<3>こだわりはあるが複雑なことはしない。シンプルかつ繊細な「ひと手間」
映像だけではなく、音楽までオリジナルだった!
リグは基本的にHumanIKで地道につくられている。特に、モンスターのように体の大きなクリーチャーは、筋肉が太いため動きが硬くなりがちで、ヘタをするとまるで「モノ」が動いているように見えることがある。そこで、今回は細かい筋肉の動きを調整するリグの数を増やすことにしたという。フェイシャルリグは、主人公とモンスターに細かい表情を付けてしっかりと感情表現をしたかったため、全てボーンでコントロールしている。コンポジットに関しては、素材は「色」「ライン」「ハイライト」「Object-ID」くらいで、複雑なことはしていないとタカアキ氏は話す。エフェクトとして、瓦礫やホコリの表現などに一部実写素材を使っているとのことだ。また、制作を開始した当初は作画パートやレタッチを予定していたが、進めていくうちに「全部3Dでいけそうだ」という話になり、レタッチを加えたのは主人公が地面に手をつくカットに使用したスーツの背中のシワくらいだった。タカアキ氏は、「以前からCGっぽいラインがイマイチだと思っていましたが、今回はだいぶ解消されました。AE上でも減らしていったりノイズっぽい線にしたり。ラインが良くないとどうしても画がダサくなりますが、Pencil+の調整が上手くいって、手描きのようなラインが出せるようになったのも大きかったですね」と話す。
本作のこだわりは映像だけではない。同社はオリジナル楽曲をつくるほど毎回音楽にこだわりをもっており、楽器演奏シーンも丁寧かつ繊細に制作されている。モンスターが精密な指運びでピアノやバイオリン、尺八を奏でるシーンは本作の見どころのひとつだ。このシーンは、実際に楽器を演奏しているミュージシャンを様々なアングルから動画で撮影し、その動画を基に動きを解析してアニメーションを付けている。特に楽器演奏の要である指の動きはなぞるのが大変だったが、それだけに説得力が増し、とても印象的なシーンとなった。そんなモンスターのダイナミックかつ繊細な動きとは対象的に、妖精たちの動きはピョコピョコと躍動感がありかわいらしい。担当した明日菜氏は「この妖精ならこんな動きでどうだろうと、さぐりさぐり提案しながら動きを付けていきました。(目が死んでいるため)表情に喜怒哀楽がないので、ちょっとした動きを足してかわいさを演出しています。登場カットは少ないけど、インパクトに残るアニメーションになったと思います」と語る。監督からのざっくりとした指示に、ワンアクション加えてブラッシュアップしていったという。微妙な表情をした妖精たちのキュートなアニメーションにもぜひ注目してほしい。
リグ/フェイシャルリグ
▲MoBuフェイシャルリグは、キャラクターフェイスで表情パターンを登録し、リレーションで各リグに繋いでいる。モンスターと比べると、男の方が表情変化が多いためフェイシャルリグやパターンが倍近くになった。枠内の表情パターンリグでおおまかに表情を付け、顔の前にあるリグで細かな調整や非対称化を行う
実写映像を参考にしたシーン制作
▲ピアノ&バイオリンを演奏するシーンの参考にするため、実際の演奏シーンを撮影させてもらった。プロによる実際の動きをなぞることで、アニメーションに説得力が増した
エフェクト/コンポジット
▲逆光である程度キャラクターの色を飛ばして馴染ませた。手前にうっすらと見えるパーティクルは、AEで追加。奥のパーティクルは背景美術で描いたものを使用。加工前(左)と加工後(右)
▲扉から出てくるパーティクル。これもAEで。加工前(左)と加工後(右)
カメラマップ
▲本作では一部でカメラマップを活用。カメラマップで作成した岩
▲地面はカメラマップで貼り付けたが、木や建物などはノーマルにテクスチャを貼り付けている
桜の開花シーン
▲完成画像。3枚×3枚=合計9枚の桜をベースにパペットで動かし、Twixtorで開花を作成。Twixtorでは次の画像への変化中に歪みが出てしまったため、変化の50%付近は使用せずパッパッと変化させることで違和感を解消
▲逆光である程度キャラクターの色を飛ばして馴染ませた。手前にうっすらと見えるパーティクルは、AEで追加。奥のパーティクルは背景美術で描いたものを使用。加工前(上)と加工後(下)