>   >  コロナ禍にゲーム規制に台風まで! 様々な逆風を乗り越え、地域の力が結集して開催された香川県「最強ゲームジャム」レポート
コロナ禍にゲーム規制に台風まで! 様々な逆風を乗り越え、地域の力が結集して開催された香川県「最強ゲームジャム」レポート

コロナ禍にゲーム規制に台風まで! 様々な逆風を乗り越え、地域の力が結集して開催された香川県「最強ゲームジャム」レポート

「スタートとゴール」をテーマに4作品が完成

ゲームジャムのテーマは「スタートとゴール」だ。スタートとゴールが明確であれば、自由にアイデアを広げて好きなゲームがつくれる。極端な話、スタート地点とゴール地点の間に障害物を配置すれば、それだけでゲームになるという立て付けだ。自分たちで世界観やルールを考えても良いし、Unityのサンプルゲームを改造しても良い。開会式が終わると、参加者たちはチームに分かれ、三密状態にならないように注意しながら、企画会議がスタートした。

企画会議を主導したのはxeenの3名だ。それぞれがチームリーダーとなり、メンターと小中学生が加わって、アイデア出しが始まった。もっとも、会場は三密状態を避けるため、机の間隔が広く取られており、ブレインストーミングに向かない状態だった。そこで急遽、各チームがホワイトボードの前に集まり、立ってアイデア出しを行うことに。最初はぎこちない感じだったが、徐々に参加者同士で打ち解けていき、議論が盛り上がっていった。

そのかたわら、思わぬトラブルも発生していた。9月6日から7日まで九州地方に接近した台風10号だ。JR四国が運休する事態が想定され、香川高等専門学校詫間キャンパスに通う高専生3名の参加が危ぶまれる事態に。最終的にオンラインでチームを組み、Discord上でリモート開発が行われた。同じく2日目は台風接近に伴い、午後3時には会場が閉館する事態も想定された。もっとも、台風が中国大陸側に北上したため、ゲームジャムは予定通り継続され、関係者は胸をなで下ろした。

企画会議の模様



  • ▲チーム「玉子」



  • ▲チーム「TAYAKA(株)」



  • ▲チーム「VGM1」



  • ▲オンラインチーム「Unity完全に理解した」

企画会議が終了すると、大人たちがUnity上で開発を進める一方、小中学生を対象にBlenderのミニセミナーがスタートした。子どもたちがBlenderでオブジェクトを制作し、FBXファイルでエクスポート。これらをもとにUnity上でレベルデザインを行い、ゲームに仕上げるという立て付けだ。本格的な3DCGツールに触るのは皆初めてだったが、90分間のレクチャーに意欲的に挑戦。メンターのサポートを受けつつ、簡単な素材ならつくれるようになっていった。

このアイデアを提案したのはxeenの滝下氏だ。当初はUnityの公式サンプルのうちレースゲームをベースとして、各チームが自由に改造する「レースゲームジャム」が想定されていた。初日はUnityのチュートリアルも兼ねて、全員がレースゲームを遊びながら、コースの改造にチャレンジする。2日目はUnityのProBuilderを使用し、簡単なオブジェクトを作成したり、スマートフォンで自分の顔を撮影し、テクスチャで取り込んだりして、コースを飾る......といった具合だ。

これに対して滝下氏は「サンプルの内容やコードを理解するだけで、けっこうな時間がかかる」、「Blenderの基本操作程度なら、子どもたちでもすぐに理解できる」と提案。大人はUnityでプログラミング、子どもはBlenderで素材づくりと分業体制が取られることになった。Blenderのレクチャーを行なったのは、地元の専門学校を卒業し、xeenにプログラマとして新卒入社した宮﨑琴音氏だ。学生時代にBlenderを学習した経験があり、社会人1年目ながら講師役を務め上げた。

▲Blenderの基本操作に関するミニレクチャーと、ゲーム内に登場するオブジェクトを作成する参加者たち

▲大人から子どもまで様々なスタイルで、ゲームの共同開発が進められた

他にユニティでエバンジェリストをつとめる簗瀬洋平氏による特別講演会「遊びの技術が暮らしを変える 広がるゲームの世界」も開催された。簗瀬氏はトヨタ自動車のxR活用事例をはじめ、Unityがゲーム開発だけでなく、建築業界や自動車産業など、様々な領域で活用されている現状について紹介。Unityについて学ぶことで、将来様々な分野で活躍できると説明した。

質疑応答では香川高専の学生を中心に、ゲーム開発に関する具体的な質問が多く寄せられた。また、同社が主催するゲームコンテスト「Unityインターハイ」で、徳島県の高校生が開発したアクションゲーム『モチ上ガール』が優勝し、Nintendo Switchで発売された事例が紹介されると、会場から「香川県も負けてはいられませんね」などとコメントが寄せられる一幕もあった。

