>   >  日本にもVRの波が本格的に到来。開発環境はどのように変化する?「Japan VR Summit」レポート
日本にもVRの波が本格的に到来。開発環境はどのように変化する?「Japan VR Summit」レポート

日本にもVRの波が本格的に到来。開発環境はどのように変化する?「Japan VR Summit」レポート

<4>VRコンテンツ制作の課題

VRコンテンツ制作の課題として真っ先にあげられたのが「VR酔い」に対する対策だ。これについては「フレームレートが低かったり、途中で変動すると酔いやすい」、「予測に反する動きが行われると酔いやすい」、「カメラが高速に移動すると酔いやすい」などと、徐々に知見が集まりつつある。しかし、伊藤氏は「固定概念に凝り固まる必要はなく、工夫次第で切り抜けられる余地もあるのではないか」という。

クリエイターの前に立ちふさがるさまざまなVRコンテンツ制作の壁

例として示されたのが、伊藤氏がOculas RiftとOculas Touchで自主制作中だという、ビル群を高速で飛び回る主観視点のアクションゲームだ。一般的には酔いやすいとされるデザインだが、実は「酔いにくい」のだという。そのポイントは両手の操作に合わせてビルに射出されるワイヤーの存在で、これが移動方向に対するガイド役をはたすため、酔いが低減されるのだとか。このように、VRコンテンツに関してはまだまだ「発明」の余地が残されているという。

ユニティ/伊藤氏が個人的に開発中だというVRゲームコンテンツより、ビルの壁にワイヤーを射出して高速に街中を飛び回るデモの様子。このような奥行き方向の移動であれば、ダイナミックな動きでもVR酔いは少ないという

下田氏もカメラを等速でゆっくり移動させた「Showdown」、銃はリアルな反面、手は半透明にして違和感を低減させた「Bullet Train」など、技術デモを開発する過程で判明した知見やノウハウを紹介しつつ、まだまだ試行錯誤の段階だとした。橋本氏も「誰かが新しいやり方を発明した瞬間に、そのタイトルが大ヒットして、スタンダードなやり方になる可能性がある」と指摘した。

<5>VRコンテンツの最適化

「VR酔い」の問題とも絡んで、重要な課題となるのがフレームレートの死守だ。そのためにはプラットフォームごとの最適化が課題となる。Unity、Unreal Engineの双方で、GPUやCPUのプロファイリング機能などは備えている。しかし、ゲーム開発では限られたスペックでできるだけ高負荷な表現を行うのが一般的だ。しかも可変ではなく、固定で90~120FPSなど非常に高いフレームレートを実現するには、相応の最適化機能が求められる。

ここで西川氏はAMDが行なっている「VR専用ベンチマーク」について紹介した。これはSteamでVRコンテンツをリリースする際、AMDが事前テストでコンテンツのスコアを算出するというもの。これによって開発者はPCの最低環境と推奨環境を表示できる。その上で西川氏は「現状のVRコンテンツには画質や解像度を調整できるものがほとんどない。一般的なPCゲームのように、これらを調整できるようにしてはどうか」というアイディアが出された。

西川氏が披露したAMDのVR技術開発に関するスライドより。AMDではVRをPC、スマートフォンに続く第3の波ととらえ、様々な研究開発を行なっているとのこと

橋本氏は「ゲームエンジン上でスケーラブルな対応ができれば望ましい」と賛同。下田氏・伊藤氏も同様の機能があるが、改善の余地があるとした。また伊藤氏はUnityのヒートマップ機能の応用というアイディアを示した。Unityではプレイログをサーバ上で集約して、プレイヤーがキルされやすい場所などを示す機能がある。これと同じように、フレームレートが落ちやすい場所を集約して明示できれば、修正に役立てられるのではと語った。

また西川氏は「ソフトウェアだけでなくハードウェアの改善も重要」だという考え方を示した。その上で完全な没入感を得るには、現状のゲーミングPCで一般的な「90fps、2K解像度(1,980×1,080ピクセル)、10ミリ秒以下のレイテンシー、8TFLOPS」というハードスペックでは力不足で、「144fps、16K解像度(15,360×8,640ピクセル)、ゼロレイテンシー、743TFLOPS」レベルが求められるという見方を示した。

VRの再生環境には、最終的にはスーパーコンピュータ並のハードスペックが求められるという

もっとも過去の進化に即せば、10年以内にそうしたスペックに到達するはずで、逆にいえばそのレベルまででハードウェア面でのVRの進化は続くという。すでに両眼で5,120×1,440ドットの超高解像度をほこるHMD「StarVR」などが開発中で、今後も次々に高性能なHMDが登場してくるとのこと。橋本氏も「これからVRコンテンツを作る場合は、数年後のハードウェアの進化を見こして開発することが重要だ」と指摘した。

4Kそして8Kへと、HMDの進化も日進月歩で進められている

これには伊藤氏も同感で、「今ハイエンド向けに作っているアセットも、数年後にはローエンド向けになると考えた方が良い」とコメント。最初に3Dスキャナで高精細なデータをキャプチャしておき、それを段階的にローエンドに変換して使用するなど、アセットの作り方も大きく変わるのではないかと語った。下田氏もまた3Dスキャンや、大量のデジタル写真からの3Dデータ合成といった手法が重要になるとした。

<6>注目のVR領域

最後に議論されたのが、これから注目されるVR領域だ。現在はVRゲームが先行しているが、FacebookのOculas Rift買収に代表されるように、さまざまな可能性が議論されている。これについて伊藤氏はVRでイベントを開催するプラットフォーム「cluster.」を例に、コミュニケーション分野が熱いと語った。「cluster.」はUnityの技術カンファレンス「Unite 2016 Tokyo」の基調講演でもVR中継用に使われた経緯があり、要注目だという。

cluster. - Virtual Meet-up Platform (Demo Trailer #1)

下田氏はUnreal Engineの建築・自動車・トレーニング分野などでの活用事例が増えていることをあげ、B2CだけでなくB2B分野も注目するべきだと語った。実際にこれらの分野では現実感の高いフォトリアルなVRコンテンツが求められており、Unreal Engineのレンダリング能力が高く活かせる分野だという。具体的にはIKEAAudi、さらにはNASAのシミュレーションコンテンツなどで活用されている。

最後に西川氏は視点を変えて、中国市場の過熱ぶりについて指摘した。日本と異なり中国ではPC房(インターネットカフェ)を拠点にネットビジネスが拡大した経緯があり、ここにVR向けHMDの導入が進んでいるという。「中国市場はAMDとしても注目している分野。日本市場だけでは見通しが不明瞭だが、まず海外市場を前提にVRコンテンツをつくってみては」とアドバイスした。

最後に橋本氏は「VRは技術革新がもっとも早い分野のひとつで、開発環境もどんどん変化していく」とコメント。中でもVRエディタについては、マウス・液晶タブレットに並ぶ第三の入力デバイスとして、幅広く浸透する可能性があるのではという。伊藤氏・下田氏・西川氏も製品のロードマップを示しつつ、こうした変化にしっかり対応して、VRコンテンツ開発をサポートしていきたいと抱負を語った。

  • 「Japan VR Summit」

    開催日:2016年5月10日(火)
    場所:The Grand Hall(Shinagawa)東京都港区港南2-16-4 品川グランドセントラルタワー 3F
    主催:グリー株式会社、一般社団法人VRコンソーシアム
    jvrs.org/ja

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