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TVアニメ『ゴジラ S.P<シンギュラポイント>』盛り盛りVFXメイキング

TVアニメ『ゴジラ S.P<シンギュラポイント>』盛り盛りVFXメイキング

質感系①:生々しいディテールで迫るカメラのズームインカット

VFX上の負荷が高い、怪獣やエフェクトにカメラがズームインし、細かなディテールが映し出されるカット。紹介しているショットは海中から現れるゴジラに対して望遠レンズを使って寄っている構図のもので、怪獣の質感素材はもちろん、水飛沫にもかなり高精細な素材を使用してディテールを表現する必要があった。ゴジラのテクスチャは、本カット用にベースとなるテクスチャに対してSubstance Painterでディテールを描き加え、アップに耐える質感に修正している。水飛沫のエフェクトも、FumeFXでシミュレーションしたベロシティ情報を利用してStokeでパーティクルを生成し、アップでもディテールがわかるように細かいミストを作成。さらに、RealFlowやtyFlowで作成した粒子素材を合成している。これらの素材を組み合わせながら、手前の素材を大きくしたりぼかすことによって、遠近感が強調された表現となっている。早川氏は「このカットは非常に時間と手間のかかるヘビーな処理になりました」とふり返った。

カットバイで対応したゴジラが浮上するカット

水中からスケール感のあるゴジラが浮上するカットのディテール制作

▲FumeFXのベロシティ情報を使ってStokeでパーティクルを生成し、Krakatoaでレンダリングした粒子素材



  • ▲ディテールアップ前のゴジラのテクスチャ素材



  • ▲カメラの寄りに耐えられるよう、Substance Painterでディテールアップしたゴジラのテクスチャ素材



  • ▲粒子の素材を全て合成した粒子素材



  • ▲RealFlowで作成した粒子素材

▲tyFlowで作成した粒子素材

▲全素材をコンポジットした完成ショット

質感系②:「動く美術」を目指した怪獣のルックデヴ

本作に登場する怪獣のルックデヴは、山本氏を中心としたVFXチームが担当している。「山森さんの怪獣デザインに、コンセプトアーティストの金子さんが着彩した状態の設定画がそのまま動くというのが目標でした」(山本氏)。

ワークフローとしては、まずモデリングした怪獣のモデルに対してSubstance Painterでリアルなルックで着彩し、それをベイクして出力、3ds Maxにインポート。Max上で明度差のある部分に暗い色を入れるなど調整・加工をしながらアニメ的なルックに寄せていった。リアルからアニメへ、どのようにディテールを潰して質感を変えていくかの判断が難しいところだったが、指標として「動く美術としての怪獣」を念頭に調整していったとのことだ。

紹介しているのはアンギラス。この怪獣は通常時の質感だけでなく、バリアを張る際に虹色に輝くというエフェクトが必要だった。その虹色エフェクトについて、当初はっきりとしたデザインの指標がなかったため、体をパーティクルが動き回るようなエフェクトなど、様々なルックのパターンをテスト映像として作成しながら探っていったという。最終的に、法線方向に応じて色が変化するようなエフェクトに落ち着いた。

アンギラス特有の虹色バリア表現

防御姿勢を示す怪獣アンギラスの体表エフェクトのブレイクダウン

▲エフェクト合成前

▲3ds Maxで作成したバリア素材



  • ▲グレースケール化したバリア素材



  • ▲バリアのマスク素材



  • ▲素材【B】をAfterEffectsのコンポ上で調整した素材



  • ▲素材【C】をコンポ上で調整した素材



  • ▲【E】と【F】を合成した状態



  • ▲マスク素材【D】を使って【G】の脚部分をマスクで抜き、バリアの素材が完成

▲バリア素材【H】と【A】を合成した完成画像

▲バリア表現を行うため、体表に沿って移動するパーティクルについて、UVを利用してテクスチャレンダリングしたもの。連番動画として用意したこの素材を全身に貼り付けてレンダリングしたものが、バリアの波紋表現のためのマスク素材となっている

▲tyFlowの設定画面

紅塵エフェクト:有機的に舞い上がるパーティクルショット

本作のストーリー上重要な要素である「紅塵」。多数のカットで登場する赤いパーティクル状のエフェクトだが、その制作手法はカットよって使い分けられている。「基本は物理的に自然な動きなのですが、カットによっては生物的な動きの演出が必要な場合がありまして、そうなってくるとエフェクトとしては非常に難しいです」と山本氏は語る。

特にここで紹介している2例目、紅塵が下方から舞い上がってくるショットは、他のカットの紅塵エフェクトとはちがって特殊なルックになっており、シミュレーションだけでは表現できない動きが含まれている。制作にあたっては、RealFlowを使ってかなりのハイディテールなパーティクル素材を作成。その素材を3ds Maxに読み込み、形やレイアウト、速度などを微調整しながらケレン味のあるエフェクトとして仕上げた。

仕上がったエフェクト素材はいったん3ds Maxにてグレースケールでレンダリングし、After Effects上で紅塵の色に調整しコンポジット。徐々にトラックバックしていくカメラワークという性質上、かなり大判の解像度でレンダリングする必要があり、レンダリングコストの非常に高いカットとなった。

ベーシックな水中の紅塵エフェクト

ゴジラから放出されるベーシックな紅塵のエフェクト

▲Phoenix FDで作成した紅塵素材。ゴジラの表面から均等に放出されないようエミッタを作成している

▲Phoenix FDでの作業画面



  • ▲【Phoenix FDで作成した紅塵素材】の作成時に放出されたパーティクルを使用し、Frostで任意のジオメトリ素材に置き換えて作成した素材



  • ▲【Phoenix FDで作成した紅塵素材】の作成時に放出されたパーティクルをKrakatoaでレンダリングした素材

▲Phoenix FDで作成したベロシティ情報を使い、tyFlowで量や速度、動きを調整してレンダリングした素材

地下から吹き出す特殊な紅塵

舞い上がるように吹き出してくる紅塵エフェクトのブレイクダウン

▲RealFlowでの流体制作。複数のAtractorを使って、このカットに特徴的な流体のふるまいを制御している

▲【RealFlowでの流体制作】で作成した流体を3ds Maxに読み込み、デフォームとタイミングを調整してKrakatoaでレンダリングした素材

▲別途制作した細かい塵素材

▲全エフェクト素材を合成し、着色などして完成させたエフェクト

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ゴジラエフェクト:超高密度な熱線を放出するスペシャルカット

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