近年、ゲームにおける表現力は飛躍的に向上しており、モバイルゲームでもPC/コンソールと遜色ないような作品は珍しくなくなった。3D領域においても高度な技術が求められるようになったが、長期的・効率的な運用もまた求められている。そんな要請に応えるべく、サイバーエージェントのゲーム・エンタメ事業部(以下、SGE)が行う取り組みが横断型テック組織・SGEコアクリエイティブ本部/SGEコア技術本部だ。
巨大な企業体となったサイバーエージェントにおいて、横断型の組織をつくることになった経緯や、その必要性を感じた同社の課題意識、そしてこれからについて、同部の2人に話を訊いた。
SGEでのリソースやノウハウの共有のために始まったコアクリ・コアテク
――まずは軽い自己紹介をお願いできますか。
西村:SGEコアクリエイティブ本部、通称・コアクリの3DDivに所属しております、西村です。コアクリ3DDivでは、3D関連の業務全般に携わっています。キャリアとしてはゲームの3Dアーティストから始まりまして、その後3Dアーティスト兼テクニカルアーティストを経て、現在の3D関連全般に至ります。
清原:SGEコア技術本部で、グラフィックスチームのリーダーを務めている清原です。私もキャリアはゲーム業界からなのですが、2社合計13年ほどゲーム会社でエンジニアとして働いたあとに専門学校の教員をやり、そこからいまに至ります。
――SGEコアクリエイティブ本部とSGEコア技術本部とはどういった組織なのでしょう?
西村:コアクリはアーティスト(2D/3D/UI)のサポート組織です。SGEに所属する各社の新規開発の初期設計や、品質向上・開発促進のための先進技術の検証とナレッジ共有が主なミッションになります。LookDevやレギュレーション・制作フロー策定のサポートを行い、プロジェクトの状況に応じてより深く入り込んで、特に開発初期~中期を推進する役割を任されています。
3DCG関連の横断組織については、コアクリのほか、SGE全体の品質向上と効率化を推進する「3D戦略室」や、汎用性の高いシェーダーを開発する「3Dラボ」など複数の組織があります。
清原:SGEコア技術本部、略してコアテクはエンジニア版のSGE横断組織です。私が所属しているグラフィックスチームのほか、基盤チーム、プロジェクトサポートチームなどがあります。SGEに所属する各社を横断して技術的なサポートを行うのが役目で、アプリやゲームを作る上で基盤になるライブラリを整備したり、コアクリと同じようにナレッジを共有したりするのが仕事です。
――そうした横断型の組織ができたのには何かきっかけがあったのでしょうか?
西村:SGEではもともと「各社の文化や彩り」を尊重していまして、プロダクトや文化の多様性を育むようにしていました。これがプロジェクトそれぞれの特徴的なものづくりの土台として機能してきたのですが、特徴があるというのは魅力である一方で、リソースやノウハウの共有を難しくしてしまったり、SGE全体として見た場合の制作効率が悪くなってしまう、という課題も見えてきました。
その影響が特に出ていたのが、開発の初期フェーズです。たとえば、開発初期の段階でモックやファーストモデルの制作に時間がかかったり、必要な体制がすぐに整えられなかったりすることで、開発期間が長引いてコストも膨らんでしまう。ですが、そうした状況を横断的に見ていく中で、各社の強みの土台には共通する技術やノウハウが存在していることもわかってきました。
そこで、そうしたリソースやノウハウを横断的に共有できるよう、各社をつなぐハブとなる組織として立ち上がったのが、私たちコアクリ・コアテクです。子会社を横断しながらプロジェクトごとに異なる表現や課題に取り組んでいくのが私たちの役割ですね。
――なるほど、グループ各社での技術共有や効率化を目的に作られたのですね。横断組織としてサポートで重視しているのはどのような点なのでしょうか?
清原:私たちが共通して掲げているのが「アーティストファースト」になります。平たく言うと、アーティストたちが快適にクリエイティブ作業を行えるようにすることですね。
西村:「快適」と一口にいってもいろいろな視点があるとは思いますが、アーティストがクリエイティブ作業に費やせる時間を増やしたいというのが共通で最大の目標です。
ゲームのグラフィックに求められる水準が年々高くなってきているなか、様々なツールも開発・洗練されて、以前よりもハイクオリティなものが作れるようになってきてはいますが、最終的な品質に最も影響を与えるのはアーティストがクリエイティブ作業に費やせる時間の多寡だと考えています。
ですので、クリエイティブに費やす時間を少しでも多く確保するために、クリエイティブに直接影響しない手続き的な作業を削減したい。そのために、各会社のナレッジや技術を共有したり、横断的に課題を見通し、解決していきたいと考えています。
――横断で問題解決を目指すということですが、実際の取り組みを通じて見えてきた各社共通の課題などはありましたか?
清原:エンジニアの領分に関しては共通の部分は多いと感じますね。たとえば、最近だと特定の端末のみで発生する不具合の相談を受けました。端末固有の問題は技術的にも労力的にも解決のハードルが高い問題ですが、どのプロジェクトでも共通して発生しうる問題でもあるので、横断的な共有・解決に適した問題です。
端末関連に限らず、あるプロジェクトでやったことを他のプロジェクトにも生かしたり共有する機会は多くありますので、研究開発をどんどん行っていくことで、アーティストファーストを進めていけると感じています。
西村:アートに関してはプロジェクトごとに目指すルックや表現が異なる分、個々の課題はバラバラなことが多いですね。なので、具体的なワークフローや仕組みについてはそれぞれで構築する必要があります。
一方で、ある技術について他のプロジェクトで使っているのか、使っているならどのように運用しているのかを訊かれたりすることもあります。場合によっては私の持っている情報を伝えるだけでなく、プロジェクト間をつないだりすることもあります。そうしたハブ的な役割を務めるのも横断組織ならではですね。
Sirius ~統合スタイライズドレンダリングシステム~
――そんな横断的な取り組みの一環としてコアテクでは「Sirius ~統合スタイライズドレンダリングシステム~」を発表されています。こちらについてお聞かせください。
西村:Siriusはサイバーエージェントのグループ関係者なら誰でも使える、コアテク産の公式グラフィックス機能群です。空や水の表現のほか、物理ベースのレンダリング・シェーディングからアニメ調のトゥーンシェーディング、動的な天候や時間帯の変更などなど、様々な表現を実現するためのシステムが実装されていて、現在も新機能を鋭意開発中のレンダリングシステムです。
▲Siriusのプロシージャルシェーディング機能を使用した時間帯表現の比較(昼/夕)。同一シーン・同一設定のまま、パラメータ操作のみでライティングや空気感を切り替えている。
――随分多機能ですが、このツールはどれほど前から制作されているのでしょうか?
清原:もう4年は前になりますね。制作のきっかけは、SGEの各社がアニメ調の画つくりのために、どこも似たような作業をしているな、と気づいたことでした。共通の作業をしているのであれば、共通のツールで効率化できるのでは、とアーティストの負担を軽減するためにつくり始めました。最初期の開発は私一人でやっていて、シェーダーの機能しかないシンプルなものでした。当時はまさかここまで大きくなるとは思っていなかったんですが、コアテク側で「もっと色々作ろう」という流れが生まれ、コアクリの方々に意見を聞いたりしましたよね。
西村:そうですね。その時は欲しい機能を欲望のままにお伝えして、有用そうなものや、すぐ対応できそうなものから順次実装してもらいました。その積み重ねで、今の多機能な姿になっています。なので、初期の発展の一部は私たちコアクリの欲望でできています(笑)。
清原:実際に使う人が何を求めてるのか知りたかったので、率直な意見が聞けたのはとても助かりました。ツールは結局つかってもらわなくちゃ意味がありませんから。アーティストが便利に使えるようにSiriusが発展していく、そのために開発を続けていけるのは本望ですし、現在も各社のフィードバックをもらいながら機能拡張を進めています。
西村:現在の機能拡張やフィードバックの循環については、私を中心に、使い方やナレッジを各社に共有しつつ、要望があればコアテクに伝えて、次の機能拡張につなげていく、という形で回しています。
初めの頃は、私がプロジェクトのヘルプに入る際にSiriusの導入を推進していたのですが、最近は私が入っていないプロジェクトからも導入の要望が上がるようになりました。
▲Siriusのシェーディング機能を使用した、雨濡れ表現の例。濡れ具合に応じた反射や質感の変化を、パラメータ制御で再現している。
――Sirius導入前後で、制作現場の変化はいかがでしたか?
