
LightWave 3Dを駆使し、作画と見紛うような巧みなアニメーションを生み出す、森田修平監督率いるプロフェッショナル集団・YAMATOWORKS。3DCGを武器にアニメ業界で確固たる地位を築き上げた同社について、これまで手がけた多彩なキャラクターアニメーション作品と共にふり返る。
手描きの作画マインドをもつ3DCGアニメ会社
――まずはYAMATOWORKS設立の経緯について教えてください。
森田修平氏(以下、森田):制作チームとして結成したのは『カクレンボ』(2005)のときだったり、法人化したのは2012年だったりしますが、作品としては『FREEDOM』(2006~2008)の存在が大きいですね。キャラクターアニメをつくる上で3DCGが武器になると実感を覚えた作品でした。CGを使えば従来の作画では難しいような演出も可能になるし、それによって手がけられる作品の幅も広がる。会社としても監督としても非常に大きな作品でした。
当時をふり返ると、ベテランの作画アニメーターの方ほど3DCGを面白がってくれた覚えがあります。僕らがLightWave 3Dを使う理由も、このソフトは使い勝手が手描きの感覚に近くて、作画マインドを3Dに採り入れやすかったからなんです。

代表・監督
――公式サイトの自社紹介のなかに書かれた「手作りマインド」という文言が印象的でした。この言葉の背景を教えてください。
森田:僕たちは個人の表現力を一番大事にしています。作画アニメであれば「誰々さんの担当カット」と、個人の仕事が光って注目されるように、CGアニメでも個性が見えるかたちを追求していきたいんです。坂本を筆頭に、画を見れば誰の担当カットだと判別がつくクリエイターが実際に多く育っています。
坂本隆輔氏(以下、坂本):「手作りマインド」というのは、ものづくりに対する姿勢だと思います。手描きには1本1本線を引いてつくる美学があり、僕らはCGですが同じように動くものに対して1枚1枚思いを込めてつくっているつもりです。ツールは違えども追求し表現するものについては同じような芸術性を帯びるのではないかと思います。

取締役・アニメーションディレクター
YAMATOWORKSの「原点」とは?
――ここからはキーポイントになった作品を挙げつつ、YAMATOWORKSの歴史をふり返っていきたいと思います。
森田:まずは『カクレンボ』。僕は3DCGを使って個人で作品をつくった最初期の世代にあたります。ちょうど新海 誠さんが『ほしのこえ』で注目を集めた直後で、コミックス・ウェーブ・フィルム(当時はコミックス・ウェーブ)さんからチャンスをいただいてつくった作品です。もともと映画好きで監督を目指していた僕にとって、個人レベルで作品をつくれる時代が到来したことはとても幸運でした。親からはアニメ業界に進むことは反対されていたので、3年で結果を出す必要があり、必死になってつくりました。現在からすると解像度は低いですが、今の自分からしても感心できるほどのパワーがある作品だと思います。当時から20年30年と残る作品をつくりたかったので、それは実行できたと思います。
原案・脚本・監督・絵コンテ・演出・CGIアニメーション・編集:森田修平。狐の面をつけた子供たちが鬼と呼ばれる異形の者達と行う遊び「カクレンボ」を3DCGで描いたホラータッチのOVA作品(25分)。東京国際アニメフェア2005優秀作品賞、ファンタジア映画祭ショート映画部門金賞(カナダ)を受賞

――続いては、セルルックCGアニメを切り開いた作品『FREEDOM』についてお聞かせください。
森田:当時(20年前)セルルックはPVやゲームなど短い尺ではありましたが、長編作品としては先駆けで、本当に大きな挑戦でした。

監督:森田修平、キャラクター・メカニックデザイン:大友克洋。日清食品カップヌードルのCMを皮切りに展開したSFプロジェクト。人類が月に移り住んだ23世紀、自由を奪われた世界で少年がある秘密を見つける。2006年から2008年にかけて全7巻のOVAシリーズがリリースされた。日本映画テレビ技術協会・技術奨励賞受賞

