
「映像制作や展示コンテンツにUnreal Engineを使っているけど、これって本当に無料のままでいいの?」 そんな疑問を抱えるクリエイターに向けて、最新版のライセンス体系を徹底解説。
2024年にリリースされたUnreal Engine 5.4では、従来のライセンス体系が大きく見直された。ゲーム開発のみならず、映像制作や建築、製造など多様な分野で活用されているUEにおいて、「どこまでが無料で、どこからが有料なのか」という線引きが、より明確に、かつ細分化された形で提示されている。
本記事ではEpic Games Japanの杉山明氏にインタビューを実施。 「ロイヤリティ制」と「シート制」の違いから、100万ドルルール、ノンゲーム用途の具体例まで、映像系・産業系クリエイターが押さえておくべきポイントをわかりやすく整理している。
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基本情報
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UE5 ライセンシング UE5に関するFAQ▼Unreal Engine 5.4以降のライセンス体系
CGWORLD編集部(以下、CGW):本日はよろしくお願いします。まず、Unreal Engine(以下、UE)のバージョン5.4以降、ライセンス体系にどのような変更があったのか教えてください。
杉山 明氏(以下、杉山):前提として、UE5.4がリリースされた2024年4月下旬から、新しいエンドユーザーライセンス契約書(EULA)が適用されています。これによって、UE5.3以前と比較して、EULAに基づいたシートライセンスが必要になるケース、これまでは無料だった用途でもシートライセンスの購入が必要になる場合があるのです。

杉山 明氏
Epic Games Japan
Business Development Director
杉山:簡単に言えば、Unreal Engineをどのような目的で使うか、そしてその利用者が所属する企業の年間総収益がどのくらいかによって、ライセンスの種類が変わってくる、という考え方がより明確になった、ということです。
CGW:具体的にはどういったケースでライセンスが必要になるのでしょう?
杉山:こちらの表を見てください。最終行の「シート」について、ゲーム開発以外の分野、いわゆる「ノンゲーム」領域ですね、特定企業向け受託開発、リニアコンテンツ(静止画・動画)、カーコンフィギュレーター、テーマパークやアーケードゲーム、社内プロジェクトでのUE5活用において、シートライセンスの適用範囲が広がっています。

CGW:なるほど。この部分は従来無料で利用できたところなのですね。
杉山:そうですね。この変更は、UEがゲーム開発ツールとしてだけでなく、多様な産業で活用されるようになった現状に合わせたものです。ここに記載されている「Unreal サブスクリプション」とは、私たちが提供するUEやTwinmotion、RealityScanといったツール群を統合的に利用できる年間サブスクリプションです。これらのツールを一体的に利用するユーザーにとっては、より包括的なソリューションを提供できるようになったと言えます。
CGW:ゲーム以外のコンテンツで開発・制作にUEを使用する場合は、基本的にはシートライセンスを検討する必要がある、という認識で良いでしょうか?
杉山:はい、大まかにはその認識で大丈夫です。特に「何をするか」という用途が重要で、UEを使ってゲーム以外のことを商用でやるのであれば、原則としてシートライセンスが必要になる、と考えていただくとわかりやすいと思います。
▼ロイヤリティベースとは?
CGW:全体像は理解できました。まずは2種類のライセンス形態、「ロイヤリティ」と「シート」について大まかに理解したいと思います。まずは「ロイヤリティ」について教えてください。
杉山:ロイヤリティベースのライセンスは、主にUEで開発されたゲームや、エンジンコードをランタイムに含むアプリケーションを、エンドユーザー(不特定多数の第三者)に配布することで収益を上げる場合に適用されるものです。
ロイヤリティの大きな特徴は、開発や制作段階では費用がかからず、実際に製品がリリースされ、収益が発生した段階でロイヤリティをお支払いいただくという点です。
CGW:収益をEpic Gamesにも分配するタイプのライセンスですね。
杉山:その通りです。

▼シートベースとは?
CGW:続いてもうひとつのライセンス、「シート」について教えてください。
杉山:シートベースとは、UEを商用利用する際に、主にロイヤリティが発生しない種類のプロジェクトに適用されるライセンスです。このライセンスは、UEを使用する「人数」に基づいて費用が発生します。つまり、UEのエディタを操作したり、UEを使ってコンテンツを開発したりする開発者やアーティストの人数分のシートライセンスが必要になるわけです。
CGW:「シート」はUEを使用する「人数」に応じた費用ですね。
杉山:その通りです。
▼「年間総収益が100万ドルを超える」とは?
