>   >  「日本列島の絶景」が誕生する過程をHoudiniでフォトリアルに描く、NHKスペシャル『列島誕生 ジオ・ジャパン2』
「日本列島の絶景」が誕生する過程をHoudiniでフォトリアルに描く、NHKスペシャル『列島誕生 ジオ・ジャパン2』

「日本列島の絶景」が誕生する過程をHoudiniでフォトリアルに描く、NHKスペシャル『列島誕生 ジオ・ジャパン2』

<2>Houdiniでプロシージャルに景色をつくる

フル3DCGで制作した景色をリアルかつリッチに魅せる

実写のような空気感と奥行感が印象的な本作では、雲のタイムラプス表現を用いて俯瞰から見た雲の動きをHoudiniで再現した。タイムラプス自体は時間の経過を表現するための演出だが、地形が変化する様子を邪魔しないよう雲のレイアウトや形状に気を配りつつ、時代の変化や地形の高低差を際立たせ、地面に落ちる影や遠景の霞といった空気遠近の表現にも力を注いだ。雲を自然に配置するには、小さな雲の塊をキャッシュにしてHoudini上でインスタンス化し配置する必要があり、各雲の塊にストレッチをかけるなど手作業による繊細な調整が加えられている。さらにNUKEを複合的に使用して、ディープコンポジットやフィジカルなぼかし、ポイントレンダーを使うなど、「説明CGだが実写のように美しくリアル」な映像になるよう見映えにこだわった。「実写素材では視点が動かせませんが、Houdini上で地面に影を落とすことができるのでリッチかつ立体的に空間表現ができます。また、プリビズで制作した地形のアニメーションデータがそのままフィニッシュまで使用できるのは、Houdiniベースの制作ならではの利点で可能性が広がります」とコンポジットチーフの戸梶雅章氏は語る。

また、これまで本編集の段階でカラーグレーディングを行なっていたが、本作の制作チームが担当したフル3DCGショットに関しては、チーム内でDaVinci Resolveを使用してカラーグレーディングを行なってから本編集に持ち込むことに。同社において4Kサイズの納品はHDRが基準であるため、HDRに配慮しながらコンポジット作業を行い、グレーディング作業でSDR版とHDR版をそれぞれ制作。DPXで出力して本編集に持ち込むというフローを作成した。コンポジットチーフを務めた戸梶雅章氏は、「SDRで観ることを前提にベストな鑑賞環境に引き上げつつ、HDRでさらにリッチで見映えのする画をアウトプットして、見応えのある美しい映像になるよう調整しています」と話す。統一感のある美しい映像を短時間で仕上げることが可能となり、フィニッシュワークにおいて効率的にクオリティを上げる新たな制作フローとして、同社3DCG制作チームの今後に大きく影響していきそうだ。

また、工数出しに関しても担当を複数人に分けづらい側面があったが、シーンごとに担当を割りふることで解決した。CGチーフを務め、工数の割り出しに携わった北川茂臣氏は、「ベースの地形データからシルエットを起こして加工していく部分などではHoudiniの利点を実感しましたが、カット担当者の間で行うデータのやり取りやマージ作業には苦労しました」と当初をふり返る。

地形制作におけるワークフロー

作業中のUI画面。ネットワークの上流で地形の作成、中流でシェーディング用のMapの生成、下流でアニメーションを行なっている

200万年前の日本の地形画像。カメラに映る部分を切り抜いて使用

左から、Houdiniによるプロシージャルな地形、実際の地形データから起こした形状、カルデラの形状

シェーディングで使用するため、地形データからいくつかテクスチャを出力

時間の経過を演出する雲のタイムラプス

雲の発生、成長、消失をくり返すシミュレーションを50パターンほど用意。偏西風を意識して画面左から右に流れるパーティクルシミュレーションを行い、パーティクルをインスタンス化する。雲をCGでレンダリングしたことで、環境との相互作用や地面に影を落とすといった物理現象をリアルに再現することができたという



  • 〈赤〉高さ方向に幅をもつ雲、〈緑〉厚さの薄い雲、〈青〉筋状の雲



  • 雲をインスタンスで配置した

完成画

海水の浸食による地形変化をHoudiniで再現

HeightFieldを使い、瀬戸と灘ができた大地に海水が入っていく様子を再現



  • プリビズシーンを引き継ぎそのままカット作業に移行



  • シーンビューとノードネットワーク



  • 山脈地形をリアルに再現するため、現在の日本の地形データをHeightFieldで読み込みベースとなる地形を作成。1次メッシュの区画番号で地形データを読み込むノードを作成した



  • ノイズを使い川と池に使うマスクを作成。このカットで計16のマップを出力した



  • 海水のアニメーション。Lineでベースアニメーションを作成。HeightFieldを活用してメッシュ化し、Ocean Spectrumで小さな波を加えた。HeightFieldからポリゴンに変換する負荷が高かったため、Height情報を参照してGridをデフォーム



  • 完成画

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<3>Houdiniでフォトリアルな背景を制作する

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