ライブ合成、インカメラVFXにボリュメトリックキャプチャ。東映ソニーPCLがタッグを組み、他に類を見ないバーチャルプロダクションが実施された本作に迫る。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 308(2024年4月号)からの転載となります。

    東映とソニーPCLが連携したバーチャルプロダクション

    『王様戦隊キングオージャー』
    東映特撮ファンクラブにて全話配信中
    【プロデューサー】大川武宏(テレビ朝日)、大森敬仁(東映)、矢田晃一(東映エージエンシー)、【原作】八手三郎、【脚本】高野水登、【監督】上堀内佳寿也、【アクション監督】渡辺 淳、【特撮監督】佛田 洋(特撮研究所)
    www.toei.co.jp/tv/king-ohger
    ©テレビ朝日・東映AG・東映

    スーパー戦隊シリーズの47作目として放送された『王様戦隊キングオージャー』。本作はTVシリーズにも関わらず、クロマキーによるライブ合成、LEDウォールを使用したインカメラVFXに加え、ボリュメトリックキャプチャまで採用するという、最新技術をフル活用した作品となっている。

    「ここ3~4年の間に、東映は積極的にバーチャルプロダクションへの取り組みを進めてきました。作品づくりにおいてグリーンバックを活用したライブ合成を徐々に取り入れていく中で、最新作となる『王様戦隊キングオージャー』においてもバーチャルプロダクションをいかに導入していくかを検討していたんです。そこから背景を全てアセット化する段取りを進めていきましたが、東映ではLEDスタジオの本格稼働前だったので、実績あるソニーPCLさんに協力を仰ぎました」(東映プロデューサー・大森敬仁氏)。

    左から、上堀内佳寿也監督、VPプロデューサー・遠藤和真氏(ソニーPCL)、ラインプロデューサー・佐々木幸司氏(東映)、ボリュメトリックキャプチャテクニカルディレクター・増田 徹氏(ソニーPCL)※写真なし:プロデューサー・大森敬仁氏、VFXディレクター・小林真吾氏(以上、東映)

    そうした打診を受け、まずはソニーPCLの「清澄白河BASE」にてバーチャルプロダクションの検証が行われた。「お話をいただいたのが2022年の年末。2023年1月中旬に検証を始め、1月末に初回の撮影を実施しました」(ソニーPCL VPプロデューサー・遠藤和真氏)。

    当時はバーチャルプロダクションとしての撮影のみが進められていたが、撮影が軌道に乗ったところで、ソニーPCLからボリュメトリックキャプチャ技術を提案。上堀内佳寿也監督は「見た段階で面白い。スーパー戦隊にとても向いているシステムだなと初見で感じました」とふり返る。東映のラインプロデューサー・佐々木幸司氏も「演出の幅が広がる可能性を確信しましたし、バーチャルプロダクションで導入に向けての下地はできていたので、前向きに進めることになりました」と語る。

    そこから劇場版のプロモーション映像で試験運用し、その成功から本編への導入につながったという。「清澄白河BASE」内のバーチャルプロダクションスタジオ(以下、VPスタジオ)に東映のシステムが持ち込まれ、撮影技法を使い分けながら制作された本作。その舞台裏を紹介していこう。

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    監修:東映株式会社
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    <1>東映とソニーPCLの連携

    ライブ合成(L合)とインカメラVFXの併用

    これまで東映では、グリーンバックを使ったライブ合成(L合)が行われていた。これはグリーンバックでキーを抜きながらリアルタイムに合成をするクロマキー的手法であるが、本作ではまずL合とLEDウォールでのインカメラVFXとの併用が上手く機能するかという懸念があったという。「単純にLEDウォールを使った撮影をするだけでは意味がなく、L合と臨機応変に切り替えながら双方で監督が望む画をつくり上げる必要がありました」(東映VFXディレクター・小林真吾氏)。

    東映のライブ合成システムを「清澄白河BASE」内のVPスタジオに持ち込んで切り替えながら撮影が行なわれたが、撮影を重ねる中で練度が上がり、上手く回り始めたという。「どちらの撮影方法を選択するかに関しては、寄りのカットがインカメラVFX、引きのカットがL合での撮影が基本となりましたが、しっかりとコミュニケーションラインをつくって、監督の判断によって素早く対応できるようにしました」(遠藤氏)。

