>   >  Unreal Engineで実現したVR舞台劇、 DMM VR THEATER『レジェンドオブ ふなっしー』メイキング解説〜「HOLOGRAPHIC VR CONTEST 2016」開催記念<2>
Unreal Engineで実現したVR舞台劇、 DMM VR THEATER『レジェンドオブ ふなっしー』メイキング解説〜「HOLOGRAPHIC VR CONTEST 2016」開催記念<2>

Unreal Engineで実現したVR舞台劇、 DMM VR THEATER『レジェンドオブ ふなっしー』メイキング解説〜「HOLOGRAPHIC VR CONTEST 2016」開催記念<2>

<2>シアターの特徴を最大限に活かすライティングとシーン構築の工夫

DMM VR THEATERのスクリーン構成は特殊だ。基本的なスクリーンはホログラフィック映像を表示するフロントスクリーンと、通常の映像を表示するバックスクリーンに分かれていて、奥行き方向に3メートルほどの距離を置いて配置されている。バックスクリーン上の映像とフロントスクリーン上の映像の視差が発生することで、より実在感のある立体的な映像が得られるしくみだ。

フロントスクリーンに投影されるキャラクターと、バックスクリーンに投影される背景がVR的な立体感を生む

本作では前述のように、基本的にはフロントスクリーンにUnreal Engineでレンダリングされたキャラクターを、バックスクリーンにMayaやmental ray等でレンダリングされた背景映像を表示し、物理的な舞台劇の構成をCGで再現するというアプローチをとっている。こういったスクリーンの特性上、理想的な映像のルックを実現するためには特有のコツといったものが複数ある。

見た目にはリアルな舞台劇でありながら、CGならではのエフェクトが加わることで独特のルックが実現

ひとつはキャラクターライティング。高品位のCG作品では通常、大域照明等を用いてキャラクターやオブジェクトに重厚なライティングを与えることが多いが、それだとDMM VR THEATERではあまり立体感が出ないという。むしろ、光源1つで陰影を強く出したほうが立体感が出た、というのが木全氏の結論だ。このため本作ではほとんどのシーンで1つの光源のみを使用するというアプローチを取っている。

シンプルなライティングによりキャラクターに強めの陰影をつけ、立体感を強調している

そこで問題になるのが、キャラクターの暗部が"透けて"しまうという現象。ホログラフィックとして投影されるフロントスクリーンと、通常の映像として投影されるバックスクリーンが重なるとき、光学的には明るさが足し算される形になるが、このとき、フロントスクリーンの映像が暗すぎる/バックスクリーンが明るすぎるという組み合わせになると、フロントスクリーンに投影された映像を透かしてバックスクリーンの映像が見えてしまう、という形になる。

これを避けるため、本作ではバックスクリーンを気持ち暗めに出すようにしたほか、フロントスクリーンに表示されるキャラクターの陰部分をUnreal Engine上の環境光やAfter Effects上のポストエフェクト的な手段で持ち上げ、透け現象を最小限にとどめた。特に劇中に登場する大型のキャラクター「ドラゲー」は、面積自体が大きい上、赤い部分が透けやすいという特性があった。このため回避策として赤い部分のみ、不自然にならない程度に明度を上げるという手法も採っている。

逆光表現を用いたため透けやすくなったシーン

暗部を持ち上げる調整を行い、透過を防止した例

また、DMM VR THEATERならではの課題として、スクリーン枠をはみ出してキャラクターを描画する際の"見切れ"をいかに違和感なく演出するか、というものがある。例えばキャラクターが舞台袖から出てきたり、逆に出て行くとき。あるいはキャラクターがジャンプして上方向に消えていくとき。スクリーンからはみ出した際にバッサリ見切れてしまうと、途端に平らなVR感が損なわれるという問題がある。本作ではこれを緩和するため、いくつかのシーンでフロントスクリーンの各方向にグラデーションマスクを配置し、キャラクターがジワリと消えていく演出を加えている。その上で炎などのエフェクトをマスクよりも前面に描画することで、スクリーンよりも前に出てきているかのような立体感を演出するといった工夫も光る。

画面端に配置したグラデーションマスクにより、見切れる部分がなめらかに描画されている。また、炎のエフェクトはマスクよりも前面に描画され、立体感を増している

ドラゲーがジャンプして画面から出て行くシーン。劇場ではフロントスクリーンの上端がバックスクリーンの上端より低いため、やや低めの位置でキャラクターをフェードアウトさせている

バックスクリーンに明るい映像を出したい場合はどうするか? というところにもひと工夫。例えば、バックスクリーンで爆発が起きるシーンでは、キャラクターたちが立つ画面下部は煙のエフェクトで暗くしつつ、画面上部に明るい爆炎を配置、という画づくりを行うことでキャラクターの透けを回避。また、時間差でフロントスクリーンに火の粉や破片が落ちてくるという演出で、さらに画面の奥行き感や臨場感を高めたという。こういったフロントスクリーンとバックスクリーンの連動も、DMM VR THEATERの特性を活かすための重要な工夫と言えそうだ。

バックスクリーンに描画される爆炎の下部に煙をかぶせることで、手前のキャラクターが透けて見える現象を抑止

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<3>VRコンテンツならではの苦労点はアニメーション

Info.

  • 「HOLOGRAPHIC VR CONTEST 2016」エントリー受付開始!
    主催:DMM.futureworks
    共催:CGWORLD
    <各賞と賞金>
    グランプリ 50万円(1作品)
    準グランプリ 10万円(1作品)
    特別賞 CGWORLD定期購読1年分(2作品)
    <審査員> ※敬称略
    鈴木おさむ(放送作家)
    白A(次世代型エンタテイメント集団)
    福原慶匡(DMM.futureworks執行役員プロデューサー)
    沼倉有人(CGWORLD編集長)
    <審査基準>
    ・誰でも楽しめる芸術性やエンターテインメント性があるか
    ・VR THEATERの特徴を活かした表現ができているか
    ・3DCGなどの技術を駆使して立体的な映像になっているか
    提出物:Holographic VRを活用した映像作品
    エントリー締切:2016年9月9日(金)

    「HOLOGRAPHIC VR CONTEST」特設サイト

Profileプロフィール

ダンデライオンアニメーションスタジオ/DandeLionAnimationStudio

ダンデライオンアニメーションスタジオ/DandeLionAnimationStudio

左から、田村和弘(ディレクター、リードアニメーター)、佐藤博之(スーツ)(プロデューサー)、遠藤 工(ディレクター、リードモデラー)、武田秀明(アニメーター)、木全俊明(ルックデベロッパー)、泉 貴也(プロダクションマネージャー)、衣川友樹(エフェクトデザイナー)、以上、ダンデライオンアニメーションスタジオ

HOLOGRAPHIC VR CONTEST 2016

HOLOGRAPHIC VR CONTEST 2016

世界初のホログラフィック劇場で開催する世界初のホログラフィックコンテスト。
グランプリは賞金50万円。エントリーは9月9日(金)まで。

http://hvc2016.com/

スペシャルインタビュー