>   >  ショウダユキヒロ最新オリジナル作品『KAMUY』をめぐる物語。一流アーティストたちが本気で手がけた15分間の脳内ワールド 〜<2>メイキング編〜
ショウダユキヒロ最新オリジナル作品『KAMUY』をめぐる物語。一流アーティストたちが本気で手がけた15分間の脳内ワールド 〜<2>メイキング編〜

ショウダユキヒロ最新オリジナル作品『KAMUY』をめぐる物語。一流アーティストたちが本気で手がけた15分間の脳内ワールド 〜<2>メイキング編〜

<3>フラミンゴ3千羽が......飛ばない! 飛び立たせるまでに要した日数は3ヶ月

ーー上野キャメラマンとCGチームの具体的なコラボレーション例を聞かせていただけますか?

上野:可能な限りAnimationCafeに足を運びました。ストーリーと、それに応じたカメラワークのイメージは既に確立されていたので、主には光について話をしました。フラミンゴの大群が飛び立つシーンは特に苦労したと思いますよ。どうしたわけか、なかなかルックが良い塩梅にならなかった。僕はCGのエキスパートでないから、具体的な技法に関する指摘はできませんが、空間的な光の話ならできる。それで気づいたのは、天空に、自然界なら青空があるところに、空がないんだってことでした。そこで「青空を加えましょう」と提案をしました。あとは、観た人に感動してもらう映像にするためには、このシーンの場合は、太陽の位置を低くした方が生理的に気持ち良く響くと思ったのでそれも伝えました。リアルな環境の構築、つまり光(ライティング)を中心にアドバイスしてみたところ、最終的にすごく良くなったと思います。

守屋(雄):上野さんと1日一緒に作業しただけで、ぐっとクオリティ上がるんです。だから、できるだけお越しいただきたかったのですが、現在の3DCG制作にはレンダリング時間が切っても切り離せなかったりと、スピード感で対応しきれません。この問題がクリアされたらもっと面白いスタイルが確立できると思います。

上野:僕もCG・VFXの作業場に呼ばれることなんかほとんどなかったので、3DCGシーン上でライティングに手を加えるというのは初めてのことで面白かった。実写で得た知見を反映させると、CG上でもそのセオリーが通用するんです。当たり前のことなんですけどね。例えば、「光をやわらかく」と、監督からオーダーがあったら、「光の面積を広げるということ、もしくは距離を近づけるということだよね」と、そんなやり取りをしていました。実写もCGも同じ方法論でやれるんだなって。

遠藤:フライミンゴのシーンは、また別の挑戦もありました。最終的に3,000羽を配置したのですが、これだけ大規模の鳥の群れのシミュレーションをやるのは初めてのことだったこともあり、納得のいく動きになるまでに3ヶ月を費やしました。今回は群衆シミュレーションにMiarmyを初めて使用したのですが、次から次へと問題が発生して、なかなか飛ばなかった。当初はテクニカル・ディレクター(TD)が関わっていなかったため、技術面の課題を解決するのに時間がかかってしまったのです。デザイナーは見た目(アウトプット)だけで良し悪しを判断しがちですが、複雑な表現ほど、TDがツールの特性を正しく把握し、理論的に手法を考えることの大切さを痛感しました。

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フラミンゴの大群シーンのコンセプトアート。はるか上空からコズミックズームでフラミンゴの足下のクローズショットへとシームレスにつながるため、かなりのハイディテールが求められた。3,000羽ものフラミンゴの群れが織り成すピンクと青空のコントラストが美しいシーンだ

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フラミンゴの完成モデル(頭部のみ)。(左図)レンダリングイメージ。毛並みはMaya Furで生成。「全体の毛、ところどころに生えている長さの異なる毛、そしてレイヤー感を出すための色ちがいの毛という3種類で構成されてます」(遠藤氏)/(右図)メッシュ表示

守屋(雄):自分の作業では、C4DプラグインのDEM EARTHがおもしろかったですね。景観写真から地形モデルを生成できるのですが、写真データはGoogle Earthなどの複数のサービスから手早く選べるので重宝しました。

ショウダユキヒロ最新オリジナル作品『KAMUY』をめぐる物語。一流アーティストたちが本気で手がけた15分間の脳内ワールド 〜<2>メイキング編〜

守屋(雄)氏が手がけたシーンのうち、自然景観が介在する表現にはC4Dプラグイン「DEM EARTH 3」を活用。「写真から地形形状を抽出できるツールです。Google Earthで良さそうな場所を探して、このツールで抽出してベースモデルに利用しました」

遠藤:あとは、レンダリングの効率化をねらってOctane Renderを導入したりも。この作品では、通常の案件ではまず求められない表現が多くあったので新しいツールを検証する上でも有意義でした。より高度な表現にチャレンジしていくための環境整備を考える良い機会にもなりましたね。

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© 2016 NION inc.

