>   >  "描いたものの7割は表に出ない"、有名作品に多数携わる若手コンセプトアーティストが語るクリエイティブワークのヒント

"描いたものの7割は表に出ない"、有名作品に多数携わる若手コンセプトアーティストが語るクリエイティブワークのヒント

<2>自分の絵を人に見てもらう喜びが技術を向上させる

――藝大を卒業後はILCAに就職され、その後、退職されてフリーランスとして活動されていますね。

最初からフリーになろうと思っていたわけではなかったです。ILCAには3年弱ほどお世話になりましたが、やっぱり映画の仕事がしたくて。あまり細かい事は考えずに飛び込んでいきました。やはり早い段階で映画に関わったというキャリアは欲しかったですね。

――ご自身の中で技術が大きくブレイクスルーした瞬間を覚えていますか?

会社を辞めてからのタイミングがやはり一番大きかったですね。それまでは会社の中で描いても、その絵を見てくれるのはプロデューサーとかディレクターくらいのもので、基本的にコンセプトアートは世に出ないものだったんです。でも、フリーになってからは空き時間で描いたものをどんどんWebサイトに載せていきました。そうすると、こんなにも多くの人が、と思うくらいたくさん見ていただいて、それが僕にとっては驚きでした。メールで「イラストレーターになりたい」といった相談を受けることもあるのですが、周りにはそういう人もいなかったので新鮮な経験でしたね。

――最近のお仕事としては『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』がありますが、これはどういうかたちで参加されたのでしょうか?

背景のイメージボードみたいな感じですね。守秘義務があって詳しくは言えないのですが、割と初期の工程でした。

『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』オープニングムービー

――幼い頃、鳥山 明氏に憧れたご自身にとって『ドラクエ』に参加するというのはどんな思いでしたか?

あんまり実感ないですね(笑)。いざやってみると、今まで通り、家に籠もって自分の絵を描いていただけで、鳥山先生にお会いしたわけでもないですし(笑)。僕の性分なのか、大きなお仕事に関わらせていただいても、仕事としてやると感動をしている間はなく、ただひたすら籠もっているだけなんです。

――これまでのお仕事で特に印象的だったものは?

少しお話しましたが、あるアーケードゲームのお仕事はすごく長くお付き合いさせていただいていて、近日中にリリースされるので感慨深いですね。キービジュアルからキャラクターデザインまで様々な仕事を担当させていただきました。ショーに展示したり現場でモデリングをしている様子を見ると面白いなと思います。関わり方が深ければ深いほど思い出に残りますね。

――大屋さんご自身で考える自分の売りはどんなところにあると思いますか?

やはり仕事の幅が広いことですね。コンセプトアートだったりイラストだったり設定画だったり、様々な仕事ができるところです。求められたら、ある程度は絵柄を変えることもできます。企画の仕事も、コンセプトアートの需要も山ほどあるというわけではありませんし、僕よりも上手い人は大勢いらっしゃるので、そこで売りになるのは幅の広さかなと思います。

――お仕事をする上で常に心がけていることは何ですか?

いつも意識しているのは、僕なりの付加価値をプラスして提出することです。他の人ではなく、せっかく僕にお願いしてくれたわけですから。それもあって早く仕上げるようにはしています。相手が何を求めているのかをサッと感知し、より最適なものを出すというのは、コンセプトアートに限らず大事なポイントだと思います。

――お仕事でやりがいを感じられるのはどんなときですか?

色々ありますね。1枚を仕上げるときもそうですし、その絵が次の工程の人に渡って、綺麗にモデリングされて動きがついて、声までついたりするとすごいなと思います。チームワークでモノづくりをする上で、それが一番嬉しいタイミングかもしれません。

――逆にお仕事をしていて大変だなと感じるときは?

あまりそう思うことはないのですが、どうしても描けないとかモチベーションが下がってしまうことはあります。それはオーダー内容とかリテイクとか予算の問題ではありません。むしろ予算が低いからといって質も下げるということはしないようにしています。絵の質を下げること自体が、自分のモチベーションを下げてしまうんです。良いものをつくろうという気持ちを維持し続けないと、どんどん下がっていくので、描いている最中はスケジュール以外のことはあまり考えないようにしています。

――モチベーションを上げるときはどうするんですか?

