直感を止めない究極のマシン構成──ZBrushアーティスト岡田恵太氏が選んだ、AMD Ryzen Threadripper PRO 7995WX搭載マシンの真価

ZBrushを駆使した精緻な造形表現で知られるデジタルアーティスト・岡田恵太氏が、新たに導入したのは、AMD Ryzen™ Threadripper™ PRO 7995WXを中核に据えたハイエンドBTOマシン。GPUは、NVIDIA® GeForce RTX™ 5090、メモリは384GBという“究極”とも言える構成のマシンを選択した。
国内外の大型ゲームプロジェクトなどで多数のクリーチャーデザインを手がけてきた氏は、今年6月に制作環境を刷新。2015年からフリーランスとなり、25歳でVillardを立ち上げるなど、10年以上にわたり独自の世界観でハイエンドな作品づくりを追求してきた岡田氏がこだわるのは、一切の妥協を排した機材選び。自身の世界観を最大限に具現化するための「環境への投資」を貫くその哲学と、最新マシン導入による現場での実感を、本人の言葉で紐解く。
究極のマシン構成を選択した理由。最大96コアのAMD Ryzen Threadripper PRO 7995WX搭載、メモリは384GB
──まずは自己紹介をお願いします。
岡田恵太氏(以下、岡田):デジタルスカルプター、3Dコンセプトアーティストの岡田恵太と申します。ZBrushをメインツールとして制作を続けています。直近では約1年間、海外に滞在していましたが、最近日本に戻り、本格的に腰を据えて制作に取り組んでいます。これまで手がけてきた案件の多くはゲーム関連で、国内外の大型プロジェクトを並行して進めたりしています。

デジタルスカルプター、3Dコンセプトアーティスト。株式会社Villard代表取締役。
『モンスターハンター』シリーズのフィギュア原型や、『バイオハザード:インフィニット ダークネス』『ELDEN RING』など、映像・ゲーム・CMの分野で数多くのクリーチャー造形、コンセプトアートを手がける。
www.villard.co.jp
www.artstation.com/yuzuki
──今回のマシンの構成を教えてください。
<岡田氏が導入したAMD Ryzen Threadripper PRO 7995WX搭載マシンのスペック詳細>
- CPU
AMD Ryzen™ Threadripper™ PRO 7995WX
- メモリ
384GB(96GB × 4枚)DDR5-5600 ECC Registered(メジャーチップ採用)
- GPU
NVIDIA® GeForce RTX™ 5090
- ケースファン
フロント:Noctua製 12cm 冷却ファン × 3(NF-P12 REDUX-1300PWM/静音FAN)
岡田:CPUは最大96コアのAMD Ryzen Threadripper PRO 7995WX、メモリは384GBと、以前の256GB構成から大きく強化しました。実際にメモリは、100GB以上を常時使用する場面も多く、安心感がまったく違います。頻繁にPCを乗り換えるのは負担になるので、今回は一気に理想の構成まで組み上げました。
──凄まじい構成ですね。なぜそこまで高性能な構成にこだわったのでしょうか?
岡田:昔から「レンダリングやディスプレイスメントマップなど、各種ベイクの待ち時間は極力減らしたい」と考えています。思考やデザインに時間をかけるのは当然としても、ツール側の処理で止まるのは時間の浪費だと考えていて。その“待ち時間”を削ることで、トライ&エラーの回数を増やして、クオリティを上げる事にも役立つと考えています。
トポロジ整形、UV展開のスピードが劇的に向上。仕事道具も世界観の一部
──AMD Ryzen Threadripperを再び選んだ理由は?
岡田:以前のマシンでもAMD Ryzen Threadripper を使っていたのですが、まったく不満がなかったんです。今回はさらに上位のスペックが選べたので、迷わず導入しました。特にZBrushやKeyShot、ArnoldなどCPU依存の作業が多いので、妥協はしたくなかったですね。
──導入後、実際の作業でどのような変化がありましたか?
岡田:ZBrushでキャラクターを制作しながら、KeyShotやArnoldでのレンダリングも検証しました。Photoshopでラフを描き、ZBrushで造形、Mayaで確認、KeyShotやArnoldでのレンダリング、最後はLightroomで調整……というのが基本的な流れですね。テクスチャはSubstance Painterを使用して制作しています。





完成画像の高解像度版はこちら
岡田:ZBrushでの造形においても、ZRemesherによるトポロジ整形やUV展開のスピードは劇的に向上し、これまで以上に多くの試行を重ねられるようになりました。その結果、作品クオリティの底上げにもつながっています。Marmosetなどのベイク用モデルの出力なども以前より格段にテンポよく進められるようになりましたし、制作全体の流れが本当にスムーズになったと感じています。

