<3>VRコンテンツならではの苦労点はアニメーション
Unreal Engineの採用等で効果的に省力化が図られた本作の制作だが、各制作担当パートのうち、通常以上のマンパワーを必要としたのがアニメーション部分だ。モーションキャプチャはDMM VR THEATERの舞台と同じサイズのスタジオで実施し、各キャラクターを担当するアクターが実際に舞台上に集まって演技をするかたちで収録。キャプチャデータが納品されたのは開演の3ヶ月前となる。
キャラクターアニメーションは、劇場と同サイズのスタジオで全アクターが実際に演技をしてモーションキャプチャデータが制作された
こうして作られたキャプチャデータは非常に長尺だが、そもそもアクターと各キャラクターのサイズや骨格がかなり異なるため、アクターに関節の可動範囲等の指示を加えたうえでも、手作業による調整作業が大量に発活する。しかもVRコンテンツならではの特性として、キャラクターは常時全身くまなく映っている。通常の映像作品のように"見えない部分を省略"するわけにもいかない。
調整作業が膨大になってしまう影響を最小限に留めるため、いくつかの工夫がある。なかでも、揺れものには、自動化するインハウスツールを使用。ツールとしてはシミュレーションに近いもので、より簡単に調整ができ、動作が軽いシステムだという。ツールを使用して揺らした後に、リグにアニメーションをベイクしてキーフレーム化した。そうすることで、揺れもののリグをキャラの挙動に合わせて動かし、アニメーターの作業量を減らすことができた。その後は、めり込みなどの不具合のみを手で修正するという手順をとることで、セカンダリアニメーションの作業量をグッと減らすことができたという。
それらの工夫があった上でも、ディレクター/リードアニメーターの田村和弘氏は「作業量がすごいことになり、本当に終わるのかなと不安になりながら制作しました」とふりかえる。
ふなっしーのセットアップ。モーションキャプチャ用の骨(mocapGrp)の動きを継承し、リグが追従するしくみ
揺れものにはインハウスツールを使用。手付けでの調整は要所にとどめて工数を削減したという
モーション調整前の状態。足や剣が地面にめり込んでいる
調整後。ほとんど全身くまなく調整されている。全シーンの全ての瞬間でこういった調整が必要
<4>DMM VR THEATER向けコンテンツのポイント
『レジェンドオブふなっしー』で採られた工夫の数々は、DMM VR THEATER向けのコンテンツで広く共有できる知見が多い。最後にそのポイントをまとめてみよう。
・ライトはしっかり当て、立体感を出す・フロントスクリーンの暗部を持ち上げ、透過を避ける
・バックスクリーン用の映像は暗めに調整
・バックスクリーンに明るい画を出す際はフロントのキャラクターに被らないようにする
・画面端の見切れ感を低減する工夫をする
・バックスクリーンとフロントスクリーンの連動で奥行き感を演出する
・劇場でのルック調整が重要であるため、高速なレンダリング手法を用いる
そのほか、フロントスクリーンに投影されるキャラクターや人物の影がバックスクリーンに投影されるような表現を行うと立体感が向上する(本作ではごく一部のシーンで使用)。コンテンツによっては、フロントスクリーンの透過を逆手に利用した演出手法も試す価値がありそうだ。
ホログラフィックVRというこれまでにない表現を楽しめるDMM VR THEATER。従来の映画館とも、実物の舞台ともちがった、全く新しい映像表現の領域が大きく広がっていることはまちがいない。
▶HOLOGRAPHIC VR CONTESTへのエントリーはこちらから︎※エントリーを行うと「DMM VR THEATER」の実寸劇場データ(FBX形式 ※サンプル画像はこちら)や作品制作のポイントなどの資料を送ります
Info.
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「HOLOGRAPHIC VR CONTEST 2016」エントリー受付開始!
主催:DMM.futureworks
共催:CGWORLD
<各賞と賞金>
グランプリ 50万円(1作品)
準グランプリ 10万円(1作品)
特別賞 CGWORLD定期購読1年分(2作品)
<審査員> ※敬称略
鈴木おさむ(放送作家)
白A(次世代型エンタテイメント集団)
福原慶匡(DMM.futureworks執行役員プロデューサー)
沼倉有人(CGWORLD編集長)
<審査基準>
・誰でも楽しめる芸術性やエンターテインメント性があるか
・VR THEATERの特徴を活かした表現ができているか
・3DCGなどの技術を駆使して立体的な映像になっているか
提出物:Holographic VRを活用した映像作品
エントリー締切:2016年9月9日(金)
「HOLOGRAPHIC VR CONTEST」特設サイト