2015年の会社創立以来、3DCGをコアにした技術力を武器に日本のコンテンツ業界を支えてきたGUNCY’S。この連載では、同社によるUnreal Engine 5やHoudiniを用いたプロシージャルワークフローを用いたオリジナル作品の制作、それを通じて得られた検証結果を公開してきた。今回は、ゲーム開発者にしてHoudiniのチューター・メンターを務める新井克哉(めんたいこ)氏をゲストに招き、プロジェクトの進捗や技術的課題などについて、GUNCY’Sコアメンバーとの鼎談をお届けする。

株式会社GUNCY’S(グンシーズ)は、3DCGをはじめとする最先端テクノロジーを熟知したメンバーと独自の戦略・ユニークな提案などで、人々が思い描くあらゆるアイデアやイメージを実現・成功へと導く、現代版”軍師”集団。プロジェクトコンサルティングやデジタルコンテンツ制作・開発、教育・執筆・講演など様々な事業を執り行う。
guncys.com
ソフトウェアのアップデートに合わせた最適な画
――まずは皆さんの自己紹介をお願いします。
渡邉:GUNCY'Sで本プロジェクトを担当しております、渡邉秀明と申します。このプロジェクトでは、制作進行やプロジェクトマネージャー的な立場で、ディレクションなどを担当しています。

渡邉秀明/Hideaki Watanabe
ラインプロデューサー
GUNCY'S
小林:テクニカルプランナーの小林哲朗です。3Dコンテンツの制作において、プランニングやゲームエンジン側の開発・制作のディレクションなどを担当しています。このプロジェクトでは、Unreal Engineを使ったアニメーションのコンポジット部分を主に手がけています。

小林哲朗/Tetsuro Kobayashi
テクニカルプランナー
GUNCY'S
長田:CGIアーティストの長田晃輝と申します。本プロジェクトでは、主にアセット制作とディレクションを担当しています。また、ライティングや画面全体のルック開発も手がけました。

長田晃輝/Kouki Osada
CGIアーティスト
GUNCY'S
伊藤:テクニカルアーティストの伊藤晴紀と申します、主にゲームエンジンでの開発と制作をしています。このプロジェクトでは途中から参画しており、トラブルシュートをメインで担当しています。

伊藤晴紀/Haruki Ito
テクニカルアーティスト
GUNCY'S
新井:16年ほどフリーランスで活動しておりましたが、今年から企業に所属しました。インターネット上では「めんたいこ」という名前で活動している新井克哉と申します。TA(テクニカルアーティスト)を主軸としていて、主にUnreal EngineとHoudiniを活用したワークフローを中心に業務を行なっています。
――現在のプロジェクトの進捗はいかがでしょうか?
長田:そうですね、全体の進捗で言えばかなり進んではいるのですが、実動的な部分ではまだ大きなセクションが残っている状況です。
渡邉:プロジェクトはUnreal Engine 5.0世代で始まったのですが、当初は「いつ終わるのか」といった見通しもはっきりしない状況でした。そこから、Unreal Engineのバージョンアップに都度合わせていこうという方針で進めてきたので、いまも正確な進捗率を何%と言いきるのは難しいですが、全体で言えば70〜80%程度は仕上がっている状態になります。

――その後、Unreal Engineはバージョンアップを重ねられていますが(最新バージョンは5.6)、それに伴って制作方法に変化などはありましたか?
小林:バージョンアップを行うと、ライティングのしくみやビジュアルの品質に確実に影響が出るため、毎回バージョンアップのたびにメンテナンスが必要になります。新機能も毎回追加されるのですが、例えば「Lumen」は各バージョンで仕様が微妙に変わったりしています。
伊藤:Unreal Engine 5.2から5.3のタイミングで、半透明マテリアルの扱いが変更されたり、仕様が一部変わったりするんです。ライティングの挙動も細かく変わるので、まったく同じ条件でも、以前と同じ見た目にはならないんですよね。
小林:新機能を導入した上で、それをベースに「今出せる最適な画」を模索するというのを毎バージョンくり返しています。

――そうなんですね。では、最初期のタイミングと最新版で、見た目について何か印象的なちがいはありますか? データのつくり方ではなく、あくまで“画”としての見た目において、わかりやすく変化したところがあれば教えてください。
小林:ライティングにかなりこだわりがないと一見わからない部分かもしれませんが、例えば初期のバージョンでは少しのっぺりした印象だった画面に、光の反射による奥行き感が出るようになりました。厳密かつ美しい画を目指すとパストレーサーを通さないといけない部分は変わらないんですが、それでもLumenのバージョンが上がるたびに、光の届き方や質感に進化が感じられるようになりました。光が「しっかり届いている」印象が出てきたんです。より自然な輝きが表現できるようになった、という実感がありますね。
長田:バージョンアップに合わせて演出やライティングの方向性そのものに手を加えているところもあるので、厳密に同じ条件での比較にはならないんですが、クオリティは確かに上がっています。


