ゴジラエフェクト:超高密度な熱線を放出するスペシャルカット
本作のPVに登場する熱線を放出するゴジラのカットは、このためだけに制作した特別なカットだ。エフェクトがメインのカットということで、アニメーションからエフェクト作成までVFXチームが担当している。監督と山森氏が持っていた熱戦のイメージを基に、エフェクト制作を開始した。「イメージとしては気体と液体の中間くらいの物質というオーダーでした。それを受けて、超高密度の気体という感じでエフェクトをまとめていきました」と山本氏。
熱線自体のエフェクトにはFumeFXを使用し、熱線の芯となる部分の素材と周りのスモーク状の素材を作成。熱線の放出時に口から漏れ出る液体はPhoenix FDを使用している。また本カットでは、熱線のエフェクトだけでなく、その影響により舞い上がる紅塵や火の粉など様々な流体系のエフェクトがコンポジットされているが、これらのエフェクトもFumeFXで制作している。さらに、エフェクトのタイミングで揺れる電線などの動きもVFXチームが担当。3ds Maxのフレックスモディファイアに風のフォースをバインドさせて揺らしている。
熱線を吐く迫力満点のゴジラ
PV用の熱戦放出カットのブレイクダウン
▲FumeFXで作成した熱線素材
▲熱線素材作成時のFumeFXの作業画面
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▲ゴジラの背びれ光の処理済み素材。背びれの素材に対してAfter Effectsでグローをかけている
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▲火の粉の素材。FumeFXで作成したベロシティ情報を使ってStokeでパーティクルを生成し、そのパーティクルにfrostで複数作成した火の粉のジオメトリを割り当てている
2D背景+CGエフェクト:2D美術背景と一体化する3DCGの爆発エフェクト
本作のPVで登場するビル爆破のカットでは、美術が制作した2D背景素材に対して、3DCGで制作したエフェクトをコンポジットしている。本カットではビルの壁に沿って爆発の粉塵が舞い上がっているように見せるため、2D背景素材を基にビルの3Dガイドモデルを作成し、そのモデルをコリジョンとしてPhoenix FDでエフェクトを作成。ここで、Phoenix FDで作成したエフェクトだけでは爆発したときの衝撃が足りないと感じ、揺れている木や電線などを加えてインパクトのある映像をつくった。なお、2D背景のビルは、ノーマル色で描かれている背景に対して爆発の照り返しなどを受けて色が変わっている素材を作成することで、エフェクトに背景が馴染むよう配慮。結果として一体感のあるカットに仕上がっている。
本作ではこのように2Dの背景素材に対してCGエフェクトをコンポジットして作成されているカットもまた多い。全てを3DCGで作成するのではなく、美術で必要な背景素材などを用意してそれに3DCGを馴染ませる工夫をすることで、3DCGが使われていてもアニメ的なルックになるよう担保している。
アニメ的ルックを担保した爆炎カット
ビルが大規模に爆発・破壊されるカットのブレイクダウン
EmberGenの活用:リアルタイムエフェクトで時間的制約の壁を越える
本作での技術的なチャレンジのひとつとして、EmberGenを利用した汎用エフェクト素材の作成が挙げられる。EmberGenはJangaFX社によるリアルタイム流体シミュレーションツール。今年の第3四半期にバージョン1.0リリースを予定する開発途上の製品ではあるものの、すでに各社で導入が進む期待の新ツールだ。
EmberGenで作成したエフェクト素材はライブラリとしてまとめてあり、コンポジット班などでも利用できる。ここで紹介しているカットでは、ゴジラの背景にある爆炎にFumeFXで作成したエフェクト素材と共に利用している。「これまでのシミュレーション系のエフェクトツールでは非常に計算に時間がかかっていましたが、EmberGenではリアルタイムでエフェクトを調整できて非常に使いやすいです。本作ではエフェクトアセットの汎用素材作成に使用していますが、3,000フレームくらいのエフェクトでも時間をかけずに制作できます。今のところカメラデータをインポートすることができないので、シーンに対して目で合わせてエフェクトを作成しています。今回のようにバリエーションが必要な汎用素材制作には非常に有効でした。この経験を基に、今後積極的に使っていきたいツールです」と山本氏。
バリエーション豊かな汎用素材を活用した爆炎カット
爆炎の中を歩くゴジラのカットでは多数の汎用素材で複雑な炎の様子を描くことができた
▲ゴジラに照り返しを追加した素材
▲EmberGenで作成した火の粉の素材
▲EmberGenで作成した汎用エフェクト素材の一例
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