自身の失敗すらネタにする軽快な語り口で「とにかく楽しいCGチュートリアル」をYouTubeで配信し続ける前東勇次氏。Image Engineのハードサーフェスモデラーとして活躍する前東氏は、バンクーバー在住のYouTuberでもある。また、CGWORLDオンラインチュートリアルの講師も務めるなど、現在多岐にわたって活躍中だ。今回、YouTubeチャンネル登録者数1万人を目前にした前東氏に話を聞くことができたので、その様子をお届けしよう。前東氏の軽やかさの内側に秘める独特な強さを垣間見て、何かと悩める筆者のやる気はすっかり回復した。読者の皆さん、もうやっちゃいましょう! この記事を読み終えたら、きっとそんな気分になるはず。


INTERVIEW&TEXT&EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE




「コンフォートゾーン」から一歩出てみるとわかる!

CGW:先日開催された「CGWORLD MASTER CLASS ONLINE Vol.5」ではトップバッターを務められましたね。同イベントのレポートでも書きましたが、とても軽快で楽しくわかりやすいセッションでした! 今回はそんな前東さんのインタビューということで、まずはこれまでのご経歴についてお聞かせください。

前東勇次氏(以下、前東):九州デザイナー学院を卒業後、ModelingCafe・福岡支社で背景モデラーとして3年間経験を積んで、2019年にカナダ・バンクーバーに移りました。バンクーバーでの6ヶ月間の就活を経て、トロントにあるMonsters Aliens Robots Zombies VFX(MARZ)に就職が決まり1年ほど働いた後、再びバンクーバーに戻って2度目の就活をしたのですが、これがなかなか決まらず。4ヶ月ほどジリ貧の生活を送った後にImage Engineに就職が決まり、現在は同スタジオでハードサーフェスモデラーをしています。

CGW:前東さんが海外に出られた経緯はどのようなものだったんですか?

前東:実は、インタビューの前にいただいた質問リストの中で「最も答えるのが恥ずかしい」と思っていたのがこの質問なんです。というのもこういった記事に登場する方々は、大きな目標を掲げて海外を目指してこられていたり、何かしらのサクセスストーリーをお持ちの方だったりすると思うんですよ。でも、僕にはそういうものがないんです。

  • 前東勇次/Yuji Maehigashi

    2016年に九州デザイナー学院を卒業後、ModelingCafeの福岡支社で3年間背景モデラーとしての実績を積み、2019年にカナダのバンクーバーに移住しフリーランスとして活動。2020年からカナダのトロントに拠点を移しMarzVFXで1年間アセットアーティストとしてハリウッド映画やドラマに携わる。2021年に再びバンクーバーに移り、現在はImage Engineでハードサーフェスモデラーとして活動。これまでに関わった作品は『ワンダヴィジョン』(2021)、『暗黒と神秘の骨』(2021)、『FINAL FANTASY VII REMAKE』(2020)など
    www.artstation.com/yujimaehigashi
    CGWORLDオンラインチュートリアル

CGW:差し支えなければ、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?

前東:福岡にある専門学校に通っていた当時、親しかった先輩のほとんどが当時設立されたばかりのModelingCafe・福岡支社に就職していたんです。働き始めた先輩の話によるととても楽しそうな会社だと思ったので、もうModelingCafeに就職することしか考えておらず、他の会社をリサーチすることすらありませんでした。

そんな感じで応募して、ありがたいことに面接をしてもらえることになったのですが、福岡支社・代表の北田(栄二)さんとの面接前日に、やはり不安になって福岡支社で働いている先輩に相談したんですよ。すると「そう言えば、北田さんは海外に出るクリエイターを応援してるよ。"海外に興味がある" と言ったら、少しは可能性があるんじゃない?」とおっしゃって......。

CGW:なるほど(笑)。

前東:面接でも北田さんに「海外で働くことに興味はある?」と聞かれたので、「はい、興味あります!」と答えてしまってですね。

CGW:(ドキドキ......)。

前東:すると「いつくらいに海外に出ようと考えてる?」と聞かれたので、「......そうですね、3年後くらいですかね」と思いつくまま答えてしまったんですよ。そういったやり取りの末、無事ModelingCafe・福岡支社に入社することができたのですが、2年ほど経ったある日、北田さんに「そういえば前東君、3年後に海外に行くって言ってたけど準備できてるの?」と聞かれて。

自主制作も2作品くらいしかなく、何の準備も英語の勉強もできていなかったのですが、「......はい、できてます!」と答えてしまいました。そこでようやく火が点いて、その日から大急ぎで英語の勉強を始めて作品を作って、......というわけで、北田さんにケツを叩いてもらってやっと海外に出て来た、というわけなんです。

CGW:そうだったんですね。なかなかスリリングなお話でした(笑)。しかし、多少は海外で働くことに憧れはあったのでしょうか?