    双方の撮影手法を運用するにあたっては、事前に作成されていた背景アセットの最適化が行われた。「同じアセットを使用してもL合でリアルタイム合成するのと、LEDの高解像度にリアルタイムで出していきながら再撮するのでは、やはり差異が出てしまいます。L合で正常に動作していたからと言って、LEDの方で動作するとは限らない。逆に、LEDで綺麗に画が出ていたのに、L合では出なかったりしました。そのため、クオリティラインを把握した上でそれぞれ管理する必要がありました」(小林氏)。

    特にLEDウォール側では、Unreal EngineからnDisplayにて送出する際にテクスチャの破綻が起こるケースもあったとのことで、アセットごとに調整が行われたという。データサイズに関しても、レベルや構造を分けて負荷がかかりすぎないように調整された。「例えば、良く見せようと思ってリアルタイムレイトレーシングがONになっていたりすると、負荷がものすごく上がってしまいます。ルックの品質を落とさず軽いレンダリングができるように、様々なパラメータのやり取りをしながら試行錯誤しました」(遠藤氏)。

    東映撮影所でのグリーンバックを用いたライブ合成の例

    主に引きのカメラの際にライブ合成が選択された。システムでリアルタイムに合成を行いチェックを行いながら撮影が進められた。画像はそれぞれ左が撮影時の様子、右が完成ショット。

    「清澄白河BASE」内のVPスタジオ

    背景はUEで作成されたアセット。

    【スタジオ仕様】LED:ソニー製Crystal LED Bシリーズ(LED画素ピッチ1.58ミリ)、解像度17,280 x 3,456ピクセル(横27.36m x 高さ5.47m)/天井LED:解像度1,008 x 1,008ピクセル(横7m x 高さ7m)/可搬式LED:解像度1,536 x 960ピクセル(横4mx 高さ2.85m)/カメラトラッキングシステム:Mo-Sys StarTracker 、NaturalPoint OptiTrack PrimeX41 x 2、OptiTrackPrimeX22 x 8 with シネパック(アクティブセンサー)、oARo EZtrack(レンズデータ転送)

    インカメラVFX ショット

    「清澄白河BASE」VPスタジオでのインカメラVFXショット(左が撮影時の様子、右が完成ショット)。奥行きのある演出を行う際に採用された。Unreal Engineで生成された背景CGがカメラのポジション・アングルに連動し、LEDウォールに映し出される。

    五王国のUEアセット

    東映が制作した五王国のUEアセット。送出の仕組みによりテクスチャに破綻が起こるケースなどもあり、アセットごとにチューニングし直された。また元データは非常に重かったため、レベル構造を整理してプロジェクトが再構築された。

    ルックの作成

    ルックの参考例。Unreal Engine上で時間帯ごとに各アセットのクオリティが詰められた。Dynamic Skyにて作成
    Unreal Engineからアセットをウォールへ送出管理している様子。Uneal Enigine内の仮想空間でもVPスタジオが再現され、カメラトラッカーから取得したカメラポジションとウォールへの送出が視覚化されている

    <2>ボリュメトリックキャプチャの活用

    自由な演出を実現するボリュメトリック技術

    ボリュメトリックキャプチャが最初に採用されたのが、毎年夏に公開される映画のプロモーション映像だ。キングオージャーと仮面ライダーたちが歌に合わせてダンスをする映像だが、注目すべきは監督自らボリュメトリックキャプチャによる3DモデルをUnreal Engine上に配置し、レイアウトやカメラワークを探りながらラフ映像を作成している点。「ボリュメトリックキャプチャしたデータで何ができるのか、自分で理解したかったんです。絵コンテもつくらず、作業しながら技術に触れ、こうしたらいいんじゃないか、こういう演出もできるんじゃないかと探りながら進めていました」(上堀内監督)。

    ボリュメトリックキャプチャはソニーPCLテクニカルディレクターの増田 徹氏が主導。撮影はもとより、ソニーの独自プラグインで高解像度レンダリングしたデータを作成し、最終のポスプロまでを担当している。ボリュメトリックキャプチャは、被写体を360度囲むように数百台のカメラを設置して撮影し、三次元的に撮影・計測して3Dデータ化する手法だが、その利点を監督自ら実体験として感じたことが本作の演出の幅を広げることにつながったようだ。