<4>キーワードは、"グッド・バイブス"?

ーー改めて制作をふり返っていかがでしたか?

ショウダ監督:実写かCGかを問わず、半年もかけてコンセプトからイチからつくる機会なんてまずないと思うんです。チーム全体がオープンに交流して、みんなでアイデアを出し合いながらつくってみたらどんなのものができるんだろうって。オジリナル作品だから納期の融通もきくし、みんなが成長できる機会にもしたい。そうした面での試みでもありました。実際、観たことのない表現に仕上がったと自負しています。それは僕ひとりから出てきたものではない。それぞれにしんどいこともあったけど、やって良かったと思えることが大事。全てのスタッフが"やりがい"を認識することが最大の目的だったし、映像業界の凝り固まった常識をかき乱してやろうと(笑)。

NION・守屋貴行プロデューサー:そもそもどこがゴールなのかわからなかったので、みんなのイマジネーションがなければ完成しなかったと思います。能動的にものをつくる姿勢をこのプロジェクトに関わったみんながもてていることがすごく重要だった。CGチームだけでなく、上野さんや僕たちプロデューサーにとってもそうです。そういう仕事の仕方をしていけば、必然的にクオリティも効率も上がるだろうし、ワークフローやツールの使い方まで変わってくる。つまりは日本の映像業界全体の成長にもつながるはず。中心にあるコンセプトと頭の中のやりたいことが明確であればブレない。今回のショウダ監督のディレクションは、クオリティの基準をつくることであって、実際どういう画にするかという目標値は各スタッフの成果でつくっていくしかないから、結果的に作業が止まらないんですよね。ショウダ監督が「ここを超えたらちがう世界が見えてくる」と、言い続けていたことが印象的でした。

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© 2016 NION inc.

ショウダ監督:従来のやり方を超えて、先に行かないと意味がない。少なくても僕は先へ進もうとしている。そんなバイブス(vibes=感情をゆさぶる衝撃)が大事。コラボレーションして化学反応を楽しみたい。そこで「無理」って、引いたら全部バッド・バイブスになるからやりきる。精神論やけど、ONの気持ちで向き合ったときのねばりとか、気持ちの強さは必ず"閃き"を生み出す。そういうグッド・バイブス。それだけで、現場の雰囲気も変わってくる。ひとつでも不協和音があると役者さんにも伝染しちゃうんです。現場ってすごく有機的で流動的でなものなんです。全てはグッド・バイブスです!

ショウダユキヒロ最新オリジナル作品『KAMUY』をめぐる物語。一流アーティストたちが本気で手がけた15分間の脳内ワールド 〜<2>メイキング編〜

今回の会場となった代官山ヒルサイドプラザにおける記念写真。ショウダ監督が大切にする"グッド・バイブス"が伝わってくる。NIONでは現在、海外での『KAMUY』上映イベントを実現すべく準備中とのこと。続報を待ちたい

作品情報

  • ショウダユキヒロ最新オリジナル作品『KAMUY』をめぐる物語。一流アーティストたちが本気で手がけた15分間の脳内ワールド 〜<2>メイキング編〜
  • 体感型の脳内革命アートフィルム
    『KAMUY』公式サイト

    出演:村上虹郎・ゆう姫(Young Juvenille Youth)
    監督:ショウダユキヒロ
    撮影監督:上野千蔵
    衣装:伏見京子
    特殊メイク:JIRO
    3DCG:AnimationCafe / ModelingCafe

    制作プロダクション:NION
    © 2016 NION inc.
    nion.tokyo/kamuy

Profileプロフィール

ショウダユキヒロ監督&『KAMUY』中核スタッフ<br />Yukihiro Shoda & "KAMUY" Core Crews

ショウダユキヒロ監督&『KAMUY』中核スタッフ
Yukihiro Shoda & "KAMUY" Core Crews

写真・右から、守屋貴行プロデューサー(NION)、遠藤基次CGスーパーバイザー(AnimationCafe)、ショウダユキヒロ監督(NION)、高橋 聡プロデューサー(NION)、上野千蔵撮影監督、佐藤大洋CGプロデューサー(AnimationCafe)、守屋雄介シークエンス・スーパーバイザー(AnimationCafe)

『KAMUY』公式サイト

スペシャルインタビュー