前東:社内には海外に出られた先輩がいたので、そういった方々の背中をずっと見ていたし、仕事で映画のブレイクダウンなどを観るうちに、「海外の仕事は格好良いな」と思うようにはなっていました。その一方で、「果たしてこんなところで働けるようになるのか」と半信半疑だったのも事実です。怖い気持ちと興味が「半々」だったので、北田さんが忘れてくれていることをどこかで願っている自分がいました。

▲▲学生時代、九州デザイナー学院・ゲーム学科で菊池 蓮氏の講演後、教室でお話を伺っている様子

CGW:しかし北田さんは、前東さんが面接で伝えた「海外への夢」をちゃんと "覚えていてくれた" わけですね。そうなると、言ったからにはやらなければと。

前東:はい、「嘘から出たまこと」です。まさか本当に海外に出てVFXの仕事ができるとは思っていませんでしたが、ケツを叩かれながらもカナダに来て、実際にVFXのスタジオに就職して自分が仕事をしていることに驚きはあります。というわけで、長年の夢を実現するためにではなく「ただ自分の言ったことを実行しただけ」なので、海外に出た理由をインタビューで話すのはとても恥ずかしいんです。

CGW:確かにこういったインタビュー記事では、大きな夢を掲げてそれを実現させた方々を取り上げ、サクセスストーリーを語ってもらう傾向がありますよね。しかし現実に目を向けると、華やかで迫力のあるストーリーばかりではありません。十人十色で様々な成功のかたちがありますし、何かを実現するにしても「自分に合った方法」がありますからね。その方法に良いも悪いもないはずです。結果として実現させたのであれば「1つの成功のかたち」なのではないでしょうか。ところで、そういった経緯で海外に出られたことを北田さんはご存知なのでしょうか?

前東:......いえ。まだ話していません。これまでこの十字架を背負って来ましたが、この場を借りて謝らせてください! 「北田さん、すみませんでした! 嘘から出たまことでした!」。

CGW:肩の荷が少し降りましたね(笑)。しかし、周囲からの影響やサポートはとても重要ですよね。前東さんの場合は「周囲の人が目標を提示してくれた」とも言える部分があり、また、そういった提案に可能性を見出す能力が高いように思います。

前東:確かにそうかも知れません。専門学校に入学して半年ほどはイラストレーションコースを専攻していたのですが、絵の具を使った授業が多く「これが就職に役立つのだろうか」と疑問を抱いていました。また、模写ばかりしていたのでオリジナリティのあるイラストが描けず、イラストレーターとしてやっていけないのではないかと。自分のやりたいことがわからなくなっていた時期でした。そんなある日、ゲーム学科の卒業生がキャラクターのイラストを描くアルバイトを募るために教室を訪れて来たことがあったのですが、「これで何かが変われば」と手を挙げてみることにしたんです。

▲ModelingCafeのメンバーとプロジェクトの打ち上げ

CGW:自分からアクションを起こすことで、ながれを変えようと思ったのですね。

前東:はい、まさにそのとおりで、このことがきっかけでイラストレーション科からゲーム学科に転科することになったんです。バイトの説明を受ける前にゲーム学科の先生と話をする機会があったのですが、その内容に納得感があったこと、ゲーム学科が就職に力を入れていること、絵もCGも学べてデッサンやコンセプトアートなども勉強できるということなどを聞き、可能性を感じて転科することにしました。

CGW:迷いながらも可能性のある方向を探りつつ、その時々で微調整していく。とても柔軟な思考ですね。しかし、目の前に現れた可能性を上手く掴まれているなという印象を受けるのですが、何か意識されているのでしょうか?

