第5話の制作をふり返って、印象的なCGカットは?
江上:CGの利点であるカメラの回り込みに関しては、セイラのカット(※4)のぐるっと回り込むカメラは建物のパーツもつくっているので大変ではありましたが、上手くいったカットだと思います。
※4:夜のテキサスコロニーで暴徒を迎え撃つセイラのシーン
井上:セイラのカットは作画も大変だったのではないですか?
西村:幸い回り込みの速度が速かったので、作画の枚数自体はそんなに多く使っていません。これがゆっくりな回り込みだと大変ですが(笑)。
井上:逆に綺麗にゆっくりと回り込みすぎるとCGっぽさが強調されるかもしれませんね。今回はカメラマップを使用して美術質感の背景を立体的に回り込むカットも多くなっていまして、特に戦艦や格納庫内の回り込みカットに関しては手描きのディテールが貼り込まれていたので大変だったと思いますが、自然と馴染んでいて効果的でしたね。
江上:あとは例えば月面上のMS整備工場でのシーン。第5話ではMSに天井の映り込みが入っていて、さらに追加効果を何とかやってもらえませんか? とD.I.D.に相談して、MSやカメラの位置が動くと映り込み自体も連動して変わっていくという、作画的な嘘をついた表現を入れてもらいました。映り込みの反射が強すぎるとライトがMSに仕込んであるだけに見えるので、表現を探る過程が長くなって大変でしたね。求める画は単純に光が映り込む画ではないので。
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鈴木:絵的な嘘、アニメ的には光っている部分だけを映り込みとして描く表現があるんですよね。
長嶋:第5話といえば、シャアザクの発進シーンはコンテがえらいアングルで描かれていて(笑)。MSと人間キャラクターとの距離感が近く一緒に映っているシーンは、対比が強調される今回新鮮な要素でしたね。
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西村:本作の制作にあたっては、本来重力のない宇宙空間に地上の物理法則をもち込むのか? と作画打ち合わせで議論になるほど熱く語り合いました。シャアザクの発進カットはそこまで細かい描写にこだわったかいがあったと思います。
井上:飛び立つときも、格納庫から降りつつもスラスターが噴いてからすぐに動き出すのではなく、慣性の法則を感じさせつつゆっくりと動き出す、といったようにMSの動作ひとつひとつにもこだわりを入れています。もちろん今後はコロニー内の陸戦もあるので、ますますMSの挙動に関しては大変になりそうですね。
西村:安彦さんはMSにも人間くささを求めるんですよね。特にザクとかは非常に「人間味のあるキャラクターとしての動き」を要求されていて、MSはメカではないという動きをつくり出す必要がありました。しかもその上で映像の中では様々な工夫をして「巨大感」を出さないといけない。パースの大きさのちがいにも嘘をついてシーンを構築することで、レイアウト全体として巨大感を感じられるようにしています。
井上:例えばMSのプロポーションはアングルごとに各部位を拡縮したりして画としてのカッコイイ嘘には気を遣いました。ただ、実はCGを使用するにあたって、当初は誇張などの嘘をついたパース感を出すことは想定していなかったんです。
長嶋:ガンキャノンが出てきたときがどうしようもなくて、モデルそのものを変形させないとどうにもならないということになって、初めてMSのパーツに対してデフォームの仕込みを入れました。
井上:「この表現はCGではできません」ということは可能な限り言いたくないなと思い、第5話からはデータにあらかじめデフォームの仕込みを入れるようにしました。
西村:先ほども話に出ましたが、艦隊に対してカメラで回り込むようなカットに関しては、宇宙空間と戦艦群の巨大感がよく出ていてよかったと思います。CGスタッフも慣れてくれば絵コンテや前後カットからの演出意図を汲んで作業してもらって、今後はコンテから直接CGをつくるようなカットが増えると嬉しいです。
井上:そうすると各スタッフの「コンテを読みとる力」が必須になってきますね。具体的にはカメラのレンズの選択、レイアウト(構図)を紡ぎ出す能力がCGスタッフ側にも高いレベルで求められます。
西村:作画スタッフとしては「絵描きのつくる空間」と「3DCGスタッフのつくる空間」だと空間の捉え方の感覚がちがうんですね。作画をトレースして合わせすぎても変になってしまう。逆も然りです。絵描きの空間の掴み方とのちがいを上手く採り入れてCGとしての変換を加えてもらうことで「絵描きの嘘のつき方」とのハイブリッドに仕上げてもらえると良いと思います。
鈴木:3DCGと言っていますが、CGモデルを空間においただけではプラモデルに見えてしまうんですよね。プラモデルが悪いということではないですが、人間が目で見た感覚と単焦点レンズで撮ったシーンは見え方の感覚がちがうんです。
西村:構図だけではなく「このカットは速い方がいい」、「ゆっくりな方がいい」といったような嘘のつき方がアニメーションの動きにも当てはまるんです。
井上:3DCGは意識せずにモデルとカメラを設定すれば奥行き自体を出すことは簡単にできてしまいます。反面、作画は意識をしないと奥行きは再現できないので、そのちがいが大きいんでしょうね。
西村:例えば、今回はコロニーの大きさを出すために設定よりもミラーの幅を小さくしています。これは嘘をついていることになりますがこれこそが「絵描きとしての嘘」なんですね。古い特撮作品等でも使われている手法で、デザインに手を加えてしまうほどの嘘をつくことで、観た側が感じるリアリティが誇張されるんです。
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井上:あとは制作面で言えば第4話からShotgunを本格的に使用し始めまして、内部的には効率アップにつながっています。
西村:Shotgunはこまごまとブラウザからも見られるので指示が出しやすく便利ですね。CG側はShotgunを使って効率的になっていますが、カット袋ベースの作画側も効率的に運用する方法はないかな?
江上:フルデジタルで演出、チェックを一気に全部やれないと実際の運用は厳しいかもしれませんね。オリジンスタジオは機材面でも教育面でも、フルデジタルの作画環境整備は今後の課題になっています。