CGW:シートライセンスの条件である、「年間総収益が100万ドルを超える」とはどういう状況なのか教えてください。
杉山:この100万ドルは、「会社全体の年間総収益」、つまり「売上(※収入には受け取った前払い金やその他の調達資金が含まれます)」を指します。利益ではありません。日本円に換算すると、最近のレートではおおよそ1億4千万円~1億5千万円が目安になります。
重要なポイントは、この基準が「会社全体」で判断されるという点です。UEを使った開発を行う特定のチームや部署だけの売上を見るわけではなく、UEとは直接関係のない部署の売上も含めて、企業全体の年間総収益を見ます。
CGW:グループ会社がある企業の場合はどう計算しますか?
杉山:親会社や子会社といった資本関係がある場合、子会社がまだスタートアップでUE関連の売上が100万ドルを超えていなかったとしても、親会社を含むグループ全体の年間総収益が100万ドルを超えていれば、シートライセンスの対象となります。
CGW:ふと思ったのですが、「100万ドル」という数字は、このシートライセンスの年間総収益ともうひとつ、ロイヤリティが発生するゲーム製品の売上基準であるライフタイム総収益でも出てきますが、このふたつは似て非なるものなのですね。
杉山:その通りです。改めて整理しますと、ゲーム製品は売上基準であるライフタイム総収益が100万ドルを超えた場合にロイヤリティが発生します。
そして主にノンゲーム用途では、企業全体の年間売上が100万ドルを超えた場合に、「人数」に応じたライセンスであるシートライセンスが必要になる、ということです。
CGW:よく理解できました。
▼ロイヤリティの対象と計算方法
CGW:少し突っ込んだところを伺っていきます。まずは「ロイヤリティ」について、対象となるコンテンツと計算方法について教えてください。
杉山:ロイヤリティが発生する主なケースは、UEを使って開発した「アプリケーション」が、「UEのソースコードを内部に含んで」いて、それを「不特定多数の個人や企業に配布(販売)」し、その配布から「収益(マネタイズ)を得る」場合です。この収益は、販売による直接的な売上だけでなく、アプリ内課金、広告収入など、アプリに直接ひも付くものも含まれます。
CGW:なるほど。対象となるアプリはゲームだけでしょうか?
杉山:いえ、ゲームのほかに、UEのランタイムコードを含むVRアプリをSteamで有料配信する場合ですとか、UEのピクセルストリーミング技術などを利用して、Webブラウザ経由でユーザーがコンテンツを操作できる有料サービスなども含まれます。
CGW:どのような計算方法で算出されますか?
杉山:そのUE製の製品から発生するライフタイム総収益が100万ドル(約1億4千万円~1億5千万円)を超えた部分に対して、5%をお支払いいただく形になります。この100万ドルのしきい値は、個々の製品ごと、つまりゲームであればそのゲーム単体の売上について計算されます。
例えば、無料のアプリであっても、アプリ内課金や広告収入など、アプリに直接まつわる収益が発生するような場合もロイヤリティの対象となります。例えば飲料メーカーがUEで販促用のアプリを開発・頒布したとして、それが飲料メーカーの販売には繋がったとしても、アプリ自体から直接収益を得ていない場合、ロイヤリティは発生しません。しかし、アプリが有料であったり、アプリ内課金や広告収入があったりする場合は、ロイヤリティの対象となり得ます。
CGW:UEで開発したゲームやアプリがユーザーが利用することで開発や販売側に収益が発生するならロイヤリティの対象になる、と。
杉山:そうです。もうひとつ、UEのソースコードがそのアプリに含まれているかどうかも、ロイヤリティの発生条件を判断する上で重要なポイントになります。ソースコードが含まれていて収益化されていると、ロイヤリティの対象になります。
CGW:例えば、ゲームセンターにあるアーケードゲームが、後から家庭用ゲーム機やPC向けにもリリースされる場合はどうなりますか?
杉山:良い質問ですね。アーケードゲーム自体は「ロケーションベース」という分類になり、後述するシートベースの対象となるのでロイヤリティは発生しません。しかし、そのゲームを家庭用ゲーム機やPC向けにリリースする場合、それは通常のゲーム製品として扱われるため、売上に対してロイヤリティが発生します。つまり、同じUEを使っていても、提供方法によってライセンス形態が変わるのです。
CGW:このロイヤリティの考え方は、UEのバージョンが5.3以下でも同様ですか?
杉山:はい、その通りです。例えば、ドローン飛行シミュレーターをUE5.2で開発して不特定多数に販売して収益を得るならば、それはロイヤリティの対象です。バージョンに関わらず、「UEのコードを含んだアプリを不特定多数に配布し、収益化しているか」が判断基準となります。
▼シートベースの対象となる用途
CGW:続いて「シートベース」を掘り下げます。どのような用途がシートベースの対象になりますか?