前東:「バイトの募集で手を挙げた」とお話ししたことに繋がるのですが、「父親の教え」が大きく影響していると思います。小学校まで話はさかのぼりますが、通信簿に「関心、意欲、態度」という項目があり、それぞれ「◎」、「◯」、「△」の三段階評価になっていて、「△が付いたら覚えとけよ」と父親に脅されていたんですよ(笑)。父親に怒られるのがとにかく怖かったので、得意なことであろうとなかろうと、何にでも手を挙げて立候補していたんです。でもその結果、先生に褒められたりみんなに喜ばれることも多く、成功体験を積み上げることができたんだと思います。

CGW:なるほど。頭では理解できても、手を挙げる勇気はなかなか出ないものです。小さな一歩を踏み出せないがために、挑戦できないままチャンスをみすみす逃してしまうこともたくさんあります。前東さんは、どのように考えてその一歩を踏み出されているのでしょうか。

前東:僕自身がとにかくポジティブというのもありますが、手を挙げて挑戦してみて、結果が悪かったことがなかったからだと思います。どんな小さなことでも、成功体験が連続すると自信が付きますからね。「コンフォートゾーン(自分の居心地の良いところ)から一歩外に出る」という経験の積み重ねと、それがどんな結果であろうと「成功」としか捉えていない性格によるものだと思います。

▲2018年、フォトン・アーツとの社員エクスチェンジで、鈴木卓矢氏(中央)から "指導を受けている様子" を装った記念撮影

CGW:「成功も失敗も全て糧となる」と考えると、やらない理由はないですからね。ところで、北田さんに「準備しているの?」と聞かれて火が付いたとのことですが、どれくらいの期間でどのような準備をされたのですか?

前東: その後すぐに、北田さんと親交の深い鈴木卓矢 さん(現:SAFEHOUSE・代表)が当時所属されていた、フォトン・アーツとの「社員エクスチェンジ」の話があったんですよ。「誰か行きたい人いる?」と聞かれたときに、僕はまた手を挙げたんです(笑)。それで、3ヶ月ほどお世話になることになったのですが、 その際にフォトン・アーツで英語を勉強している方と知り合えたことで、英語に関する情報交換をしたりモチベーションをもらったり、鈴木(卓矢)さんを訪れる人々との出会いを通して、バンクーバーの映画会社でお仕事をされている方を紹介してもらえたり。また、そういった方々から海外に関する話をたくさん聞いていくうちに、海外に行くことが現実味を帯びてきたんです。

CGW:手を挙げていなかったら得ることができなかった情報とご縁ですね! 1人でがんばっていたらずいぶん時間がかかったことでしょう。

前東: そうなんですよ。中でも大きかったのは、そこで初めてSIGGRAPHと言う単語を聞いたことです。 実は、海外に出る1年前だというのに「SIGGRAPH」すら知らなかったんですよ(笑)。 SIGGRAPHは毎年開催地が異なるのですが、運が良いことにちょうどバンクーバーで開催されるとのことで、1年前倒しでバンクーバーに行ってみることにしたんです。社員エクスチェンジに参加していなければ知ることのなかった「SIGGRAPH」。それがきっかけでバンクーバーに前乗りすることができ、さらにSIGGRAPHでは即席でジョブインタビューまでしてもらえたんです。

CGW:その場でインタビューしてもらえたのですね!

前東:はい、運良く(笑)。その後、オファーのメールが届いたのですが、あまりにも自分の準備が整っていなかったこと、他のスタジオのことも調べたかったということもありお断りしたんですけどね。しかしバンクーバーに拠点を移すリアルなイメージを抱くことができて、とても良いきっかけとなりました。

▲バンクーバーとオンラインのインタビューでした!



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勇気が出ない? 何もやらないことが一番損だよ?

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勇気が出ない? 何もやらないことが一番損だよ?

CGW:積極的に挑戦されてきたゆえの強さを感じますが、一歩前に出る際、不安で勇気が出なかったということはないですか? また、どうしても勇気が出ない局面で、どのように考えて「一歩前に出る」を実践されていますか?

前東:これはもう「性格」が大きいのかなと思うのですが、新しいことに挑戦してきた成功体験から「挑戦して損はない」ということを自覚しているのかもしれません。むしろ何もやらないことが一番損しているのかなと。もし手を挙げて来なかったら海外に出ることはなかったし、こんなふうに視野を広げる機会もなかったはずです。結局、「現状維持が一番退屈」と思ってしまう性格なんだと思います。

CGW:これは失敗したな、というエピソードや「痛い思い出」みたいなものはないのでしょうか?

