Blenderで広がったキャラクター創作の世界~VRChat用アバター頒布で活躍する かめ山・キツネツキ両氏に訊く(MC:和牛先生)~Blender Fes 2024レポート
2024年3月23日(土)に開催されたBlenderユーザー限定の技術交流イベント「Blender Fes 2024」。ここでは、大盛況で閉幕した本イベントの中から「Blenderで広がったキャラクター創作の世界」の様子をレポートする。登壇者は、聞き手の和牛先生と、VRチャット用のアバター販売を行う3DCGモデラーのかめ山氏とキツネツキ氏。VRチャットのルーム内で開催された本セッションでは、両氏の来歴からアバターづくりのノウハウまでをじっくり伺った。
イベント概要
Blender Fes 2024
Blenderユーザー限定の技術交流イベント
開催日:2024年3月23日(土)11:00~18:30
会場:オンライン
主催:CGWORLD/ボーンデジタル
https://cgworld.jp/special/blenderfes/vol2/
セッション登壇者プロフィール
かめ山(もち山金魚)
3Dモデラー。2020年頃からVRChat対応のオリジナル3Dキャラクター制作を始める。代表作は「まめひなた」「うささき」「みなほし」。デフォルメ調でセルルックなキャラクターが特徴的。制作には主にBlender、CLIP STUDIO PAINT、Unityを使用している。
■X https://twitter.com/mukumi
■BOOTH https://mukumi.booth.pm/
キツネツキ
フリーランスで活動中の3DCGモデラー。元々非クリエイター職で趣味のMMDの3DCG制作などをしていたが、BlenderによるVRChat向けアバター作成をきっかけにフリーランス活動を開始。現在ではBOOTHでの自主創作物販売をメインに、企業・個人向けのアバター制作も行う。
■X https://twitter.com/_kitsune_tsuki_
■BOOTH https://kitsune-tsuki.booth.pm/
和牛先生
3DCG教え屋さん。専門学校で非常勤講師をしながら、欲しい技術を楽しんで学べる3DCGの技術書を執筆。
■X https://blender.booth.pm/
■BOOTH https://twitter.com/3dcganimation
MMDの二次創作モデルから一次創作のVRChat用アバターへ
和牛先生:今日はBlenderを使ってVRChatアバターの制作・販売をされている、かめ山さんとキツネツキさんにお話を伺っていきます。まず最初に、おふたりがどういう経歴でVRChat向けのアバター頒布をするようになったのかを伺います。
キツネツキ:私は元々3DCGとは関係のないクリエイティブ職をしていました。その頃、ニコニコ動画で流行っていたMMD※用の3Dモデルをメタセコイアでつくって遊んでいて、それがアバター制作の入口になったんです。
和牛先生:MMDではどういったものをつくっていたんですか?
キツネツキ:歌声合成ツールのUTAU用にユーザーがつくったキャラクター音源用のモデルですね。重音テトさんとか櫻歌ミコさんとか。
和牛先生:なるほど。3DCGツールとして、メタセコイアは始めやすかったですか?
キツネツキ:そうですね。当時から知見もかなり溜まっていたので、まずはこれから始めよう、と。そこからVRChat用アバター制作のためにBlenderに移行して、そのアバター制作が本格化してフリーランスの3Dモデラーになったという経緯です。
かめ山:私は以前、映像会社に所属していて、そこでは2Dがメイン業務だったんですが、会社では3ds Maxを触らせてもらう機会もあって、そこで興味を持ちました。ただ、個人で趣味でとなるとMaxはちょっと金額的に……。なので、無料で気軽に始められるBlenderを触り始めたんです。
和牛先生:かめ山さんは何がきっかけでアバター制作を始めたんですか?
かめ山:私もキツネツキさんと同じでMMD、二次創作から入りました。
キツネツキ:私も二次創作からですね。
かめ山:二次創作はキャラクターへの愛、「絶対この子をつくるぞ!」みたいな気合いから入るので、未経験の3DCGでも頑張れて、キャラモデルも完成しやすかったと思います。
和牛先生:なるほど。キャラクターモデルってモデリングの中でもかなり難易度が高いところですから、おふたり共すごいなって感動してます。MMDの時代はキャラクターモデリングの勉強はどうやって?