――ありがとうございます。今回のゲストの新井さんも動画はご覧になっていただいていますが、率直な感想や気になった点、ご質問などあればお願いします。
新井:映像を拝見してまず思ったのは、非常に美しい画づくりがなされているという点です。特に、Lumenが苦手とされている高輝度と暗部の落差が激しい箇所を、カメラワークで巧みに処理していて、上手いと感じました。Unreal Engineの特性をよく理解した上で相当に光の扱いを最適化されているのだと思います。
小林:一番苦労した部分をずばり指摘していただき、ありがとうございます(笑) シーンごとにライティングを分けて設計して、明所用・暗所用で異なるライトを用意し、さらにカットごとに微調整を加えて……とかなり大変だったので、お褒めいただき光栄です。
新井:やっぱりそうですよね。僕が普段制作しているようなゲームでは、ユーザーによるインタラクションがあり、カメラワークではどうにもできないところがあるのですが、映像作品なら、そのコントロールをディレクションでやりきってユーザーに違和感なく世界観を伝えることができる。そうした点でも非常に参考になる作品だと感じました。
――具体的なカットや、そこでのカメラワークを挙げてご説明いただけますか?
小林:例えば、館の中に入ってからピアノのある部屋へ進むまでのシーンなのですが、ここでは影に回り込むようなライトを用意しつつ、使用するカメラのFOV(視野角)を構図に合わせて調整しています。全体的に暗いトーンの中で、見せたい要素をどう見せるかを非常に悩みました。
あと、Lumenの仕様上、平面で厚みのないメッシュに当たるライティングに弱かったりするので、そのあたりは力技で乗り切っていたりしますね。カメラの裏側や映らないところに白い箱が置いてあって、光を調整していたり、ゲームでは絶対に許されないようなことをしている部分は結構多いです。


ジオメトリベースの変化表現は「VAT」がオススメ
――本連載のテーマであるプロシージャルワークフローについて、新井さんからご質問はありますか?
新井:今回の制作にはUSD(Universal Scene Description)が使われていますが、過去の記事を読む限りUSDをわざわざ使わなくても実現できるワークフローでもありますよね? あえてUSDを使われている理由があるのでしょうか。
小林:正直に言うと、USDを試してみたかったというのが一番の理由です。普段の業務ではUSDを使う機会がありませんから、純粋にUSDで何ができるか試してみたいという思いがありました。Unreal Engine側のUSDプラグインといった拡張機能にも触れてみたりして。
新井:なるほど。実は僕もUSDを検証中で、ゲーム分野で使うのはまだかなり研究が必要とは感じているんですけど、映像制作分野ではホットですもんね。USDを使わない従来のプロジェクトと比較して、変化を感じた点などはありましたか?
伊藤:結論から言うと軸のズレやスケールが管理しやすいことです。当社では人によって使っているDCCツールが異なるため軸の問題が起こりやすいので。USDを使うとそこが楽ですね。

――GUNCY’Sさんの方で、TAを専門としている新井さんに相談したいことや困っていることなどはありますか?
渡邉:今ちょうど演出的に悩んでいるところがありまして……。子供部屋で、古びた空間が新しい空間へと変化していくという表現があるのですが、本来は「古い部屋が崩れ落ちていって、新しい部屋がそこに現れる」という演出を想定していました。ただ現状のテストでは、ジオメトリにマテリアルを割り振る程度の表現しかできていません。結果として、新しい部屋のパーツが壁などに次々と集まって、最終的に「綺麗な部屋が出来上がる」ような見せ方になってしまっています。
本当は破壊と再構築のような変化をHoudiniとUnreal Engineでやりたいと思っているんですが、なかなか上手くいっていません。何かアドバイスをいただけたりしませんか?
新井:やり方はいろいろあると思いますが、ジオメトリベースでやるのであれば「VAT」がオススメです。VATはゲーム用途だと重くて嫌がられることも多いんですが、映像用途なら十分使える技術です。ちょっと不安定なところや改造が必要になる場合もありますが、綺麗に仕上げるアプローチとしてはアリだと思います。

伊藤:あとは、データのファイル管理が未だかなりあいまいなので、パイプライン的に良いやり方があれば教えていただきたいです。例えば、HoudiniならHDAで誰かが作成したものをまとめたりできると思うのですが、そういったデータをどうやってチームに配布してるのかとか、自動化のしくみとか、作業する人が触りやすいようにする方法などについて知りたいです。
新井:がんばりに任せた運用をすると絶対に抜けが出てしまうのですが、ではどうするのかとなると結構難しい問題です。ツールを配布したり、起動の度に最新のものに自動更新したりするようにしたりと、開発初期の段階でガッとツールを整備して、環境を一気に固めてしまうのが理想ですね。そういったことができるかは、チーム組成や普段使用しているツールにもよりますが、Houdiniはそのあたりの自動化や配布環境の整備がしやすいのは事実なので、チームに合った方法を模索していくのが近道だと思います。

――最後に、皆さんから本プロジェクトの今後についてコメントをお願いします。
渡邉:基本的にはクライアントワークが優先されますので、今後のスケジュールについてはそのあたりを見ながら調整していく予定です。また、今回のディスカッションで挙がった新しい意見や方向性についても踏まえながら、改めてチーム内で話し合っていければと思っています。
小林:演出面では、特に過去のシーンと現代のシーンのクオリティに差が出ないように調整していくことが大切ですね。映像としての強さやテーマ性もありますし、企画を通して伝えたいものをきちんと視覚化できるよう、引き続き詰めていきたいと考えています。
長田:やはり当社が保持しているモーションキャプチャスタジオは大きな強みなので、今後の展開次第で活用していける場面があるのではと感じています。ぜひ、そういった技術資産も活かしながら、より良い作品を目指していきたいです。
伊藤:新しい要素を取り入れることで、また一味違った演出が可能になるかもしれません。そうした追加要素も視野に入れつつ、柔軟に制作を進めていければと思っています。
新井:本当に、完成がとても楽しみなプロジェクトだと感じました。皆さんのこだわりや工夫が細部にまで宿っていて、最終的なパッケージがどのようになるのか、非常に期待しています。
――ありがとうございました。

TEXT_稲庭 淳 / Jyun Inaniwa
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada