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森江康太ディレクター自身による、京都学園大学TVCM『アサギマダラの夢』(2015年度版)アニメーションブレイクダウン

森江康太ディレクター自身による、京都学園大学TVCM『アサギマダラの夢』(2015年度版)アニメーションブレイクダウン

2Dアニメ的な表現

フェイシャルアニメーション

フェイシャルアニメーションの作例です。

▲A:カメラビューから見た女の子の顔。顎のラインや顔の立体感、髪の毛とのバランスなどかなりCGくさくなっていて、かわいくありません。口も前方に突き出しているように見えて、少し受け口で、顎も出てしまっているように見えてしまいます/B:パースビューから見た顔。パースビューから見ても元の女の子の形状をとどめてはいます。しかし、カメラビューから見た画が全てのため、パースビューからいくら自然に見えていたとしても関係ありません。この顔をもっと崩して、かわいらしくしてみましょう

▲C:修正を行なった顔をカメラビューから見たもの。キャラクターの隣にある図は筆者が描いたレタッチ画像です。口の位置や形状、頬・顎のライン、目の大きさなどを調整したおかげで、かなりかわいくなった印象があります。ではこの顔をパースビューで見てみましょう/D:パースビューから見た状態。とてもじゃないですが、かわいいとは言えません。しかし、CGによるアニメーションの世界ではこのようなことは頻繁に起こります。カメラから見た画が全てという信念の下、徹底的にキャラクターを壊してあげましょう。

髪の毛の表現

今回最も刷新した技術が、髪の毛の表現です。

▲A:髪の毛はCGでモデリングしたものを動かしたものですが、赤丸で囲んであるあたりがどうしてもシリンダ状に見えて、堅い印象がぬぐえません。また、髪自体のシルエットも美しくありません/B:最終画像です。髪の毛の先端や途中が膨らんだり曲がったりしているのがわかります。また、毛が何本か束から分離して、個別に動いている様子もわかります。実は今回は髪の毛だけデジタル作画で描いており、この作業が非常に骨が折れました。

▲C:まずテンプレートとなる髪の毛の動きを研究し、Photoshopで連番で1枚1枚描いていきます/D:Photoshopで描いたものをAnime Studioというソフトで読み込み、ここで描いた髪に動きを付けていきます。

▲E:最終的にカラー素材・影素材・ハイライト・ラインの素材に分け、コンプで髪のないキャラクターに重ねていきます。

口元のラインの調整

▲A:今回キャラクターのラインは3ds MaxのPencil+によって出力していますが、口元のような細かい部分では途中で線を途切れさせたりというような微細な調整が必要になってきます。今回は、口元のラインもアニメーターが線の強弱を付けられるようにし、調整しています/B:調整後の画像です。口元のラインが途中で少し途切れることによって、2Dアニメ的な表現に近づけています。これ以外にも、口を開けたときに見えてくる歯や舌のラインや、口の口角部分のラインの調整も、全てアニメーターが行えるようなしくみを作りました。

キャラクターの影の調整

CGで影を表現する場合、ライトからの正確な影が必ずしも良いというわけではありません。

▲A:このカットでは画面右側から差し込んだ光がキャラクターに影を落としますが、非常にいびつな形状をしているのがわかります。ここでも、キャラクターに落ちる影の形状をアニメーターが後工程で調整できるようなしくみを作りました/B:レタッチした画像にならって修正を行なった影の形状です。今回はこのように非常に細かい箇所まで手を加えて調整を行いました。

Column アニメーション奮闘月記

▲練習で行った『Paperman』髪の毛のトレース

今回のCMの依頼がきたとき、昨年やりきれなかったことを今年は全てぶつけてみたいという想いに駆られた。ただ、作品には監督として関わっているので、CMとしてきちんと成立させつつ、数字で表れる結果も担保しなければならない。その狭間で、CGアニメーターという専門職としての挑戦心のようなものも、メラメラ燃え上がっていた。まさに冷静と情熱のあいだである。今回もキャラクターをCGで制作することは決まっていたので、CGだけではなく幅広い技術を取り入れ、面倒くさくて泥くさいことも率先して取り入れようと心がけた。

実はこのような想いに駆られたのは、ある大きな理由があったからである。もう2年前になるが、世界を席巻した映画『アナと雪の女王』。この作品を観たCG業界の人間に最も刺さったのは、おそらくCGによる雪の表現だろう。あのシャリシャリした湿った感じや、ふわふわした新雪のような質感。あの表現を可能にしたウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの技術力と開発力には舌を巻いたが、同時に他の部分でも私は大いに感銘を受けた。その1年前、同じくディズニーが制作したショートムービーに『Paperman(紙ひこうき)』という作品がある。

そのメイキングを見たとき、私は心底感動した。なぜなら、キャラクターの髪の毛の動きを作画でやっていたからだ(正確に言うと、作画で動きを付けているワンシーンがあった。全カット作画なのかは不明)。動きも最高に気持ち良いものだった。私は『アナと雪の女王』であれだけの開発力と技術力を見せつけたディズニーが、一方で非常にレガシーな技術も現在進行形で共存させているその姿に非常に感動した。それに影響されて、今回は髪の動きを作画でやってみることにしたのだ。やってみた感想? めちゃくちゃ大変でした。

TEXT_森江康太(トランジスタ・スタジオ/ディレクター)
書籍「アニメーションスタイル+」著者。MV「Express」等の作品で監督としても活動している。
トランジスタ・スタジオ公式サイト
0130.web(個人サイト)
@kohta0130(Twitter)

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