キツネツキ:MMDモデルを配布している先人の方々がいたので、データを見ながら構造を学んだり、モデルのつくり方を解説しているサイトや書籍を参考にしましたね。
かめ山:同じくです。先人のモデルが無料で手に入って、中身の構造まで見れるっていうのはすごい環境でしたよね。私の参考書は『MikuMikuDance キャラクターモデルメイキング講座 Pさんが教える3Dモデルの作り方』(マシシP著、翔泳社)。
キツネツキ:私も持ってます(笑)。これはバイブルです。
和牛先生:少し話が戻りますが、かめ山さんはMMDでどんなものをつくっていたんですか?
かめ山:当時は、VTuberの方のファンモデルを中心に制作していました。私がモデルを公開したらVTuberのファンの誰かが動画にしてくれるので、それが楽しみで頑張ってましたね。
和牛先生:それは今、VRChatのアバターを販売するモチベーションと近いところがありますか?
かめ山:確かに、ありますね。VRChatには改変の文化、アバターがどんどん改変されて新しい姿に生まれ変わっていくという独特の広がりがあります。つくったモデルは自分ひとりで眺めてるだけでも十分楽しいんですけど、人に使ってもらえると、やっぱり世に出した感じがして……。それが喜びに繋がりますね。
和牛先生:作品を表に出すことで喜びが増える、と。
かめ山:そうですね。MMDの場合は基本的にダンス動画の発表という形式ですけど、VRChatなら誰かが着て動いてるだけで可愛いので、もうそれで作品って言えちゃうぐらいだなと。
和牛先生:VRChatって最初からそうした文化を持つ遊びだったんですか?
キツネツキ:元々はUnityのアセットをアバターに利用して遊ぶのを目的としてたようです。でも途中から、許可されたMMDモデルをアバターに使う人たちが出てきたんです。私のところにも、櫻歌ミコさんのMMDモデルを使わせてほしいという依頼がありました。「ガイドラインの範囲内であれば良いですよ」とOKを出したら、かなりたくさんの方がVRChatの中で使ってくれて。それで、皆さんが個性を出すために改変し始めたようです。
和牛先生:VRChatとMMDには繋がりがあるんですか?
キツネツキ:直接の繋がりはないと思いますが、自分でつくった3Dモデルを自分のアバターにして遊べるというVRChatの環境に興味を持ったMMDモデラーさんはかなりいます。そうした方の中には、VRChat用のアバター販売をされてる方もたくさんいますね。
和牛先生:おふたり共、MMDの二次創作文化から、一次創作が中心のVRChatの文化に移られたわけですが、VRChatはどういう場所だと見ていますか?
かめ山:MMDにも一次創作のクリエイターはいたと思いますが、VRChatほどのコミュニティではなかったですね。私なんかは、「VRChatというゲームに、一次創作をする人たちのコミュニティがある」という噂を聞きつけてやってきた感じです。
キツネツキ:MMDが二次創作中心だったのは、そもそも初音ミクさんを踊らせるためのツールだったということも関係してるかもしれないですね。
かめ山:その点VRChatはワールドにしろアバターにしろ、皆んなでつくってるという空気もあって。自分でキャラをつくるだけじゃなくて、皆さんの創作に触れて刺激を受けられるところが楽しいです。
VRChatユーザーのアバター改変技術の高さにビックリ!
和牛先生:VRChat用のアバターの改変って、実際にはどういった作業になるんでしょう。
かめ山:手軽なところだと、やっぱり色の変更ですかね。
和牛先生:アバターのパッケージに含まれてるテクスチャの改変、これが第一歩。
かめ山:そうですね。次の段階はアクセサリーの追加。眼鏡をかけたり、頭に乗っけたり。頭のボーンの下に入れるだけなので、比較的手軽です。
和牛先生:改変されたアバターを見る機会が多いと思いますが、印象的な改変はありましたか?
キツネツキ:たくさんありますよ。頭身とか体型が変わっていたり、目の形が変わっていたり。メッシュ自体を変更している方もいて、「うわ、そこまできるんだ!」ってその技術にビックリしてます。
かめ山:私もあります。私は「すずはな」さんというアバターを販売していて、
Blenderは奇をてらわず基本機能をじっくり使い込む
和牛先生:おふたりはBlenderで良く使う機能、お気に入りの機能はありますか?
