今回は、本連載では初めて、日本に居ながら海外と仕事をされている方にご登場いただいた。バンクーバーのVFX業界で活躍後に日本へ帰国、ILM Sydneyとプロジェクト契約のリモートワークで実写版『モアナと伝説の海』に参加されたという、木村昭太氏にお話を伺ってみた。
メインカット:『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』(Disney+)のエミー賞のトロフィーと木村氏

記事の目次

    Artist's Profile

    木村昭太 / Shota Kimura(Senior Effects Technical Director / ILM Sydney)※2026年4月時点
    神奈川県出身。大学では工学部機械工学科を専攻。在学中に堤 大介監督を取り上げたTV番組『情熱大陸』を観て海外スタジオへの憧れを抱く。卒業後、ニューヨークへ語学留学し、その後、バンクーバーのVanartsに入学。在学中にMPCアカデミーに合格し、卒業後、MPC Montreal(現在は閉鎖)へ入社。その後、Megalis VFX(東京)、Ghost VFX(デンマーク)、Image Engine(バンクーバー)を経て、ILM Vancouverへ。2025年夏に日本へ帰国し、ILM Sydneyに日本からのプロジェクト契約/リモートワークで2026年4月末まで参加した。これまでの参加作品に実写版『モアナと伝説の海』(2026)、『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』(2025)、『デッドプール&ウルヴァリン』(2024)、『ジュラシックワールド/復活の大地』(2025)など
    www.ilm.com/locations/sydney/

    「ずっと日本にいると思っていた」学生時代から海外へ

    ――子供の頃や、学生時代の話をお聞かせください。

    幼少期から大学1年生まで野球をしていました。途中で他の習い事をはじめてはやめ、はじめてはやめ、の繰り返しでしたが、野球だけはギリギリ続けることができました。

    高校を卒業して、なんとなく興味のある工学部機械工学科に進学しました。3DCGとは全く関係ない学部です。海外にも一度も行ったことがなく「今後もずっと日本にいるんだろうな」と思っていました。

    ところが大学2年生の頃、友人にイタリア旅行に誘われて人生で初めて海外に行きました。イタリアが目的地のはずでしたが、一番衝撃を受けたのは経由便で寄ったドバイ空港でした

    人生で初めて経験した「日本人の方が少ない」環境、全く言葉が伝わらず、マクドナルドでさえ何も頼めなかったのを覚えています。その旅行の経験から、外国の人たちともコミュニケーションが取れるようになりたいと思い、独学で英語の勉強をはじめました

    ――留学された時のお話をお聞かせください。

    3月の大学卒業後、カナダのバンクーバーにあるVanartsに合格しました。9月の入学まで時間があったので3ヵ月ほど語学留学としてニューヨークに行きました。クラスメイトたちと遊んだり近くの図書館でおじいちゃんとチェスをしたりと、楽しく過ごしました。マンハッタンは街並みや人がTVで観た通りで、とても刺激的です。毎日すごくビリビリしていました(笑)。

    語学留学の後はVanartsに入学し、待望の3DCGの勉強をはじめました。Vanartsは専門に縛られることなく、全部門のスキルが幅広くカリキュラムに組み込まれています。プロになりスペシャリストとして働くようになった後、Vanartsで他工程についても学んでいたことで助けられました。

    在学中はプログラミングが好きだったこともありHoudiniにのめり込み、FXアーティストとして就職しました。現在はエンバイロンメントやモデリングにもHoudiniが使われていますが、就職当時はほとんどFXに使われていたからです。

    ――海外の映像業界での就職活動は、いかがでしたか。

    最初はMPCモントリオールに就職しました。Sparkというジョブフェアがバンクーバーで開かれていて、リクルーターにデモリールを観せると「MPCアカデミーに参加しないか」という打診をいただき、Houdiniの課題提出と面接を経てオファーをもらうことができました。就労ビザはカナダのワーキングホリデーを使い、1年間、ジュニアFXアーティストとして働きました。

    その後は仲間たちと制作した作品をLinkedInで発信していくうち、リクルーターが連絡をくれるようになったので、自分から応募したのは、MPCとImage Engineの2社だけです。

    面接では、自分が「クリエイティブ寄りなのか」、「テクニカル寄りなのか」という自己分析を求められます。クリエイティブは「絵づくりが得意」、テクニカルは「プログラミングを使って作業の効率化が得意」ということです。僕の場合はクリエイティブ6:4テクニカルくらいかなと分析しています。日頃から自分はどちらなのだろうと考えておくと、面接で聞かれた際に答えやすいかもしれません。

    ▲日本からのリモートワークの様子

    日本からリモートで参加した実写版『モアナ』

    ――ILMはどんな会社でしょうか。簡単にご紹介ください。

    Megalis VFXに在籍していた頃にILM出身のアーティストが何人かいました。皆とてつもなく優秀で、当時2年目だった僕にとってはいきなりラスボス達に囲まれたようなものでした。

    彼らと仕事していくうちに「自分もILMを浴びたいな」と思っていたので、入社した時は感慨深かったです。ILMでは進捗確認で目にするもの全てがカッコよくて、特にコンポジット後のクオリティが高く、毎日、各ショットを観るのがすごく楽しかったです。