西村:個人的な感覚としては、「まったく違う」と感じます。いままでのプロジェクトでは環境を用意して動き出すまで2か月ほど時間がかかることもざらにあったのですが、導入後は相談を受けてすぐにLookdevに着手できるようになり、かなりスピード感が上がりました。もちろん、ケースバイケースなところはありますが、それまで環境を持っていなかったプロジェクトへの恩恵は大きい感触ですね。一方で、「ツールそのものも自分たちで作りたい」というところに関しては、無理にSiriusを導入せず、現場の意向に任せるようにしています。
清原:エンジニアの視点では、Siriusのサポートはコアテクに任せられるようになっているのが良いという評価をもらうこともあります。
これまでトラブルシューティングや環境の用意に使っていた時間を、別の機能開発に充てられるようになるので、3DCGのみならずゲーム全体のクオリティアップにおいてもSiriusはお役に立てているのではないかと思います。
――今後実現したい仕組みや取り組みはありますか?
西村:ツールそのものの話ではないのですが、最近はLookDevなどで使うサンプルモデルを作っています。SGE各社では、IPタイトルを扱うことも多くありますので、過去に作ったモデルを別のタイトルに転用するのが難しい。でも、LookDevのタイミングで各社がサンプルモデルを作るのも、時間がもったいないですよね。なので、取り回しやすいモデルとして配布できるように制作を進めています。
▲実際に作成されているサンプルモデルの例。「Sirius PBR Character」シェーダーを適用し、Unity上でリアルタイム表示した状態。
親会社と子会社の関係でも、とにかく助けて信頼を築く
――横断して各社と関係を築くのはなかなか難しいようにも思うのですが、何か工夫されていることなどはありますか?
清原:とにかく信頼関係を構築することだと思います。肩書だけでみれば私たちは親会社であるサイバーエージェントの所属で、アーティストの皆さんは各子会社の所属にありますが、開発の場でその「所属の違い」が障壁になってはいけない。これは「所属」の違いだけじゃなく、エンジニアとアーティスト、リーダーとメンバー、どんな関係性でも同じことが言えます。
こちらの提案に耳を傾けてもらったり、逆に向こうから気兼ねなく相談をしてもらったりするには、日頃からWin-Winの関係を作っておくことが必要だと考えています。
言うなれば「信用の残高」を積み上げておかないといけない。
――「信用の残高」、特徴的な言葉ですね。
清原:その言葉自体は、先日エンジニアと話していた時に偶然言われて、いいなと思って引用しているのですが、要するに「この人たちに頼れば問題を解決できる」という信頼や経験ですね。
現場の方々が私たちに依頼したことで、良い方向に進んだという実績を積み上げる必要があるということです。
西村:現場のアーティストからすると、依頼して解決できればWinですし、私たちも頼ってもらえてナレッジにもなるのでWin。なので、Win-Winの関係となります。
清原:とはいえ、最初から気兼ねなく相談するのは難しいので、現場で困ってることがあればこちらから積極的に入っていって協力をするようにしています。その積み重ねのおかげか、今ではむこうから相談をもらえるようになりましたね。
――なるほど、「残高」が積みあがって信頼関係が出来てきたわけですね。
西村:はい。一方で、困っていることの本質を把握する必要があるなと思いました。
なにか問題に直面すると、ついつい便利ツールやシステム側での解決が頭をよぎってしまうと思うのですが、実際に深く話を聞いてみるとワークフローやオペレーションの改善で対処できることもたくさんあったりするんですよ。
そうしたものを適切に見定めるためにも、よく話すことが必要だと感じます。そうして話すことで現場の実際を把握することもできますし、ワークフローやオペレーションはノウハウとして共有しやすい部分でもありますから。
――現場との信頼関係を構築しているからこそ、リアルな課題が聞き出せるわけですね。実際に、コアテク・コアクリとしてアーティストの皆さんをサポートされてみて、いかがでしたか?
