>   >  メーウ『pair* Factory MIX』PVメイキング(後編)〜 Autodesk 3ds Max Eentertainment Creation Suite 導入事例 〜
メーウ『pair* Factory MIX』PVメイキング(後編)〜 Autodesk 3ds Max Eentertainment Creation Suite 導入事例 〜

メーウ『pair* Factory MIX』PVメイキング(後編)〜 Autodesk 3ds Max Eentertainment Creation Suite 導入事例 〜

圧倒的な物量と緻密なディテール〜背景美術

続けて、KDB の持ち味のひとつである圧倒的な物量と精密なディテール描写が魅力的な背景美術について解説する。本作の背景のモデリングではコンビナートというキーワードだけはあったものの、それらの場面設定や詳細などが用意されている訳ではなかったので、細部のデザインなどは背景をモデリングするモデラーに委ねられたという。

「まずはスタッフ同士で『工業地帯のような場所で。クレーンがあって。クレーンがあるなら、それでステージを吊り上げるのも良いよね』といった感じでアイデアを出し合ったり、小林監督の描いたイメージボードを参考にアイデアを拡げていきました。写真などを参考にモデリングも行いましたが、実際に夜のコンビナートへロケハンに行きイメージを固めたりもしました」と、3D 背景美術をリードした宮城 健氏は語る。

もちろん、スタジオカラーには『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』などで過去に制作された工場などのモデルがあり、それらを利用するという選択肢もあったが、そうした場合も本作向けにオーバーオールしたり、新たにゼロからモデリングし直す必要があったという。

「工場などのモデルがあるといっても遠景用として作成されたモデルなので、リファインやバリエーションを増やす必要があったのですが、自社開発したプラグインを使うことでトラスやキャットウォークなどを簡単に作成する事が出来ました。どんなプロジェクトでもレイアウトの修正は付き物なので、背景をモデリングする際はRailCloneなどのプラグインを用いるなどしてレイアウトなどが変更になった場合なども即座に対応出来るように心掛けています」(宮城氏)。

短期間で効率良く作業を行うべく、プラグインや過去に培った経験などを活かしながらモデリングやレイアウトを進めることが欠かせない。

敢えて余地を残したアートディレクション

『pair* Factory MIX』PV01 『pair* Factory MIX』PV02

image courtesy of khara, inc.
小林監督が描いたイメージボード(左)とラフスケッチ(右)。ステージを吊り上げるクレーンやコンビナートというシチュエーション、色味の方向性など、ベースとなるイメージが示されている。監督が掲げたイメージの方向性に対して、担当スタッフがディテールや具体的な表現を積極的に盛り込んでいったそうだが、KDB には "トライ&エラーは締切間際まで惜しみなく" といった文化があり、各工程でその都度、新たなアイデアを試してはボツにしていたという。そうした積み重ねの下に KDB が誇る "精細に作り込まれたヴィジュアル" があるわけだ

フェティシズム溢れるメカモデリング

meaw:クレーン俯瞰ショット クレーンのモデル01

image courtesy of khara, inc.
クレーンで吊られた多角形型ステージの俯瞰ショットは、見せ場のひとつ。それゆえにクレーンをはじめとする各モデルはかなり緻密に作り込まれた。影やラインなど素材を分けてレンダリング行なっているので、キャラクター同様にコンポジット時に細かな調整が行える仕様となっている。キャラクターほど前面に出ない背景モデルであってもかなり細密に作り込まれており、松井氏らモデラーたちの熱い想いが伝わってくる。なおデータ容量は、クレーンモデル単体が約24MB、俯瞰ショットの 3ds Max シーンファイルは約105MBとのこと

Pencil+ による表情豊かなアニメ調輪郭線

『pair* Factory MIX』Pencil+

全てのパーツに同じ設定でラインを入れてしまうと、パイプやケーブルなど細いモデルはラインで塗り潰されてしまう。そこでパーツを大まかに分類し、それぞれにブラシのサイズなどを調整したラインセットを割り当てることで、バランスの良い線量に仕上げている。画像はクレーンモデルのフック部分に割り当てた3種類のラインセット。ブラシサイズとエッヂのチェック項目に違いが確認できる

