「北九州デジタルクリエイターコンテスト2020」「つくばショートムービーコンペティション2020」で受賞したECHOESによるオリジナル短編アニメーション作品『PIANOMAN』。本編の制作からデジタルコミックへの展開、そして展示会の開催まで、型に囚われない自由な創作活動を続ける彼らのインディー魂が熱い!

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 266(2020年10月号)からの転載となります。

TEXT_石井勇夫(ねぎぞうデザイン)
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(CGWORLD)
© ECHOES

監督、脚本、絵コンテ、背景美術、制作進行:児玉徹郎/アニメーション、モデリング:たかあき、下崎由加里、明日菜、佐山竜希、池田篤史/編集:たかあき/効果音:望月久美子/音楽:中橋孝晃/声:竹内良太



自由に創造する楽しさを忘れない

独特の表現で短編作品をつくり続けるECHOES(エコーズ)の新作短編アニメーション『PIANOMAN』。「北九州デジタルクリエイターコンテスト2020」では大賞、「つくばショートムービーコンペティション2020」ではウィットスタジオアニメーション賞を受賞するなど、同社のオリジナル作品に対する評価は高い。同社代表で本作の監督を務めた児玉徹郎氏は、フリーランスとして2D&3Dの背景制作やアニメーションの受注制作からキャリアをスタートし、2012年にECHOESを設立。現在は『スター☆トゥインクルプリキュア』のEDディレクションや『ドラゴンボール超 ブロリー』のCGディレクションを担当するなどクライアントからの信頼は厚く、7名のスタッフと共に少数精鋭の制作スタイルで業務の隙間を見つけてはオリジナル作品の制作に勤しんでいる。というのも、「日頃の業務で得た技術を活かしてオリジナル作品を制作する」との理念の下、1~2年に1本のペースで短編作品を制作し続けており、「世界4大アニメーションフェスティバルで受賞する」との目標を胸に熱く秘めているからだ。

▲左から、児玉徹郎氏、たかあき氏、明日菜氏、下崎由加里氏、佐山竜希氏、前田恵氏(以上、ECOHES)

今回紹介する『PIANOMAN』もそんな思いで制作された作品のひとつで、企画開始から5年を要したという。業務の合間を縫っての長期にわたる自主制作は、相当な強い意志と熱意を要したことだろう。さらに、商業作品と遜色ないクオリティを目指すとなれば、その熱量はいっそう大きなものとなる。一方で、オリジナル作品の制作を通して得たものも大きかった。ゼロからの作品制作は、苦労も多いがスタッフの成長が見込まれる。また、受注制作では満たされない「自由に創造する楽しさ」があり、仕事に対するモチベーションが上がったと児玉氏は話す。本作では、「デジタルコミックをつくりたい」「展示会を開催したい」といったアイデアを全て詰め込み、見事に達成し結果を出した。こういった総合的な演出力やプロデュース力は、小規模で活躍するCGスタジオに求められる素養のひとつかもしれない。


<1>オリジナル作品制作ならではのワークフロー

オリジナル作品制作の醍醐味を堪能しよう!

まずは制作フローから紹介しよう。制作は「企画→脚本→絵コンテ→Vコンテ→カメラワーク(プリビズ)→アニマティクス→プライマリアニメーション→セカンダリアニメーション→レンダリング→コンポジット」のながれで、児玉氏、たかあき氏、明日菜氏の3名を中心に進められた。Vコンテまでは児玉氏が担当し、それ以降は各メンバーが通常業務の合間に手分けして作業を進めるなど、作業量のバランスをとりつつシェア。分業的な担当はなく、足りないところを補い合うかたちだ。ちなみに、本作で使用した主なツールは、Photoshop、Maya、MotionBuilder、After Effects( 以下、AE)、Pencil+とのこと。

さて、本作は監督・脚本を手がけた児玉氏の呼びかけによりスタートした完全なオリジナ ル作品であり、設定やコンセプトは当初から独特なものだったという。児玉氏は「何だかよくわからないけど、画的な魅力のある作品をつくりたかったんです。ストーリーよりも演出に力を入れて、キャラクターの動きやレイアウトで魅了するアニメーションをイメージしていました」と語る。しかし、実際にシナリオを書きはじめると「何だかわからないもの」を表現する難しさを痛感した。「なにしろ、わからないものをつくるわけですからね(笑)。自分でもわかっていないものをつくることに抵抗がありました」(児玉氏)。そしておおいに悩んだ末、観ている人に補完をしてもらおうと割り切った瞬間に、ようやくシナリオが進みはじめたそうだ。ところがそのシナリオも、整合性やメッセージ、演出面の矛盾が気になりはじめ、二転三転さらに五転六転と変化していった。しかし児玉氏は、これこそがオリジナル作品制作の醍醐味だと話しており、これについては後述する。