アニメーション制作 : サンライズ
――スタッフィングはどのように?
森田:高山清彦プロデューサー(現・武右ェ門 代表)にお願いをして、森江康太くん(現・MORIE 代表)、松井祐亮くん(現・カラー ディレクター)、永田 奏くん(演出家)など、20歳前後の若手クリエイターを集めてもらいました。その中のひとりが坂本だったわけです。
坂本:僕は専門学校を卒業後、1年間学校でアシスタントをした後このプロジェクトに参加したのですが、当時はまだアニメ業界においてCGって何ができるの? といった時代だったので、先駆けてCGでキャラクターを表現する、見たことないものをつくるといったプロジェクトに胸が高鳴りました。
森田:全てが新しいチャレンジでした。表現についても連載マンガのように、巻を経るごとに皆がどんどん上達していく面白さがあったんです。この作品では特に表情芝居にこだわっていたんですが、表現としての正解もなければ、やり方もわからない。そんな中、みんなが試行錯誤しながら誰かが面白いことをやり始めると、そこに触発されて別の人が新しい表現を生み出す。このときが一番“手作り感”があったと思います。
ベテランの演出家や、作画監督のアニメーターの方たちも僕ら若手のCGアニメーターの仕事を面白がってくれて、演出家の片山一良さんや、まついひとゆきさん、松尾 衡さん、安藤裕章さんや作画監督の新井浩一さん、入江 篤さん、堀内博之さん、牧 孝雄さんにはとても助けられました。
――2010年にはオリジナル企画のOVA『コイ☆セント』を制作されました。
森田:『FREEDOM』を経て、アニメーターとして力をつけた人たちだけでつくった作品です。『FREEDOM』はリアル寄りなのですが、『コイ☆セント』は、どちらかというとコメディチックで、それを僕らがつくり出せるのか、チャレンジした企画でした。良い意味で変なキャラクターたちで、CGで変顔させるとか難しいことをやっているのですが、今見ても表情などのクオリティが高いんですよね。作画と区別がつかない。この作品を先輩監督の中村健治さんが観てくれて気に入ってくれて、この後の『ガッチャマン クラウズ』で声をかけてくれました。

監督:森田修平。「平城遷都1300年記念作品」として制作された約700年後を舞台にしたSFラブコメ作品。当時は2Dルックの3DCGアニメがまだ珍しく、注目を集めた

アニメーション制作 : サンライズ
――次はオムニバス作品『SHORT PEACE』で、森田さんは『九十九』の監督・脚本、『武器よさらば』では演出を、坂本さんが『九十九』でCGI監督、『GAMBO』でCGアニメーションチーフを務められています。
森田:この作品で『FREEDOM』から続いたスタジオが解散になったという意味でも集大成的な思いがあります。特に『九十九』はアカデミー賞にノミネートされたことも含めて、いったん僕らの原点の時代がここだよな、と。
坂本:貴重な経験でしたね。『SHORT PEACE』は、いわゆる大衆向けの作品というよりはニッチで作品の表現も芸術的、文学的なアプローチがあったかと思います。当時はセルルックだけではないCGアニメの表現をいち早くチャレンジしているプロジェクトが『SHORT PEACE』だったかなと思います。
2013年に公開された短編4話からなるオムニバスCGアニメの1編。監督・脚本:森田修平、CGI監督:坂本隆輔。「ものに魂が宿る」をテーマに日本の妖怪をCGで描いた。2014年米国アカデミー賞ノミネート。「荻窪時代の集大成の作品です」(森田氏)

アニメーション制作 : サンライズ
セルアニメ調のCGなら、どんなジャンルでもお任せ
森田:『FREEDOM』スタジオが解散した後で僕らは法人化し、3人でスタートしました。この頃は『ガッチャマン クラウズ』(タツノコプロ)や『牙狼〈GARO〉-炎の刻印-』(MAPPA)など、チーム全体でパソコンを持って出向したり、僕だけ『東京喰種トーキョーグール』(ぴえろ)の監督として出向したりしていました。そんな頃、ちょうど神風動画さんから『ニンジャバットマン』のお話があり、僕らがアニメーションディレクターをはじめとしたメインスタッフを担当させていただきました。
坂本:長尺の劇場作品は僕らとしても初めての経験でしたが、神風動画さんにもご理解いただいて現場づくりから当社のつくり方で進めさせていただき、伸び伸びと様々な挑戦ができた作品だったと思います。
神風動画とYAMATOWORKSのコラボでつくられた長編映画。アメコミヒーローのバットマンが日本の戦国時代にタイムスリップし、さまざまなヴィランと戦う。坂本氏は最終バトルを担当したほか、アニメーションディレクター、CGモデラーなど活躍。森田氏はパート監督・絵コンテを担当したほか、YAMATOWORKSのスタッフが多くのポジションで中心的に作品を支えた

