Revitを使った単純な壁のモデル

Revitではドローイング感覚で壁面を作図しますが、結果はこの通りになります。これではUVの食い違いやレンダリング時に予期しないエッジが現れたりします

ですが、こうした問題もRevitで簡単に修正することができます。3DCGソフトでこの構造を綺麗に修正するには作り直した方が早いですね。Revit内で壁面の接合部分を選択して、接合方法を[留め継ぎ]に変更するだけです

この状態で3ds Maxへ取り込むと結果は図のような状態です。この状態であれば問題はありませんね

このようにちょっとした知識があるだけで、不具合の修正がより短時間に処理可能です。こういった問題は3ds Maxだけではなく、UnityやUnreal Engineといったゲームエンジンを使ったコンテンツ制作でも共通して起こる問題です

もうひとつ大きな問題もあります。「ノード名」です。BIMやCADツールの場合は普通に各要素の名前(ノード名)に日本語やプログラミングで不都合な特殊記号が使われます。例えば先ほどのシンプルな壁のデータですが、3ds Maxへ持ち込むと壁のノード名は下図のようになっています。

Basic Wall 標準-150mm[275463] といった具合です。このノード名の例は まだ良い方ですが「¥」といった特赦記号が使われている場合もよくあります

メタデータとしてリンクされているテクスチャの命名も「Woods & Plastics.Finish Carpentry.Wood.Teak.png」というようなCG作業では絶対に使わない記述がされているケースも多く見受けられます

設計業界では支障のないノード名もCGツールや特にゲームエンジンを使う場合には致命傷になります。1~2点であれば手作業で直してもいいのですが、数千から数万といったノード数になると、とても手作業では修正できません。こういったケースを修正するためのツールもサードパーティで存在しています。私どもで開発した「Spreadsheet Editor」という3ds Max用プラグインツールです。大量のノードプロパティを一括修正することはもちろんのことデータの不具合を事前に見つけ出す機能も豊富にそろえています。様々な処理ツールが実装されているので、BIM/CADから取り込んだ膨大なデータの処理に威力を発揮します。ご興味あればボーンデジタルさんにお問い合わせください。

3ds Maxプラグイン「Spreadsheet Editor」
問:ボーンデジタル ソフトウェア事業部
www.borndigital.co.jp/contact

いかがでしたか? 建築ビジュアル制作の実例などをいろいろと紹介しました。業界特有の画面構成や画調の仕上げ方も多くあり今回の誌面では全てを紹介できませんでしたが、機会があればまた紹介できればと思います。B2C用コンテンツ制作はもちろん、B2B用コンテンツのニーズも高くなってきています。Unreal EngineやUnityを使ったビジュアル制作やVR/ARのニーズも高く、今大きな変革が起きています。全世界的に様々なソフトウェアベンダーやハードウェアデバイスメーカーも積極的にこの分野へ投資していますので、今後がますます楽しみですね。



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.257(2020年1月号)
    第1特集:アニメーションNEXT LEVEL
    第2特集:拡張する建築ビジュアライゼーション
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2020年12月10日