前東:う〜ん、そうですね。挫折は経験していると思いますが、「挫折」と捉えていないだけかもしれません。例えば、トロントに引っ越したときに詐欺に遭ってお金を取られたことがあるのですが、そういう経験も結局、「エピソードトークのネタとして、YouTubeで使えるな」といった感じで、「使える失敗」くらいにしか捉えていない節があります。ネジが1本外れているだけなのかもしれないですね(笑)。

CGW:だとしたら、とても良い感じでネジが外れていますね! 私もこれからはどんどんネジを外して行こうと思います(笑)。

前東:(笑)。しかしふり返ってみると、挑戦した後に後悔したことがないかもしれません。小話になりますが、この間、友達とバー(かわいい女の子がたくさんいると評判の)で飲んでいたら、案の定、少し離れたところにかわいい女の子がいたんですよ。「かわいいなぁ」と話をしていたら「声かけてこいよ」と友達に言われて。英語でナンパなんてできないと諦めていたのですが、「いや、ここは挑戦だ。行って来い」と言われ、何も言葉が出て来ないまま話しかけちゃったんですね。こういう場合、ナンパらしく「綺麗ですね」とか言わないといけないんだろうけど、ただの世間話みたいになっちゃって。結局グダグダで終わり撃沈して帰ってきたんですよね。

でも、そういったことですら「やって良かった」と思っています。なぜならこの経験がなかったら、一生僕は女の子に声をかけられないままだったし、今となってはむしろ「どうすれば、もっと楽しませることができたのかな」と、もう1つ上のフェーズについて考えられるようになっているんですよ。普通は落ち込むところだと思うので、単にバカなだけかもしれませんが(笑)。

▲バンクーバーに引っ越した当初。仕事が決まらないストレスを和らげてくれたModelingCafe時代からの先輩とその友達とダウンタウンにある脱出ゲームにて

CGW:確かにフェーズが1つ上がっていますね(笑)。経験を積むことには非常に真面目ですが、良い感じで本気じゃないところがありませんか?

前東:そうですね(笑)。まったく肩肘張っていないように思います。

CGW:ストイックな感じではなく、本当に小さなことやくだらないと思えることでも「やってみたら良いじゃん」と実験的なノリで考えているんですね。

前東:そうかもしれません。ゆえに、女性からは「チャラい」と言われることもありますが、チャラい言動はしていないはずです(笑)。

CGW:話は変わりますが、9月に開催された「CGWORLD MASTER CLASS ONLINE Vol.5」の前東さんのセッションは、本当に楽しくわかりやすかったです。これまでの経験を通して得た知識と手法を共有されたかと思うのですが、前東さんが考える効率の良い学び方とはどのようなものですか?

前東:勉強するにしても「フェーズ」があると思うんですよ。自分がどれくらい理解していてどういう情報が必要なのか、それは人それぞれちがっていて、「その人に合った勉強法」がちゃんとあるんです。英語の勉強で例えると、まったく英語の知識がないのに海外ドラマを観ても内容がわからないですよね。でも、単語や文法がある程度身についていれば、それなりに内容がわかるはずです。CGも同じで「自分のレベル」がわかっていないと効率の悪い学び方になってしまう傾向があります。「自分の実力の1つ上」くらいの身の丈に合った勉強をするのが良いのではないでしょうか。

CGW:確かに。無理して難しいことを学ぼうとしがちです。

前東:そうなんですよね。アンテナの感度が高いので、レベルの高いチュートリアルを観たり、次元の高い資料やニュースを集めたりできるんですよね。でも、まずはツールの使い方をちゃんと身につけた方が良いんじゃないかな......、と思うことが多々あります。僕の場合は、たまたま自分のレベルと学び方が上手く見合っていたのかもしれません。

CGW:有名なCGクリエイターに対する憧れからくる衝動ではなく、基本からひとつひとつ学んでいったわけですね。

前東:おそらく、僕がCGのことをまったく知らなかったからだと思うんですよね。何も知らないから憧れもない。そもそもそこまで行ってなかったんでしょうね。とにかく「目の前にある作業」に対する疑問で毎日いっぱいいっぱいだったので、目の前の問題を解くために周りにいる先輩や友達に質問しまくっていました。そんな感じだから、それ以上高いレベルの技術までは気が回っていなかったんです(笑)。

あと僕はものわかりが良くないので、難しいことを言われてもわからないんですよ。噛み砕いて説明してもらわないと理解できなかったので、否が応でも順序を守って少しずつ進むしかなかったという感じでした。

▲前東氏のパーソナルワーク

CGW:客観的な視点で自分の位置を把握しておくのは重要ですね。ところで、YouTubeがきっかけで人に教えるようになったわけですよね。「チャンネル登録者数1万人」の大台が見えてきましたが、YouTubeを始めた理由はどのようなものだったのですか?