西村:やりがいを感じますね。子会社を横断しながらプロジェクトごとに異なる表現や課題に取り組んでいくのは手ごたえがありますし、様々なタイトルに関われる充実感があります。
清原:私も様々なプロダクトの情報を知りたい人なので、すごく楽しいですね。学んだ知見を他の場所に持って行って問題を解決するという仕事は面白いです。
西村:あと、本音の課題や理想は意外なものも多いですね。夢のように壮大な理想があるかと思えば、もっと早く言ってくれればすぐ解決できたのに……と思うような具体的な課題もあります。
そうしていただいたリクエストや意見などは「夢リスト」というリストにまとめるようにしていて、実現できそうなものから順にひとつずつ着手している最中です。
清原:「夢リスト」ではアーティストの皆さんに、比較的なんでもリクエストしてもらっていますが、現場のみなさんはコスト意識が高いというか、「こうだったらいいのに」という、採算度外視の理想像を聞くことは少ない印象がありますね。
私たちは先ほどの通り“アーティストファースト”を掲げていますので、壮大な理想も小さな問題も含めた率直なリクエストを引き出せる仕組みはもっと整備していきたいです。
チームの中核を担える人はSGEに来て欲しい
――コアクリ・コアテクはまだまだ拡大の最中だと思うのですが、SGEで働く3DCG領域のメンバーとして、新たに迎え入れたい人物像などはありますか?
西村:チームの中核を担い、開発フローを考えられる人に来ていただけると嬉しいです。
SGEの現在の主戦場はモバイルゲームですが、デバイス性能が向上したのもあり、これからはより高度な表現や開発フローも必要になるはずです。PCやコンソールのゲームから学ばなければならないこと、先行技術から研究しなければならないことは沢山出てくると考えています。
そうした状況に合わせて、私たちと共に開発を引っ張っていただけるような方と一緒に働けると嬉しいですね。
――SGEならではの魅力や特徴はどんな部分でしょうか?
西村:コアテク・コアクリの存在、というのも魅力になればうれしいですが、そのほかでいうと、SGEは複数の子会社が所属しているので、自分にマッチするプロジェクトを探すことができ、その上で様々なタイトルに関われるのが魅力だと思います。
清原:エンジニアの視点でいうと、「フラットさ」でしょうか。SGEではどの会社でもアーティストとエンジニアがフラットに意見を言い合える関係を構築できていて、そのおかげでスムーズに物事を進められるのが、開発現場にとてもいいサイクルを生み出していると思います。
――最後に、この記事を読まれている方にメッセージをお願いします。
西村:会社間での繋がりや支え合いまで含め、良好な環境を整えていると思いますので、もしSGEにご興味を持っていただけましたら是非ご連絡下さい。要望さえいただければしっかりとサポートする所存です。
清原:ワークフローをよくしたり、改善を積み重ねたりしていくような行いに興味がある方、その視座を持っている方が来ていただけると、すごくありがたいです。よろしくお願いします。
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TEXT_稲庭 淳
PHOTO_弘田 充
EDIT_遠藤佳乃(CGWORLD)