杉山:先ほどの表で「Unreal サブスクリプションが必要」と記載された、5つの用途が対象になります。

■カスタムアプリケーション
杉山:まずは「カスタムアプリケーション」、特定企業向け受託開発です。特定のクライアントや企業のためにUEでアプリケーションを開発し、その成果物を納品するケースですね。
CGW:具体的にはどういうケースでしょう。
杉山:例えば、自動車メーカー向けに特定の車種のインタラクティブな展示アプリを開発したり、工場向けのシミュレーションツールを構築したりするような場合です。このようなアプリは不特定多数に配布されるわけではなく、特定の1社にのみ提供されるものですから、ロイヤリティは発生しません。その代わり、開発する人数分のシートライセンスが必要になります。
CGW:なるほど。例えば、フリーランスがA社から受託してUEで開発を行う場合はどうなりますか?
杉山:その場合、フリーランサー自身の年間総収益が100万ドル未満であれば、納品先の企業が100万ドルを超えていても、フリーランスの方は無料でUEを使用できます。重要なのは「UEを使う人」の条件です。
■非エンジン開発
CGW:なるほど。よくわかりました。次の用途は「非エンジン開発」です。
杉山:「非エンジン製品」、リニアコンテンツ(静止画、動画)とは、UEのソースコードが最終的な成果物に含まれていないコンテンツのことです。UEで作成した3Dモデルや静止画、動画(プリレンダリングのアニメーション、企業紹介動画、建築パースなど)がこれに該当します。
CGW:CGデザイナーがUEでレンダリングしたコンテンツもこの用途に含まれますね。
杉山:その通りです。その他、アニメスタジオや建築ビジュアライゼーションスタジオがUEで映像を制作する場合もこれに該当します。
■間接収入
CGW:次は「間接収入」です。
杉山:「間接収入」とは、Webサイトやクラウド上でUEが動作し、それを通じて間接的に収益が発生するタイプのアプリケーションのケースです。代表例が自動車のオンラインコンフィギュレーターです。ユーザーがWeb上で車体のカラーやパーツをカスタマイズして見積もりが出せるシステムのことですね。このアプリ自体は有料ではありませんが、車の販売に繋がることで「間接」的に収益を生む用途となりますので、シートライセンスが必要です。
■ロケーションベース(ゲームセンター・博物館での展示)
CGW:よくわかりました。次は「ロケーションベース」です。
杉山:先ほども話題に出たアーケードゲームやテーマパークなどを「ロケーションベース」としています。博物館や美術館でのインタラクティブな展示などもこれに該当しますね。これらでは、UE製のアプリケーションは特定の場所で体験されるもので、エンドユーザーに対して直接配布されるわけではありません。そのため、ロイヤリティは発生せず、開発者や運営に関わるUE使用者に対してシートライセンスが必要になります。
■社内プロジェクト
CGW:最後が「社内プロジェクト」です。
杉山:これは、企業がUEを社内ツールとして利用する場合のシートライセンスです。例えば、社員がCADデータをUEでビジュアライズするためのアプリを開発したり、工場内のラインシミュレーションを行うためのツールを開発したりする場合などが該当します。社内利用が目的であっても、企業全体の年間総収益が100万ドルを超えていればシートライセンスの対象となります。
CGW:例えば、企業内でUEのスキル研修を実施する場合はどうなりますか?
杉山:企業がUEのスキルアップを目的に研修やトレーニングを行う場合も社内利用、業務用途と見なされます。ただ、UEには30日間の無料体験版がありまして、それを利用して、無料で社内での検証や既存ファイルの動作確認を行うことは可能です。
■プラグイン
CGW:ちなみに、表の右端列「プラグイン」ではシートライセンスは不要なのですね。
杉山:はい、必要ありません。さらに補足すると、UE用のプラグインを開発して、プラグイン自体にUEのソースコードが含まれていない限りは、ロイヤリティもシートライセンスも不要です。社内向けでもFab(旧マーケットプレイス)でも、自社サーバーで販売されるものであっても同様です。ちなみに、Fabで販売される場合は、販売収益の88%が開発者に、12%がEpic Gamesに分配されます。
CGW:全体像がよく理解できました。ゲーム以外のコンテンツでUEを開発ツールとして使うなら基本的にシートライセンス。ゲーム開発をしていても、その会社が映像制作もUEでやるなら、やはりシートライセンスが必要になる、ということですね。
杉山:その通りです。同じ人が作業していても、その作業が「ゲーム内のコンテンツ」をつくるのか、「ゲームとは別の販促物」をつくるのかでライセンスの考え方が変わるという、やや複雑な側面もあります。この点、特に外部の制作会社に依頼する場合に顕著になりますので、注意が必要です。
CGW:とてもよく理解できました。本日はありがとうございました!
TEXT__kagaya(ハリんち)