アニメーション制作:神風動画/YAMATOWORKS
――その後、キャラクターアニメの仕事を優先して受ける時代に突入します。
坂本:この頃はロボット、コメディ、スーツアクトなど様々な作品に携わったので、どんなジャンルでも対応する自信がありました。
――その中で、2021年に公開されたRick and Morty 『The Great Yokai Battle of Akihabara』(『リック・アンド・モーティ』秋葉原大決戦)とはどんな作品でしょうか?
森田:『リック・アンド・モーティ』というアメリカの有名なコメディアニメシリーズのスピンオフ作品です。SOLA DIGITAL ARTSさんからオファーをいただきました。本作がYAMATOWORKSとして特徴的なのは、若手のみでつくったことです。このお話がある前から作品のファンがスタッフの中にいて、「ぜひやってみたいです」と手を挙げた人をはじめ、当時の1〜2年目のスタッフたちだけでつくっています。坂本もタッチしない中で、彼らだけでなんとかしようと工夫したり切磋琢磨したりして、良い作品に仕上がりました。
演出・CGI監督:安部保仁。アメリカの人気コメディシリーズ『Rick and Morty』の日本を舞台にした番外編。現代の秋葉原やパロディネタもあり、勢いのある作品。いわゆるカートゥン的なルックだが、迫力あるレイアウトや細かな日常芝居も観ることができる。本編はシーズン8までNetflixで配信中

アニメーション制作:SOLA DIGITAL ARTS Inc.
――その後は、出向して作業するスタイルとしては最後の作品となる『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』ですね。
森田:『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』は、安彦(良和)さんが「ガンダムはヒーローなんだ」とおっしゃったときに「ウチに向いてます」と手を挙げました。僕もCGI演出で入っています。
坂本:ガンダムという作品は本当に数えきれないたくさんの方々がつないできた歴史あるコンテンツなので、表現として間違った方向にいってはならないという思いもありながらも、安彦さんのガンダムをやるんだ! といったビジョンとモチベーションをもちながら、チーム一丸となって作品に挑めたかと思います。
2022年に公開された劇場作品。ガンダムシリーズ第1作目である『機動戦士ガンダム』の1編を現在の技術でリメイクした作品。監督:安彦良和の下、森田氏が3D演出を担当。このほかモデラー、ルックデブなど、YAMATOWORKS総出で挑んだ。「安彦さんの表現を目指してMSたちをダイナミックに演技させました」(森田氏)

アニメーション制作:サンライズ
企画・制作:バンダイナムコフィルムワークス
――昨年には、実質的なオリジナル中編作品、モンストアニメ『マサムネ - 使命の赤き刃 -』を発表されました。
森田:『FREEDOM』のプロデューサーだった髙山さんとは『SHORT PEACE』以後、意外とお仕事でご一緒することはなかったのですが、YAMATOWORKSと武右ェ門で、会社として協力して40分の作品をつくることができました。そして現在は『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』と、『片田舎のおっさん、剣聖になる』がTV放送中です。案件によってはBlenderを使うこともあります。
2024年にYouTubeで公開された中編作品。ゲーム『モンスターストライク』の超・獣神祭の限定キャラクター・マサムネを主人公としたオリジナルストーリー。YAMATOWORKSがアニメーション制作を担当した。「キャラクターの特徴やカッコよさを最大限に表現するのがYAMATOWORKSの強み。われわれにもってこいの作品です」(森田)

アニメーション制作:YAMATOWORKS

YAMATOWORKSとサブリメイションが共同開発しているLighWave用プラグイン集。アニメーション制作に役立つ7つのプラグインからなり、ディストーム公式サイトから無料でダウンロードできる。現在、Blenderに対応したバージョンも開発中とのこと
©佐賀崎しげる・鍋島テツヒロ/SQUARE ENIX・「片田舎のおっさん、剣聖になる」製作委員会
ディレクタークラスが新人をマンツーマンで直接指導
――新卒採用においては、アニメーター、モデラー、ルックデヴ、制作進行職を募集されているそうですね。
森田:僕が監督を務める新作オリジナルTVシリーズに向けたスタッフを募集しています。
坂本:LightWave 3Dのスキルについては現場に入ってから、半月~1ヶ月ほどディレクター陣が研修を担当して、そこで覚えてもらうかたちになります。前もって勉強したりソフトを購入する必要はありません。
――YAMATOWORKSではどのような人物を求めていますか?
坂本:CGの技術はあるに越したことはありませんが、それよりも根本的な画づくりや芝居、造形などのセンスを採用基準として重視します。アニメーターであれば、自分自身が恥ずかしがらずに演技ができて、それを実践できる人がありがたいですね。
森田:モデラーは造形力のある方を求めています。これもCGソフトの経験の有無を問いません。現在5年目で活躍しているモデラーも、新卒のときは未経験でした。入社前には粘土や彫刻、人形師をしていたスタッフもいます。
ルックデヴについては、YAMATOWORKSの場合は他のフル3DCG作品のルックデヴと少し違っていて、「作品ごとにキャラに合った画づくりをする人」と理解していただければと思います。作画アニメで例えると、原画時の影付けと仕上げをするようなイメージですね。3Dを学校で学ぶ中で、クリエイターというよりは、全体のながれをコントロールし、みんなで作品をつくることに興味がある方は、ぜひ制作進行にも応募してほしいです。

