>   >  「嘘から出たまこと」でも良いじゃない! 自分から手を挙げて、コンフォートゾーンから一歩だけ外に出てみる。 〜Image Engine/ハードサーフェスモデラー 前東勇次氏インタビュー
「嘘から出たまこと」でも良いじゃない! 自分から手を挙げて、コンフォートゾーンから一歩だけ外に出てみる。 〜Image Engine/ハードサーフェスモデラー 前東勇次氏インタビュー

「嘘から出たまこと」でも良いじゃない! 自分から手を挙げて、コンフォートゾーンから一歩だけ外に出てみる。 〜Image Engine/ハードサーフェスモデラー 前東勇次氏インタビュー

勇気が出ない? 何もやらないことが一番損だよ?

CGW:積極的に挑戦されてきたゆえの強さを感じますが、一歩前に出る際、不安で勇気が出なかったということはないですか? また、どうしても勇気が出ない局面で、どのように考えて「一歩前に出る」を実践されていますか?

前東:これはもう「性格」が大きいのかなと思うのですが、新しいことに挑戦してきた成功体験から「挑戦して損はない」ということを自覚しているのかもしれません。むしろ何もやらないことが一番損しているのかなと。もし手を挙げて来なかったら海外に出ることはなかったし、こんなふうに視野を広げる機会もなかったはずです。結局、「現状維持が一番退屈」と思ってしまう性格なんだと思います。

CGW:これは失敗したな、というエピソードや「痛い思い出」みたいなものはないのでしょうか?

前東:う〜ん、そうですね。挫折は経験していると思いますが、「挫折」と捉えていないだけかもしれません。例えば、トロントに引っ越したときに詐欺に遭ってお金を取られたことがあるのですが、そういう経験も結局、「エピソードトークのネタとして、YouTubeで使えるな」といった感じで、「使える失敗」くらいにしか捉えていない節があります。ネジが1本外れているだけなのかもしれないですね(笑)。

CGW:だとしたら、とても良い感じでネジが外れていますね! 私もこれからはどんどんネジを外して行こうと思います(笑)。

前東:(笑)。しかしふり返ってみると、挑戦した後に後悔したことがないかもしれません。小話になりますが、この間、友達とバー(かわいい女の子がたくさんいると評判の)で飲んでいたら、案の定、少し離れたところにかわいい女の子がいたんですよ。「かわいいなぁ」と話をしていたら「声かけてこいよ」と友達に言われて。英語でナンパなんてできないと諦めていたのですが、「いや、ここは挑戦だ。行って来い」と言われ、何も言葉が出て来ないまま話しかけちゃったんですね。こういう場合、ナンパらしく「綺麗ですね」とか言わないといけないんだろうけど、ただの世間話みたいになっちゃって。結局グダグダで終わり撃沈して帰ってきたんですよね。

でも、そういったことですら「やって良かった」と思っています。なぜならこの経験がなかったら、一生僕は女の子に声をかけられないままだったし、今となってはむしろ「どうすれば、もっと楽しませることができたのかな」と、もう1つ上のフェーズについて考えられるようになっているんですよ。普通は落ち込むところだと思うので、単にバカなだけかもしれませんが(笑)。

▲バンクーバーに引っ越した当初。仕事が決まらないストレスを和らげてくれたModelingCafe時代からの先輩とその友達とダウンタウンにある脱出ゲームにて

CGW:確かにフェーズが1つ上がっていますね(笑)。経験を積むことには非常に真面目ですが、良い感じで本気じゃないところがありませんか?

前東:そうですね(笑)。まったく肩肘張っていないように思います。

CGW:ストイックな感じではなく、本当に小さなことやくだらないと思えることでも「やってみたら良いじゃん」と実験的なノリで考えているんですね。

前東:そうかもしれません。ゆえに、女性からは「チャラい」と言われることもありますが、チャラい言動はしていないはずです(笑)。

CGW:話は変わりますが、9月に開催された「CGWORLD MASTER CLASS ONLINE Vol.5」の前東さんのセッションは、本当に楽しくわかりやすかったです。これまでの経験を通して得た知識と手法を共有されたかと思うのですが、前東さんが考える効率の良い学び方とはどのようなものですか?

前東:勉強するにしても「フェーズ」があると思うんですよ。自分がどれくらい理解していてどういう情報が必要なのか、それは人それぞれちがっていて、「その人に合った勉強法」がちゃんとあるんです。英語の勉強で例えると、まったく英語の知識がないのに海外ドラマを観ても内容がわからないですよね。でも、単語や文法がある程度身についていれば、それなりに内容がわかるはずです。CGも同じで「自分のレベル」がわかっていないと効率の悪い学び方になってしまう傾向があります。「自分の実力の1つ上」くらいの身の丈に合った勉強をするのが良いのではないでしょうか。

CGW:確かに。無理して難しいことを学ぼうとしがちです。

前東:そうなんですよね。アンテナの感度が高いので、レベルの高いチュートリアルを観たり、次元の高い資料やニュースを集めたりできるんですよね。でも、まずはツールの使い方をちゃんと身につけた方が良いんじゃないかな......、と思うことが多々あります。僕の場合は、たまたま自分のレベルと学び方が上手く見合っていたのかもしれません。

CGW:有名なCGクリエイターに対する憧れからくる衝動ではなく、基本からひとつひとつ学んでいったわけですね。

前東:おそらく、僕がCGのことをまったく知らなかったからだと思うんですよね。何も知らないから憧れもない。そもそもそこまで行ってなかったんでしょうね。とにかく「目の前にある作業」に対する疑問で毎日いっぱいいっぱいだったので、目の前の問題を解くために周りにいる先輩や友達に質問しまくっていました。そんな感じだから、それ以上高いレベルの技術までは気が回っていなかったんです(笑)。

あと僕はものわかりが良くないので、難しいことを言われてもわからないんですよ。噛み砕いて説明してもらわないと理解できなかったので、否が応でも順序を守って少しずつ進むしかなかったという感じでした。

▲前東氏のパーソナルワーク

CGW:客観的な視点で自分の位置を把握しておくのは重要ですね。ところで、YouTubeがきっかけで人に教えるようになったわけですよね。「チャンネル登録者数1万人」の大台が見えてきましたが、YouTubeを始めた理由はどのようなものだったのですか?

