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彫刻家出身のデジタルアーティスト、ルイジ・オノラが実践するiMac Proを活用した映像制作術

彫刻家出身のデジタルアーティスト、ルイジ・オノラが実践するiMac Proを活用した映像制作術

<4>日本のゲーム、漫画、アニメ作品への興味

――日本に興味をもったきっかけは?

ルイジ:日本に来る前から日本が好きで、中でも『メタルギアソリッド』シリーズの監督 小島秀夫さん、アートディレクターの新川洋司さんの影響をとても受けていると思います。なので、14・15歳のころはゲームの仕事がしたかったんです。『メタルギアソリッド』や『シェンムー』のようなゲームをつくりたいと思っていました。

その頃はメガドライブから初代PlayStation、PlayStation 2への進化を見て、10年後、20年後にゲームがどう進化していくのか、想像するのが楽しかったですね。けれども現実には想像と異なり、興味の対象がどんどんゲームから離れていきました。今でも遊んでいるゲームは、唯一『メタルギアソリッド』シリーズだけです。

最近はAR/VRのおかげで、新しいメディア、新しい表現が可能になり、子供の頃に想像した未来に戻ってきたような気がしています。もともとはゲームのテクノロジーだったものをゲームのためではなく、研究や物事の発見などにも使われるようになってきて、今はそれらに興味をもってきています。

ほかの作品では、日本に来る前に読んだ『AKIRA』、『攻殻機動隊』、『カウボーイビバップ』などが好きでした。日本に来てからは忙しくてほとんど読めていませんが、最近だと......と言ってもずいぶん前になりますが、劇場長編アニメーション『鉄コン筋クリート』(2006)は良かったですね。


Luigi氏の本棚。『AKIRA』、『攻殻機動隊』など日本の漫画も並ぶ

<5>iMac Proによる作品づくり

――お使いのカメラ機材について教えてください。

ルイジ:Canonの「EOS 5D Mark III」と、フィッシュアイ(魚眼)のレンズを使っています。HDRパノラマ写真を撮影して空間そのものを記録し、その素材をもとに3D空間を構築するのです。リモコンを使って1回のシャッターで絞り(露光)を変えながらHDR用に5枚撮影できるようにしています。パノラマ写真のほかには、フォトジオメトリや、粘土でつくったものをスキャンして使うといった用途にカメラを用いています。カメラそのもののスキルはあまりなく、写真撮影の趣味もありません。


ルイジ氏の所有する「EOS 5D Mark III」、魚眼レンズ、HDR撮影用のリモコン

――iMac Proを使ってみた感想を教えてください。

ルイジ:iMacを使うのは初めてでしたが、電源をつないだら終わり......というくらい設定が簡単でした。現在、10コアのマシンを使っていますが、モニタが素晴らしいのと、GPUのスピードが速い点が気に入っています。

ひとつ気に入らないのはマウスで、標準のマウスにはミドルクリックがないのです。3DCGソフトはミドルクリックを多用するものが多いので、少し不便です。それ以外はとくに不満はなく、アーティストにとってベストなマシンだと思います。なによりスピードが速いことは、作品づくりにインスピレーションをもたらしてくれます。デザインやmacOSがミニマルにできているおかげで、作業に没入できるのも良い点だと思います。

現在はiMac Pro上でArnoldレンダラを使っていて、とても気に入っています。パスシステムがとても強力な点と、トレースセットのシステムが良いですね。トレースセットのおかげで、HDRパノラマ素材をスペキュラに使う設定がとても便利です。また、パノラマ撮影した素材に対してテクスチャベイクを施したり、Photoshopで修正したりすることもあります。


ルイジ:HDRパノラマ撮影した環境を3DCG内に構築する際は、バックプレート(レンダリングのために配置した仮の板状のオブジェクト)などは使わず、実際に空間を構築して、その中に彫刻のようなオブジェクトを配置しています。空間をつくるのは面倒ですが、バックプレートとちがってカメラの自由さがあり、移動の自由さがあります。なのでコントロールができるように、オブジェクトを配置するための部屋を丸々3D空間につくってしまうのです。この手法だとOctaneRenderでもArnoldでも、自然に見えるような雰囲気をつくりやすいです。

<6>日本のデジタル・アーティストへのメッセージ

ルイジ:最近はInstagramが人気ですが、日本人アーティストはそれほど活用していないのがとても残念です。アメリカ、フランス、イギリスに住む人の中には日本のことを好きな人が多いのですが、情報があまりなく、日本のことをまだまだわかっていない気がします。日本のアーティストのことを、世界中の人がもっと知りたいと思っているのです。だから、日本人アーティストはもっともっとSNSに参加した方が良いと思います。Instagramは言語に関係なく写真や映像を軸に繋がっていけるので、とても良いツールです。

実際に最近、Instagram経由の仕事がとても増えたことにびっくりしています。私がInstagramを始めたのは2017年の6月で、最初はフォロワー数が150程度。Appleから仕事の連絡が来たころは、おそらく8,000フォロアーくらいだったと思います。今でも2万フォロワー程度ですが、それでも面白い仕事が次々にやってくるので、Instagramにはとても感謝しています。

そしてAppleのような大企業が、ひとりのアーティストを信頼してくれたことに、とても感謝しています。今は機材が整ってきてSNSもあるので、小さなグループや個人でも素晴らしい作品をつくり、世界に知ってもらうことができるということを、今回のプロジェクトを通して実感しました。


ルイジ:現在は休止中ですが、毎日1つずつ、映像作品をつくってInstagramにアップしていた頃は、作品制作に毎晩3~4時間かけていました。マテリアルや背景などは毎回同じものを使って、オブジェクトの形だけ新しくつくることで、1日1つの作品をつくりあげることができました。色はたいてい黒か、赤か、金銀とシンプルなものばかりでしたが、Instagramに掲載すると、なぜか赤系の色が綺麗に発色されないので、次第に使わなくなりましたね。

今、考えると、その頃どうしてそんな情熱をもって作品制作を続けることができたのかわかりません。2017年の3月に学校を卒業してアトリエをもちたかったのですがそれが叶わず、そのままの状態が続くと困ると思い、実験的な試みとして始めたことです。私自身のクリエイティビティがなくなるのが一番怖くて、つくり続けました。そのおかげで、今では仕事がたくさん来て、個展の話も舞い込んできています。そう言った意味でも、やはりSNSの活用はおすすめですね。

また、私は常々、3DCGで作品をつくるアーティストは、他の分野の作品もたくさん知った方が良いと考えています。少し極端なことを言うと、アニメの制作者はアニメしか見ていないからです。

私もアイデアが枯渇したとき、様々な分野の作品を見て、ヒントを探しています。たとえば、ZBrushのフォーラムを見ると様々な知識を得ることができますが、それはフォーラムのながれ、雰囲気、知識の中だけにとどまります。なので今後も3DCGだけでなく、彫刻、建築、ファッションにも興味をもって、SNSをもっと活用し、なんでも見て知るということを目指していきたいですね。



  • 「iMac Pro films」特設サイト
    参加アーティスト:Buck、Erin Sarofsky、Esteban Diácono、Luigi Honora、ManvsMachine、Michelle Dougherty
    www.apple.com/jp/imac-pro/films/



Profileプロフィール

ルイジ・オノラ/Luigi Honorat

ルイジ・オノラ/Luigi Honorat

1986年生まれ、フランスのパリ出身。フリーランスのデジタルアーティストとして活躍中。母校である武蔵野美術大学にて、彫刻クラスの講師も務めている。
luigihonorat.com

スペシャルインタビュー