
“高校からAfter EffectsとMaya”──いま、CG教育の現場が変わっている。CGクリエイターの育成は、これまで主に専門学校や大学・企業内で行われてきたが、現在では高等学校での教育も熱心にとりくまれている。岐阜県立岐阜各務野(かかみの)高等学校 情報科 がCG-ARTS認定教育校に指定され、文部科学大臣賞を受賞しているのもその一例だ。
※2025年4月現在、全国にCG-ARTSの認定高校は33ある
なぜ高等学校でCGを学ぶのか? どんなカリキュラムで学んでいるのか? CGクリエイター検定などの資格取得をはじめとし、次世代を担う実践的な人材の育成に取り組んでいる岐阜各務野高等学校に、中高生とCG教育の今、そしてこれからのCG教育を尋ねた。
高校を卒業する頃にはAfter Effectsをほとんどの生徒が使いこなす
CGWORLD(以下、CGW):本日はお時間いただきありがとうございます。岐阜各務野高校がどんな学校なのか、概要から伺えますか?
後藤誠司氏(以下、後藤):本校は岐阜県の各務原市にある、県立高校です。各務原は航空自衛隊や航空宇宙産業が発展し、川崎重工さんのような企業が数多く存在する工業の町でして、医療機器などの先端産業が集積している「ものづくり産業」の町として知られています。
こうした地域的な特色もあって、以前から工業用の3Dモデリングを学んだり学校の設備として3Dスキャナーがあったりという学校ではありました。 そこから、昨今の社会情勢を鑑みて工業だけでなく情報の教育にも力を入れるようになり、CG教育なども行うようになりました。いまはCG教育を行う情報科だけで各学年80人、3学年で240人ほどの生徒を擁しています。

CGW:カリキュラムはどのように構成されていますか?
後藤:1年生では、情報の基礎とデザインについて学びます。2年生になると「プログラミングコース」か「メディアデザインコース」のいずれかを選択します。プログラミングコースでは、C言語やPythonを使ったプログラミングを学び、メディアデザインコースでは、デジタルイラストやAfter Effectsによるアニメーション、Live2D、Mayaを使った3Dモデリングなどを学習します。どちらのコースも、1回の授業が約100分で、全6~8回ほどのカリキュラムです。

CGW:検定を主催するCG-ARTSの認定教育校指定まで受けられている御校ですが、どのように授業には生かしているのですか?
後藤:検定を通して、実務的なソフトの使い方や基礎的な知識の使われ方などを目の当たりにしてもらいたかったというのが大きいです。本学では教育課程で基本的なAdobe製品からMayaまでソフトは一通り使うことになるのですが、それらのソフトを使う際に、言葉や知識や学びがあると導入がスムーズになるんですね。なので、1年生のうちに全員でCGクリエイター検定を受験してもらい、それを学びの背景にしてもらいたいと考えたのがきっかけです。
CGW:3年生になると、どのような学びがあるのでしょうか?
後藤:3年生では、これまでに学んできた基礎をもとに、自分でテーマを設定して1年間かけて作品制作に取り組みます。課題は生徒それぞれの関心に応じて決めており、実写映像の制作に取り組む生徒もいれば、UnityとC#を使ったゲーム開発を行う生徒もいます。その取り組みを通じて、自分のやりたい方向性を明確にし、進路選択へとつなげていく……という流れになりますね。ちなみに、卒業する頃にはAfter Effectsをほとんどの生徒が普通に使いこなせるようになっています。
CGW:高校生でAfter Effectsが使えるのは、かなり珍しいですよね。かなり実践的だと思います。
後藤:そうですね。After EffectsやIllustratorなどの基本操作は卒業までに一通りマスターしていて、素材と指示さえあれば、しっかり作業がこなせるレベルにはなっています。実践的な現場でも即戦力として活躍できると思います。
また、1年生のときに全員がiPadとApple Pencilを購入し、Adobeをはじめとした必要なソフトのライセンスも整えています。デジタルに早くから慣れ、時間や場所にとらわれずに制作できる環境を整えることで、より深く学べる環境をつくっているのが、当校の強みのひとつです。
CGW:卒業後の進路はどのようになっているのでしょうか?
後藤:1学年80人中で、大学進学が40人、短大専門学校への進学が20人、就職が20人、といったところでしょうか。大学進学では、地元の大学から愛知県立芸術大学、多摩美術大学、大阪芸術大学、名古屋芸術大学、名古屋造形大学などの芸大まで進学先は多岐に渡ります。短大専門学校への進学では、トライデントコンピュータ専門学校や工学院大学、HALなどのプログラミング教育系が多いです。
最後に、就職に関してですが、これはコンピューターや情報系に係わりのない企業に就職する生徒も多いです。上京ができれば話は違うのですが、岐阜にはそうした企業があまりないのもあり、どうしても地元での就職はいわゆる一般企業になってしまいがちであります。とはいえ、コンピューターに直接関係しない業種であっても、デジタルツールの活用や映像スキルが求められる場面は増えてきており、CG教育を受けてきた経験が生きるケースも多いです。
Windows XPのマシンから一新。CG教育にはまずは機材調達
後藤:学生は面白いと思ったら自分でどんどん学習していきます。なので、「どう教えるか」というよりも、PCのエラーや不具合といった初歩的なつまずきをフォローしてあげることの方が大切かなと感じています。生徒がどこでつまずいているのか、声をかけて確認することもよくしていますね。最近では「もっとデザイン面のアドバイスがほしい」という声も増えてきたので、プログラミングに強い情報科の先生だけでなく、美術科の先生にも入ってもらい、テクニカルな面とアートの面、両方からサポートできるよう体制を整えているところです。生徒がさらに前へ進んでいけるよう、できる限りの補助を心がけています。
CGW:情報科の先生と美術科の先生が連携して指導をされているんですね。県立の学校でそういった柔軟な運用ができているのは、少し意外でした。どのように実現されているのでしょうか?
後藤:正直に言うと、やはり難しい部分は多いです。私は令和元年にこの学校に赴任したのですが、当時のPC環境はすべてWindows XP、メモリも4GBしかないような状態で、「この設備では情報科目の授業は厳しい」「CG制作は到底できない」と伝えて、少しずつ改善に取り組んできました。数年かけてようやく機材を更新できたんです。デジタル技術の進化はとても早く、今後ますます求められるものになると思います。子どもたちの将来を考えると、より柔軟な人員体制や設備が整うことが必要ですし、そうなっていくことを現場としては強く願っています。

CGW:今後の目標について教えてください。
後藤:本校では、学内で完結するのではなく、企業や行政と連携した共同プロジェクトや、コンテストへの参加など、社会に向けて作品を発信していくことを大切にしています。例えば、公益財団法人エイズ予防財団が主催するポスターコンクールに応募するデジタルイラストや、地元・各務原市で開催される「全国エンタメまつり」に出展するゲームやアニメーション作品など、外部に向けたアウトプットを意識した制作活動にも力を入れています。

コンテストは「締切に向けて計画を立て、制作を進めていく」という実践的な力が身につくので、積極的に課題として取り入れています。もちろん中には、スケジュールが崩れてしまい、不本意な完成度で提出せざるを得ないケースもありますが、そうした経験も含めて学びだと思っています。実際、課題として提出した作品が賞を受賞する生徒も出てきていますし、最近では行政から「ぜひ参加してほしい」とコンテストの案内をいただくことも増えてきました。そうした外部とのつながりを活かしながら、今後も“学び”と“実践”の両輪を回していけるような取り組みを増やしていきたいと考えています。
TEXT:稲庭 淳
INTERVIEW&EDIT:池田 大樹(CGWORLD)