――先ほど、ディレクタークラスの方が研修で教えてくれるとありましたが、どのように?
坂本:基本的にマンツーマンで指導をして、そのスタッフを一人前にするつもりで時間とコストを費やして面倒を見ます。これは大きな会社ではおそらく不可能な、YAMATOWORKSならではの強みだと思います。アニメーションであれば、僕が寝っ転がったりしながら実際に演技するのを撮って見せるんです(笑)。僕ももともとは演じるのが苦手なタイプだったのですが、アニメ表現において最終的に人の心に残るアニメーションは演者(役者)の力なんだと20代のときに確信しまして、そこから演技の指導、追及はし続けています。
森田:原点でお話した『FREEDOM』を思い出すと、当時40代だった演出の方々や作監の方々が若手の可能性を尊重してくれていたこと、その姿に改めて尊敬の念を抱きます。彼らは自分の仕事をこなしつつ、さらに若手の可能性も伸ばしてくれていたんです。今僕たちが40代、次は僕たちが若手を伸ばす番ですね。
――パーソナリティ面でYAMATOWORKSにフィットするのはどんな人物像でしょうか?
森田:自分から提案してコミュニケーションをとれる人ですね。クリエイターとして一人前になると、様々な場所で仕事をすることになります。そのとき、主体性は特に大事です。YAMATOWORKSは主体性のある人には実際にチャンスを与えています。現在『片田舎のおっさん、剣聖になる』で3Dディレクターを担当している丸山貴大は入社後3年で手を挙げました。坂本はアニメーションディレクターとしてサポートに回っています。
――新しく入社する方にどのような役割を期待しますか?
森田:若い子には「失敗しても構わないから、どんどんチャレンジしてほしい」とよく言います。先行している先輩の背中を見て追いつこうと頑張っていけば、2年で見える景色が変わるんです。YAMATOWORKSには新人スタッフが目指す目標がすぐ見える環境にあります。坂本やアニメーションディレクターの吉野(功一)、ルックデヴの大原(伸一)の3人が中心となっていて、次に中堅の5~6名がその域にいこうとしています。新人の方はその背中を追い、追い抜くぐらいの姿勢が望ましいですね。
坂本:YAMATOWORKSでは、作品づくりにおいてトップダウンがほぼないことが特徴です。ベテラン勢でも中堅でも平等に意見を汲み上げるので、どんどん提案できる人物に来てほしいですね。会社としても、これまで以上に若手の提案を受け止められる体制を目指します。

森田:今のYAMATOWORKSは、それぞれ個性があるのが良いんです。北居(士龍)のように、独自にHoudiniで3Dエフェクトを極めようとする人がいたりして、視野がとても広がっています。中堅層が集合体となって、それがこれからの会社の個性になるはずです。そこに新人として加わり、YAMATOWORKSにもうひとつの個性を持ち込んでほしいと願っています。
――最後に、YAMATOWORKSの今後の展望についてお話ください。
森田:現在、他社と協業してオリジナルのTVシリーズを準備中です。そしてゆくゆくは人員の規模感は現在のまま個の力を高めてオリジナル企画の映画に挑戦したい思いがあります。
坂本:YAMATOWORKSは、森田監督の作品を世に出し続けられるスタジオであってほしいなと個人的に思います。会社としては一般的な知名度としてはまだまだこれからですので、「YAMATOWORKSがつくるなら観てみたい」とお客さんに思っていただけるようなスタジオにしていきたいと考えています。

求人情報

株式会社YAMATOWORKS
yamato-works.com
募集職種
・ルックデブアーティスト
・アニメーター
・モデラー
・制作進行
TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDIT_ 藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)