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メカデザイナー meets 3DCG 〜 第1回:柳瀬敬之

メカデザイナー meets 3DCG 〜 第1回:柳瀬敬之

デザインワークに 3DCG ソフトを活用するきっかけ

晴れて、フロム・ソフトウェアにてメカデザイナーとしてのキャリアをスタートさせた、柳瀬氏。

「フロムには1999年から2002年までの約2年と少し在籍しました。『アーマード・コア2』(2000)『叢-MURAKUMO-』(2002) のメカデザインを手掛けていたのですが、ゲーム開発ではプロジェクトの間が空くので、その時間を使って会社にあった 3ds Max を独学で研究していました。さすがに、実際のデザインワークに利用するまでには至りませんでしたが、当時から3DCG ソフトを使えばもっとデザインの表現幅を広げられるのではなないかと考えていましたね」。

それ以前にも、他の 3DCG ソフトを個人で購入してみたりもしたそうだが、イマイチ馴染まなかったとのこと。

「デザインイメージを膨らませる行為と、実際に 3DCG ソフトを操作するという行為の間でどうしても思考が分断されてしまっていたのです。ですが、3ds Max だけは違いました。例えばオブジェクトを階層付けしたい時に他のソフトではリストから選択するしか方法がなかったりしたのですが、3ds Max は UI 上で視覚的に設定できるといった感じで、頭に思い描いたイメージを具体化させる手順がすごくシンプルで気に入ったのです」。

そしてフロムを退社後は、フリーのデザイナーとして漫画雑誌へのイラスト提供やガレージキットのメカデザインなど、自身の活躍フィールドを広げていった柳瀬氏。そして、TVシリーズ 『交響詩篇エウレカセブン』(2005) を皮切りにアニメ作品にも携わるように。

「アニメのお仕事では、メカ、プロップ、背景、さらにメカでも現代劇のクルマといった具合に、チャンスがあれば何でもデザインしていました。キャリアのスタートがゲームだったのが大きいかもしれませんね。それと並行して 3DCG を利用する機会もメカだけでなくアニメの背景などにも用いるようになりましたね。フリーになってからの数年間は 3ds Max ライセンスを自分で持っていなかったので、別のソフトを使用したり、行く先々のプロダクションさんでその都度ライセンスをお借りしていたのですが、3ds Max 以外で 3DCG パイプラインを構築していらっしゃる場合は、無理を言って特別に導入してもらったりもしました(笑)。今は自分でラインセンスを持ってますよ!」。

『劇場版ガンダム00』のメカデザイン

ここからは『劇場版ガンダム00』に登場するガンダムハルートを例に、柳瀬氏のデザインワークを具体的にみていこう。
2010年9月18日に公開された『劇場版ガンダム00』は、2シーズン続いたTVシリーズを踏まえた最終章ということで、様々なデザインのモビルスーツ(以下、MS)が登場する。その中でもガンダムハルートは、TVシリーズに登場したガンダムキュリオス、その後継機であるアリオスガンダム、そしてアリオス支援用の可変型 MS の GN アーチャー(ガンアーチャー)などの機能を統合して開発されたというコンセプトを持つ、まさに本作の集大成と呼ぶに相応しい MS だ。

ハルート01 ハルート02 ハルート03 ハルート04

© 創通・サンライズ・毎日放送
GN-011 ガンダムハルート(Gundam Harute)

「ハルートは複座式(2人乗り)で戦闘機からMSへと変形します。さらに、翼はMS形態では武器になるので、大変でしたがその分楽しみながらデザインしました。デザインを行う際は、まずは手描きスケッチから始めます。3DCGを利用する/しないの判断は『機械的なデザインで、なおかつ物理的な整合性が求められるか』 次第ですね。たとえMSでも有機的なデザインだったら手描きで完結することが多いです。ハルートの場合は、変形機構を備えメインMSなので、当初から3DCG化させる予定でした。アニメの場合は、登場回数に依るところも大きいですね。制作サイドから予めCGモデルの提供をお願いされる(=デザインの段階で3DCG化しておくことで本モデルの制作負荷を軽減)こともあります」。