前東:YouTubeを始めた理由はたくさんあります。まずは父親が会社を経営していて不自由ない暮らしをさせてくれたことで、いつか自分も父親のようにしっかりと稼げるようになりたいと思っていたこと。次に『金持ち父さん貧乏父さん』(著:ロバート・キヨサキ、筑摩書房)という有名な本の影響で、会社員以外のことをしてみたいと考えるようになったことです。その本が言うには、「会社員」、「自営業」、「投資家」、「経営者」という4つのカテゴリにわかれていて、お金持ちになりたければ、「投資家」か「経営者」のカテゴリに属しましょうと説明されていたんですね。そこから副業を始めることにしたのですが、副業をするなら本業と同じことが良いだろうと考えました。

また、小さな頃から話したり説明したりといったことや、お笑いが好きだったこともYouTubeを始めた理由の1つです。会社員の場合そういったキャラクターが活かせる場面は飲み会くらいしかないじゃないですか。だから、自分の特技でもある「しゃべりと笑い」を活かしつつ、本業と繋がっているものは何だろうと探った末、「YouTubeでチュートリアルを配信するのがうってつけじゃないか!」と。

CGW:「キャラクター」と「強み」と「本業」が見事にはまったわけですね。

前東:チュートリアルを作るのであれば、とにかくコミカルでカジュアルな動画にしようと決めていました。CGのチュートリアルは英語のものが多く、学生のころはとても苦労しましたからね。また以前からYouTubeが好きでよく視聴していたので、わかりやすくて面白い動画に影響を受けていたこともあり、そういったテイストでやってみたいなと。もちろん有料動画としてコンテンツ販売することも考えましたが、無名だし売れるはずがありません。しかも有料コンテンツでふざけるのは気が引けますからね。ということで、まずは無料コンテンツとしてYouTubeを始めてみることにしました。

CGW:実際にYouTubeをやってみていかがですか?

前東:YouTubeをやるメリットはたくさんあって、まず「自分のメモ」になること。僕らのようなデジタルアーティストは、日々新しいソフトや機能を勉強し続けていかなければならないわけですが、それらをメモすることはとても重要なんです。メモを残すなら動画がベストだなと思っていたので、自分のメモ代わりでもあり、それをみんなと共有でき、かつ無料コンテンツなのに多少なりとも収益が入ってくる。その上、知名度も少しは上がる。ということで、YouTubeをやるメリットは多いかなと思っています。

CGW:確かにメリットは多いですね。少しリアルな質問ですが、副業とはしてはいかがですか?

前東:そこですよね。はい、副業としては大赤字です!(笑)

CGW:ええ!(笑)

前東:YouTubeの収益から回収できた投資額は「まったくない」と言えます(笑)。でもそれも考えようなんですよね。というのも、いつか日本に帰国したらフリーランスとして会社を創りたいと考えていたのですが、もしそうなったときはYouTubeをやってきたことがきっと活きてくると思います。ですので、収益以上に得られるものは大きいのではないかと。

CGW:CGWORLDのオンラインチュートリアルや「CGWORLD MASTER CLASS ONLINE Vol.5」への出演依頼も、前東さんのYouTubeを観た担当者から声がかかったんですよね?

前東:そうなんですよ。もしYouTubeをやっていなかったら、誰も僕のことを知らなかったと思います。あと、YouTubeで人に教えるためには自分自身が勉強する必要があって、そうやって一生懸命勉強したことが本業で活かされるんですよ。本業で活躍することができるから、その勢いがYouTubeにも反映していて相乗効果が生じているんですよ。全てが良い感じに回っているように思います。

CGW:視聴者の皆さんからのコメントもとても良い感じですよね。

前東:大人になると、褒められることって本当にないと思いませんか? 「褒められたいなんて、それ甘えでしょ?」と言われたりしますが、YouTubeを始めてから「わかりやすいです」、「がんばってください」、「ありがとうございます」と言ってもらえるようになりそれが原動力になっています。もしかすると、こういったコメントがなかったらとっくに止めていたかもしれません。皆さんのおかげで自信に繋がっています。YouTubeチャンネルを登録してくださっている皆様、本当にありがとうございます!

CGW:小さなことに悩みすぎていたことに気付かされるお話しで、失いかけていたやる気が戻ってきました。私も目の前の一歩を踏み出してみようと思います。これからも前東さんらしさが光るご活躍を楽しみにしています! 前東さん、今日は本当にありがとうございました! 





Profileプロフィール

前東勇次/Yuji Maehigashi

前東勇次/Yuji Maehigashi

2016年に九州デザイナー学院を卒業後、ModelingCafeの福岡支社で3年間背景モデラーとしての実績を積み、2019年にカナダのバンクーバーに移住しフリーランスとして活動。2020年からカナダのトロントに拠点を移しMarzVFXで1年間アセットアーティストとしてハリウッド映画やドラマに携わる。2021年に再びバンクーバーに移り、現在はImage Engineでハードサーフェスモデラーとして活動。これまでに関わった作品は『ワンダヴィジョン』(2021)、『暗黒と神秘の骨』(2021)、『FINAL FANTASY VII REMAKE』(2020)など
www.artstation.com/yujimaehigashi
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