こうして紆余曲折を経て、当初の設定・コンセプトとはまったく異なった作品へと姿を変 えたわけだが、妥協と媚びのない納得のいくストーリーが完成した。そこからさらに変更を加えつつ予告編を制作。次に予告編に合わせて本作のたたき台となる5分半の短編をつく り、同時に展示会に向けて本編の内容を補完するフルカラーのデジタルコミックの制作に着 手。そして、デジタルコミックから素材を切り出して、本作のアニメーションに活用しているとのことだ。このような制作方法は、非常に手間と時間がかかるため、商業作品の制作には向かない手法だ。しかし自主制作をしているクリエイターに限っては、クリエイティブなイメージの実現や「やってみたい」を表現できるオリジナル作品をつくる際のひとつの解として、制作フローも含め参考になるはずだ。


コンセプトアート/デジタルコミック

▲児玉氏によるコンセプトアート


▲本編の内容を補完するフルカラーのデジタルコミック。本編のアニメーションにも素材として使用している


▲企画を開始した当初のキャラクター設定画(主人公)


ワークフロー

▲本作のワークフロー。基本的にはこのながれで制作を進めるわけだが、オリジナル作品の制作では、制作過程でストーリーが二転三転することも楽しみのひとつだと児玉氏



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<2>独特な雰囲気をつくり上げるアーティスティックな手法

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<2>独特な雰囲気をつくり上げるアーティスティックな手法

「その時」のアイデアを重視して独自の世界を築き上げる

児玉氏がデザインした登場人物は、主人公と変身後のモンスター、そして彼らを興味深く見守る妖精たち。数こそ少ないが、どれもとても魅力的で印象に残るキャラクターたちである。流行りの美少女が出るわけでも、派手なバトルがあるわけでもない。独特の世界観で観る人を惹きつける作風である。さて、前述したとおり、児玉氏は自由に新しいアイデアを加えてかたちを変えられることこそ、オリジナル作品制作の醍醐味だと語っている。実際、Vコンテ後にストーリーがどんどん変わるなど、通常の商用作品の制作ではありえない(あってほしくない)フローである。主人公がモンスターに変身するという設定も、後から加えられたアイデアだそうだ。「モンスターに変身したらおもしろくない?」というノリで始まり、「日本人なら、モンスターの見た目も鬼みたいな感じかな?」と、とにかく設定がクルクルと動く。しかし、ここまでダイナミックに設定を変えられるのは、オリジナル作品だからこそだ。

モデリングの特徴は、テクスチャを使わずシェーディングだけで表現している点だ。モ ンスターの角の影に出るハッチング表現や、筋肉に現れる影、シワのラインなどは、見た目に気持ちのいい線を出すためにメッシュのオブジェクトを差し込むなど、細部まで丁寧につくられている。モンスターのモデリングを担当したタカアキ氏は、「地道で大変な作業でしたが、モンスターの角のハッチングが出来上がったときが、僕のこの作品のピークでした」と語ってくれたほどの出来映えだ。後半でふわりと現れる妖精たちは、不思議な愛らしさが魅力的なキャラクターで本作の印象を強めている存在だが、制作当初は登場の予定がなかったという(こんなことばっかり笑)。後半、モンスターが楽器を弾いているだけでは寂しかったため、「賑やかし」として入れてみたとのことだ。一見かわいい妖精たちだが、通常の仕事だったら許されないであろう「目が死んでいる(児玉氏談)」異様な存在感を放つデザインがされており、うさぎのキャラにおいてはなぜかレオタード姿で、耳飾りのリボンは絞りすぎて耳の先端がうっ血していたりする。古い神殿で恐ろしい姿のモンスターが体に似合わない繊細な指運びで音楽を奏で、目が死んだキモかわいい妖精たちが周りで踊るという不思議な世界。これらは初めから意図したものではなく、手を動かして制作しながら変更したり追加をしたりしてつくり上げていったものだ。その時その時の感覚を尊重して独自の世界を築いていく。そんなアーティスティックな手法が、本作に漂う独特な雰囲気をつくり上げているのだろう。


絵コンテ

▲絵コンテの遷移。企画当初は、西洋コンプレックスを強くもつ日本人を風刺したストーリーだったという。【A】企画が開始した当初の絵コンテ。当初のコンセプトは「白人至上主義に対するアンチテーゼ」だったそうだ/【B】最終的にFIXした絵コンテ/ 【C】完成画


背景/建物の設定画

▲背景/建物の設定画。不思議な世界の入り口でもある建物の外観。建物の外は深い霧で何も見えない


▲建物の内部


▲建物の入り口からゲートへと向かう道


キャラクター設定画

▲キャラクター設定画。モンスターが楽器を弾いているだけでは寂しかったため、児玉氏が好きな『ムーミン』の世界を参考に「賑やかし」として入れてみたという妖精が不思議で素敵だ。(目が死んだ)妖精P(上)とR(下)


▲楽器も重要。これは尺八


▲変身前の主人公


▲モンスターに変身した主人公


キャラクター設定画

▲モンスターの3Dモデル



▲角のハッチング表現。薄い紫色のワイヤーが顔(ツノ)周りの交差用ポリゴン。ラインはポリゴン交差とハードエッジを混在させている


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<3>こだわりはあるが複雑なことはしない。シンプルかつ繊細な「ひと手間」

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<3>こだわりはあるが複雑なことはしない。シンプルかつ繊細な「ひと手間」

映像だけではなく、音楽までオリジナルだった!

