>   >  デジタル作画の最新事例が集結! アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2018 レポート
デジタル作画の最新事例が集結! アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2018 レポート

デジタル作画の最新事例が集結! アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2018 レポート

<2>アニメーション制作のデジタル化は着実に進んでいる

Session 03:スタジオ雲雀

株式会社スタジオ雲雀の講演ではプロデューサー・宮﨑裕司氏、アニメーター・黒澤桂子氏、システム管理者・齋藤成史氏が「フルデジタル制作環境への取り組み」と題して登壇した。スタジオ雲雀は2017年に週刊ヤングジャンプ連載の漫画を原作としたTVアニメ『潔癖男子!青山くん』でフルデジタル作画での制作を実現した。同社では動画工程に関しては3年前からデジタル化への移行が完了していたというが、レイアウト・原画のフルデジタル化は今作が初めてだという。フルデジタル作画に踏み切るきっかけは「制作進行の仕事をとにかく変えたかった」ことにある、と宮﨑氏は語る。


写真左から 齋藤成史氏(システム管理者)、宮﨑裕司氏(プロデューサー)、黒澤桂子氏(アニメーター)


『潔癖男子!青山くん』(2017)における制作ワークフロー

今作における制作進行の仕事の変化としては、まず紙の原画・動画素材を運搬するためのクルマの運転が完全になくなったことが大きいという。深夜の外回りが発生しないため、夜は帰宅できているとのこと。またいったん撮影されムービーになったカットのリテイク作業も、仕上げデータの上に直接作画監督の修正を入れて色塗りもできるため、かなり効率的になったという。さらにデジタル作画のトレーニング方法として、お皿に盛られたスパゲッティの原画をトレスする「スパゲッティメソッド」という同社独自のユニークかつ合理的な手法が紹介された。

「スパゲッティメソッド」の解説の様子

また、管理ツールとしては、Google Driveの企業向けオンラインストレージツールであるG Suiteを使用しており、大幅な効率化を実現しているという。フルデジタル化に伴って新たに出てきた問題点としては、ひとりでも紙で描きたいという人が出てくると負担が増してしまう点とのこと。作画スタッフ全員のワークフローを一致させる必要があるため、デジタルでやると決めたら全員が覚悟をもって最後までやり抜くことが最も重要だと語った。


Google Drive上での進捗管理の様子

Session 04:シンポジウム

メインセッションのしめくくりに、りょーちも氏、宇治部正人氏(株式会社デイヴィッドプロダクション/作画室長)、盧 国華氏(株式会社暁/代表取締役社長)、 清積紀文氏(ねこまたや/アニメーター・システム開発)、齋藤成史氏をパネリストに迎え、「デジタル作画はアニメーション制作に本当に必要なのか!?」というテーマでシンポジウムが開かれた。

今回各セッションの講演で共通して語られていた「デジタル化によって制作進行の業務が大幅に効率化される」という点。それについて齋藤氏は「紙による作画が全て悪いのではなく、紙でやることによって副次的に発生する作業が制作進行の主業務になってしまっていることが、制作進行の能力を落とす原因にもなっている。制作進行から演出やプロデューサーを目指す人もいて、その人たちのキャリアパスも含め、デジタル化によって本来やらなくていい雑務をなくすことで、その時間帯をよりクリエイティブな作業に使えるため、人材育成の面でも改善されていくのではないか」と語った。


盧氏が社長を務める暁は、デジタルでの海外動仕、二原動仕の仕事も引き受けており、その盧氏が画面上に出した、ここ3年間のデジタルとアナログの仕事の受注割合を表したグラフがとても興味深かった。デジタル動仕事業を始めた3年前はほとんどアナログでの受注しかなかったが、2017年の6月あたりを境にデジタルでの仕事の依頼が一気に増え、現在では取引のある100数社のうち32社からデジタル動仕の依頼を受けているとのこと。これに対してモデレーターを務めた轟木保弘氏(ACTF事務局・株式会社ワコム)は「"キヤズム"という言葉があるのですが、30%というのはマーケティングの面からみてもひとつの目安になっている数字です。新しい製品や技術が出てきたとき、そのシェアが30%を超えたあたりから一気にスタンダードに上がってくることが多いのですが、まさにそれに近い数字になってきています」と語った。アナログからデジタルへの移行というのは敷居が高く、なかなか業界全体での変化は実感しづらいが、実際のデータで見ると着実に進んでいることが示されたと言える。


暁の受注案件におけるアナログ・デジタルの割合を示したデータ



  • アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2018
    日時:2018年2月10日(土)
    場所:練馬区立区民・産業プラザCoconeriホール
    主催:文化庁、一般社団法人日本アニメーター・演出協会(JAniCA)、ACTF事務局
    共催:株式会社ワコム、株式会社セルシス
    www.janica.jp/course/digital/actf2018.html

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