前東:YouTubeを始めた理由はたくさんあります。まずは父親が会社を経営していて不自由ない暮らしをさせてくれたことで、いつか自分も父親のようにしっかりと稼げるようになりたいと思っていたこと。次に『金持ち父さん貧乏父さん』(著:ロバート・キヨサキ、筑摩書房)という有名な本の影響で、会社員以外のことをしてみたいと考えるようになったことです。その本が言うには、「会社員」、「自営業」、「投資家」、「経営者」という4つのカテゴリにわかれていて、お金持ちになりたければ、「投資家」か「経営者」のカテゴリに属しましょうと説明されていたんですね。そこから副業を始めることにしたのですが、副業をするなら本業と同じことが良いだろうと考えました。

また、小さな頃から話したり説明したりといったことや、お笑いが好きだったこともYouTubeを始めた理由の1つです。会社員の場合そういったキャラクターが活かせる場面は飲み会くらいしかないじゃないですか。だから、自分の特技でもある「しゃべりと笑い」を活かしつつ、本業と繋がっているものは何だろうと探った末、「YouTubeでチュートリアルを配信するのがうってつけじゃないか!」と。

CGW:「キャラクター」と「強み」と「本業」が見事にはまったわけですね。

前東:チュートリアルを作るのであれば、とにかくコミカルでカジュアルな動画にしようと決めていました。CGのチュートリアルは英語のものが多く、学生のころはとても苦労しましたからね。また以前からYouTubeが好きでよく視聴していたので、わかりやすくて面白い動画に影響を受けていたこともあり、そういったテイストでやってみたいなと。もちろん有料動画としてコンテンツ販売することも考えましたが、無名だし売れるはずがありません。しかも有料コンテンツでふざけるのは気が引けますからね。ということで、まずは無料コンテンツとしてYouTubeを始めてみることにしました。

CGW:実際にYouTubeをやってみていかがですか?

前東:YouTubeをやるメリットはたくさんあって、まず「自分のメモ」になること。僕らのようなデジタルアーティストは、日々新しいソフトや機能を勉強し続けていかなければならないわけですが、それらをメモすることはとても重要なんです。メモを残すなら動画がベストだなと思っていたので、自分のメモ代わりでもあり、それをみんなと共有でき、かつ無料コンテンツなのに多少なりとも収益が入ってくる。その上、知名度も少しは上がる。ということで、YouTubeをやるメリットは多いかなと思っています。

CGW:確かにメリットは多いですね。少しリアルな質問ですが、副業とはしてはいかがですか?

前東:そこですよね。はい、副業としては大赤字です!(笑)

CGW:ええ!(笑)

前東:YouTubeの収益から回収できた投資額は「まったくない」と言えます(笑)。でもそれも考えようなんですよね。というのも、いつか日本に帰国したらフリーランスとして会社を創りたいと考えていたのですが、もしそうなったときはYouTubeをやってきたことがきっと活きてくると思います。ですので、収益以上に得られるものは大きいのではないかと。

CGW:CGWORLDのオンラインチュートリアルや「CGWORLD MASTER CLASS ONLINE Vol.5」への出演依頼も、前東さんのYouTubeを観た担当者から声がかかったんですよね?

前東:そうなんですよ。もしYouTubeをやっていなかったら、誰も僕のことを知らなかったと思います。あと、YouTubeで人に教えるためには自分自身が勉強する必要があって、そうやって一生懸命勉強したことが本業で活かされるんですよ。本業で活躍することができるから、その勢いがYouTubeにも反映していて相乗効果が生じているんですよ。全てが良い感じに回っているように思います。

CGW:視聴者の皆さんからのコメントもとても良い感じですよね。

前東:大人になると、褒められることって本当にないと思いませんか? 「褒められたいなんて、それ甘えでしょ?」と言われたりしますが、YouTubeを始めてから「わかりやすいです」、「がんばってください」、「ありがとうございます」と言ってもらえるようになりそれが原動力になっています。もしかすると、こういったコメントがなかったらとっくに止めていたかもしれません。皆さんのおかげで自信に繋がっています。YouTubeチャンネルを登録してくださっている皆様、本当にありがとうございます!

CGW:小さなことに悩みすぎていたことに気付かされるお話しで、失いかけていたやる気が戻ってきました。私も目の前の一歩を踏み出してみようと思います。これからも前東さんらしさが光るご活躍を楽しみにしています! 前東さん、今日は本当にありがとうございました!