■<3>Unreal Engine 4 によるリアルタイム合成
リアルタイムで実写と3DCGを馴染ませる
最終的な結果として、V-RayとUnreal Engineでほとんど同様の結果が得られている。もちろんここまで来るには様々な苦労や工夫があったのだろうが、かなり高い精度で色のマッチングが行われている。「物理ベースで各工程を統一することで、見た目ベースで合わせるのではなく、定量的に合成というものを捉えて『全て理論値で合うはずだ』というものをつくったんです。そうすることでリアルタイムに全てが馴染むという結論が出ました」と尾小山氏。ここまで来てしまえば、後はこれをブラッシュアップしていけば、今後より現実感のあるものをリアルタイムに作成することができるようになる。すなわち、リアルタイムVFXの手法が確立していくはずだ。なんといっても今回のワークフローは、既存のVFXのワークフローをそのままリアルタイムに置き換えることが可能なため、今まで培ってきたノウハウも活かせ、またインタラクティブなものをつくることが可能なので、表現の幅もかなり広がる。きわめて大きな可能性を秘めているのだ。
・UE4によるインタラクティブ化
プリレンダーであるV-Rayで作成された『THE WORLD'S END』とUnreal Engineでインタラクティブ化された作品『Horizon』とを比べると、ほぼ同じ結果が得られているのがわかる。課題としてこういったゲームエンジンは「映像素材や写真素材の扱いが苦手な部分がある」とのこと。これまでリアルタイムに動かす上で、こうした部分のニーズがあまりなかったためだろうが、今後の動向によっては変わってくる可能性もある。「インタラクティブに動かすことができる=データの効率化がキモ」という図式は当分変わらないだろうが、こちらも昨今の技術進化をみていると、筆者としてはニーズさえあれば解決は時間の問題のような気がしている。
<mini column>
リアルタイムVFXの未来とは?今回の取材では尾小山氏に様々な話を聞いたが、最後にこのリアルタイムVFXが今後どのように発展していくかについても話してもらった。「僕はこれが必ず表現の未来につながると思っています。VFXがリアルタイムで行えるということは、今までのVFXのワークフローをそのままリアルタイム化することができて、よりリアルな"体験"というものをコンテンツとして生み出すことが可能になるということです」と語る尾小山氏。現時点でのVRなどのコンテンツはひと昔前に比べれば格段に進歩してはいるが、まだまだリアルとは遠いものが多い。しかし、「物理ベース」という技術が3DCG全体に普及した結果、さらにリアルに、しかもシーンリニアワークフローが組み込まれることによって、より合成感の少ないものに仕上げることが可能というのが、今回のこの試みで確認できたわけだ。
ひとつ付け加えるとリアルタイムにVFX合成ができるというのは、決して「映像制作の効率化」を求めたものではなく、まったく新しい"体験"を提供するコンテンツを生み出す可能性がある技術だということだ。例えば、視聴者自身が映画の主人公を操作して、その操作によって状況が変化していく「疑似体験」を得られるコンテンツを生み出すことも可能になる。現時点ではシンプルなシーンで実験されているが、「これをどういった演出手法でコンテンツ化していくか」というR&Dはこれから始まる。「ヴァーチャルな体験をパッキングすることがVRの最終的なかたちであって、コンテンツを見た後にそれを体験した気持ちになるかどうかというのがすごく重要です。体験を上げるためによりインパクトのあるカットとして没入できるシーンがあるはずなんだと。その表現手法を今、模索しています」。
これは今後ハードウェアが進化し、パススルーカメラ(見たものを一度カメラで捉えて、実際見ているものに処理、合成をするハードウェア・ヘッドマウントディスプレイ)でリアルタイムに3DCGが合成できるようになったとき(いわゆるARがVFXレベルでできる!)、さらに大きな進化が起きるにちがいない。「昨今の技術進化のスピードを考えると、それはもうすぐそこまで来ている」とのことで、これからの発展が非常に興味深い。
TEXT_草皆健太郎 / Kentaro Kusakai(Z-FLAG)
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)
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VR+シーンリニアワークフロー発想で実現されるリアルタイムVFX
【Stuff】
前列右より、CGアーティスト:許 秋子氏、ディレクター:尾小山良哉氏、ディレクター・CGアーティスト:山田詩音氏、中列右より、テクニカルアーティスト:宮澤 舞氏、CGアーティスト:天川貴弘氏、プログラマー:神田健斗氏、スーパーバイザー:松尾 隆氏、後列右より、プロデューサー:廣羽裕紀氏、アシスタントプロデューサー:太田悠介氏、テクニカルアーティスト:ロビナ・ロケロ・トマース氏、コンポジター:安 優輔氏(以上、wise)
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