「立体的なマスク」でレンダリング負荷を軽減
3番めに紹介するのは、2018年に制作したブライトパス・バイオのブランディング映像だ。本作では、同社が新たに開発中のがん治療薬の働きをビビットな配色のフルCG映像で表現している。
▲『ネオアンチゲンを標的とした完全個別化がんワクチン療法』。ブライトパス・バイオが新たに開発中のがん治療薬の働きを紹介している
© 2017 BrightPath Biotherapeutics Co., Ltd. All rights reserved.
「本作の映像は数多くの素材を重ね合わせる必要があったのに加え、フルHDサイズでつくることが決まっていました。そのためNUKEの強みを活かした画づくりをした方が、より軽快なコンポジットやレンダリングができると判断しました」(竹内氏)。NUKEのマスクのRGBチャンネルは、ワールド座標系のXYZ値を格納することもできる。本作ではこの機能をフル活用しており、3ds Maxで制作された3Dモデルの頂点情報だけをNUKEにインポートし、「立体的なマスク」として再構築している。これにより、平面的なマスクでは実現できない複雑な表現を可能にする一方で、レンダリング負荷の軽減も実現したというわけだ。「NUKEの3D空間は、原点を中心にプラス値からマイナス値まで幅広いレンジの情報を扱えます。そのため表現の選択肢が広いですし、後々の修正にも柔軟に対応できます」とデジタルアーティストの田代直弥氏は語る。
▲ノードの全体像を表示したNUKEの作業画面。映像中央の赤色部分は「肺がんの患部」という設定だ
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▲【左】「肺がんの患部」のマスク/【右】前述のマスクのGチャンネルのみを表示した状態。本作では「肺がんの患部」のXYZ値だけをNUKEにインポートし、マスクのRGBチャンネルに格納している。マスクの輪郭線を見れば、数多くのポリゴンで形成されたレンダリング負荷の高い3Dモデルだとわかるが、XYZ値だけをインポートすることで負荷を軽減している。なお、3ds Maxの3D空間はZアップのため、YアップのNUKEにデータをインポートする際には、XYZ軸の設定を変換する必要がある
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▲本作では画面を縦に3分割し、症状の異なる三者三様の「肺がんの患部」を表現している。これらをレンダリングする際には、NUKEのSwitchノードが重宝したという。「Switch1_C_L」ノードを有効にすると、共通する設定はそのままで、3Dモデルの頂点情報などの差分だけが画面左側の患者のものに切り替わる。同じく「Switch2_C_R」ノードを有効にすると、差分だけが画面右側の患者のものに切り替わる。Switchノードを切り替えていけば、ひとつのシーンデータから3種類の映像を順番にレンダリングできるというわけだ。「このノードを上手く使うと、素材管理が容易になります」(中村氏)
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▲前述の3種類の映像を組み合わせた完成映像
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NUKEの3D空間で投影テストを行い、ワークフローを効率化
4番めに紹介するのは、2017年に制作したパナソニックの展示会映像だ。この展示は、3Dプリンタで出力した都市空間の模型を展示会場に設置し、その模型に対して天候やライティングの異なる様々な映像をプロジェクションマッピングするという試みだった。
▲本作の展示の様子。3Dプリンタで出力した都市空間の模型に対して、天候やライティングの異なる様々な映像をプロジェクションマッピングしている
© Panasonic Corporation
「元の映像はAEでコンポジットしていますが、その映像の投影テストと、各展示会場の環境に合わせた微調整はNUKEで行なっています」(平田氏)。本作の模型はどの会場でも同じものが使われたが、映像を投影するプロジェクタの位置は会場ごとにちがったため、会場が変わるたびに投影テストを行い、映像を微調整し、レンダリングをやり直す必要があった。そこでNUKEの3D空間に、3ds Maxで制作された模型の3Dデータをインポートし、投影テスト、微調整、再レンダリングまでを一括で行なったというわけだ。「本作では微調整と再レンダリングを何度も行う必要があったので、3ds MaxとAE間でデータをやり取りするよりも、NUKEだけで完結するワークフローを組んでおいた方が効率的だと判断しました」(竹内氏)。本作のワークフローは、3D空間を表示できるというNUKEの強みを活かした、NUKEならではのものと言えるだろう。
▲ノードの全体像を表示したNUKEの作業画面。左下には3ds Maxからインポートした模型の3Dデータを表示している
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▲ノードグラフの中にメモを貼り付けられるのも、NUKEの利点のひとつだ。1番上の緑色のメモには「BigSight版でのみ使用」と書かれている。その左隣のノードを有効にすると、シーン内のライティングが変化して映像に影が追加され、レンダリング結果が【左】から【右】へと変わる。本作では各展示会場の環境に合わせて、このような微調整がくり返された
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After Effectsの使用事例
以上のようにNUKEを多用する同社だが、AEだけで完結する案件もあるという。「各ソフトに精通し、適材適所の使い分けができることが大切だと思います」(竹内氏)。
▲横浜・八景島シーパラダイスのナイトショー映像は全カットがシームレスにつながっていたため、一貫してAEによるカラーコレクションを行なった方がいいと判断された
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▲モバイルソーシャルアプリ『ぷちぐるラブライブ!』のプロモーション映像のカラーコレクションでもAEが使われたが、こちらはNUKEの方が適していたという。「NUKEのライセンス数が足りずAEを使いましたが、キャラクター数が多く、比例して素材数も多いプロジェクトだったので、NUKEの方が相性がよかっただろうと思います」(辰口氏)
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