>   >  小学生がVTuberになって地元商店街を紹介~千葉大教育学部とグリーの連携授業にみる、教員養成の最前線
小学生がVTuberになって地元商店街を紹介~千葉大教育学部とグリーの連携授業にみる、教員養成の最前線

小学生がVTuberになって地元商店街を紹介~千葉大教育学部とグリーの連携授業にみる、教員養成の最前線

コロナ禍で実施された大学生と小学生の協業

それでは、完成した動画はどのようなものだったか。ここからは、2021年2月3日(水)に行われた発表会(発表会は教室で行われ、メディア側はオンラインで取材する形になった/写真類は先方提供)の模様をレポートしよう。授業が始まると、教室前方に設置されたモニタにVTuberの「ゆりたん」が登場した。ゆりたんはこれまでの授業のながれを説明し、動画の発表会を行うと発表。その後、完成した動画が再生された。

@yuritanyurinoki

小学生が千葉大学の学生と共に作成した #VTuber を使った「ゆりの木商店街PR動画」だよ!子どもたちに、ゆりの木商店街を元気にして欲しいとお願いして私の新しい愉快な仲間をたくさん作ってもらったんだ! https://youtu.be/4eaGFzH #商店街 #REALITY #PR動画

♬ オリジナル楽曲 - ゆりたん

「ゆりの木商店街」は、千葉大学と附属小学校の隣に位置する地域密着型の商店街だ。動画の中で、ゆりたんは商店街の店舗を訪問していく。商店の側にもVTuberが登場し、両者の掛け合いで紹介するというながれだ。中華料理屋、喫茶店、ブティックなど、店舗の特性に合ったキャラクターが登場。VTuberのデザインや動画内のセリフは児童が考え、動画は大学生が制作するという役割分担がなされた。

その後、完成した動画がYouTube、Twitter、TikTokに投稿された。動画の投稿時には学生と児童とでカウントダウンが行われ、投稿が終わると歓声が上がった(Twitterのアナリティクス画面を表示して、動画のアクセス状況がリアルタイムに確認できることなども示された)。なお、帰国学級という特性を活かし、動画は日本語だけではなく、英語や中国語など6カ国語対応が行われている。

全15回の演習では、前半で座学、後半で大学生と児童が協業しながら動画作成を進めた(授業はオンラインで進められた)。このとき、架け橋となったのがゆりたんだ。児童の様子をモニタ越しに見守りつつ、教員役の学生と掛け合いで授業を進行。公開授業でもゆりたんから「これをやってみよう」、「あれはどうかな?」など、児童に学びを促すシーンも見られた。教育番組などでお馴染みの、先生とキャラクターの関係が教室で再現されていたのだ。

▲公開授業の模様

▲ゆりたん(左)とモニタ上で顔出しをした保田菜々子さん(右)


VTuberを用いた授業の強みと課題

▲横山紗衣莉さん

これに対して学生リーダー役の横山紗衣莉さん(教育学部3年生)は、「附属小の児童は電車通学が多く、自分が通っている小学校の地域のことを知る機会があまりありません。そのため、動画制作を通して商店街のことを知るきっかけになり、良かったのではないでしょうか。対面で授業ができれば、もっと子供たちとコミュニケーションがとれて、動画のクオリティがアップしたかもしれません」と話した。

また、「実際に教員になったとき、VTuberで動画を作成する授業をやってみたいか」という質問に対して、横山さんは「子供の反応が非常に良かったです。みんなが笑顔で『ゆりたん、ゆりたん』と言ってくれて、キャラクターをつくるだけでちがうなと思いました」と答えた。もっとも、現状では教員が動画を制作する負荷が高いので、もっとツールが使いやすくなれば、教育現場で普及するのではないかと補足した。

実際、オンライン授業主体で本演習を進めるのは、並々ならぬ苦労があったようだ。学生を指導した飯島 淳氏(教育学部非常勤講師)は、「大学と附属小と商店街をオンライン会議システムなどを繋いで実習を進めたこともあり、その過程で様々なトラブルがありました。そうした中、学生が主体となってここまで到達したことは、大きな成果だと思います」とふり返った。

▲(左)飯島淳氏/(右)藤川大祐氏

最後に、2013年度から一貫して本授業の旗振り役を務めてきた藤川大祐氏(教育学部副学部長)は、「VTuberを使った授業づくりの3年目で、当初から3年で一区切りと考えていました。集大成とするべく、かなり大風呂敷を広げたので、学生は大変だったと思います。その中でも、今回は単にメディアの制作者・視聴者という関係ではなく、コンテンツを作る過程で様々な人がメディアに係わっていく構図をつくることがねらいでした。VTuberはバーチャルな存在だからこそ、人と人とを繋ぐ力があるのではないかと考えました」と今年度の意図ついて語った。

もっとも、「コロナ禍で遠隔授業中心で進めざるを得ず、コミュニケーションの点で限界もありました。集大成にしては、少し手が届かない部分もあったのが正直なところです。そうした状況にも関わらず、学生は皆がんばってくれたと思います。来年度以降の内容についてはまったくの白紙ですが、コロナ禍が続く一方で、GIGAスクール構想に伴い、1人1台の環境も進んでいます。何が社会で求められるのか、何が自分たちにとって面白いのかをゼロベースで考えていきたいですね」とまとめた。

2013年度から2017年度まで続けられた知育アプリ開発は、いわば「教員志望の学生にゲームデザイナー教育を行い、実践授業に繋げる」内容だったと言い換えられる。これに対して2018年度からの3年間は、「学生と児童が協業しながらキャラクターや動画をつくりながら、体験を創造していく」過程だったと言えるだろう。中でも2020年度は学校を飛び出し、地域社会を巻き込みながら演習を進めた点に驚かされた。

GIGAスクール構想と並行して進むのが「公立校でのプログラミング教育」だ。急速な社会変化と共に、教員と児童との情報格差が拡大することも懸念される。もっとも、教員のICT習得は手段であって目的ではない。そこで大切なことは何か。今回の演習は、それを学生ひとりひとりに問いかける良い機会になったと言える。こうした次世代の教員養成の取り組みが、全国に広がることを期待したい。





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