キツネツキ:私は“脳筋タイプ”なので、ほとんど基本機能しか使ってないですね。良く使うのはベベルとループカットです。
かめ山:私も基本機能ばかりです。良く使うのはナイフとマージですね。ナイフと立方体があれば何でも作れます!ナイフがあれば自由にどんな形でもつくれちゃうので、私のモデリングはナイフ頼りなところがあります。
和牛先生:もしかして……、デフォルトのキューブは消さない派ですか(笑)?
かめ山:そうですね。活用します(笑)。先生も?
和牛先生:私も残します(笑)。
キツネツキ:私も。モデリングの中盤まで、頭部パーツ名が「Cube」だったりして(笑)。
かめ山:わかります。私は先にいろんなパーツを置いて、全体のバランスをつくってからそれぞれをちょっとずつつくり込んでいくんです。だから作業が乗ってくると、パーツが増えても終盤まで名前は適当なままになっちゃいますね。
和牛先生:私もそうです。
キツネツキ:私は最初はそのままなんですが、オブジェクト数が増えてきたら、管理しやすいようにリネームするようにしています。
和牛先生:かめ山さんは複数のパーツを少しずつつくり込むんですか?
かめ山:そうですね。飽きっぽくて、ひとつのパーツをずっと触り続けるのはあまり得意じゃないんです。だからパーツを全部並べて、ちょっとずつ手を入れて、全体的に仕上げていくやり方が多いです。
キツネツキ:私の場合は、まず頭の造形ができたら、次は身体を造形してバランスを取って、次は髪の毛をある程度つくって……みたいにパーツ単位で仕上げてます。もちろん、バランス取るためにアタリのオブジェクトを置いたりはします。
和牛先生:つくり方って結構ちがってくるんですね。
かめ山:普段見えないところなので面白いですね(笑)。
キツネツキ:私はつくり方が汚いので途中を見られるのは恥ずかしい(笑)。ポリゴンのながれとかパーツの命名規則とかが整っていないので、終盤でリトポロジーとかリネームとかに時間をかけて、何とか見せられる形にしています。
和牛先生:かなり地道な作業が隠されてるんですね。
アドオンとカスタマイズも最小限に
和牛先生:おふたりとも、Blenderの基本機能を中心に制作しているということですが、UIのカスタマイズやアドオンなどはどうですか?
キツネツキ:そこもほぼ初期設定で、アドオンもあまり使っていません。テクスチャ制作のところだけ、CLIP STUDIOとSubstance 3D Painterを使ってます。
かめ山:私も基本的にあまりカスタマイズはしていないんですが、基本機能にアクセスしやすくなるように、有料アドオンの「W_Pie」というのを使ってます。良くアクセスする機能がパイメニュー(コマンド群がパイの切れ端のように放射状に表示されるメニューUI)で出てきてくれるので、それはすごく重宝してます。
和牛先生:なるほど。Blenderには膨大な機能がありますし、パイメニューの活用で時短になりますね。ちなみにおふたりは、制作に使うBlenderのバージョンにこだわりはありますか?
キツネツキ:アバターデータを販売しているので、まずはユーザーの意見を聞いてから、バージョンアップするかどうかを決めています。
かめ山:私は今3.4を使ってるんですけど、そうですね……、最新版で良い機能が追加されたらアップデートしてる感じです。例えばクリース(サブディビジョンサーフェスモディファイアの適用時に、特定の辺・点のエッジを保つようにする機能)。最初は「辺」のクリースしかなかったんですが、「頂点」のクリースが追加された時に、大喜びでアップデートしました(笑)。
和牛先生:なるほど。ちなみに、サブディビジョンサーフェスは最終的に「適用」してポリゴン化するので、アバター用のモデルですと、ポリゴン数の制限でリダクションが必要になりませんか?
かめ山:そうですね。そこは地道に調整、もう根性です(笑)。
キツネツキ:そこは私も似たような感じで、全体のリトポロジーと同時に、サブディビジョンサーフェスをかけた部分のリダクションもよくやります。場所によってはポリゴンを貼り直したりもしています。
ユーザーがアバターを改変することで作品世界が広がる
和牛先生:おふたりは3Dモデリングを始める前からイラストを描いたり、何かクリエイティブなことはしていたんですか?
