<3>Houdiniでフォトリアルな背景を制作する
リアルで美しい背景を実現するために全力を尽くす
本作では、水辺に転がる石や地面に生い茂る木々、草むらなどのプロップアセットにおいてもリアルで美しい表現がちりばめられている。従来の制作手法では実写映像に3DCGを合成するケースが多かったが、Houdiniによるフル3DCGの背景制作に挑戦するにあたり、近景用テクスチャ集からデフォルトシェーダを作成する「RDTImporter」、SpeedTreeで作成した木々をインポートする「SpeedTree Importer」といったツールを開発。また、Barehandの一瀬 隼氏と行本晧一氏らから背景に関するアドバイスをもらったり、SAFEHOUSEの鈴木卓矢氏による背景モデリング講座を受講したりと、背景制作に対して惜しみなく力を注いだ。背景制作を担当した金子良明氏は「動物キャラクターのデータはプリビズデータを引き継いでAlembicデータで受け取り、背景と一緒に仕上げる作業でしたが、植物系のアセットはHtoA(Houdini To Arnold)で大規模にレンダリングするのは向いておらず、メモリ管理やレンダリング時間の面でまだ課題があるようでした。3ds MaxのV-Rayレンダリング等と比べると特に100万数のインスタンスデータなどは重いですね」とコメント。また、ライティング・キャラクターアセットチーフを務めた渡部辰宏氏は、「MayaベースからHoudiniベースに移行して慣れない部分もありましたが、Alembicの取り扱いに関してはMayaよりHoudiniの方が扱いやすかったです」とふり返り、Houdiniベースならではの効率的な制作フローの今後に期待しつつ、Houdiniの可能性に夢が広がると言葉を添えた。コンポジットに関しては、フル3DCGシーンの素材を地形と植物、川、動物で分けてそれぞれAOVに分解。さらに、物理演算してくれるノードを用いて「物理的に正しい画」を起点にコンポジット作業を行なったと、コンポジットを担当した大竹崇文氏は語る。
地形の変化をフォトリアルに表現することが主題となった本作の制作において、約70カットにおよぶCGカットをプリビズから一貫してHoudiniで完結させたメリットは大きかったようだ。
フルCGによるフォトリアルな背景制作
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木をスキャッターした結果
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草や石も木と同様に配置したい箇所のマスクを作成。サイズ感の大きい物をベースに徐々に小さい物のスキャッターポイントをばら撒いた。ベースとなるポイントからポイントをスキャッターできるため、基本的な密度や配置はベースとなるノードを調整すればよい。密度感は小さくなるにつれて徐々に高くなるように設定した
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草のスキャッターポイント。「large〉medium〉short〉sporout」の順に密度が高くなる
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草と石のスキャッター結果。配置の確認にはCopy to Pointsノードを使用しているが、最終的なレンダリング時にはアセットを一度Assにしてインスタンスノードを使用して配置
コンポジット
素材は地形と植物、川、動物で分けてそれぞれAOVに分解。物理演算するノードを用いて「物理的に正しい画」を起点にコンポジットした
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Houdiniでエクスポートしたカメラデータを入力することで、レンズの焦点距離と実際の被写体までの距離を考慮して被写界深度を正確に表現
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空気感を演出するために使用した素材。煙素材とSpotFlareで空気感のある木漏れ日を表現。さらにフレアやダストを追加した
完成画