今年で第4回となる、文化庁、一般社団法人 日本アニメーター・演出協会(JAniCA)、ACTF事務局主催の「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2018」が、去る2月10日(土)に練馬区立区民・産業プラザCoconeriホールで開催された。当日の会場ではメインセッションである制作プロダクションの講演のほかに、各種制作ソフトのセミナーなどが行われ多くの業界関係者が集まった。

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EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

<1>BlenderやDropboxなどを導入したアニメーション制作フロー

ACTFは、近年アニメーション制作現場で普及が進んでいるデジタル作画ツールや制作に関わる最新の技術をどのように運用し、未来を切り拓いていくかということを主題に置き、実際にそういったツールをワークフローに導入している制作会社の講演や展示を通して、その知見を業界内に広く共有することを目的としている。本記事ではメインセッションで講演された各制作会社のデジタル作画ツール導入事例を中心にレポートしていこう。

Session 01:エクスペリメントラボ(仮)

メインセッションにまず登壇したのは、りょーちも氏(作画/演出/監督)、塚原重義氏(アニメーション作家)、迫田祐樹氏(トワフロ合同会社/企画ビジネスプロデューサー)、大串真央氏(株式会社ツインエンジン/アニメーションプロデューサー)の4名によるプリプロ主軸のアニメクリエイティブラボ、エクスペリメントラボ(仮)「Blenderをプリビズで活用するワークフロー紹介と、従来のメディアやフレームにとらわれずアニメ制作を発想していく方法について」と題し、オープンソースの3DCGソフトであるBlenderのアニメーション制作への導入について講演を行なった。


写真左から 塚原重義氏(アニメーション作家)、迫田祐樹氏(トワフロ/企画ビジネスプロデューサー)、りょーちも氏(作画・演出・監督)、大串真央氏(ツインエンジン/アニメーションプロデューサー)

まず、Blenderで有用な機能として「グリースペンシル」という3D空間に直接絵が描けるツールを紹介。グリースペンシルはサーフェス上にも線を描くことができるため、原画マンがBlenderでちょっとした人型のモデルをつくりリグを入れて、そのモデルに直接目などのアタリを描いて動きを付ければ、それをそのままレイアウトのガイドにすることができる。


Blenderのグリースペンシルを使用してシンプルなモデルに目と口を描き込む様子

またパッと描いた作画レイアウトの画像を出力し、Blenderの3D空間に読み込んで配置することもできるため、例えばクルマの動きなどこれまで3DCGの作業者にまかせていたような3D空間上の細かい動きまで原画マンが付けられるようになり、より原画マンのイメージに近いカット制作が可能になるというわけだ。


会場の様子

現在これらのハイブリッドな制作技術を使って、塚原氏が原作・脚本・監督を務め、大正・昭和初期の色合いを残した世界観でくり広げられる長尺の空想科学冒険活劇作品を制作中とのことで、そのPVが会場内で上映された。3DCGソフトとデジタル作画の組み合わせというまた新たなアニメ制作の可能性が提示され、来場者を大いに驚嘆させていた。

Session 02:クリーク・アンド・リバー社

株式会社クリーク・アンド・リバー社の公演では、「ショートアニメの制作とツールを活用した効率的なデータの連携について」と題して、プロデューサーの石川 学氏、ディレクターの山下清悟氏が登壇した。クリーク・アンド・リバー社ではオンラインストレージサービスであるDropboxを管理ツールの中心に置いており、実際に進行中の作品フォルダの中身をモニタに映しながら解説が行われた。


写真左から山下清悟氏(ディレクター)、石川 学氏(プロデューサー)

Dropboxは複数人でフォルダ内のデータを共有できるため、同社では制作、原画、演出など誰もがリアルタイムに同じ階層の素材にアクセスすることが可能になっている。またそれとリンクさせるかたちで社内独自のWeb管理表を作成し、利用しているとのこと。この2つのシステムを作品管理に組み込むことで制作進行の移動のリスク、素材紛失のリスク、長時間拘束の問題を大幅に改善することができたという。制作進行はこのシステムによる恩恵を最も強く受けることができ、待機時間なども減ったために基本的に皆就業時間内に退社できるようになったとのこと。またDropboxの最大のメリットとしては、導入・維持・管理が比較的容易であり、低価格で実現可能な点だという。


最後に作画工程のデジタル化について「デジタルツールを学んだアニメーターは映像の中でやれることに対する視野がものすごく広がるという実感が僕の中にありまして、これからは作画マンが絵を描いて終わるのではなく、それ以外の工程でもデジタルツールを駆使してさらに自分のつくりたいイメージを表現できる時代になってきていると思う」と、石川氏は語った。