    ここでの経験を経て貯められたノウハウをもとに、TVシリーズ本編でも本格的なボリュメトリックデータの活用が進められることになる。最初にボリュメトリックキャプチャが用いられたのが第39話のバトルシーンだ。「まずはアクションシーンに採り入れてみました。既存の撮影手法では縦横無尽に動くカメラワークや演出意図を表現しきれない部分がありましたが、ボリュメトリックキャプチャデータを使うことで人間の感情の機微まで追うことができました」(上堀内監督)。

    演出の幅の広がりとクオリティ共に満足のいく結果を得ることができ、TVシリーズのクライマックスとなる第49話と第50話でもボリュメトリックキャプチャが活用されることとなった。第49話は敵味方が入り乱れる合戦シーンに利用されており、奥行きのある自由度の高いカメラワークで大人数でのバトルが演出されている。第50話では、宇宙での合体ロボとラスボスのバトルでボリュメトリックキャプチャを活用。

    「ロボのサイズ感がかなり大きかったのと特殊なディテールをもっていたので、スタジオでの撮影と3Dモデル化に苦労しました。その甲斐あって、本編ではUEシーンの環境光がロボの質感に反映され、金属感などもしっかり表現できていると思います」(増田氏)。

    ボリュメトリックキャプチャスタジオ

    • 「清澄白河BASE」内にあるボリュメトリックキャプチャスタジオ全景。360度グリーンバックで囲まれており、撮影エリアは30m²、内径6mの円×高さ3m
    • 天吊りも可能
    活用例。ソニーPCLのYouTubeチャンネルで視聴できる。ボリュメトリックキャプチャはシーケンシャルにフォトスキャニングするシステムで、モデル、テクスチャのほか、キャラクターボーンも生成される。完全3Dデータとなるため、撮った人物を360度どのようなアングルからも映すことが可能だ

    映画用プロモーション映像

    映画のプロモーション映像と撮影時の様子。絵コンテは切らずに、実際に技術に触れた上でその場で演出を決めていったという。実験的なプロジェクトとなったが、ここでの成功と知見が本編で活かされることとなった。

    本編でボリュメトリックキャプチャを活用

    第39話のキングクワガタオージャーと宇蟲五道化ゴーマ・ローザリアの戦い。本編では初めてボリュメトリックキャプチャを活用。撮影した人物の動きをそのままキャプチャし、背景アセットと組み合わせてシーンが形成された。完全3Dデータとなるためカメラ演出を自由に変更することができ、ほかにはない特撮映像となった。

    完成ショット
    演技および演出の打ち合わせの様子
    撮影時は撮影エリアには演者以外入れないため、外部モニタにてチェック

    キャプチャデータの活用

    • キャプチャデータ
    • キャプチャデータ
    Unreal Engineで構築したシーンにエフェクトを追加
    キャプチャデータは複製も容易で、モブシーンでも活用された

    合戦シーン

    第49話では合戦シーンでボリュメトリックキャプチャを活用。こうした多人数のキャラクターが登場するケースでは、後からカメラワーク等を決めるため、撮影時に演者がカメラ位置を気にすることなく自由に演技を行うことができるのが大きなメリットとなる。

    完成ショット
    • 撮影時の様子
    • 撮影時の様子
    キャプチャデータから生成された3Dモデル

    ロボットのボリュメトリックキャプチャ撮影

    第50話ではロボットのボリュメトリックキャプチャ撮影に挑戦。複雑な形状かつ特殊な構造のロボットだが、データが欠損しないよう撮影時に工夫することで上手く対応できたとのこと。

    完成ショット
    • 撮影時の様子
    • 撮影時の様子
    キャプチャデータから生成された3Dモデル
    • ロボットのみのレンダリング画像
    • Unreal Engineでのシーン構築

    CGWORLD 2024年4月号 vol.308

    特集:アニメ『アイドルマスター シャイニーカラーズ』
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年3月8日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_渡邊英樹
    EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada