>   >  フリーランスの伊藤達弘氏が実践する、アーティストとしてのプログラミングとの付き合い方|CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス個別レポ(4)
フリーランスの伊藤達弘氏が実践する、アーティストとしてのプログラミングとの付き合い方|CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス個別レポ(4)

フリーランスの伊藤達弘氏が実践する、アーティストとしてのプログラミングとの付き合い方|CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス個別レポ(4)

<2>ツールづくり、どう手を付けたらいいの? 全体のながれを解説

次に語られたのは『ツール解体新書』と銘打たれたツール制作のながれ。大きなながれとしては、<1>「ヒアリング」<2>「企画・設計」<3>「試作」<4>「完成」<5>「アフターケア」が並んだ。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:伊藤達弘

<1>ヒアリングとは、取材のことです。Amaterasuに含まれているツールのほとんどはヒアリングから着想を得たものです。使う側が何を求めているかを把握するのはとても大事で、作ったものの誰も使わないなんていうことがあったら悲しいですよね。使用者側の『なんか求めてるものとちがうなー』を、ある程度積極的に察知しにいく必要があります。自分の需要でスタートしたものは、ヒアリングをすっ飛ばして企画・設計からスタートしますが」。

プログラマー職など普段Mayaを使った制作をしていない方がつくったツールは、やはり使いにくいことが多いと明かす伊藤氏。全てのツール/ツール開発者がそうであるとは言えないが、確かにそのような傾向を感じることは多い。
「実作業をしていると、ツールがどうなっていれば効率的かイメージしやすいと思います。自分が普段あまり担当することのない作業領域でも、とりあえず実作業してみて『なるほどねー』となってからの方が、良いツールになりやすいと思います。そういうイメージがちゃんと固まっていないと、ツールが空中分解して明後日の方向に進んでいったりします。要望を聞くことは大事ですが、実は、いろいろな意見を詰め込み過ぎてもよくないと言えます」。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:伊藤達弘

このあたりから、ヒアリングと企画の部分がオーバーラップしてくると言えるだろう。次の工程、<2>『企画・設計』がツールづくりのメインとなるパート。ここではまず、必要な機能をまとめたり、UIをどのようにするか考えるところからはじまるが、これはデッサンでいうアタリをつけていく感覚に近いという。この段階で、自身のプログラミング能力と内容を照らし合わせて、実装できるかどうかを考えていく。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:伊藤達弘

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:伊藤達弘

UIを検討している様子。Photoshopでざっくり形を取り求められる機能をメモしていく(スライドは、実例で取り上げられたMayaのレンダーレイヤーをブラウズするツールのもの)

このアタリをつける感覚は実際にツールづくりに取りかかっても同様で、"アニメーション作業もレイアウトから順に詰めていく"様子に喩えつつ、ざっくりとしたところから<3>試作していく。そうしてひとまずツールが完成したら、まずは「<4>完成を喜ぶことが大事」だという。
「アートに軸足を置きつつスクリプトをいじる、ツールをつくるというのは、決して楽ではありませんし、そんなにべったり時間をかけられるわけでもありません。完成したら、まずは『こんなに良いツールができた! どうだ!』と満足してみるのも、ツールづくりやその勉強のためのモチベーションを保つには大事なことかなと思います」。
なるほどツールづくりは常に時間に余裕がある状況で行われるわけではない、むしろ立て込んだ状況であることの方が多いかもしれない。そんなときに「ツールづくりしんどい、いやだ」にならないための処方のひとつだと言える。

  • CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:伊藤達弘
  • CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:伊藤達弘


一方でこの段階での要件として『使ってもらってこそ意味がある』、『使ってもらえてないなら、どこに問題があるのかを洗う』の2点も挙げられた。
ひとまず機能をそろえ、ツールとして形にしたものの、なんだか使ってもらえない、というケースは意外に多い。まずはその後の使用状況をトラックすること、またその結果が芳しくなければどこにどういう問題があるのか考えること。重要だがなかなかに根気のいる作業ではある。
使ってもらえない場合の理由としてはいくつか考えられますが、やはり『UI』が一番多いでしょう。ほかに、ドキュメントがなかったからというのも考えられます。『なんだか使いづらい』の主な理由がどこなのか突き詰めていく必要があります」。

そして最後の工程、<5>「アフターケア」。アプリケーションやシステムの更新などによる実行環境の変化、あるいはテスト環境では動いたのに使用者の環境では動かない、などなどの理由で、完成したと思ったツールは随時更新する必要にせまられる。
「シンプルなシーンでは大丈夫でも、実践的なシーンでは思わぬノード構成になっていたりして動かない、などということはよくあります」。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:伊藤達弘

また実行環境の変化については、アプリケーションのバージョンやシステムの言語設定など、さらにMayaならPyMELのバージョンちがいによって正常だったものが意図しない挙動になることもある。こうしたメンテナンスも、ツールづくりの一環として考えに入れておくことは大切だろう。
実例では「標準のエクストラクトが思ったのとちがう!」、「レンダーレイヤーの中身をわかりやすく閲覧したい!」というテーマのほか、伊藤氏が開発しているMaya用ツールセット「Amaterasu」に内包されているツール群の紹介が行われた。

実演しながら「あ、ここはこうなってた方がもっと使いやすそうですね」などライブにアイデアを出していく場面も何度かあり、ツールづくり自体を楽しんでいる様子も伺えた。
「ツールをつくれるようになると、今度はどんどん楽しくなっちゃって、ツールツールツール......ってなっていっちゃうこともあると思います。でもそんな時は、あくまでも"プログラミングもひとつの道具"だっていうことを思い出しましょう。(アーティストは)画を出すのが仕事、アウトプットするのが本分なので、それを忘れずに制作環境を整えていきたいですね」。

講演の最後には、この会場が初告知だという執筆中の書籍『たっきゅんのガチンコかいはつぶ』の紹介があった。アーティスト職向けのテクニカルな内容で、価格、発売日などは未定。読み進めていくと楽しんでツールづくりを体験できる、というものを目指しているとのことで、リリースされるのを楽しみに待ちたい。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:伊藤達弘

現在執筆中という書籍。どのような本になるのか非常に楽しみ

TEXT_岸本ひろゆき / Kishimoto Hiroyuki
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota



特集