さらに、Photoshopのブラシ作業の快適さにも充分満足しています。Photoshopでは直感的に手を動かしながら描くシーンが多いので、動作の滑らかさがダイレクトに制作体験に影響してくるんですよ。そうした意味でも、このマシンの性能は大きなアドバンテージになっています。
ZBrushも同様で、「直感的に気持ちよく作業できるかどうか」という点が、クリエイティブの質を左右する重要な要素だと思います。自分にとってはもちろんですが、それは他のクリエイターにとっても同じで、ツールの快適さが作品そのものにまで影響を与えると感じています。
趣味で写真も撮っていて、Leicaの6,000万画素モデルや、Hasselbladの1億画素モデルを使っています。そうした超高解像度データも、今のマシンならまったくストレスなく処理できます。街中を散歩しながら写真をよく撮るんですが、それが資料やインスピレーションになることもよくありますね。


──カメラも非常に高性能なものですね! ものを選ぶ基準に何か一貫したものを感じます。
岡田:たしかに、普段から自分の世界観には拘っています。今回のマシン購入もそうですが、妥協せずに自分の価値基準に沿った理想の環境を整えることはすごく大事にしています。たとえば、Wacomのタブレットを常に愛用してきていて、今現在はWacom Cintiq Proの27インチを使用しています。そういった自分のこだわりが反映されたものや、刺激を受けるもの、機能的に自分を助けてくれるもの....色んな観点があると思いますが、環境が自分をつくり、その自分が作品をつくるのでかなり意識している部分ではあります。


冷却と静音にもこだわる。徹底した事前検証でトラブルを防ぐ
──徹底した環境や、ツールへのこだわりを選択するには、それぞれのモノに対する広い知識と、深い理解が必要だと思います。今回の究極とも言える構成はどのように決定されたのでしょうか?
岡田:僕はテクニカル寄りの知識が豊富にあるわけではないので、TSUKUMOさんに相談して、3パターンの構成案を提案してもらいました。その中から、自分の制作スタイルに最もフィットするものを選んでいます。
TSUKUMO 岡嶋氏(以下、岡嶋):今回は、冷却効率と静音性を両立することを最重要ポイントとしつつ、プロユースに耐える安定性とメンテナンス性にも配慮した構成を提案しました。今回の構成の他に、AMD Ryzen プロセッサの構成も提案しています。今回の構成では、冷却には高効率な水冷クーラーを採用しており、ラジエーターはRyzen Threaderipper専用モデルをベースに、ファンを高静圧で定評のあるNoctua製に変更したオリジナル仕様となっています。さらに、フロントの3連吸気ファンも同じくNoctua製の静音タイプにカスタマイズしています。これにより、回転数を抑えながらも十分な風量を確保し、ハイエンドCPUやGPUの熱をしっかり逃がしつつ、高い静音性を実現しています。

PCケースは、もともとゲーミングPC向けに採用されているモデルを使用していますが、開発当初からワークステーション用途での利用も想定していたため、高い冷却性や拡張性を備えています。さらに、輸送時のリスクを抑えるサイズ感も意識しており、プロ現場での可搬性や扱いやすさにも配慮しています。
岡田:正直、これだけのスペックで、ケースサイズがここまでコンパクトに抑えられているのには驚きました。大切な機材は自分の手で慎重に運びたいという気持ちがあるので、自分でPCを移動することもあります。だからこそ、こうしたサイズ感や重さの配慮は、本当にありがたいです。
──設計・構成の検討から導入まで、どのような流れだったのでしょうか?
岡嶋:ご相談をいただいたあと、ヒアリングを通じて必要なスペックと優先順位を明確にし、今回はCPU違いで3案ご提案させていただきました。構成についてはトラブルが起きないよう、事前に徹底した検証を実施しています。もちろん、納品後のサポートも対応しますが、そもそも問題が発生しないように作ることを大切にしています。
岡田:実際、機材の交換の際に、トラブルが起きると本当に致命的なんです。パーツ交換も面倒だし、作業が止まってしまう影響は大きい。だから、最初の提案段階から痒いところにも手がいき届いた構成になっていたことと、入念に事前検証されていることには本当に安心感がありました。
──最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

岡田:自分のようにZBrushやKeyShot、Arnoldなどを使う制作スタイルであれば、CPUこそが最も重要な構成要素だと思います。もちろん予算とのバランスは必要ですが、少し先を見据えた投資によって、日々の制作ストレスは確実に減ります。今回のPCは、まさに自分の世界観を支える道具としての理想形。道具も世界観の一部と考える自分にとって、非常に満足度の高い投資となりました。
INTERVIEW&EDIT_中川裕介(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充