▲特別講演会の模様(左)とユニティ簗瀬氏(右)

完成したゲームをインターネット上で公開

2日目は台風の接近に関係者が気を揉む中、粛々と開発が進められた(結果的に台風の進路が逸れ、予定通りの進行となった)。完成した4作品はWebGL形式にビルドされ、試遊可能な状態でオンライン上に公開された。成果発表会ではユニティの簗瀬氏が「どのチームも限られた時間内で企画内容がしっかりと盛り込まれ、ゲームとして仕上がっていたので、驚きました」と感想を述べた。

続いて各賞の発表の後、簗瀬氏と渡辺氏が講評を述べ、2日間にわたったゲームジャムが終了した。今回制作されたゲームは10月に開催される「プログラミング・ラボ」で試遊展示される予定だ。「友だちがつくったゲームが展示されることで、他の参加者にも関心をもってもらえたら」(渡辺氏)。讃岐GameNが主催する「ゆるもく会」も同じ日に開催し、互いに連携を取っていくという。

Unity賞『始まりは卵から』(チーム:玉子)
unityroom.com/games/startwithegg

  • ▲フィールド上に散らばる卵を3分間で収集し、孵化場で孵化させ、出荷場所に投げ込んで売上を競うゲーム。卵からはひよこやダチョウ、はたまた妖精など、様々なものが誕生する。「企画段階で動物をたくさんつくると言われていて心配していたが、きちんとつくられていて驚きました。また、効率良く時間を使って卵を孵化させるところや、適度にランダム性が入っていてスコアを競う気にさせられるなど、よく考えられてつくられているなと思いました」(簗瀬氏)

讃岐GameN賞『めろカー大乱闘』(チーム:TAYAKA(株))
unityroom.com/games/tayakagame

  • ▲3D対戦レースゲームで、コントローラを2つ用意してプレイする。迷路状のステージを走り回り、相手のスタート地点に先にたどり着いたほうが勝利だ。ステージ上にあるアイテムを取ると、一定時間スピードがアップする。「かっこいいスポーツカーやがっちりとしたトラックが登場するところ、迷路を走るときに車の上に矢印がついていて、ナビゲーションしてくれるところが良かったです」(簗瀬氏)

xeen賞『VGM1』(チーム:VGM1)
unityroom.com/games/vgm1game

  • ▲コース上に散らばるアイテムを活用し、他のプレイヤーを妨害しながらゴールを目指すレースゲーム。Unityの公式サンプルゲームをベースに改造された。一定時間巨大化する、ミサイルのようにアイテムを飛ばして先行者にぶつけるなど、様々なアイテムが存在する。「公式サンプルゲームがベースとなっているので、全体的な完成度が高いですね。サンプルを自分なりに改造していくと、理解がどんどん深まるので、オススメです」(簗瀬氏)

『MazeBreakTrough』(チーム:Unity完全に理解した)
unityroom.com/games/mazebreaktrough

  • ▲迷路状のステージを壁を壊しながらゴールを目指すゲーム。歩いたり、壁を壊したりすると、行動力やエネルギーが消費される。ゴール時の残存エネルギーがスコアに換算されるしくみ。「タイトル画面やリザルト画面も用意されていて、さすがでした。未実装に終わった部分もあると思うので、ぜひ完成させてください。その際に視界の要素を入れて、全体像を不明瞭にしたりすると、より面白くなるかもしれません」(簗瀬氏)

「今回はじめてゲームをつくった人も多いんじゃないかと思います。ゲームってこんなふうに、自分たちでつくれるんですね。Unityインターハイをはじめ小学生がゲームをつくって応募できるコンテストもありますので、興味ももった人はぜひ自分でつくってみてください。ゲームづくりは時間もかかるしいろいろ勉強することも多いですが、少しずつ進めていけば必ずできるようになります。目指すところまで到達できなくても、そこで学んだことは絶対に無駄になりません」。

「また、ゲームづくりについて学んでいくうちに、学校の勉強に一生懸命取り組むことでゲームづくりも役立つことが次第にわかってくると思います。ゲームづくりだけでなく、スマホアプリをつくったり、いろいろなものをつくったりすることも楽しいので、これからもがんばってください」(簗瀬氏)。

「今回香川ではじめて、将来ゲームクリエイターになりたいという小中学生から、すでに片手を伸ばしている高専生や専門学校生、さらには夢を叶えて走っている社会人まで、いろいろな人が集まるイベントができました。参加していただいた皆さんのおかげです。ありがとうございました」。

「今回ゲームづくりを体験して、もっと本格的にやってみたいという人がいたら、本施設で毎月、讃岐GameNとしてゲームをつくる勉強会を開催しています。参加者が各自で教え合い、学びあいながら、Unityでゲームをつくっていますので、ぜひ参加してみてください」(渡辺氏)。

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