リグは基本的にHumanIKで地道につくられている。特に、モンスターのように体の大きなクリーチャーは、筋肉が太いため動きが硬くなりがちで、ヘタをするとまるで「モノ」が動いているように見えることがある。そこで、今回は細かい筋肉の動きを調整するリグの数を増やすことにしたという。フェイシャルリグは、主人公とモンスターに細かい表情を付けてしっかりと感情表現をしたかったため、全てボーンでコントロールしている。コンポジットに関しては、素材は「色」「ライン」「ハイライト」「Object-ID」くらいで、複雑なことはしていないとタカアキ氏は話す。エフェクトとして、瓦礫やホコリの表現などに一部実写素材を使っているとのことだ。また、制作を開始した当初は作画パートやレタッチを予定していたが、進めていくうちに「全部3Dでいけそうだ」という話になり、レタッチを加えたのは主人公が地面に手をつくカットに使用したスーツの背中のシワくらいだった。タカアキ氏は、「以前からCGっぽいラインがイマイチだと思っていましたが、今回はだいぶ解消されました。AE上でも減らしていったりノイズっぽい線にしたり。ラインが良くないとどうしても画がダサくなりますが、Pencil+の調整が上手くいって、手描きのようなラインが出せるようになったのも大きかったですね」と話す。

本作のこだわりは映像だけではない。同社はオリジナル楽曲をつくるほど毎回音楽にこだわりをもっており、楽器演奏シーンも丁寧かつ繊細に制作されている。モンスターが精密な指運びでピアノやバイオリン、尺八を奏でるシーンは本作の見どころのひとつだ。このシーンは、実際に楽器を演奏しているミュージシャンを様々なアングルから動画で撮影し、その動画を基に動きを解析してアニメーションを付けている。特に楽器演奏の要である指の動きはなぞるのが大変だったが、それだけに説得力が増し、とても印象的なシーンとなった。そんなモンスターのダイナミックかつ繊細な動きとは対象的に、妖精たちの動きはピョコピョコと躍動感がありかわいらしい。担当した明日菜氏は「この妖精ならこんな動きでどうだろうと、さぐりさぐり提案しながら動きを付けていきました。(目が死んでいるため)表情に喜怒哀楽がないので、ちょっとした動きを足してかわいさを演出しています。登場カットは少ないけど、インパクトに残るアニメーションになったと思います」と語る。監督からのざっくりとした指示に、ワンアクション加えてブラッシュアップしていったという。微妙な表情をした妖精たちのキュートなアニメーションにもぜひ注目してほしい。


リグ/フェイシャルリグ



  • ▲モンスターのリグ。MotionBuilderの標準HumanIKを使用



  • ▲補助リグを表示

▲MoBuフェイシャルリグは、キャラクターフェイスで表情パターンを登録し、リレーションで各リグに繋いでいる。モンスターと比べると、男の方が表情変化が多いためフェイシャルリグやパターンが倍近くになった。枠内の表情パターンリグでおおまかに表情を付け、顔の前にあるリグで細かな調整や非対称化を行う


実写映像を参考にしたシーン制作

▲ピアノ&バイオリンを演奏するシーンの参考にするため、実際の演奏シーンを撮影させてもらった。プロによる実際の動きをなぞることで、アニメーションに説得力が増した


エフェクト/コンポジット

▲逆光である程度キャラクターの色を飛ばして馴染ませた。手前にうっすらと見えるパーティクルは、AEで追加。奥のパーティクルは背景美術で描いたものを使用。加工前(左)と加工後(右)

▲扉から出てくるパーティクル。これもAEで。加工前(左)と加工後(右)


カメラマップ

▲本作では一部でカメラマップを活用。カメラマップで作成した岩

▲地面はカメラマップで貼り付けたが、木や建物などはノーマルにテクスチャを貼り付けている


桜の開花シーン

▲完成画像。3枚×3枚=合計9枚の桜をベースにパペットで動かし、Twixtorで開花を作成。Twixtorでは次の画像への変化中に歪みが出てしまったため、変化の50%付近は使用せずパッパッと変化させることで違和感を解消


▲逆光である程度キャラクターの色を飛ばして馴染ませた。手前にうっすらと見えるパーティクルは、AEで追加。奥のパーティクルは背景美術で描いたものを使用。加工前(上)と加工後(下)



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.266(2020年10月号)
    第1特集:バーチャルヒューマン・エッセンシャルズ
    第2特集:ニュースタンダード特化型ツールの現在地
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2020年10月10日