結局、描くことでしか上がらないんですよね(笑)。描いていたらだんだん上がってくる感じですね。息抜きしてリフレッシュしたからと言って同じ絵を見ていきなりテンションが上がることはないので、描いていて楽しくなるタイミングをずっと待つしかないです。

――そうやってご自身を内面から駆動させるストイックさがある一方で、皆さんと一緒につくり上げる仕事にも喜びを感じられる。

そうですね。籠もって描かないと進まないのが辛いと言えば辛いかな。1週間誰とも話をしないことも平気でありますし、下手したら1ヶ月も......(笑)。打ち合わせが入らなかったら平気で籠もって描き続けています。

――意識的にリフレッシュするようなことはありますか?

僕は人気(ひとけ)のないところに行くようにしています。海に行ったり山に行ったりと、アウトドアですね。都会に住んでいると家を出た瞬間から人が多いので、できるだけ人里離れるようにしています。本当にストイックな人はそこでスケッチをしたり、写真を撮ったりするかもしれませんが、僕は部屋を出たら遊びだと割り切って引きずらないようにしています(笑)。

――これまでお仕事をしてきた中で大きな壁を感じたことや、その乗り越え方はどのようにされていますか?

僕よりはるかに上手な方は山ほどいて、そういう人を見ると悔しいと思ったり、嫉妬する気持ちも正直あるんですけれども、結局は描くしかないというところに落ち着くので、自分ができる最善のことをひとつずつやっていくしかないのかなと思います。結局、嫉妬して描かなくなったら意味がないので。

壁にぶつかったりスランプに陥ったりすることもありますが、結局は描くしかないなと思っています。僕より上手な方はみんな目標といえば目標ですけれども、その人を追うようなことはありませんね。後追いになってしまいますし、その通りにはならないので、自分が良いと思ったものを進めていく感じです。

――これからやってみたいお仕事についてはどのように考えていますか?

一番やりたいのはやっぱり映画の仕事ですね。既存の原作があるものよりも、できるだけ自分が深く関われるかたちで、胸を張って「僕がやりました」と言えるようなプロジェクトがあったら嬉しいです。wonderiumさんと制作している『REPRODUCT』のようなモデルはつくっていて面白いと感じます。そういう挑戦的なオリジナルプロジェクトが増えていったら嬉しいです。

――まだまだ先のビジョンもおありかと思いますが、現時点で大屋さんがスキルを獲得できた理由は何だと思いますか?

ある程度の画力は当然必要だとは思うのですが、仕事としては、普通のことを普通にやったということだと思います。メールが来たらちゃんと返す、書類が来たらなるべく早く返すという、社会人としては当たり前の部分です。アーティストであってもまずは当たり前のことを当たり前にして、絵のことはその後かなと思います。

――最後に、クリエイターの仕事を目指す若いアーティスト志望者に向けたアドバイスをいただけますか?

よくメールなどでコンセプトアーティストになりたいとか、イラストレーターになりたいと言った相談をいただくのですが、「まだ人に見せる段階じゃない」と、自分の中の完成度を意識するあまり人に作品を見せないという人が多いと感じます。ある程度まで仕上げたらどんどん作品を世に出して客観的な意見も取り入れたほうが良いと思います。

ポートフォリオをつくって送るのが一番手っ取り早いとは思いますが、Webページは何よりも強いのでつくった方が確実に良いと思います。それから、名刺をきちんとつくるとか連絡体制を整えることも大事です。アーティストは誰かがハンコを押してその職業にしてくれるというものではありません。自分もそういう風にしてなっていったので、これからクリエイターになろうとする人はどんどん作品を世の中の人に見せていくべきだと思います。

Profileプロフィール

大屋和博/Kazuhiro Ooya

大屋和博/Kazuhiro Ooya

フリーランスのコンセプトアーティスト/イラストレーター。1986年福岡県生。2010年に東京藝術大学油絵科を卒業後、映像制作会社に就職。2013年退職後フリーランスとなりコンセプトアート、キャラクターデザインなどの制作をメインに活動。参加作品に『Legend of the Cryptids』(2012~)、『ドラッグ オン ドラグーン3』(2013)、映画『デスノート Light up the NEW world』(2016)、『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』(2017)、映画『スターシップ・トゥルーパーズ : 火星の追跡者』(2017)、『SOUL REVERSE』(開発中)など
http://kazuhiro-oya.com

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