キツネツキ:私は絵の練習してた時期もあったんですが、それほどモチベーションが高まらないうちに3DCGに出会ってしまいました。なので、今でもラフ程度がせいぜいで、一枚絵として仕上げることはないですね。
かめ山:私は元々絵を描くのが好きで、小学校の頃からお絵描き掲示板にイラストを投稿してました。そこでは自分のキャラクターとかファンアートとかを見せ合って交流していて。よく考えると、今とやってること全然変わってないかもしれない(笑)。
和牛先生:なるほど。アバターをデザインするときは、世界観をどうやって膨らませてるんですか?
キツネツキ:私の場合、販売用のモデルはユーザーが改変するので、ノイズにならないように、あまりデザインとか背景データは外には出さないようにしています。ただ、外に出していないだけで、私としてはどういう世界にいるどういうキャラクターで、どういう生活をしてるのかみたいな設定はつくっています。
かめ山:私も改変の楽しさを知っているので、キツネツキさんと同じで設定は表に出していませんね。というか、そもそも自分の中でもそんなに決めきってはいないです。
和牛先生:おふたりで少しちがいがありますね。かめ山さんの場合はあまり決め込まないようにしていると。
かめ山:気を付けているのは、「この子はこういう子なんだろうな」みたいな、見た目のキャラクター性が出るようにつくっておくことですね。例えば今日私が着てるこの子は、小さな犬の女の子なんですけど、「活発そうだからこの子を着て元気に原っぱのワールドに行きたい」みたいに、想像力を掻き立てられるようなアバターにしたい、と思っています。
和牛先生:確かに。アバターが変わることで自分が変わってくるみたいな。
かめ山:そうそう、そうですね。アバターから「こういうことをしたい」っていう行動に繋がってくれたらすごく嬉しいですね。
和牛先生:良いお話です。おふたりとも自身の創作だけではなくて、その先のお客さんを見ていて、お客さんが使ってくれることで作品世界が広がっていくんですね。
VRChatの世界から飛び出してフィギュアやぬいぐるみにも展開
和牛先生:おふたりは、アバター用モデルの販売から他のお仕事に繋がったりもしていますか?
キツネツキ:VRChatの個人ユーザーや企業さんからモデル制作依頼をいただいたりすることが増えましたね。
かめ山:私もモデル制作のお話をいただいたりして、いくつかの案件には参加しています。あと、最近では私がつくったキャラクターをグッズ化して販売してもらう、ライセンスのお仕事もあります。最近だと、みなほしちゃんのフィギュアやぬいぐるみで、実物の商品です。
和牛先生:VRChatから発展して手元に置ける商品になったと。
かめ山:VRChatでアバターを使ってくれたユーザーさんの映像がネットで話題になったりとかで、企業の方の目に留まったようです。ユーザーの皆さんに感謝です。
和牛先生:可能性を感じますよね。VRChatがこれからどんどん皆んなに普通に認知される創作の世界になっていったら、すごく楽しいと思います。
自分が好きなものをモデリングするのがBlender上達の近道
和牛先生:だいぶ時間も経ってしまいました。最後に、Blenderを上達したい方に向けて、何かメッセージをいただけたら。
キツネツキ:やっぱり自分の好きなものをつくっていくことかなと思います。モチベーションも上がりますし、継続する意欲が出てきますからね。
かめ山:キツネツキさんに全面的に同意です。上達のためには継続が必要で、継続のためには愛が必要。自分の好きなものをつくるのが大事だと思います。
キツネツキ:私が販売しているVRChat用のアバターは、自分で考えた、自分が好きなものなので、いつもモチベーション高く制作しています。
和牛先生:素直に自分の好きなものをつくっていくこと。まさにこれが、今回のセッションで僕たちが伝えたかったテーマです。Blenderに興味と可能性を感じている皆さん、ぜひ今からBlenderで楽しい創作を始めていきましょう。今日はありがとうございました!
かめ山:ありがとうございました!
キツネツキ:ありがとうございました!
TEXT__kagaya(ハリんち)