『オトギフロンティア』や『ワールドダイスター 夢のステラリウム』など5タイトルの開発から運営を手がけるKMSが、エフェクトデザイナーを募集中だ。
「実務未経験でも応募可能」とのことだが、入社時点で求められるスキルレベルや、入社後どのような成長の軌跡をたどるのか、志望者からすると気になるポイントだろう。
そこで今回は、エフェクトのスペシャリストである秋山高廣氏(Flypot)とともに、同社に入社した業界未経験者が、1プロジェクトのエフェクトを全て手がけるまで成長した経緯と、そこに至るまでの努力や教育、そしてエフェクトデザイナーとして重要な着眼点まで、同社の主要スタッフ3名に聞いた。
わずか8年で200名弱の規模に拡大。『オトギフロンティア』、『ワールドダイスター 夢のステラリウム』を手掛けるKMSでは若手を積極採用中
――はじめに自己紹介をお願いします。
杉松:KMS アニメーション部 部長の杉松養一です。これまでは2D/3Dアニメーションを専門的に制作してきましたが、KMSではクオリティ面の指導やメンバーの管理をはじめ、アニメーション全般のマネジメントを担当しています。
杉松養一氏
株式会社KMS アニメーション部 部長
中瀬:同じくアニメーション部 マネージャーの中瀬智之です。アニメーション部は2D/3Dアニメーション、エフェクトを含めて1つのセクションとなっており、私自身はプロジェクト内でエフェクト制作の監修や後進育成を担当しています。
中瀬智之氏
株式会社KMS アニメーション部 マネージャー
阿部:アニメーション部 2D/3Dエフェクトデザイナーの阿部拓実です。他業種からゲームの専門学校を経てKMSに入社し、現在は『オトギフロンティア』のエフェクトをメインで担当しています。エフェクトは完全に独学で、入社後に現場で学びました。
阿部拓実氏
株式会社KMS アニメーション部 2D/3Dエフェクトデザイナー
秋山:合同会社Flypot代表の秋山高廣です。エフェクトデザイナーとして制作を行う傍ら、学校教育や「Unity Shurikenで作るはじめてのゲームエフェクト」などチュートリアルコンテンツの制作などを行なっています。今回はエフェクトの専門家としての立場から、エフェクト未経験の方が業界でどのように成長されたか、また具体的なエフェクトのつくり方についてお伺いできればと思います。
秋山高廣氏
合同会社Flypot 代表取締役/エフェクトデザイナー
ーーKMSの会社概要について教えてください。
杉松:KMSは2015年に設立された会社です。初年度は広告代理店事業を軸に活動していましたが、2期目からゲーム開発事業をスタートし、現在は『オトギフロンティア』や『ワールドダイスター 夢のステラリウム』など5タイトルの開発から運用までを社内で一貫して行なっています。
社員数は契約社員、アルバイトを含めて191名で、私が所属するアニメーション部のほかにも企画部が約50名、デザイン部が約10名、イラスト部が約30名、開発部に約40名ほど在籍しています。開発環境はUnityがメインで、プロジェクトによってはCocos Creatorを使用しています。
――ゲーム開発事業の開始から、わずか8年でここまで規模を拡大できた要因は何だったのでしょうか。
杉松:毎年異なるチャレンジを続けているからだと感じています。当社のゲーム事業は、誰もゲームをつくったことがない状態からスタートしました。最初に『オトギフロンティア』をリリースしてから、合同会社EXNOAと共同運営するDMM GAMESの『ミストトレインガールズ~霧の世界の車窓から~』では新たな2D表現に挑戦し、続く『天啓パラドクス』では3Dプロジェクトにも挑戦しました。
――挑戦に対する規模拡大、人材確保という面では、従来から新卒採用や未経験者採用を行なっていたのでしょうか。
杉松:新卒採用は3期目、6年前から始めました。今でも新卒採用は定期的に実施しており、経験者でなくても熱意があれば一緒に仕事ができる環境になっています。
未経験の新人エフェクトデザイナーの成長過程
――阿部さんはエフェクト未経験での入社をされたとのことですが、現職に至るまでの経歴を簡単に教えてください。
阿部:KMS入社以前は製鉄関係の工場で2年ほど働いていました。現場では修理を担当しており、時には巨大な鉄に挟まれながら上を向いて溶接を行うこともありました。目の前に火の粉がどんどん落ちてくるんですよ。それでエフェクトに興味をもった、というわけではないのですが(笑)、より自分にとってやりがいがある仕事に携わりたいという思いが募り、昔からゲームが好きだったこともあって専門学校に入学しました。
もともと「この斬撃はどうやって制作したんだろう?」「こういうエフェクトが出たらもっとカッコいいのに」と考えるタイプだったのですが、学校ではエフェクト制作まで学べなかったので、YouTubeなどの動画資料で独学を続けていました。
秋山:私も教育機関には携わっていますが、約2年という期間では基本的な概念やワークフローを教えるまでで精一杯なことが多いです。「VFXコース」のように銘打っていない学校では、専門的な学習カリキュラムの組み込みが時間的に難しい側面もありますね。
――未経験での入社において、どういった点が採用に結びついたのでしょうか。また、入社後はどういった研修が行われましたか?
阿部:ポートフォリオはUnityで制作した電気系エフェクトなどを用意した程度で、あまり良いものではなかったと記憶しています。入社するまでは、エフェクトアーティストがどういった仕事をしているのかもわからない状態でした。
中瀬:阿部の場合は、熱意があったことと「ゲームエフェクトをつくりたい」と考えていたことが大きかったと思います。ただ綺麗な画を出したい、派手なエフェクトをつくりたいといった欲求ではなく、最初からゲームのためのエフェクトということに目が向いていました。ポートフォリオが粗いのはまったく問題なく、その中にタメツメの気持ち良さがあるか、粗い中にも光るものがあるかが重要だと感じています。
杉松:当社は、研修として最初の3ヶ月でプロジェクトの仕様やUnityの使い方を覚えてもらう期間としています。その後は適性を見ながら目標設定を行いますが、阿部の場合は入社3ヶ月の段階で『オトギフロンティア』のトキーネというキャラクターのスキルエフェクト制作を担当してもらいました。
阿部:いま見ると恥ずかしいですね。これは「剣とお金」がコンセプトのキャラクターで、アイデアから私が考えて、杉松のチェックを経て制作に取りかかりました。『オトギフロンティア』ではUnityのタイムライン機能は使っていないため、全てアニメーションで直接制御しています。
杉松:最初は動きが単調かつスピードも等速だったので、まずはタメツメと緩急に関する部分に対するフィードバックを行いました。スピード感の調整をしてもらった後、容量がまだ少しあるのでお金や斬撃の要素を入れ込んでいきました。
秋山:新人の段階でスキルエフェクトに携われるのは良いですね。こういったエフェクトは言わば花形で、最初は通常の斬撃や炎のエフェクトなどから入るのが一般的かと思います。3ヶ月でインゲームのエフェクトがつくれるというのは驚きです。
杉松:KMSではエフェクト担当が演出までを広くカバーしています。アニメーターと協力しながら、どういった部分を目立たせるべきかを判断し、時には自分で字コンテや絵コンテを用意します。責任はありますが、自由度が高い仕事だと思います。
阿部:これは演出系に注力し始めた頃、画面全体の演出を取り入れようと思って制作したエフェクトです。闇属性の攻撃ですね。このくらいの時期から連番でテクスチャを描くようになりました。
秋山:テクスチャ制作はPhotoshopで行うのでしょうか?
阿部:私はCLIP STUDIO PAINTを使用していますが、他のメンバーはPhotoshopが多いです。3D系だとSubstance 3D Painterを活用するアーティストもいます。
杉松:最終的なアウトプットの品質が統一化されていれば、使用ツールは問いません。ブラシのカスタムやアクションを扱う場合はPhotoshop、豊富なブラシプリセットを用いて効率よくエフェクト制作を行う場合はCLIP STUDIO PAINTなど、各々で判断しています。
阿部:3つ目に紹介するエフェクトは、別プロジェクトでShurikenではなくShaderGraphを使った新たな表現を模索する中で制作したものです。ここでは3Dエフェクトに挑戦しました。
――技術的な挑戦を常に行いながら、自らが考えてエフェクトの演出・制作を行い続けることが成長の秘訣であると感じました。近作で、特に気に入っているエフェクトがあれば教えてください。
阿部:2023年8月に登場した『オトギフロンティア』のエミリーというキャラクターのエフェクトです。本作はカメラ固定ですが、このエフェクトでは擬似的なカメラワークや被写界深度を取り入れた、奥行きのある表現を行なっています。アニメーション担当者と話し合いながら、字コンテベースで制作しました。
杉松:完成までに3,4営業日、時間にして32時間ほどで制作されたものです。周年のタイミングでもあり、同様のクオリティのエフェクトを8キャラクター分制作する必要があったので、かなりスピード感が求められた仕事でしたね。この時期からは私もほぼ関わっておらず、阿部が主体となってエフェクト制作を進行していました。
秋山:カメラ固定のシーンにおいて、素材の配置で奥行き感をつくるのは良い見せ方ですね。自ら考え、提案ができるエフェクトアーティストは非常に貴重だと感じます。阿部さんは、どういった点を従来からの改善点と認識し、制作に取り入れたのでしょうか?
阿部:当時リリースされていた他作品のエフェクトを観察し、画面演出の面で取り入れられる要素を調査しました。例えば「奥行き感を出すために手前側を強調する」「色味の統一感を出しつつ、差し色を入れることで飽きさせないようにする」などの要素です。このエフェクトは全体的にピンク基調ですが、画面内のバランスを考えて、キャラクターが持つメインカラーである青や紫などを使っています。
秋山:Shurikenで制作した際の技術的な工夫はありますか?
阿部:スローモーション表現を行うためにSimulation Speedを活用しました。本作にはゲーム自体にスローモーション機能がなく、キーフレームを1つずつ打っていくのも現実的ではなかったため、効率的にスローで綺麗に終わる方法を模索していました。
――2年間でこのレベルに至るまで、どの程度のエフェクトを制作してきたのでしょうか。
阿部:私がメインで制作を行う『オトギフロンティア』だけで300個近くになります。これまでに渡り歩いた3プロジェクト全体で言うと、このエフェクトを制作するまでの2年間で500個ほどのエフェクトを制作してきました。
中瀬:よくぞここまで成長してくれた、と感慨深いです。伸びしろは未知数でしたが、阿部自身でしっかりとエフェクトを観察し、自ら考えて実装を続けた結果だと思います。あくまで私や杉松はアドバイスを行うだけでしたが、本人が挑戦の機会を活かし、努力をしたことが結実したのだと感じています。
エフェクト上達のコツは「要素分解」と「分析」
KMSならではの教育体制と新人の採用方針
――未経験からエフェクトの中心人物へと導いた教育体制について、研修内容や考え方の基本があれば教えてください。
中瀬:エフェクト制作では「要素分解」と「分析」の概念が重要です。例えばガラスが割れる衝撃や、炎・水といった自然現象は現実世界でも発生し得る現象です。現実に存在する現象をエフェクトの演出として取り入れる場合は、その対象をよく観察して、その現象の発生要因をひとつひとつ分解することが大切です。これが「要素分解」になります。
秋山:観察眼は非常に重要ですね。例えば、焚き火のエフェクトを制作する場合、ビルボードの連番を配置するだけでなく、木材の縁から回り込んで上昇する熱波なども含めて表現できるかどうか。現象をしっかり観察して分解できる人ほど、クオリティもしっかりついてくる印象があります。
杉松:「分析」は、制作する対象キャラクターが持つ固有のモチーフや、バフなのかデバフなのか、属性や武器種は何かといったスキルの特性などを徹底的に洗い出すことを指しています。技やスキルのカテゴリごとに傾向を掴むことに役立ちます。いまは、これらの概念的な情報や、ShurikenやShader Graphの使い方がまとまったエフェクト制作の総合マニュアルを作成している最中です。また、私や中瀬がしてきたように、今後は阿部も教わる側から教える側に回る予定です。
――改めて今回の募集背景について教えてください。
杉松:現在エフェクトは5名が在籍しており、それぞれ1プロジェクトにつき1人が担当している状況です。今後、演出面を強化するにあたって、できれば1プロジェクト2人体制を敷きたいと考えています。エフェクト同士でコミュニケーションがとれたり、教え合ったりすることで、より良い開発環境になるはずだと考えています。
――最後に、一緒に働きたい人材についてコメントをお願いします。
阿部:つくり方がわからなくても、エフェクト制作に興味がある方、少しでも気になっている方であれば歓迎です。私自身、右も左もわからない状況で入社しましたが、すぐに「エフェクト制作は本当に面白い!」と気づけました。やはり興味に勝るものはありません。
中瀬:やる気がある方、熱意がある方が好ましいです。ゲームを構成するイチ要素、ユーザーの皆さんに楽しんでもらうためのひとつのツールとしてエフェクトをつくっていくんだ、という想いがある方が来ていただけると嬉しいです。
杉松:KMSは2D/3D問わず経験を積める現場です。未経験でもしっかり育成しますし、経験者にはこれまでのキャリアに応じたメンバー教育などにも参画していただきたいと考えています。また応募する際はどの程度熱意があるのかを判断する材料として、ご自身で制作されたポートフォリオを持参の上ご応募いただけると嬉しいです。
――ありがとうございました。
KMS募集職種
<募集職種>
①エフェクトデザイナー
②2Dモーションデザイナー
③グラフィックデザイナー
④バックエンドエンジニア
⑤制作進行
TEXT_神山大輝 / Daiki Kamiyama(NINE GATES STUDIO)
EDIT_藤井紀明(CGWORLD)
INTERVIEW_池田大樹(CGWORLD)