<4>「木漏れ日マスク」でアオヤマ君とお姉さんとの暖かい関係を演出
同作では、アオヤマ君とお姉さんの関係性も印象的であり、二人の関係の温かさを表現するために「木漏れ日」による視覚効果を取り入れたと石田氏は語る。同作でも特に重要なこのシーンは、木漏れ日の当たり方や動きを細かく調整したという。実際、単純にマスクを乗せただけでは美しい表現にはならず、影あり/全影の素材に、所々穴の空いたマスクを変形させたりサイズを縮小させたり、あるいは直接ブラシ調整をしたりと工夫されている。作業はある程度自動化させているものの、最終的には1カットずつ人の手による調整が行われ、その後、Photoshopのレイヤー構造をそのままAfter Effectsに読み込ませて撮影した。
また、CGの色指定に関して増田氏は「CGから出した素材は、色指定しやすいようパーツごとに分けて色彩設計さんにお渡しして、1カットごとに色指定をしていただきました。また、通常ではあまりしないことですが、色指定の段階でパラを落として(グラデーションに見えるよう色指定すること)いただいたりもしていました」と話し、効率的に作業を進めることができたと付け加えた。
細かなマスク修正と、顔や衣装、髪にかかる木漏れ日に撮影で動きを足している。修正前と修正後
<5>Photoshopを使用して、明確かつ効率的に指示を伝える
今回、初の長編作品を監督することとなった石田氏は、「これまでよりも多くのスタッフが携わっているため、自分にとっていかにイメージを的確に伝えるかを学ぶ機会でもありました」と語る。ラッシュチェック時に口頭で伝えるだけでは十分ではないと判断した石田氏は、ひたすらキャプチャをとりメモを書き込み、ビジュアルに残して伝えるという手法を駆使してより具体的な指示を出すように努めた。この手法によって、タイミングや映像の質感など言葉では伝えきれない感覚的な指示も非常に分かりやすく、かつ的確に伝えることができたという。
「例えば、夜空を描いてもらうとして、イメージする星の見え方に近いサンプル画像をなるべく添えたり、実際にパラメーターを調整したPSDデータをそのまま撮影さんや色彩設計さんに渡してAfter Effectsに読み込んでもらって、色調補正したレイヤーをそのまま渡しました。Photoshop上でも撮影する感覚です」(石田氏)。PhotoshopとAfter Effectsの連携度の高さを活かし、PSDデータを通して的確で効率的な伝達が行われたようだ。
PSDデータのレイヤーに直接メモを書き込んだり、実際に数値を調整したりして具体的に指示を出した。撮影チームではそのデータをAfter Effectsに読み込み、メモを表示しながら撮影した
<6>After Effectsでダイレクトにアニメーションを修正する
また同作では、随所でAfter Effectsが活用されている。「歯科医院の待合室」でアオヤマくんがスズキくんを脅かすカットでは、一連のラッシュ映像が上がってきた際にブルブルと震えるスズキくんの動きが単調に感じたため、After Effectsを使用して自身の手で修正したと石田氏は話す。「期日が迫っていたこともあり、修正を作画に戻すのではなくAfter Effectsを使用してプレビューしながら所々コマ調整をして単調さを緩和し、動きにおかしみを出しました。個人制作をやっていた人間として、作画だけでなく撮影も同じように自分の手足として使い、調整をしていきました」(石田氏)。ぎこちなくカクカクと振り向く作画は表現するのが難しい上に時間もかかるため、After Effects上でランダムに位置をずらすことで対処しているという。
修正前のラッシュ映像
After Effectsでのコマ調整後の映像
<7>Photoshopの「ディテール保持」で4Kの劇場サイズに
After Effectsに加え、Photoshopにも追加された機能「ディテール保持」。同作では、解像度を劇場サイズに引き延ばす際に、この「ディテール保持」が活用されている。「マシンパワーの問題もあり、4Kという解像度にはとても対応できないだろうと思っていました。劇場スクリーンに映すために適切な解像度が欲しいと悩んでいたところ、「ディテール保持」という機能があることを教えてもらい、おかげでかなり助けられました」(石田氏)。同作はフルHD以下の解像度で制作されていたのだが、劇場サイズに引き延ばす際に「ディテール保持」を使うことで、細部の輪郭を保持したまま再現することができ、石田氏としてもおすすめの機能だそうだ。
「トランスフォーム」(画像・左)による通常のアップスケールと「ディテール保持」(画像・右)によるアップスケール。「ディテール保持」では細部の輪郭を保持したままアップスケールすることができた
最後の挨拶として石田氏は「今日は地味なテクニックから作品にとって重要な演出となったテクニックまでお伝えしました。そのどれもが『ペンギン・ハイウェイ』という作品の持つ魅力、原作を読んだときに感じた素敵に思うこと、また、それらを映像として丁寧に描き、観てくださる皆さんにも同じように感じてもらうために必要な工程でした。このように地道な作業の積み重ねではありますが、みなさんに作品を観ていただき、またセミナーにまで来ていただいたことに感謝しています」と述べてセミナーは終了した。