3DCG から手描きまで駆使したコンポジットワーク
最後はコンポジットワークだ。ヴァーチャルアイドルと重厚な工業地帯という一見ミスマッチな両者は、本来色彩においても異なるものだが、コンポジットによるライティングやフィルタ処理などを駆使して、双方の魅力を高めつつも上手く馴染ませることに成功している。
「今回は手描きで描いたフレア素材やドライアイスの煙を HDSLR(HD対応のデジタル一眼レフカメラ)ムービー で収録した実写素材を使用するなど新たな試みを行っています。冒頭に登場する架線柱の照明には、3D 素材の動きに合わせるために、米 Boomer Labs が開発した MAX2AE というプラグインを使用しました。MAX2AE を使えば、3ds Max のカメラやライトなどの位置情報を After Effects に持ち込むことができるので、3DCG カメラの動きに合わせてフレア素材などを簡単に配置することが可能になり、より効率的に作業が行えました」(福澤 瞳コンポジットディレクター)。
デジタルやアナログなどに捉われず、ありとあらゆる手法や技法を柔軟に使い分けることで、よりイメージに近い映像を制作し昇華させたい、という想いが伝わってくる。
「少数精鋭で挑んだプロジェクトということもあり、スタッフ間の距離がとても近かったので、3DCG や撮影といった垣根もなくスタッフ同士で意見を出し合いながら作業を進めることもできましたし、レスポンスも速いので素材などの差し替えや調整がスムーズに行えました。大人数が関わる様な普段の作品ではなかなか味わえない経験が出来たのでとても良かったです」と、福澤氏が語るように、少人数かつ短期間で制作された本作ではあるが、そんな事は微塵も感じられないほどの仕上がりで、若手スタッフの意地と意気込が映像から垣間見える。
MAX2AE を用いた 3D コンポジット
本作では、プラグイン MAX2AE を使い、3ds Max のシーンデータからライトやカメラ等の各種位置情報を AE スクリプトとして書き出し、コンポジットに読み込んだ。例えば、冒頭に登場する貨物列車の上でメーウが歌う、このショットでは、スポットライトの表現を 3DCG と同様に奥行のある動きを再現することを可能にした。
image courtesy of khara, inc.
3ds Max で作成したBGシーンファイル。<上>カラー、<下>ワイヤーフレーム
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3ds Max 上でプラグイン「MAX2AE」起ち上げ、カメラとライトの位置情報を AE 用のスクリプトとして書き出す
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書き出されたスクリプトを AE に読み込むと、新たなコンポにカメラとライトが生成される。そのライトに対して Trapcode Lux を適用
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一連のコンポジットワーク施した完成形。日本の制作現場ではアニメ、実写を問わず AE がコンポジット作業のデファクト・スタンダードとなっており、そうした意味でも KDB が今回導入したワークフローは興味深い。なお、間もなくダウンロード開始予定の Subscription Advanced Package にて、3ds Max 2012 がAfter Effects と連携可能になるそうなので要注目だ
3DCG だけではなく、手描きなどの2D素材も幅広く活用することで独創的なヴィジュアルを生み出す KDB、本作のフォグ素材にはドライアイスの煙の実写素材も利用している。HDSLR の草分け的な存在である Canon EOS 5D Mark Ⅱ を使い、自社で素材撮りから行われた
光を手で描く
本作のコンポジットワークでは、作画アニメ的なアプローチも用いられた。フレアなどはプラグインや 3DCG、実写の素材に頼るだけでなく、手描きのフレア素材も多様。Photoshop で描いた素材を重ね合わせることによって、プラグインで生成されるフレアとは一味違った雰囲気を作り出している。
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Photoshopで描いた元素材
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線幅や濃淡様々な元素材をAE上で合成して、ひとまとまりの光に見えるように調整する。フレアの筋素材(左)、サーチライト素材(右)
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フレアについては筋素材とは別に、周辺に光が拡散したニュアンス用の素材を作成
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一連の手描き素材をレイヤーモード[加算]や[カラー]等で合成し、調整を施した完成カット
マスクアニメーションによる光の誇張演出
本作では曲の盛り上がりに合わせて、終盤には遊び心あふれる光の演出も登場する。ステージ上のレンズフレアはリアルなフレアを再現するのではなく可愛さをアピールする演出技法のひとつとして捉えているので、リアルな表現を得意とするプラグインを使いつつもアニメ的な表現に落とし込まれた。
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<1>Trapcode Particular を使い、レンズフレア用のマスクを降らせる
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<2>円状から星型に変形するアニメーション素材を作成
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<3><1>の素材をマスクとして LensCare の [OutOfFocus] を適用し、アイリスに<2>を割り当てる
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<4>完成形。なお LensCare の場合、Radius の値を大きくするとフレアが薄くなるという問題があるため、途中から OpticalFlares で作成したフレア素材とオーバーラップさせている
AE のレンダリングジョブを Backburner で処理する
今年に入り、KDB はハードウェアを増強。レンダーファームについては、HP Z200 SFF/CT Workstation で構築することによって、低価格で省電力・省スペースでありながら、高パフォーマンスを引き出すことに成功した。3DCG のメインツールに、3ds Max を採用していることもあり、レンダリングのジョブ管理は Backburner を用いているそうだが、AE のジョブもBackburner に投げられるよう社内のプログラマーが独自に作成したスクリプトを利用しているとのこと。
AE のレンダリングジョブを Backburner で処理するための自社開発スクリプト「khBack Burner」の UI 。レンダリング設定を行い実行すれば AE のレンダーキューが Backburner に送られレンダーサーバでレンダリングが開始される
Backburner のキュー管理用 UI 。TGA 連番を分散レンダリングしたものをチェック用 QuickTime ムービーとしてエンコードするといった設定も可能だという
TEXT_村上 浩( 夢幻PICTURES )
PHOTO_弘田 充
KDB メインスタッフ
左上から時計回りで、鈴木貴志氏(CG ディレクター)、松井祐亮氏(シェーディング チーフ)、福澤 瞳氏(コンポジット ディレクター)、宮城 健氏(3D 背景美術)以上、スタジオカラー デジタル部
最新 CD+DVD『pair*』好評発売中
ジャケットのデザインも KDB が手掛けている。同梱 DVD には『pair* Factory MIX』PV に加え、メイキング Ver.も収録されているので必見だ。
価格:1,800円
品番:KICM-3235
公式サイト「Star Child:メーウ」
希望者には メーウ限定プロモグッズもプレゼント!
「Suite で GO!」キャンペーン実施中!
現在(株)Too にて Autodesk Suite 製品の期間限定キャンペーンとして、定価から20%OFFのキャンペーンを実施中である(対象は、新規ライセンスの購入と単品製品からのアップグレード)。特に単品製品からのアップグレードは大きく値引きされているので、この機会に検討してみてはどうだろう。
キャンペーン期間 :2011年10月14日(金)まで(※メーウ限定プロモグッズは、無くなり次第終了となります)
Too「3DCG 製品キャンペーン情報」ページ
Autodesk 3ds Max Entertainment Creation Suite Premium 2012
定価:997,500円(スタンドアロンライセンス)
対応OS:Windows 7/同 Vista Business(SP2)/同 XP x64 Edition(SP2)/同 XP Professional(SP3)他 ※動作環境に関する詳細は こちら
問い合わせ先:Too デジタルメディアシステム部
TEL:03-5752-2855
e-mail:dms@too.co.jp
Too デジタルメディアシステム部