<2>マーザの本領発揮~ベビーソニックが暮らす宇宙の果て~
デザインや演出面でも積極的にアイデアを提案
冒頭に描かれるベビーソニックが暮らす宇宙の果てシーンはフルCGアニメーションであり、マーザ独自のクリエイティビティが遺憾なく発揮された。ヘッドスタジオから提供された世界観等のアートはゲームのイメージを踏襲したデザインとなっており、そのまま作成してしまうとリアリティが損なわれしまうため、まずは提供されたアートをベースに改めてコンセプトアートを描いたという。「監督はリアリティを求めていましたが、提供されたベビーソニックのアートはチャンキー(chunky ※原作ゲーム的なルックという意味)だったため、丸みを帯びたかわいらしいフォルムを維持しながらリアリティを追求するのに苦心しました」と、鴻巣氏。また、ベビーソニックと暮らすロングクローの支給モデルは、全てのフェザーがジオメトリ化されており非常に重いデータだったため、こちらもイチからつくり直す必要に迫られた。「フェザーは体のアニメーションに合わせ動きつつ、めり込まないようにするため全てのフェザーにリグやコントローラを組み込みました。特に苦労したのは膝の関節で、ロングクローのデザインはアニメーションを想定してデザインされていなかったため、クロスシミュレーションを併用することでめり込みを回避しました」と、マリア・ドロレス・パクラン氏。ベビーソニックを捕まえようとするエキドナの集団は、海外スタジオとデータを共有しながら4体のモデルを作成し、ペインティングやカラーリングにバリエーションをもたせることで数を補った。衣装をリッチに見せるため大量のファーで毛羽だった繊維を表現し、さらに4Kのディスプレイスメントマップをリピートさせ布地の質感も込められた。
背景セットのドレッシングはレイアウト班が担当した。提供されたストーリーリールを基にリアリティのあるサイズ感や距離感を割り出しレイアウトモデルを作成。「リールを観て原作ゲームの世界観を採り入れたいのだと感じたので、ゲームムービーを見直して疾走感やジャンプした際の浮遊感などソニックらしい要素を盛り込んだプリビズを作成し、監督に逆提案したところ快諾してもらいました。ただ疾走感を出すためには長い距離を走らせなければならず、背景モデルも増えてしまうなど自ら首を絞めることにもなりました(苦笑)」と、レイアウターの冨山竜徳氏。エキドナが大量に登場するシーンでは前後関係も複雑で、通常の素材分けではエレメントが膨大になってしまうためディープ・コンポジットを導入。「今回は、あらゆる工程が同時並行で進行したため、完成に近い状態になってもカメラワークが変更になることもありました。最後まで妥協しない姿勢によって、ハリウッドクオリティが創り出されているのだと実感しました。クライアント側のVFXスーパーバイザーは、わずかな色のちがいや動画では気づかないような些細な点も鋭く指摘し、その鑑識眼にも驚かされました」(吉沢康晴コンポジター)。
完成したアセットを海外スタジオにも提供
冒頭シーンに登場する幼い頃のソニック
制作途中のやり取りにおける、ディレクターからの手袋に対するフィードバック例
完成モデルのターンテーブル
頭部のYetiネットワークグラフ。海外スタジオから提供されたベビーソニックのモデルはレンダリングにメモリを約30GB消費する状態だったため、ファーFurをオプティマイズしアトリビュートやノード、レイヤー数などを見直すことから作業を開始。最終的には約10GBまで最適化することに成功した
ベビーソニックと宇宙の果てで暮らす友人、ロングクロー
ヘッドスタジオから提供されたコンセプト三面図
表情のコンセプトアート。キーとなる感情表現が図示されている
完成モデルのターンテーブル
マーザのクリエイティビティを込める
滝ゾーンの初期コンセプトアート
亀井清明氏が描いた、より具体的にデザインしたプロダクションアート
完成した本編カット
ストーリーボードから起こしたプリビズより
冨山氏の発案で原作ゲームらしい主観カメラのショットが追加されたレイアウト
ディープ・コンポジットの活用
ディープ・コンポジットを用いたショット例
キャラクターと背景それぞれの状態のビュー
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Deep Comp該当分。DeepRecolorで画像とDeepを合わせ、DeepMergeでそれぞれを合成。DeepHoldoutノードでHoldoutを出力している
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「一般論的にDeepファイルは大容量と言われていますが、今回はDeepレンダリング時にTolerance Valuesのalpha、depthのパラメータを調整することで常識外れな容量にならないことを確認した上で利用しました」(吉沢氏)
完成した本編カット