プラグイン「RailClone」の活用

『pair* Factory MIX』RailClone使用例1

image courtesy of khara, inc.
貨物列車が走る線路や工場のパイプ、手摺りなどは、スペイン iToo Software 社が開発したプラグイン 「RailClone」 を利用。このプラグインは任意のジオメトリ素材に対して、パラメトリックモデリングが行えるため、モデリングや配置修正の手間を最小限に止めることができたそうだ

『pair* Factory MIX』RailClone使用例2

image courtesy of khara, inc.
「この背景シーンでは、緑色のオブジェクトに RailClone を利用しています。スプラインでの調整できるのでレイアウトの調整を楽に行えましたよ」(宮城氏)

自社開発プラグインの活用

建物のモデリングでは、キャットウォークやトラス等のディテールを大量にモデリングする必要があった本作。そこで、「khCircleSpline」「khGuideSpline」 という2種類のプラグインが新たに自社開発された。先述の RailClone と併用することで、複雑かつ高精細なモデリングを短期間で仕上げることができそうだ。

『pair* Factory MIX』自社開発ツール01

image courtesy of khara, inc.
新開発されたインハウス・プラグイン「khGuideSpline」の使用例(※画像をクリックして拡大)。利用方法は、まずベースとなるスプラインに対してプリミティブの段階でマテリアル ID を設定しておく

『pair* Factory MIX』自社開発ツール02

image courtesy of khara, inc.
各パーツごとに分けられたスプラインには、予め用意しておいた RailClone によるパラメトリックモデルが割り当てられている

『pair* Factory MIX』自社開発ツール03


その上に、別途自社開発した 「khDelByMat モディファイヤ」 を適用。これにより、ID ごとにモデルの表示/非表示が選択可能になる。なお、この手法は上述した RailClone の作例にも用いられており、レールや壁面、架線柱などをスプラインの長さを変えるだけで調整できるようにされた

『pair* Factory MIX』自社開発ツール04

image courtesy of khara, inc.
同様のコンセプトに基づく自社開発プラグイン「khCircleSpline」の使用例。ドーナツ状のスプラインを利用することで間に隙間を生成することができる。「今回新たにこれら2つのプラグインを開発してもらえたことで、最終的なカメラビューを見ながら、見た目のレイアウト優先で、全体サイズや手すりのバリエーション、鉄骨のサイズなどの変更を即座に行うことができました」(宮城氏)

KDB クオリティを象徴する BG 制作例

背景素材は 2D の美術背景や 3DCG モデルなどが混在している。そして、1つの背景としてまとめる上ではカメラマップ、レンダリングされた 3DCG 素材に対して特効的に 2D のタッチを加えるなどといった、各カットの特性に合わせて様々な手法を使い分けている。このアプローチにより、作画とデジタル双方の良い面を引き出し、独特のルックに仕上げているわけだ。

『pair* Factory MIX』BG素材01 『pair* Factory MIX』BG素材02 『pair* Factory MIX』BG素材03 『pair* Factory MIX』BG素材04 『pair* Factory MIX』BG素材05 『pair* Factory MIX』BG素材06 『pair* Factory MIX』BG素材07 『pair* Factory MIX』BG素材08 『pair* Factory MIX』BG素材09 『pair* Factory MIX』BG素材10

左上から右下へと降順で、<1> 2D の遠景、<2> カメラマップした煙突、<3> 3DCG の中景モデル(セルシェーダを適用)、<4> 壁面(その1)。3ds Max の標準マテリアルを割り当てただけの状態、<5> <4>に対して、撮影処理で色と質感を足したもの、<6> 壁面(その2)。セルシェーダを適用、<7> <6>に対して、撮影処理を施したもの、<8> カメラマップした電線、<9> 列車モデルのテクスチャ素材(UV展開したもの)、<10> キャラクターモデル(メー)

『pair* Factory MIX』BG作例・完成形

image courtesy of khara, inc.
<1>〜<10> 全ての素材を組み合わせた完成形

特集