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<2>アニメーション制作のデジタル化は着実に進んでいる

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<2>アニメーション制作のデジタル化は着実に進んでいる

Session 03:スタジオ雲雀

株式会社スタジオ雲雀の講演ではプロデューサー・宮﨑裕司氏、アニメーター・黒澤桂子氏、システム管理者・齋藤成史氏が「フルデジタル制作環境への取り組み」と題して登壇した。スタジオ雲雀は2017年に週刊ヤングジャンプ連載の漫画を原作としたTVアニメ『潔癖男子!青山くん』でフルデジタル作画での制作を実現した。同社では動画工程に関しては3年前からデジタル化への移行が完了していたというが、レイアウト・原画のフルデジタル化は今作が初めてだという。フルデジタル作画に踏み切るきっかけは「制作進行の仕事をとにかく変えたかった」ことにある、と宮﨑氏は語る。


写真左から 齋藤成史氏(システム管理者)、宮﨑裕司氏(プロデューサー)、黒澤桂子氏(アニメーター)


『潔癖男子!青山くん』(2017)における制作ワークフロー

今作における制作進行の仕事の変化としては、まず紙の原画・動画素材を運搬するためのクルマの運転が完全になくなったことが大きいという。深夜の外回りが発生しないため、夜は帰宅できているとのこと。またいったん撮影されムービーになったカットのリテイク作業も、仕上げデータの上に直接作画監督の修正を入れて色塗りもできるため、かなり効率的になったという。さらにデジタル作画のトレーニング方法として、お皿に盛られたスパゲッティの原画をトレスする「スパゲッティメソッド」という同社独自のユニークかつ合理的な手法が紹介された。

「スパゲッティメソッド」の解説の様子

また、管理ツールとしては、Google Driveの企業向けオンラインストレージツールであるG Suiteを使用しており、大幅な効率化を実現しているという。フルデジタル化に伴って新たに出てきた問題点としては、ひとりでも紙で描きたいという人が出てくると負担が増してしまう点とのこと。作画スタッフ全員のワークフローを一致させる必要があるため、デジタルでやると決めたら全員が覚悟をもって最後までやり抜くことが最も重要だと語った。


Google Drive上での進捗管理の様子

Session 04:シンポジウム

メインセッションのしめくくりに、りょーちも氏、宇治部正人氏(株式会社デイヴィッドプロダクション/作画室長)、盧 国華氏(株式会社暁/代表取締役社長)、 清積紀文氏(ねこまたや/アニメーター・システム開発)、齋藤成史氏をパネリストに迎え、「デジタル作画はアニメーション制作に本当に必要なのか!?」というテーマでシンポジウムが開かれた。

今回各セッションの講演で共通して語られていた「デジタル化によって制作進行の業務が大幅に効率化される」という点。それについて齋藤氏は「紙による作画が全て悪いのではなく、紙でやることによって副次的に発生する作業が制作進行の主業務になってしまっていることが、制作進行の能力を落とす原因にもなっている。制作進行から演出やプロデューサーを目指す人もいて、その人たちのキャリアパスも含め、デジタル化によって本来やらなくていい雑務をなくすことで、その時間帯をよりクリエイティブな作業に使えるため、人材育成の面でも改善されていくのではないか」と語った。


盧氏が社長を務める暁は、デジタルでの海外動仕、二原動仕の仕事も引き受けており、その盧氏が画面上に出した、ここ3年間のデジタルとアナログの仕事の受注割合を表したグラフがとても興味深かった。デジタル動仕事業を始めた3年前はほとんどアナログでの受注しかなかったが、2017年の6月あたりを境にデジタルでの仕事の依頼が一気に増え、現在では取引のある100数社のうち32社からデジタル動仕の依頼を受けているとのこと。これに対してモデレーターを務めた轟木保弘氏(ACTF事務局・株式会社ワコム)は「"キヤズム"という言葉があるのですが、30%というのはマーケティングの面からみてもひとつの目安になっている数字です。新しい製品や技術が出てきたとき、そのシェアが30%を超えたあたりから一気にスタンダードに上がってくることが多いのですが、まさにそれに近い数字になってきています」と語った。アナログからデジタルへの移行というのは敷居が高く、なかなか業界全体での変化は実感しづらいが、実際のデータで見ると着実に進んでいることが示されたと言える。


暁の受注案件におけるアナログ・デジタルの割合を示したデータ



  • アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2018
    日時:2018年2月10日(土)
    場所:練馬区立区民・産業プラザCoconeriホール
    主催:文化庁、一般社団法人日本アニメーター・演出協会(JAniCA)、ACTF事務局
    共催:株式会社ワコム、株式会社セルシス
    www.janica.jp/course/digital/actf2018.html