STEP 1_まずは手描き

どんなデザインをする時も、最初は手描きスケッチでイメージを膨らませていくという柳瀬氏。ガンダムハルートのように 3DCG 化させる場合、以前はプリントアウトしたラフを横に並べてモデリングしていたそうだが、3ds Max を使い始めてからは手描きスケッチのスキャン画像をバックグラウンドビューに設定し、その上でモデリングを行なっているとのこと。

ハルート手描きラフ01

© 創通・サンライズ・毎日放送
手描きコンセプトラフ

ハルート手描きラフ02

© 創通・サンライズ・毎日放送
手描きラフ。大分、洗練されてきた

STEP 2_3DCG モデリング

デザインイメージが固まってきたら、3ds Max でポリゴンモデリングを行う。
「3ds Max は、ポリゴンモデリングも直感的に行えるのが良いところですね。個々のオブジェクトごとにローカルの設定が行えるので、例えば任意のオブジェクトに限定した(グローバルの設定とは別に)X軸を基点に変形させるといったことがサクサクできるのです。こうした操作も、今では他ソフトでもできるのだと思いますが、3ds Maxは昔から見た目ベースで3DCG制作が行える設計思想だったので一日の長があるのではないでしょうか」。
「ロボットはシンメトリにデザインしたい」と語る柳瀬氏にとって、3ds Max の見た目を基準に各種作業が行えるインターフェイスがマッチしたと言えよう。

ハルート3DCGモデル01

© 創通・サンライズ・毎日放送
CGモデル(MS形態)完成。「デザインする上では、常に "格好良さとは何か" を意識していますが、大前提として作品コンセプトや各種設定に込められたオーダー側のニーズに100%応えることが第一。その上で、どれだけプラスαを入れ込むことができるかですね」

STEP 3_変形機構の検証

ハルートのような変形機構をデザインする上でも、3ds Max は作業しやすいという。「デザイナーとしては、飽くまでも動きそのものではなく、『ここにあのパーツを収納できるか』といった、物理的な整合性を突き詰めるのが目的なので、変形前と後のデザインを決めてモーフィングをさせれば、多くの場合は事足ります」。

ハルート変形途中01

© 創通・サンライズ・毎日放送
変形モーションの途中段階。この段階のモーションは物理的な整合性を確認するためのものであり、最終的には 3DCG 制作工程で決定される

アニメーションの演出は後の工程で行うわけなので、変形モーションに要するコマ数を気にする必要もないため、手早くギミックの合理性を確認できるのかがが重要なのだと言えよう。「その意味では、ハルートはTVシリーズに前身となるアリオスガンダムのCGモデルが既に存在していたので、まずはアリオスのモデルで変形方法だけを変えてみたりして試行錯誤していましたよ」。

ハルート変形後01

© 創通・サンライズ・毎日放送
CGモデル(飛行形態)完成

STEP 4_Photoshopでディテール追加

デザインワークに3DCGを用いるといっても、3DCGで完成させるわけではない。
「3DCGで物理的な整合性が確認できたら、適当なカメラビューの静止画を書き出して今度はプリントスクリーンで Photoshop へ移し、プリントアウトして、それを下絵にシャープペンで線画を描いていきます。CGは正確に描画されるのでどうしてもシルエットが固くなってしまうので、手描きでレタッチしてデザインに深みを加えていきます。3DCG は飽くまでも物理的な整合性の検証に使っているので、テクスチャ作成なども行いません」。

ハルート完成MS01

© 創通・サンライズ・毎日放送
ハルートMS形態完成形

ハルート完成飛行形態01

© 創通・サンライズ・毎日放送
ハルート飛行形態完成形

「ベースをCGでモデリングして、手描きでクリーンアップというのが基本的な作業の流れですが、CGを利用する場合の判断基準として作業効率もあります。例えば、手描きだけだと丸2日かかるけど、1日モデリングに費やせば残りのディテーリングは半日で終えられるから結果的に1日半で完成できる(半日短縮できる)といった時は、CGを利用していますね」。ちなみに、MSのモデリングには1体あたり約1.5〜3日で制作しているそうだが、そこからさらなるブラッシュアップに日数を要するという。

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