    2025年夏に日本へ帰国し、リモートワークでILMシドニーとプロジェクト契約という形で仕事をするようになりました。リモートで参加した作品に実写版『モアナと伝説の海』があり、水のエフェクト制作で携わっています。『ジュラシック・ワールド/復活の大地』(2025)の水のシミュレーションの経験から、『モアナと伝説の海』でも海のシーケンスを担当しました。ここ数年はかなり良いショットも担当でき、作品に貢献できている実感があり満足度の高い環境でした。

    リモートワークは契約形態がプロジェクト毎なので、また機会があればILMのプロジェクトに参加できると良いなと思っています。

    『モアナと伝説の海』

    7月31日(金)公開
    監督:トーマス・ケイル
    制作:リン=マニュエル・ミランダ
    キャスト:キャサリン・ランガイア / ドウェイン・ジョンソン
    オリジナル・サウンドトラック:ウォルト・ディズニー・レコード
    配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
    www.disney.co.jp/movie/moana-movie
    © 2026 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

    ――最近参加された作品について、印象に残っているエピソードを教えてください。

    実写映画『モアナと伝説の海』は、ディズニーの長編アニメーションのリメイクです。ですからリファレンスが、皆さんのよく知る“あの”モアナでした。水の表現や表情はオリジナルのアニメに寄せつつ、スケール感やディテールを実写にするという、かなりトリッキーなアプローチが多かったので、印象的なプロジェクトになりました。

    『モアナと伝説の海』日本版本予告編
    © 2026 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

    ――現在のポジションの面白いところは何でしょうか。

    エフェクトは爆発、炎、水、魔法など派手な印象がありますが、まれに「メデューサの蛇の髪、納豆、ハリーポッターのディメンターみたいなクリーチャーをプロシージャルでつくってくれない?」というような、イレギュラーなタスクが舞い込んできます。

    他の部署でつくると時間がかかりすぎるものを効率化して、コントロールしやすい方法で映像化する方法を考えるのもエフェクトの仕事です。この部分がとても楽しいなと感じています。

    ――日本からリモートワークされているそうですが、便利な点や不便な点、面白い点などをお聞かせください。

    バンクーバー時代から出社とリモートワークのハイブリッドで、日本からのリモートはシステム的にはバンクーバー時代と全く同じだったので、不自由なく作業できています。

    チームメンバーと直接顔を合わすことができないのは寂しいですが、日本ではちょっと出かければ美味しいご飯にありつけますし、遊ぶ場所もたくさんあるので、日本で生活しながらILMと仕事するというのはとてもメリットが大きいと感じました。

    シドニーとの時差はサマータイム時期は2時間ですが、それ以外は1時間なので業務時間も特に支障はありません。

    ――英会話のスキル習得はどのようにされましたか?

    人生で初めて行ったイタリア旅行がターニングポイントだったとお話しましたが、その旅行から帰ってすぐに英語の勉強を始めました。まず、大学入学時にTOEICを受けて、適当にマークして200点台レベルからのスタートでした(笑)。

    3ヵ月ほど単語と文法を勉強して710点まで持っていったのですが、それでも話せるようにはなりませんでした。そこでインプットはやめて、大学にあったEnglish Loungeという外国の方とテーブルを囲んで話せる場に週1、2回行くことで、少しずつコミュニケーションが取れるようになっていきました。

    その後、語学留学、Vanarts、各スタジオと経験していく中では、英語にも慣れていきました。それが僕にあったやり方だったのかもしれませんが、中学生レベルの英語力だけインプットしたら、あとは実際に使うのが一番良いと思います。英語力は、海外に行ってからなんとかなると思います。

    ――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。 

    皆さん、英語力だったり技術力だったり金銭面だったりと心配事があると思います。僕もチャレンジした時には、かなり悩みました。

    当時、何人かの大人に相談して一番僕に刺さった言葉が「出来なかったら、好きじゃなかったってことだね」と言われたことです。3DCGが好きだなと思っていたし、それを肯定するために頑張ろうと気合が入りました。

    もし海外で働きたいのであればとにかく応募してみてください。失敗してもリールを更新すれば、またチャレンジできます。大抵のことは壁にぶつかってから対策しても間に合うので、本当に勇気が入りますが自分の望む会社にチャレンジしてみるのが良いかなと思います。

    技術や経験もそうですが、世界中から同じようにチャレンジしてる人たちがいます。その人たちとは最高の仲間になれるので、そういった意味でも勇気を出す価値はあると思います。

    同僚の皆さんとボルダリング

    【ビザ取得のキーワード】
    ①4年制大学を卒業
    ②カナダのワーキングホリデー制度を利用して就職
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    ④CPTPP※を活用してカナダの就労ビザを取得
    環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP):日本人は一定の条件を満たせば比較的短期間でカナダの就労ビザの取得が可能

    連載「新・海外で働く日本人アーティスト」では、海外で活躍中のクリエイター、エンジニアの方々の海外就職体験談を募集中です。

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    TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
    ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
    公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
    EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada